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第二章
第22話 OL、初めて猫を飼う
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「さあ、ここが今日からあなたの住む家よ」
玄関を開け、肩に下げたキャリーバッグを床に置く。
「ミカ姉。それがもらって来た猫か。後で見せてくれよ」
「見るだけならいいけど、あんたの部屋にこの子は入れないわよ」
ここは三階建ての一戸建て住宅。両親とあたしたち姉弟で住んでいる。三歳年下の弟は一階の部屋で、あたしは三階に。少し前までお姉ちゃんもいたけど結婚して九州へお嫁に行った。その三階の空き部屋にこの子を飼う。
二階に住む両親に猫を見せてから、自分の部屋がある三階へと心を躍らせて階段を登っていく。
「あなたはこの部屋に住むのよ。もうトイレも置いてあるし、こっちにはご飯とお水を用意しているわ。どうかしら」
あたしの向かいの部屋。今はもう家具も無く、物置代わりに使っているだけの部屋にマラカを放す。
マラカはまだ六ヶ月のオスの仔猫。白黒のぶち猫で、目の辺りが黒い毛で覆われていて、額から鼻先と口にかけて白い毛になっている。この柄が八の字に似てるからハチワレって言うのだと教えてもらった。
教えてくれたのは、ここから車で十分ほど離れた所にある猫の譲渡会のスタッフ。あたしはその譲渡会に何日か参加してこの子の里親となった。
その譲渡会のスタッフさんから電話が掛かって来た。
『佐々木さん。今日からの二週間はトライアル期間となっています。飼えないと判断した時は、こちらに連絡してください』
「大丈夫です。もうここで飼うと決めているので、マラカを返すことはないですよ」
そう、気楽な気持ちでこの子を引き取ったんじゃないわ。この子はこれから先もずっとあたしと一緒に居るのよ。
部屋の中にいるマラカは辺りの臭いを嗅ぎ回りながらヨチヨチと歩いている。カワイイ!!
開けた扉の前にしゃがんでその様子を眺めてるけど、あたしがここにいることを時々確認しながら新しい部屋を探索している。
このマラカは人懐っこい猫で、譲渡会でもすぐあたしに懐いてくれた。
「マラカ。こっちにおいで」
両手を広げてマラカを呼ぶと、トテトテとこっちに走ってくる。カワイイ!!
マラカを抱き上げて自分の部屋に連れてくる。ベッドに座って膝の上に乗せたマラカの脇に手を入れ持ち上げて、お腹や手足など異常が無いか確かめる。
譲渡会のスタッフさんが、この猫を送り出すためにシャンプーなどしてくれたんだろう。毛はフサフサでモコモコ、いい臭いがする。
瞳は透き通るようなグリーン。その色が緑のパワーストーンのマラカイトに似ているからマラカと名前を付けた。でもマラカの右目は白く濁っている。先天性の白内障らしい。正面からだと濁っている程度だけど、横から瞳のレンズを見ると真っ白なぐらい白濁している。
「だから人気無かったんだよね。でもあたしはあなたに一目ぼれしたの。もう離さないからね」
マラカを抱き上げたまま顔に頬ずりする。ほんとに人懐っこい猫だ。嫌がったりする事もなく抱き上げられている。最初に抱き上げた時もミャ~、ミャ~と言ってあたしに甘えてきた。
そういえばパワーストーンのマラカイトにも、魔除けだったり運命の相手を引き寄せるパワーがあると書いてあった。そうよ、あなたと会えたのは運命だったんだわ。
「ミカ姉。もうすぐ晩御飯だってさ」
「は~い。今、行くわ」
ドアの向こうから真司の声がする。わざわざ三階まで上がってきたってことは、マラカを見てみたいのね。ドアを開けて真司に命令する。
「あんた、そこの階段の柵をちゃんと閉めなさいよ」
マラカが下の階に降りて行かないように、新しく階段の手前に開閉する柵を付けている。マラカの里親を希望した後に、ちゃんと猫が飼えるか譲渡会のスタッフさんが家を確認しに来た。その時に指摘されて、わざわざ取り付けた物だ。「いちいち面倒だな」と言いつつも真司は柵のフックを掛ける。
「へぇ~、やっぱ小っちゃいな」
廊下に座りマラカを抱き上げた真司だったけど抱き方が下手なんだろう、マラカは嫌がって腕を離れて床に降り立った。背中を撫でようと手を伸ばすと身を低くして防御態勢になっている。あたし以外はまだ心を許していないようだけど、人馴れしているマラカは、身を固くして伏せをしたまま背中を撫でさせている。
