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第3章 安住の地
第35話 旅行1
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「リビティナ様。眷属になりたいという者は一向に現れませんな」
「この洞窟に住んで六十五年以上経つけど、ここに来たのはバァルーの他では君一人だけだからね」
「リビティナ様は、神様に眷属を作るのが仕事だと言われたんだろう。そんなんでいいのかよ」
まあ、そうなんだけどね。神様はこの洞窟で待っていればいいと言ってたんだよ……ほんと嘘つきな神様だ。だから神様に義理立てしてまで眷属を探しに行っていないんだけど……それにね。
「何だい、君はボクに他の男を作れと言うのかい? ボクはここで君との甘~い生活を十分満喫しているんだけどね」
「あっ、いや、俺はその……。眷属としてここに居る訳で……」
「そうだよね~。掃除や洗濯、料理の腕もボクより上手になっちゃったしね」
「リビティナ様は俺の憧れで、お世話できるだけで幸せなんですよ」
好いてくれてるんだろうけど、アイドルのような高嶺の花的なものと思っているようなんだよね。まあ、血を吸う時はギュッと情熱的に抱きしめてくるから満足しているけど。
ネイトスが洞窟に来てくれて一年。
眷属になったネイトスは筋肉質で堀の深い顔。ギリシャ彫刻のモデルかよと思える風貌だけど、ちょこちょこと小まめによく働く。
毎日掃除をし、良い香辛料があるからと遠くの町に行ったり、洞窟前でハーブの栽培をしたりと、ここでの生活をより良いものにしてくれた。
でもねえ、もう少しときめきのような物があってもいいと思うんだよね~。
この洞窟に暮らし始めた頃、夜空を眺めてこの世界の星座の名前を教えてくれたじゃないか。
「あの東の方に見える赤い星は、母星と呼ばれていやす。その正反対にある白い星が父星ってやつですね」
「さっき西に沈んだ、一番明るい星だね」
「南にはドラゴン座や、それを倒した勇者エレストの星座もありやすが、俺はあんまり詳しくなくて……すいません」
「別にいいさ。ボクはこうしていられるだけで幸せな気分になれるからさ」
今思うとよくあんなセリフを吐けたもんだと思っちゃうけど、そう言うときめき成分が必要なんだよ。うん、うんと拳を握って小さなガッツポーズをする。
それ以来、代わり映えしない生活が続いているからね。もしかしたらこれが、倦怠期というものなのか!?
「ネイトスの言うように眷属になる人を、積極的に探してもいいかもしれないね」
今を打破するためにも、何か変化をつけないと。
試練の村が戦いに勝利した後、賢者の弟子になりたいと言う冒険者が何人かいて話をした事がある。だけど、ネイトスの白い腕を見せて、弟子になれば体中の毛を剃られてお坊さんかシスターのように、一生洞窟での生活になると言ったら考えさせてくれと言われた。
「俺も昔の仲間に、辛い修業を頑張ってくれと励まされちまった」
あの試練の村で眷属になってくれる人は誰もいないだろう。見つけるとしたら遠い場所に探しに行かないとダメだね。
今まで国はおろか、この領地を離れて遠出した事はない。眷属探しと称してネイトスと二人きりで国外旅行に出かけるのはどうだろう。
「一度、他の国に行ってみるのもいいかも知れないね」
そうだよ、それがいいよ。そうと決まれば、早速旅行の準備をしよう。どこに行こうかとか、どんな服を着て行こうかとネイトスと相談する。なんだかワクワクするよ。
外国へ旅行するとなると、一ヶ月ぐらいはここを留守にするかもしれない。魔獣の王にも挨拶に行った方がいいだろうと、ハーブに付け込んだ魔獣の肉を手土産に翌日住居を訪ねた。
今代の王も表面を少し焼いた肉を好む。その場で焼いて食べてもらう。手の込んだ肉は久しぶりだと喜んで家族に分けていたね。森の事は自分にまかせて、旅行を楽しんでほしいと言われたよ。
その後は最果ての村まで降りる。買い物のついでに冒険者ギルドの支部長にも会っておかないと。
「国外に行きたいと……。冒険者カードがあれば国境を越える事はできますが」
「昔に作ったカードがあるんだけど、これ使えるかな」
リビティナは六十五年前に作ったカードをテーブルに置く。
「賢者様。これはあまりにも古すぎますな。新しく作り直しますので受付で受け取っていただけますか」
「そうなのかい。まあ、作ってくれると言うなら、ありがたくいただいておくよ」
