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第5章 眷属の里
第23話 キノノサト国の魔女2
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初めて馬車に乗って宮殿の外に出た。馬車の窓はカーテンで閉じられていたけど、その隙間から街の様子を覗き見る。宮殿の最上階の窓から街並みを見ていたけど、こんなに沢山の人が居たんだと驚いてしまった。
ワタシのような二本角の人もいるけど、ほとんどが一本角の人。これだけいっぱいの人が居ても、珍しいと言われるヒアリス様のような四本角の人はいないみたいね。
「刀を腰に差した人や鎧を身に着けている人がいるわ。宮殿にいる兵士じゃないみたいだけど」
「あれは、冒険者と言って、王都の外で魔獣などを狩っている連中じゃな」
兵士以外でそんな事をしている人がいるのね。でもワタシもこれから行く場所で魔獣を狩る予定もある。魔獣相手は初めてだけど、なんだか楽しみだわ。
「さあ、ここで魔術の訓練をしますぞ」
馬車に乗って二日もかけて来た場所は、何もない砂地。ここだったら大きな魔法を使っても大丈夫だと言われた。
「良いかウィッチア。これから右手のブレスレットだけを外す。その手で初級の火魔法を空に向かって放つんじゃ。決して地上に向けて撃ってはならんぞ」
そう言って魔術の先生が、右手のブレスレットに鍵を差し込み外す。あれ、腕がすごく軽い。これまでブレスレットを外した事が一度もなかったから、その腕の軽さに驚いた。
先生が離れていき、空に魔法を撃つように言ってくる。炎の塊を飛ばす初歩的な魔術、腕を高く上げて空に撃つ。
「な、何なのこれは!」
巨大な火の玉が発現して空高く飛んでいく。反動が大きくて危うく手を下げてしまうところだった。
「今のはS級でしょうか」
「そうじゃな。単発ではあるしAランクと言ったところか」
遠くで魔術の先生や一緒に来ていた人達が何か話している。次はもう少し大きな水魔法を撃つようにと言ってきた。
右手に左手を添えて空に撃ったけど、やっぱり反動が大きく、手がブレて水が螺旋を描いて飛んでいく。
このブレスレットは力を押さえる物だって、ヒアリス様が言っていた。するとこれがワタシ本来の力だということね。
「やはりまだ完全に制御できとらんようじゃな。もう一度ブレスレットを付けて練習しなさい」
「いえ、いいわ。このまま練習する」
「だが、何度も今の威力の魔術を使うと魔力切れを起こすぞ」
「大丈夫よ。目標物が無いから上手くいかないのよ。あの山の頂上を目標にするわ」
「まあ、よいじゃろう。下の森に当てないように注意するんじゃぞ」
今度は右手を斜めに上げて下から左手を添える。山頂を目標に水魔法を放つ。今度は一直線に飛んだかしら。
でもまだ駄目だと先生に言われた。小さなブレでも威力が大きくなるとその分飛ぶ方向が狂い、飛距離が落ちてしまっているらしい。
「そんな細かい事を気にしなくても、威力を増せばいいじゃない」
撃つ魔法の大きさを大きくすれば、少々方向がずれても当たるし遠くまで飛んで行くわ。魔力量を何倍にもして撃ってみる。
「ほら、これなら大丈夫でしょう」
「今のは単発でS級の魔術か。うむ、確かに目標に当てると言う目的は達しておるがのう……」
その後、何度か同じような実験をしたけど、魔力切れを起こすこともなく練習を終えた。先生はすごい魔力量の持ち主だと褒めてくれる。
ワタシの胸の中心にある魔結晶。ひし形の形が分かるほどに盛り上がっている大きな物。これがワタシの魔力を支えてくれている。
小さな頃にヒアリス様からこの魔結晶を大事にするようにと言われた。ワタシだけの大事で特別な物だからと。
その後も時々この場所にやって来て、巨大魔法を撃つ練習をする。その内、体も大きくなり魔術の反動にも耐えられるようになって安定してきた。その度にブレスレットやネックリングが外されて、より大きな魔法を発動できるようになる。
「うむ。これはまさにSS級の魔術じゃ。前から言っておった宮廷魔導士への推薦をしてやろう」
「本当! これでヒアリス様を守る事ができるのね」
「巫女様だけでなく、この国全体を守るんじゃよ」
「分かってるわよ」
本当は嘘。ワタシはヒアリス様だけを守れればそれでいい。他の事なんてどうでもいいわ。もうすぐ成人式。成人すれば正式に宮廷魔導士になれるらしい。
「じゃが、普段はこのネックリングをつけるようにするんじゃぞ」
「それだと、SS級の魔術は使えないわよ。それでヒアリス様を守れるの?」
「宮廷魔導士はあと三人おるからな。その者達と連携して守るのじゃよ」
普通、宮廷魔導士と言えどSS級の魔術は数日に一度しか使えない。魔力切れになってしまうからだ。それに数千人が住む町一つを丸ごと破壊してしまうようなSS級の魔術を、おいそれと使ってはいけないと言われた。国家間の紛争の種になるからと。
ワタシはSS級魔術を三回も使える魔力量があるそうだ。ネックリングの鍵は宮殿で預かっているそうで、それを使うには宮廷の許可がいる。
「宮廷というと、ヒアリス様と言う事よね。それなら我慢してあげるわ」
「それに、そのネックリングはお前の体を守る物じゃからな。常日頃から身に着けておくのじゃぞ」
SS級を連続して使うと体内の魔力回路が壊れる可能性があるそうだ。