「さあ、もういいでしょ。下に降りるわよ」
今日家に来たばかりのマラカに、ベタベタと触り過ぎるのも良くないでしょうね。後は自由にさせておこう。マラカの部屋のドアを開けっぱなしにして下へと降りていく。
今日は休日。家族と共に夕食を摂りながら、マラカの事を話す。
「美香にあんな小さな仔猫、育てられるのかしら」
お母さんは、子供の頃に猫を飼っていたらしい。室内飼いの猫じゃなくて外と家を行き来する猫だったそうだ。
「部屋の中で飼う猫は、怪我や事故も少なくて飼いやすいそうなの。あたしでもちゃんと飼えるわよ」
外に出て自動車事故に遭う事も、野良猫と喧嘩して怪我する事もない。ここならまだ子供のマラカを守ってあげられるわ。
「美香、猫を部屋に閉じ込めたままで大丈夫なのか。外に出して散歩に連れていかんとダメじゃないのか」
「父さん。犬じゃないんだから、外で散歩する必要は無いのよ。それより上の部屋に上がってこないでよ。タバコの煙は猫にとっても有害なんだから」
父さんは喫煙者だ。ヘビースモーカと言う程でもないけど、毎日タバコを吸っている。
「自分の部屋かベランダ以外では、タバコを吸ってないだろう」
「でも服にタバコの臭いが染みついているわよ。猫は臭いに敏感なんだから」
どうしてあんな有害な物を好き好んで吸っているのかしら。家族にも嫌われて、会社でも肩身の狭い思いをしてまで、なぜタバコを吸おうと思うのか理解できないわ。『百害あって一利なし』とはタバコのためにある言葉よね。
「姉ちゃん。俺はいいんだろ。あの猫の名前なんだっけ、もっと仲良くしたいよ」
「マラカよ。あんたもダメよ。あたしの部屋に近づかないでよ」
「えぇ~。そんな」
弟一人ぐらいならいいんだけど通っている大学が近い事もあって、この子はよく友達を家に連れてくる。あたしが会社に行っている間に私室に近寄らせたくはないわ。
「まあ、美香が責任を持ってちゃんと育てると言うならそれでいいわよ」
「うん、ありがとうお母さん。あたし、ちゃんとマラカを育てるから」
これからマラカとの新しい生活が始まるのね。何だか楽しみだわ。
玄関を開け、肩に下げたキャリーバッグを床に置く。
「ミカ姉。それがもらって来た猫か。後で見せてくれよ」
「見るだけならいいけど、あんたの部屋にこの子は入れないわよ」
ここは三階建ての一戸建て住宅。両親とあたしたち姉弟で住んでいる。三歳年下の弟は一階の部屋で、あたしは三階に。少し前までお姉ちゃんもいたけど結婚して九州へお嫁に行った。その三階の空き部屋にこの子を飼う。
二階に住む両親に猫を見せてから、自分の部屋がある三階へと心を躍らせて階段を登っていく。
「あなたはこの部屋に住むのよ。もうトイレも置いてあるし、こっちにはご飯とお水を用意しているわ。どうかしら」
あたしの向かいの部屋。今はもう家具も無く、物置代わりに使っているだけの部屋にマラカを放す。
マラカはまだ六ヶ月のオスの仔猫。白黒のぶち猫で、目の辺りが黒い毛で覆われていて、額から鼻先と口にかけて白い毛になっている。この柄が八の字に似てるからハチワレって言うのだと教えてもらった。
教えてくれたのは、ここから車で十分ほど離れた所にある猫の譲渡会のスタッフ。あたしはその譲渡会に何日か参加してこの子の里親となった。
その譲渡会のスタッフさんから電話が掛かって来た。
『佐々木さん。今日からの二週間はトライアル期間となっています。飼えないと判断した時は、こちらに連絡してください』
「大丈夫です。もうここで飼うと決めているので、マラカを返すことはないですよ」
そう、気楽な気持ちでこの子を引き取ったんじゃないわ。この子はこれから先もずっとあたしと一緒に居るのよ。
部屋の中にいるマラカは辺りの臭いを嗅ぎ回りながらヨチヨチと歩いている。カワイイ!!
開けた扉の前にしゃがんでその様子を眺めてるけど、あたしがここにいることを時々確認しながら新しい部屋を探索している。
このマラカは人懐っこい猫で、譲渡会でもすぐあたしに懐いてくれた。
「マラカ。こっちにおいで」
両手を広げてマラカを呼ぶと、トテトテとこっちに走ってくる。カワイイ!!
