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第一章
第10話 爪切り2
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今日は休日。何としてもナルの爪を切らないといけない。まずは下手に出てナルの機嫌を取ろう。
「さあ、ナル。今朝のご飯だ。少し鰹節もトッピングしておこうな」
プラスチックのお椀に入れた水も入れ替える。トイレも綺麗に掃除しておこう。しばらく隣の部屋からナルの様子を覗うと、餌も食べトイレも済まして今は毛づくろいをしている。よしよし、リラックスしているようだな。
「ようし、ナル。こっちにおいで」
ナルを抱き上げて洋室の部屋で、胡坐をかいた俺の足の間にナルを置く。この体勢なら少々暴れても押さえ付ける事ができるだろう。
ナルを背中から抱きかかえるようにして、左手でナルの前足を掴む。俺の右手には最新兵器の猫用爪切りがキラリと光る。さあ、爪を切らせてもらうぞ。
そっと前足の肉球を押さえて爪を出す。ナルは毛づくろいに夢中でここまでは大人しいままだ。やれる、これならやれるぞ。
爪切りの先端の輪に爪先を差し入れて取っ手を握り爪をカットする。
切れ味もいいな。痛くはないはずだが、違和感を感じたのかナルは少し手を引っ込めて前足を床につく。でも前のように暴れることはない。
「よし、よし。いい子だ」
このまま、二本目の爪も切ろう。抱えたナルの手を取って爪を出す。今度はもう少し奥まで切ろうと爪を長めに差し入れてカットした瞬間、ナルが声を上げて暴れだした。
「うわっ! すまん、すまん。少し切りすぎたか」
猫の爪には血管や神経の通っている部分がある。そこまでは切っていないが近い部分を切って刺激したのかもしれない。
飛び回るナルを捕まえて撫でてやるが、なかなか足を触らせてくれなくなった。仕方ない。ナルの機嫌が直るまで待つか。
午後、もう一度挑戦だ。少し警戒しているようだがブラッシングしたり頭を撫でたりして機嫌を取る。リラックスしたところで俺の足の間に座らせて爪を出してカットしていく。少し嫌がっているようだが、まだ大丈夫だ。
前足にある五本の指のうち四本を切って最後に親指。親指はでかいな。太くて他の爪とは違うぞ。
大きな親指の爪を爪切りの先端に入れて、力を入れて取っ手をギュッと握る。少し痛かったのかナルが俺の手から逃げ出した。まだ前足の片手しか爪を切れていない。初めての爪切りで俺が下手なんだろう。痛がらせてしまったようだ。だが、後ろ足も含めて今日中に切っておきたい。
「ナル、頼む! 爪を切らせてくれんか。爪が長いとお前も歩きにくいだろう。俺も引っ掻かれると痛いしさ、爪とぎ用の段ボールもすぐボロボロになる。なっ、頼むから爪を切らせてくれ」
ナルの正面で顔を見ながら懇願し続ける。言葉が通じるわけではないが、切らせてくれと何度も頼んだ。
ナルは分かってくれたのか、俺の前でちょこんと座る。背中を撫でて抱きかかえるようにして俺も座る。
「今度は痛くないように巧くやるからな」
慎重に爪を出して爪切りの先端に差し込む。爪を固定して振動を与えないようにして素早く切る。次の指の爪を出して切る。ナルも大人しく協力してくれる。何とか全部の爪を切ることができた。
「ありがとうな。ナル」
動物に対して話しかけるというのも変だが、さっきナルの目を見ながら爪を切らせてくれと頼んだら理解してくれたように思えた。言葉の意味は分からないだろうけど、真剣に何かお願いしていることだけは分かってもらえたように感じた。
猫と言えども人間の言葉を少しは理解している。少なくとも自分の名前に関してはちゃんと分かっていて、名前を呼ばれたら後ろ向きでも、こちらを振り向くし、別の部屋にいても呼べばこちらに寄ってくる。
動物と人間であっても、ちゃんとコミュニケーションが取れるものなんだな。犬は躾ければ何種類も言葉を理解すると聞いた事があるが、猫でもある程度は理解しているのだろう。
俺は元から犬派でも猫派でもない。三十を過ぎたこの歳になるまで、動物を飼った事もない……いや子供の頃、手乗りのセキセイインコを叔父からもらって育てたことがあったか。でも一週間も経たずに、ほんの少し開いた窓の隙間から飛んで逃げて行ってしまった。名前を呼んでも戻ってこない。動物というのは身勝手な生き物なんだと思ったものだ。
だが本当に身勝手なのは、人間の方だと後に知った。ペットを飼うなどという行為自体が俺は嫌いになった。
ナルを見ていて心が通じ合えたように思ったり可愛いと思ったりするのも、人間の身勝手な思い込みなんだろう。ナルにも感情があり、猫としての生き方もあるのだろう。
猫は好き嫌いがはっきりしているようだ。たとえ飼い主が与えた物でも嫌いならそっぽを向く。甘えてくることはあっても飼い主に媚びるような事はしないみたいだな。そんな自由な猫の生き方が羨ましくなってくる。