ネイトスが持っているカードはそのまま使えるそうだ。顔形は変わっても写真がある訳じゃない。ランクに応じた年会費を支払い、各ギルド支部で本人の実績などの記録があれば使い続けられるらしい。
冒険者は国境を越えての仕事も多い。冒険者カードがパスポート代わりになっているようだね。
「ところで領主様の所へは、挨拶に行かれるのですか?」
「いや、真っ直ぐ国境へ向かうつもりだよ。あまり堅苦しいのは苦手なんでね」
「領主様は以前から何度も、賢者様にお会いしたいと申しておられます。特に国外に行かれるのでしたら、お会いになられた方が……」
「そうなのかい。まあ、国境へ向かう途中にあるから、寄る事はできるんだけどね」
領主には、村が襲われた後に会っている。その後、時々賢者の知恵を借りたいと言ってくる。それらに答える代わりにここに住む事と、最果ての森に危害を加えない事を了承してもらっている。
まあ、少しの間ここを離れるから会いに行ってもいいかな。そう言うと支部長は出発の日に領主の町に寄るかもしれないと、手紙に書いて出しておくと言っていた。
支部長との話も終わって、受付窓口で冒険者カードを受け取る。
「このカード、年会費永年無料って書いてあるけど、これでいいの?」
「はい、賢者様はこの村の英雄なんですから、当然のことですわ」
そうなのかい、それは助かるね。でもヴァンパイアなんだから、永年と言うと何万年にもなっちゃうんだけどね。
その後は、最果ての村で色々と買い物をして一旦洞窟に戻った。
旅行の行先はノルキア帝国。
今リビティナ達が住んでいる所は、ネコ族が多く住むアルメイヤ王国に属している。その南がオオカミ族の住むヘブンズ教国。そして今回行くのが東隣にあるクマ族の多いノルキア帝国だ。
ネイトスはヘブンズ教国に行った事があると言うので、今回は行ったことが無いノルキア帝国に行こうと決めた。
せっかくファンタジー世界を旅するんだから、全く知らない土地で冒険みたいな事もしてみたいしね。
「でも、ノルキア帝国は、あまりいい噂は聞かないな」
「そうなのかい?」
「獣人三国の中では一番貧しい国だ。東にある鬼人族が後ろ盾になっているが、搾取されている感じだしな」
獣人の国は昔一つの国だったらしいけど、内戦の末に分裂したのが今のノルキア帝国。そのせいもあって同じ獣人ではあるけど、王国とは仲が悪いようだね。
まあ、いいじゃないか。二人で旅行を楽しもうよ。
「この洞窟に住んで六十五年以上経つけど、ここに来たのはバァルーの他では君一人だけだからね」
「リビティナ様は、神様に眷属を作るのが仕事だと言われたんだろう。そんなんでいいのかよ」
まあ、そうなんだけどね。神様はこの洞窟で待っていればいいと言ってたんだよ……ほんと嘘つきな神様だ。だから神様に義理立てしてまで眷属を探しに行っていないんだけど……それにね。
「何だい、君はボクに他の男を作れと言うのかい? ボクはここで君との甘~い生活を十分満喫しているんだけどね」
「あっ、いや、俺はその……。眷属としてここに居る訳で……」
「そうだよね~。掃除や洗濯、料理の腕もボクより上手になっちゃったしね」
「リビティナ様は俺の憧れで、お世話できるだけで幸せなんですよ」
好いてくれてるんだろうけど、アイドルのような高嶺の花的なものと思っているようなんだよね。まあ、血を吸う時はギュッと情熱的に抱きしめてくるから満足しているけど。
ネイトスが洞窟に来てくれて一年。
眷属になったネイトスは筋肉質で堀の深い顔。ギリシャ彫刻のモデルかよと思える風貌だけど、ちょこちょこと小まめによく働く。
毎日掃除をし、良い香辛料があるからと遠くの町に行ったり、洞窟前でハーブの栽培をしたりと、ここでの生活をより良いものにしてくれた。
でもねえ、もう少しときめきのような物があってもいいと思うんだよね~。
この洞窟に暮らし始めた頃、夜空を眺めてこの世界の星座の名前を教えてくれたじゃないか。
「あの東の方に見える赤い星は、母星と呼ばれていやす。その正反対にある白い星が父星ってやつですね」
「さっき西に沈んだ、一番明るい星だね」
「南にはドラゴン座や、それを倒した勇者エレストの星座もありやすが、俺はあんまり詳しくなくて……すいません」
「別にいいさ。ボクはこうしていられるだけで幸せな気分になれるからさ」
今思うとよくあんなセリフを吐けたもんだと思っちゃうけど、そう言うときめき成分が必要なんだよ。うん、うんと拳を握って小さなガッツポーズをする。
それ以来、代わり映えしない生活が続いているからね。もしかしたらこれが、倦怠期というものなのか!?