マラカを抱き上げて自分の部屋に連れてくる。ベッドに座って膝の上に乗せたマラカの脇に手を入れ持ち上げて、お腹や手足など異常が無いか確かめる。
譲渡会のスタッフさんが、この猫を送り出すためにシャンプーなどしてくれたんだろう。毛はフサフサでモコモコ、いい臭いがする。
瞳は透き通るようなグリーン。その色が緑のパワーストーンのマラカイトに似ているからマラカと名前を付けた。でもマラカの右目は白く濁っている。先天性の白内障らしい。正面からだと濁っている程度だけど、横から瞳のレンズを見ると真っ白なぐらい白濁している。
「だから人気無かったんだよね。でもあたしはあなたに一目ぼれしたの。もう離さないからね」
マラカを抱き上げたまま顔に頬ずりする。ほんとに人懐っこい猫だ。嫌がったりする事もなく抱き上げられている。最初に抱き上げた時もミャ~、ミャ~と言ってあたしに甘えてきた。
そういえばパワーストーンのマラカイトにも、魔除けだったり運命の相手を引き寄せるパワーがあると書いてあった。そうよ、あなたと会えたのは運命だったんだわ。
「ミカ姉。もうすぐ晩御飯だってさ」
「は~い。今、行くわ」
ドアの向こうから真司の声がする。わざわざ三階まで上がってきたってことは、マラカを見てみたいのね。ドアを開けて真司に命令する。
「あんた、そこの階段の柵をちゃんと閉めなさいよ」
マラカが下の階に降りて行かないように、新しく階段の手前に開閉する柵を付けている。マラカの里親を希望した後に、ちゃんと猫が飼えるか譲渡会のスタッフさんが家を確認しに来た。その時に指摘されて、わざわざ取り付けた物だ。「いちいち面倒だな」と言いつつも真司は柵のフックを掛ける。
「へぇ~、やっぱ小っちゃいな」
廊下に座りマラカを抱き上げた真司だったけど抱き方が下手なんだろう、マラカは嫌がって腕を離れて床に降り立った。背中を撫でようと手を伸ばすと身を低くして防御態勢になっている。あたし以外はまだ心を許していないようだけど、人馴れしているマラカは、身を固くして伏せをしたまま背中を撫でさせている。
「さあ、もういいでしょ。下に降りるわよ」
今日家に来たばかりのマラカに、ベタベタと触り過ぎるのも良くないでしょうね。後は自由にさせておこう。マラカの部屋のドアを開けっぱなしにして下へと降りていく。
今日は休日。家族と共に夕食を摂りながら、マラカの事を話す。
「美香にあんな小さな仔猫、育てられるのかしら」
お母さんは、子供の頃に猫を飼っていたらしい。室内飼いの猫じゃなくて外と家を行き来する猫だったそうだ。
「部屋の中で飼う猫は、怪我や事故も少なくて飼いやすいそうなの。あたしでもちゃんと飼えるわよ」
外に出て自動車事故に遭う事も、野良猫と喧嘩して怪我する事もない。ここならまだ子供のマラカを守ってあげられるわ。
「美香、猫を部屋に閉じ込めたままで大丈夫なのか。外に出して散歩に連れていかんとダメじゃないのか」
「父さん。犬じゃないんだから、外で散歩する必要は無いのよ。それより上の部屋に上がってこないでよ。タバコの煙は猫にとっても有害なんだから」
父さんは喫煙者だ。ヘビースモーカと言う程でもないけど、毎日タバコを吸っている。
「自分の部屋かベランダ以外では、タバコを吸ってないだろう」
「でも服にタバコの臭いが染みついているわよ。猫は臭いに敏感なんだから」
どうしてあんな有害な物を好き好んで吸っているのかしら。家族にも嫌われて、会社でも肩身の狭い思いをしてまで、なぜタバコを吸おうと思うのか理解できないわ。『百害あって一利なし』とはタバコのためにある言葉よね。
「姉ちゃん。俺はいいんだろ。あの猫の名前なんだっけ、もっと仲良くしたいよ」
「マラカよ。あんたもダメよ。あたしの部屋に近づかないでよ」
「えぇ~。そんな」
弟一人ぐらいならいいんだけど通っている大学が近い事もあって、この子はよく友達を家に連れてくる。あたしが会社に行っている間に私室に近寄らせたくはないわ。
「まあ、美香が責任を持ってちゃんと育てると言うならそれでいいわよ」
「うん、ありがとうお母さん。あたし、ちゃんとマラカを育てるから」
これからマラカとの新しい生活が始まるのね。何だか楽しみだわ。
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