【完結】おっさん、初めて猫を飼う。~ナル物語~

水瀬 とろん

文字の大きさ
44 / 50
第三章

第44話 野良猫3

しおりを挟む
 日野森さんは、四国出身で岡山県の大学を出て、就職先である大阪に引っ越してきたらしい。この近くにある食料品メーカーの営業職をしているそうだ。

「今住んでいる所は、ここから遠いのか」
「三駅先です。あまり職場に近すぎるのも嫌だったので」

 就職先が決まってからの引っ越しだ。職場近くでも良かったはずだが、まあ、そういう考えもあるだろう。幸い今住んでいる賃貸マンションはペットを飼ってもいいらしい。駅まで送る途中のホームセンターやスーパーに立ち寄りながら、必要な用品を説明していく。

「今日は、本当にありがとうございました」
「いや、何か困ったことがあれば、連絡してきてくれ。もし良ければ、職場の女性社員を紹介するよ。彼女の方が猫に詳しいし、同性で同じぐらいの年代だ。その方が話しやすいだろう」
「まあ、ご親切にありがとうございます。その社員の方がいいとおっしゃれば、連絡を取っていただけますか」

 俺よりも早瀬さんにアドバイスをもらった方が、ためになるだろうからな。何度も頭を下げてお礼を言う日野森さんと駅で別れた。

 翌日、早速日野森さんは動物保護団体に行って猫に会って来たそうだ。ケージの奥でうずくまって敵意の目を向けている茶トラ猫の写真が送られて来た。
 この猫を飼い馴らすのは大変だろうが、日野森さんには頑張ってもらいたいものだ。

 会社で事情を話すと、早瀬さんは快くサポートを引き受けてくれた。
「あたしも、あたしも」と佐々木まで言って来たが、お前は野良猫の事詳しくないだろうが。
 まあ、いい。二人に日野森さんの連絡先を伝えて、相談に乗ってもらう事にする。
 早瀬さんと佐々木はその後、日野森さんの家に行って色々とアドバイスをしたそうだ。

「早瀬さん、日野森さんのマンションはどんな感じだったんだ。ペット可とは言っていたが」
「2DKのお部屋で広かったですよ。あれなら十分ですね」
「あのね、大阪に来て三年経つそうだけど、前はもっと小さな部屋で一度引っ越したんだって。前だったら絶対飼えなかったって言っていたわ」

 最初の頃は、家賃の安いアパートのような所に住んでいたそうだ。隣りの声が聞こえるなど環境が悪くて、一年で引っ越したらしい。今のマンションなら音も聞こえないから、室内飼いの猫なら多少鳴いても大丈夫だろうと言っている。
 就職のために、初めてこっちへ出てきたんだ。最初の頃は色々と失敗もあっただろうな。


 二週間後、早瀬さんに日野森さんの事を聞くと、家には猫用品などを買い揃えて猫を引きとる準備はできているそうだ。人に馴れていない野良猫を飼うから、最初はケージが必要だろうと早瀬さんがアドバイスして縦に二段のケージも用意したようだな。
 ただ猫をもらい受けるはずだった二週間の予定が、動物保護団体から一週間伸ばしてほしいと連絡があったそうだ。

「もう、怪我は治っているようなんですけど、まだ人馴れしていないそうで先延ばしになったようです」
「まあ、仕方ないだろうな。俺が捕まえた時も、すごい声で鳴いていたしな」
「あたし、マラカをもらい受ける時は待ち遠しかったけど、日野森さんもすごく楽しみにしてましたよ。名前ももう決めていて、クレオって言うんだって」

 佐々木も動物保護団体から猫をもらい受けて、里親になったんだったな。不幸な猫を作らないためにもそれが一番だ。
 クレオの名前の由来を聞くと、猫の目尻から頬にある縞模様をクレオパトラ・ラインというらしいが、それがくっきりとしていて気品にあふれた顔立ちだからだそうだ。
 俺は捕まえた時の怒った顔の印象しかないが、最近の写真を見せてもらうと、確かに気品のある美人さんの顔立ちをしているな。

 顔の模様は猫によって個性があって、額の模様などはMの字になったり切れ切れの細長い模様だったりするらしい。クレオは四本のラインが目から額へ綺麗にす~っと伸びていて王冠を被っているように見えるな。そういやナルはMの字の縞模様だったか。

「日野森さん、お世話になった班長にも家に来てほしいって言ってましたよ」

 まあ、それは遠慮しておこう、若い一人暮らしの女性の部屋だ。それにクレオは捕まえた俺の事を覚えていて恨んでいるかもしれんしな。

 そして一週間後、予定通り茶トラ猫のクレオを保護団体からもらい受け、家の中のケージで飼っているとメールが来た。ケージの奥でじっと蹲っている猫の写真がそこにはあった。
 一緒にもらい受けに行った早瀬さんに聞くと、大きな声で鳴くことは無かったが、警戒して人に懐くには時間がかかりそうだと言っていた。

「今までずっと一匹で生きてきた猫だからな。急に人間と暮らす事になったんだ。警戒するのも無理はないだろ」
「そうですね。まずは今住んでいる所が、安全な場所だと認識してくれればいいんですけど」

 クレオの入っているケージは大きな物で、猫トイレや餌や水を置く場所もあり、二段になっていて猫が動き回れるようになっている。そこが安全な場所だと思ってくれたら、次は部屋の中に出して部屋全体を自分のテリトリーだと思わせるそうだ。

「早瀬さん。俺にできる事は何でもする。すまんがもう少しサポートを続けてやってくれ」
「はい、それはもう」
「あたしも、今度の休みに日野森さんの家に行くの。あたしたちに任せておけば大丈夫よ」

 いや、いや。佐々木が行って、その甲高い声でしゃべられたら猫も迷惑だろう。まあ、それでも猫を飼っている先輩として役に立ってくれるならいいんだが。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...