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第3章 安住の地
第36話 旅行2
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さあ今日は、いよいよ旅行に出発する日。洞窟からネイトスと一緒に空に飛び立つ。
今回は長時間と言う事もあり、ネイトスにはハンググライダーにぶら下がるベルトのような物を付けてもらい、リビティナの下に吊るしている。落ちる心配はないと言っているけど怖いようだね。
「やはり、空を飛ぶというのは慣れませんな」
「こんなに素晴らしい景色が見れるのにかい?」
空の旅を楽しめないなんて、何とももったいない話だね。
東の帝国に向かう途中に領主が住むタリストという町がある。ここは、最果ての森に攻め込んできた元領主が居た町で、そのお城を改装して住居を移している。
人の居ない町外れに降りて、領主に会いたいと門番に告げると、慌てた様子で中の人と話をしている。
「おい、賢者様が来られたぞ。早く馬車の用意をしないか」
そう言って、門の内側に二頭立ての立派な箱型の馬車を用意してくれたよ。今日ここに来ることは伝わっているようだけど、こんなに早い時間に来るとは思ってなかったみたいだね。
「こんな事までしてくれなくても、いいんだけどね」
これだから、領主と会うのは嫌なんだよ。今では二つの領地を統合してここら辺りでは辺境伯と呼ばれている。今はまだ子爵だけど、爵位以上の影響力を持つお貴族様だ。領主とは二度ほど会っていて気安く話せる間柄ではあるんだけど、周りの人が気を使っちゃうからね。
馬車の窓から街中を見たけど一年前の戦いの跡はどこにもない。少数精鋭での電光石火の戦い。壊れたのは城門とお城の内部だけだと聞いた。その後の内乱も無く、内政は順調そうだし住民も活気に溢れている。今の領主の手腕と言ったところか。
二人を乗せた馬車は高台にあるお城ではなく、敷地内にある屋敷に向かった。
「賢者様。よくおいで下さりました。領主様は間もなく到着されます。中でお待ち願います」
玄関で迎えてくれたのは、老齢の執事とネコ族のメイドが三名。荷物を持ってくれて中の応接室に案内された。ここは領主個人の別邸だね。お城の執務室じゃなくて、ここに案内されたと言う事は食事でもしながら、ゆっくり話そうと言う感じなんだろう。
豪華な応接室でお茶を飲んでいると、領主が部屋にやって来た。歳は三十二歳で、ライオン族ではあるけど、細身で背が高くまだたてがみもフサフサしていない。執務中だったのか、豪華ではないシンプルなスーツのような服を着ている。
どこにでもいる若き貴族と言った感じだけど、頭は切れて行動力もある。そうじゃなきゃ自らの力で戦いに勝ち、これだけの領地を治める事はできないからね。
「急に来てすまないね」
「賢者様ならいつ来てくれても歓迎するよ。今日はここに泊まって、ゆっくりしていってくれよ」
領主とは、友人のような関係だ。前の戦いでは、敵軍を撃退したと褒章をもらった。その際にあの村と森を囮に使った事をすまなかったと謝られた。
敵の将を叩けば戦いは終わると判断したようで、迅速果敢に敵の領主を討ち取っている。まさか村で圧勝しているとは思いもよらなかったと賛辞をくれた。素直ないい領主じゃないか。
歓迎してくれているようだし、多分断ってもダメなんだろうね。それならこの屋敷でゆっくりしていくとしよう。
「これから二人で帝国に行くつもりなんだ。少しの間ここを離れるから、挨拶にと思ってね」
「帝国にか……。なにか探し物でもあるのか」
「眷属を探す旅をしようと思っているんだよ」
この領主、表立っては言わないけど、リビティナの正体がヴァンパイアである事を知っている。その上で賢者としてマウネル山に住む事を黙認している。モンスターとして扱うよりも賢者として知恵を授かる事の方が、メリットが多いとみているんだろう。
「それならば、私の方からも身分証を作っておいたほうが良いな。何かと融通が利くだろう」
まあ、王国貴族が一筆書いてくれれば役立つこともあるだろうね。
「賢者様。この前に聞いた、機械弓の改良について工房の者が分からない事があると言っていた。後でいいから会ってやってくれんか」