左右のブレスレットはもう着けていない。今ではネックリングも細くなって、赤い宝石の付いたチョーカーのようで気に入っている。
「これでわしの教える事も無くなった。ウィッチアよ、この宮廷と国を守ってくれ」
「ええ、このワタシに任せなさい」
ワタシのような二本角の人もいるけど、ほとんどが一本角の人。これだけいっぱいの人が居ても、珍しいと言われるヒアリス様のような四本角の人はいないみたいね。
「刀を腰に差した人や鎧を身に着けている人がいるわ。宮殿にいる兵士じゃないみたいだけど」
「あれは、冒険者と言って、王都の外で魔獣などを狩っている連中じゃな」
兵士以外でそんな事をしている人がいるのね。でもワタシもこれから行く場所で魔獣を狩る予定もある。魔獣相手は初めてだけど、なんだか楽しみだわ。
「さあ、ここで魔術の訓練をしますぞ」
馬車に乗って二日もかけて来た場所は、何もない砂地。ここだったら大きな魔法を使っても大丈夫だと言われた。
「良いかウィッチア。これから右手のブレスレットだけを外す。その手で初級の火魔法を空に向かって放つんじゃ。決して地上に向けて撃ってはならんぞ」
そう言って魔術の先生が、右手のブレスレットに鍵を差し込み外す。あれ、腕がすごく軽い。これまでブレスレットを外した事が一度もなかったから、その腕の軽さに驚いた。
先生が離れていき、空に魔法を撃つように言ってくる。炎の塊を飛ばす初歩的な魔術、腕を高く上げて空に撃つ。
「な、何なのこれは!」
巨大な火の玉が発現して空高く飛んでいく。反動が大きくて危うく手を下げてしまうところだった。
「今のはS級でしょうか」
「そうじゃな。単発ではあるしAランクと言ったところか」
遠くで魔術の先生や一緒に来ていた人達が何か話している。次はもう少し大きな水魔法を撃つようにと言ってきた。
右手に左手を添えて空に撃ったけど、やっぱり反動が大きく、手がブレて水が螺旋を描いて飛んでいく。
このブレスレットは力を押さえる物だって、ヒアリス様が言っていた。するとこれがワタシ本来の力だということね。
「やはりまだ完全に制御できとらんようじゃな。もう一度ブレスレットを付けて練習しなさい」
「いえ、いいわ。このまま練習する」
「だが、何度も今の威力の魔術を使うと魔力切れを起こすぞ」
「大丈夫よ。目標物が無いから上手くいかないのよ。あの山の頂上を目標にするわ」
「まあ、よいじゃろう。下の森に当てないように注意するんじゃぞ」
今度は右手を斜めに上げて下から左手を添える。山頂を目標に水魔法を放つ。今度は一直線に飛んだかしら。
でもまだ駄目だと先生に言われた。小さなブレでも威力が大きくなるとその分飛ぶ方向が狂い、飛距離が落ちてしまっているらしい。
「そんな細かい事を気にしなくても、威力を増せばいいじゃない」
撃つ魔法の大きさを大きくすれば、少々方向がずれても当たるし遠くまで飛んで行くわ。魔力量を何倍にもして撃ってみる。
「ほら、これなら大丈夫でしょう」
「今のは単発でS級の魔術か。うむ、確かに目標に当てると言う目的は達しておるがのう……」
その後、何度か同じような実験をしたけど、魔力切れを起こすこともなく練習を終えた。先生はすごい魔力量の持ち主だと褒めてくれる。
ワタシの胸の中心にある魔結晶。ひし形の形が分かるほどに盛り上がっている大きな物。これがワタシの魔力を支えてくれている。
小さな頃にヒアリス様からこの魔結晶を大事にするようにと言われた。ワタシだけの大事で特別な物だからと。
その後も時々この場所にやって来て、巨大魔法を撃つ練習をする。その内、体も大きくなり魔術の反動にも耐えられるようになって安定してきた。その度にブレスレットやネックリングが外されて、より大きな魔法を発動できるようになる。
「うむ。これはまさにSS級の魔術じゃ。前から言っておった宮廷魔導士への推薦をしてやろう」
「本当! これでヒアリス様を守る事ができるのね」
「巫女様だけでなく、この国全体を守るんじゃよ」
「分かってるわよ」
本当は嘘。ワタシはヒアリス様だけを守れればそれでいい。他の事なんてどうでもいいわ。もうすぐ成人式。成人すれば正式に宮廷魔導士になれるらしい。
「じゃが、普段はこのネックリングをつけるようにするんじゃぞ」
「それだと、SS級の魔術は使えないわよ。それでヒアリス様を守れるの?」
「宮廷魔導士はあと三人おるからな。その者達と連携して守るのじゃよ」
普通、宮廷魔導士と言えどSS級の魔術は数日に一度しか使えない。魔力切れになってしまうからだ。それに数千人が住む町一つを丸ごと破壊してしまうようなSS級の魔術を、おいそれと使ってはいけないと言われた。国家間の紛争の種になるからと。
ワタシはSS級魔術を三回も使える魔力量があるそうだ。ネックリングの鍵は宮殿で預かっているそうで、それを使うには宮廷の許可がいる。
「宮廷というと、ヒアリス様と言う事よね。それなら我慢してあげるわ」
「それに、そのネックリングはお前の体を守る物じゃからな。常日頃から身に着けておくのじゃぞ」
SS級を連続して使うと体内の魔力回路が壊れる可能性があるそうだ。
左右のブレスレットはもう着けていない。今ではネックリングも細くなって、赤い宝石の付いたチョーカーのようで気に入っている。
「これでわしの教える事も無くなった。ウィッチアよ、この宮廷と国を守ってくれ」
「ええ、このワタシに任せなさい」
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