「ネイトスの言うように眷属になる人を、積極的に探してもいいかもしれないね」
今を打破するためにも、何か変化をつけないと。
試練の村が戦いに勝利した後、賢者の弟子になりたいと言う冒険者が何人かいて話をした事がある。だけど、ネイトスの白い腕を見せて、弟子になれば体中の毛を剃られてお坊さんかシスターのように、一生洞窟での生活になると言ったら考えさせてくれと言われた。
「俺も昔の仲間に、辛い修業を頑張ってくれと励まされちまった」
あの試練の村で眷属になってくれる人は誰もいないだろう。見つけるとしたら遠い場所に探しに行かないとダメだね。
今まで国はおろか、この領地を離れて遠出した事はない。眷属探しと称してネイトスと二人きりで国外旅行に出かけるのはどうだろう。
「一度、他の国に行ってみるのもいいかも知れないね」
そうだよ、それがいいよ。そうと決まれば、早速旅行の準備をしよう。どこに行こうかとか、どんな服を着て行こうかとネイトスと相談する。なんだかワクワクするよ。
外国へ旅行するとなると、一ヶ月ぐらいはここを留守にするかもしれない。魔獣の王にも挨拶に行った方がいいだろうと、ハーブに付け込んだ魔獣の肉を手土産に翌日住居を訪ねた。
今代の王も表面を少し焼いた肉を好む。その場で焼いて食べてもらう。手の込んだ肉は久しぶりだと喜んで家族に分けていたね。森の事は自分にまかせて、旅行を楽しんでほしいと言われたよ。
その後は最果ての村まで降りる。買い物のついでに冒険者ギルドの支部長にも会っておかないと。
「国外に行きたいと……。冒険者カードがあれば国境を越える事はできますが」
「昔に作ったカードがあるんだけど、これ使えるかな」
リビティナは六十五年前に作ったカードをテーブルに置く。
「賢者様。これはあまりにも古すぎますな。新しく作り直しますので受付で受け取っていただけますか」
「そうなのかい。まあ、作ってくれると言うなら、ありがたくいただいておくよ」
ネイトスが持っているカードはそのまま使えるそうだ。顔形は変わっても写真がある訳じゃない。ランクに応じた年会費を支払い、各ギルド支部で本人の実績などの記録があれば使い続けられるらしい。
冒険者は国境を越えての仕事も多い。冒険者カードがパスポート代わりになっているようだね。
「ところで領主様の所へは、挨拶に行かれるのですか?」
「いや、真っ直ぐ国境へ向かうつもりだよ。あまり堅苦しいのは苦手なんでね」
「領主様は以前から何度も、賢者様にお会いしたいと申しておられます。特に国外に行かれるのでしたら、お会いになられた方が……」
「そうなのかい。まあ、国境へ向かう途中にあるから、寄る事はできるんだけどね」
領主には、村が襲われた後に会っている。その後、時々賢者の知恵を借りたいと言ってくる。それらに答える代わりにここに住む事と、最果ての森に危害を加えない事を了承してもらっている。
まあ、少しの間ここを離れるから会いに行ってもいいかな。そう言うと支部長は出発の日に領主の町に寄るかもしれないと、手紙に書いて出しておくと言っていた。
支部長との話も終わって、受付窓口で冒険者カードを受け取る。
「このカード、年会費永年無料って書いてあるけど、これでいいの?」
「はい、賢者様はこの村の英雄なんですから、当然のことですわ」
そうなのかい、それは助かるね。でもヴァンパイアなんだから、永年と言うと何万年にもなっちゃうんだけどね。
その後は、最果ての村で色々と買い物をして一旦洞窟に戻った。
旅行の行先はノルキア帝国。
今リビティナ達が住んでいる所は、ネコ族が多く住むアルメイヤ王国に属している。その南がオオカミ族の住むヘブンズ教国。そして今回行くのが東隣にあるクマ族の多いノルキア帝国だ。
ネイトスはヘブンズ教国に行った事があると言うので、今回は行ったことが無いノルキア帝国に行こうと決めた。
せっかくファンタジー世界を旅するんだから、全く知らない土地で冒険みたいな事もしてみたいしね。
「でも、ノルキア帝国は、あまりいい噂は聞かないな」
「そうなのかい?」
「獣人三国の中では一番貧しい国だ。東にある鬼人族が後ろ盾になっているが、搾取されている感じだしな」
獣人の国は昔一つの国だったらしいけど、内戦の末に分裂したのが今のノルキア帝国。そのせいもあって同じ獣人ではあるけど、王国とは仲が悪いようだね。
まあ、いいじゃないか。二人で旅行を楽しもうよ。
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