「ああ、結構だよ。あの機械弓は外部には出していないんだね」
「そうだな。国防の関係上、領内で製造しここの兵士だけに使わせているよ。製造もメンテナンスも難しい弓だからな」
「ボクは外交についてはあまり知らないけど、争いの種になるような事だけはしないでほしいね」
「そうだな、平和が一番だからな」
領主のこういう所は好きだね。顕示欲や上昇志向が強い訳ではなく、領地も単に広げる事を考えず内政を充実させていくタイプだ。
いざとなったらすぐに行動できる頼れるリーダーと言ったところか。領主が聞いてくる事も、農地の改良や河川の治水方法などが多い。だからリビティナも快く知恵を貸している。
その日はこの別邸に泊まることにして、色んな困りごとの相談を受ける。直接話したいと言う役人や工房の人とも会って、少し忙しかったね。夜は食事会を開いてくれるそうだ。
あまり見知らぬ人に会うのを嫌がるリビティナの事を思ってか、夕食は領主とその家族だけでの食事会となった。美しい奥さんと美味しい料理やこの地方のお酒の話をした。紹介してもらった幼い息子と娘さんの方は、賢者様に会えると少し緊張していたようだね。
新しく作ったと言う豪華なお風呂にも入って、のんびりと過ごす。
明日も朝から人に会わないといけないらしいけど、まあ、ここに来る事もあまりないだろうし、その程度の事は文句を言わずに受けてあげよう。そんな事も有ってここの出発は明後日になりそうだ。
領主の館での用事も済んで出発の日。仲良くなった領主の子供達に手を振られながら屋敷を後にする。
城門を出て、今日は一気に帝国国境付近まで飛ぶ。
飛行機の無いこの世界。空を飛べるのは小さな鳥と虫、それと数種類の魔獣の怪鳥だけだ。でもこんな雲のある高さまで飛べるのはヴァンパイアの自分ぐらいしかいない。そう言えば、ドラゴンだったらこんな所まで飛んで来れるのだろうか?
「ドラゴン? 俺は見たことはないし冒険者仲間でも実際に見た奴はいませんぜ」
ネイトスに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。冒険者と言えばドラゴン退治もするのかと思ったけど、伝説上の生き物扱いみたいだね。でも神様はドラゴンがこの世界にいるって言ってたから、一度は会ってみたいよね。
今回は長時間と言う事もあり、ネイトスにはハンググライダーにぶら下がるベルトのような物を付けてもらい、リビティナの下に吊るしている。落ちる心配はないと言っているけど怖いようだね。
「やはり、空を飛ぶというのは慣れませんな」
「こんなに素晴らしい景色が見れるのにかい?」
空の旅を楽しめないなんて、何とももったいない話だね。
東の帝国に向かう途中に領主が住むタリストという町がある。ここは、最果ての森に攻め込んできた元領主が居た町で、そのお城を改装して住居を移している。
人の居ない町外れに降りて、領主に会いたいと門番に告げると、慌てた様子で中の人と話をしている。
「おい、賢者様が来られたぞ。早く馬車の用意をしないか」
そう言って、門の内側に二頭立ての立派な箱型の馬車を用意してくれたよ。今日ここに来ることは伝わっているようだけど、こんなに早い時間に来るとは思ってなかったみたいだね。
「こんな事までしてくれなくても、いいんだけどね」
これだから、領主と会うのは嫌なんだよ。今では二つの領地を統合してここら辺りでは辺境伯と呼ばれている。今はまだ子爵だけど、爵位以上の影響力を持つお貴族様だ。領主とは二度ほど会っていて気安く話せる間柄ではあるんだけど、周りの人が気を使っちゃうからね。
馬車の窓から街中を見たけど一年前の戦いの跡はどこにもない。少数精鋭での電光石火の戦い。壊れたのは城門とお城の内部だけだと聞いた。その後の内乱も無く、内政は順調そうだし住民も活気に溢れている。今の領主の手腕と言ったところか。
二人を乗せた馬車は高台にあるお城ではなく、敷地内にある屋敷に向かった。
「賢者様。よくおいで下さりました。領主様は間もなく到着されます。中でお待ち願います」
玄関で迎えてくれたのは、老齢の執事とネコ族のメイドが三名。荷物を持ってくれて中の応接室に案内された。ここは領主個人の別邸だね。お城の執務室じゃなくて、ここに案内されたと言う事は食事でもしながら、ゆっくり話そうと言う感じなんだろう。