しかしナルをペットとして飼った限りは、最期まで面倒を見るのは人間側の責任だ。俺はまだまだ飼い主としては未熟だからな。ナルにいろんなことを教えてもらいながら成長していかんとな。
「さあ、ナル。今朝のご飯だ。少し鰹節もトッピングしておこうな」
プラスチックのお椀に入れた水も入れ替える。トイレも綺麗に掃除しておこう。しばらく隣の部屋からナルの様子を覗うと、餌も食べトイレも済まして今は毛づくろいをしている。よしよし、リラックスしているようだな。
「ようし、ナル。こっちにおいで」
ナルを抱き上げて洋室の部屋で、胡坐をかいた俺の足の間にナルを置く。この体勢なら少々暴れても押さえ付ける事ができるだろう。
ナルを背中から抱きかかえるようにして、左手でナルの前足を掴む。俺の右手には最新兵器の猫用爪切りがキラリと光る。さあ、爪を切らせてもらうぞ。
そっと前足の肉球を押さえて爪を出す。ナルは毛づくろいに夢中でここまでは大人しいままだ。やれる、これならやれるぞ。
爪切りの先端の輪に爪先を差し入れて取っ手を握り爪をカットする。
切れ味もいいな。痛くはないはずだが、違和感を感じたのかナルは少し手を引っ込めて前足を床につく。でも前のように暴れることはない。
「よし、よし。いい子だ」
このまま、二本目の爪も切ろう。抱えたナルの手を取って爪を出す。今度はもう少し奥まで切ろうと爪を長めに差し入れてカットした瞬間、ナルが声を上げて暴れだした。
「うわっ! すまん、すまん。少し切りすぎたか」
猫の爪には血管や神経の通っている部分がある。そこまでは切っていないが近い部分を切って刺激したのかもしれない。
飛び回るナルを捕まえて撫でてやるが、なかなか足を触らせてくれなくなった。仕方ない。ナルの機嫌が直るまで待つか。
午後、もう一度挑戦だ。少し警戒しているようだがブラッシングしたり頭を撫でたりして機嫌を取る。リラックスしたところで俺の足の間に座らせて爪を出してカットしていく。少し嫌がっているようだが、まだ大丈夫だ。
前足にある五本の指のうち四本を切って最後に親指。親指はでかいな。太くて他の爪とは違うぞ。
大きな親指の爪を爪切りの先端に入れて、力を入れて取っ手をギュッと握る。少し痛かったのかナルが俺の手から逃げ出した。まだ前足の片手しか爪を切れていない。初めての爪切りで俺が下手なんだろう。痛がらせてしまったようだ。だが、後ろ足も含めて今日中に切っておきたい。
「ナル、頼む! 爪を切らせてくれんか。爪が長いとお前も歩きにくいだろう。俺も引っ掻かれると痛いしさ、爪とぎ用の段ボールもすぐボロボロになる。なっ、頼むから爪を切らせてくれ」
ナルの正面で顔を見ながら懇願し続ける。言葉が通じるわけではないが、切らせてくれと何度も頼んだ。
ナルは分かってくれたのか、俺の前でちょこんと座る。背中を撫でて抱きかかえるようにして俺も座る。
「今度は痛くないように巧くやるからな」
慎重に爪を出して爪切りの先端に差し込む。爪を固定して振動を与えないようにして素早く切る。次の指の爪を出して切る。ナルも大人しく協力してくれる。何とか全部の爪を切ることができた。
「ありがとうな。ナル」
動物に対して話しかけるというのも変だが、さっきナルの目を見ながら爪を切らせてくれと頼んだら理解してくれたように思えた。言葉の意味は分からないだろうけど、真剣に何かお願いしていることだけは分かってもらえたように感じた。
猫と言えども人間の言葉を少しは理解している。少なくとも自分の名前に関してはちゃんと分かっていて、名前を呼ばれたら後ろ向きでも、こちらを振り向くし、別の部屋にいても呼べばこちらに寄ってくる。
動物と人間であっても、ちゃんとコミュニケーションが取れるものなんだな。犬は躾ければ何種類も言葉を理解すると聞いた事があるが、猫でもある程度は理解しているのだろう。
俺は元から犬派でも猫派でもない。三十を過ぎたこの歳になるまで、動物を飼った事もない……いや子供の頃、手乗りのセキセイインコを叔父からもらって育てたことがあったか。でも一週間も経たずに、ほんの少し開いた窓の隙間から飛んで逃げて行ってしまった。名前を呼んでも戻ってこない。動物というのは身勝手な生き物なんだと思ったものだ。
だが本当に身勝手なのは、人間の方だと後に知った。ペットを飼うなどという行為自体が俺は嫌いになった。
ナルを見ていて心が通じ合えたように思ったり可愛いと思ったりするのも、人間の身勝手な思い込みなんだろう。ナルにも感情があり、猫としての生き方もあるのだろう。
猫は好き嫌いがはっきりしているようだ。たとえ飼い主が与えた物でも嫌いならそっぽを向く。甘えてくることはあっても飼い主に媚びるような事はしないみたいだな。そんな自由な猫の生き方が羨ましくなってくる。
しかしナルをペットとして飼った限りは、最期まで面倒を見るのは人間側の責任だ。俺はまだまだ飼い主としては未熟だからな。ナルにいろんなことを教えてもらいながら成長していかんとな。
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