豪華な応接室でお茶を飲んでいると、領主が部屋にやって来た。歳は三十二歳で、ライオン族ではあるけど、細身で背が高くまだたてがみもフサフサしていない。執務中だったのか、豪華ではないシンプルなスーツのような服を着ている。
どこにでもいる若き貴族と言った感じだけど、頭は切れて行動力もある。そうじゃなきゃ自らの力で戦いに勝ち、これだけの領地を治める事はできないからね。
「急に来てすまないね」
「賢者様ならいつ来てくれても歓迎するよ。今日はここに泊まって、ゆっくりしていってくれよ」
領主とは、友人のような関係だ。前の戦いでは、敵軍を撃退したと褒章をもらった。その際にあの村と森を囮に使った事をすまなかったと謝られた。
敵の将を叩けば戦いは終わると判断したようで、迅速果敢に敵の領主を討ち取っている。まさか村で圧勝しているとは思いもよらなかったと賛辞をくれた。素直ないい領主じゃないか。
歓迎してくれているようだし、多分断ってもダメなんだろうね。それならこの屋敷でゆっくりしていくとしよう。
「これから二人で帝国に行くつもりなんだ。少しの間ここを離れるから、挨拶にと思ってね」
「帝国にか……。なにか探し物でもあるのか」
「眷属を探す旅をしようと思っているんだよ」
この領主、表立っては言わないけど、リビティナの正体がヴァンパイアである事を知っている。その上で賢者としてマウネル山に住む事を黙認している。モンスターとして扱うよりも賢者として知恵を授かる事の方が、メリットが多いとみているんだろう。
「それならば、私の方からも身分証を作っておいたほうが良いな。何かと融通が利くだろう」
まあ、王国貴族が一筆書いてくれれば役立つこともあるだろうね。
「賢者様。この前に聞いた、機械弓の改良について工房の者が分からない事があると言っていた。後でいいから会ってやってくれんか」
「ああ、結構だよ。あの機械弓は外部には出していないんだね」
「そうだな。国防の関係上、領内で製造しここの兵士だけに使わせているよ。製造もメンテナンスも難しい弓だからな」
「ボクは外交についてはあまり知らないけど、争いの種になるような事だけはしないでほしいね」
「そうだな、平和が一番だからな」
領主のこういう所は好きだね。顕示欲や上昇志向が強い訳ではなく、領地も単に広げる事を考えず内政を充実させていくタイプだ。
いざとなったらすぐに行動できる頼れるリーダーと言ったところか。領主が聞いてくる事も、農地の改良や河川の治水方法などが多い。だからリビティナも快く知恵を貸している。
その日はこの別邸に泊まることにして、色んな困りごとの相談を受ける。直接話したいと言う役人や工房の人とも会って、少し忙しかったね。夜は食事会を開いてくれるそうだ。
あまり見知らぬ人に会うのを嫌がるリビティナの事を思ってか、夕食は領主とその家族だけでの食事会となった。美しい奥さんと美味しい料理やこの地方のお酒の話をした。紹介してもらった幼い息子と娘さんの方は、賢者様に会えると少し緊張していたようだね。
新しく作ったと言う豪華なお風呂にも入って、のんびりと過ごす。
明日も朝から人に会わないといけないらしいけど、まあ、ここに来る事もあまりないだろうし、その程度の事は文句を言わずに受けてあげよう。そんな事も有ってここの出発は明後日になりそうだ。
領主の館での用事も済んで出発の日。仲良くなった領主の子供達に手を振られながら屋敷を後にする。
城門を出て、今日は一気に帝国国境付近まで飛ぶ。
飛行機の無いこの世界。空を飛べるのは小さな鳥と虫、それと数種類の魔獣の怪鳥だけだ。でもこんな雲のある高さまで飛べるのはヴァンパイアの自分ぐらいしかいない。そう言えば、ドラゴンだったらこんな所まで飛んで来れるのだろうか?
「ドラゴン? 俺は見たことはないし冒険者仲間でも実際に見た奴はいませんぜ」
ネイトスに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。冒険者と言えばドラゴン退治もするのかと思ったけど、伝説上の生き物扱いみたいだね。でも神様はドラゴンがこの世界にいるって言ってたから、一度は会ってみたいよね。
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