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第9章 第二次ノルキア帝国戦争
第85話 魔国の新兵器1
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帝国は国境近くの町や村を襲うと見せかけて、緩衝地帯の森の中央を突破してきた。元々街道が走っていた部分をバリケードで通れなくしていたけど、大火力を持って一気に破壊し魔国国内に侵入してくる。
「兵力が分散していましたからな。一点突破で来られると止める事は難しいですな」
ネイトスをはじめ主要閣僚にはお城に集まってもらっている。現地から続々と入る情報をまとめて、テーブルの上の戦況ボードに落とし込む。
最前線に出てきた敵兵力は約二万五千人。こちらも前面には二万八千人の兵を当てているけど、各地に分散して敵主力に対しては約半数の一万三千人の兵力となっている。
「中央に集中するように、兵を移動させる事も可能ですが、どういたしましょう」
「今まで通り村や町を守ったままでいいよ。移動させると飛行部隊が各地を攻撃してくるからね」
守るべきものは、住民の命だ。各村や町には以前より自衛の訓練をしている。それに加え武器と兵士を配置すれば、そうそうやられる事はない。
「敵を一つにまとめておいた方が、こちらもやり易いしね」
「しかし敵は多数の飛行部隊を用意しており、その運用に自信を持っているようですが」
「前の戦争で学んだという事かな」
魔法の射程外からの砲撃。それに対抗するため、ウィッチアが取った攻撃を参考にしているはずだ。
「ウィッチアはどう思う?」
「あの時も帝国の将軍は、後方に大攻勢をかければいいと言ってたわ。それを実行するつもりなんでしょうね」
「それなら、それを逆手に取った作戦を考えようか」
敵が進軍してくるルートに土塁を築くけど、今回長さは短くてもいい。敵がそこで停止すればいいだけだからね。
両軍が布陣できる場所を予想して、正面に当たらせている味方を後退させる。
「土塁は一日で作れる分だけでいいから、陣地の防御を厚くしてくれるかい」
「リビティナ。それであの数の飛行部隊をやっつけられるの。いくらフィフィロでも一人じゃ無理でしょう」
フィフィロとは武闘大会でも戦っていて、実力はウィッチアも良く知っている。
「ウィッチアには悪いけど、あの飛行部隊程度では航空戦力にはならないんだ。だから前回魔国として部隊編成しなかったんだよ」
「戦力にならない?! 空を飛んで陣地の後方に攻撃できるのよ!」
開発した飛行ユニットをけなされたと思ったのか、声を荒げて噛みつくように言ってくる。
この世界では画期的な事なんだろうけど、地上からの魔法攻撃で撃墜できてしまう。これは魔国の反重力装置でも同じだ。あの程度の速度しか出せないようなら戦力足り得ないんだよ。
「今回、開発したのは戦闘機なんだ。これで敵の飛行部隊を叩くつもりなんだよ」
「セントウキ? それが魔国の新兵器なのね。いくつ用意しているの。相手は数百の飛行部隊よ」
「今回は二十機を飛ばすつもりさ」
「たったの二十機! 戦力差が十倍以上だとでも言うの!」
歩兵に対して騎馬の戦力差は三倍だと言われている。十倍以上というのは普通考えられない数値だから驚くのも無理はないね。
今回開発したのは、反重力装置とロケット型のエンジンを積んだ戦闘機。球形の燃焼室に魔道具の糸で火魔法を誘導して爆発させる。噴出ノズルから爆風を超音速で噴射させて推進力を得る飛行機。
反重力装置も大量生産できるようになっている。高精度のガラス管とモーターを動かす燃料電池。燃料の水素は水力発電の余った電気で作れるし、電極となる白金も安定して生産できている。
まずは垂直に離着陸できて、高速で空を飛ぶことができる機体を全部で四十機造っている。これならフワフワ飛ぶだけの飛行隊は目じゃないよ。
「ウィッチアも一度乗ってみるかい。ちょうど今、訓練しているしね」
「えっ、いいの! 是非乗せてちょうだい」
「操縦は無理だけど、二人乗りだから後ろに乗せてもらって、射撃訓練ならすぐにでもできるよ」
それを聞いたウィッチアは、喜び勇んで訓練場に向かって行った。
今回、この魔国にウィッチアが派遣されたのは二つの意味がある。魔国に協力して友好的になりたいという思い。これは巫女様の考えだろうね。
それともう一つは魔国の軍事力を知りたいと言うものだ。大将軍の考えだろうけど、敵対した場合どのような戦術が考えられるかなどの戦力分析をしたいんだろう。
それなら軍事力の一部を見せて、敵対しても対抗手段がない事を分からせてあげればいい。
今回の戦闘機も見ただけでは模倣すらできない。ロケットエンジン部分は人工のマダガスカル鋼でできていて、ノズル形状の計算も必要だ。下手な事をすれば爆発するだけだからね。
羽の魔道具は世に広まって戦争に利用されても、遥か先の技術を持つ魔国に戦争では勝てないと知らしめるのも平和のためにはいい事だ。
ウィッチアには悪いけど、少し利用させてもらうつもりだ。機密事項は漏らさずに魔国の実力を見てもらう事にしよう。
国境を越えた帝国軍は、想定通り土塁の手前に陣を張って魔国軍と睨み合っている。こちらが攻撃してくるのを待っているんだろう。
敵が布陣している戦場へと、お城から戦闘機が発進していく。「できれば実際の戦闘も見せてほしいわね」というウィッチアを、隊長機の後ろに乗せて戦場に向かってもらった。
非常時以外、ウィッチアは直接攻撃をせずに見てもらうだけになる。その戦闘機隊が最前線に近づいてきたと報告があった。
「それじゃ作戦を開始しようか」
まずは、睨み合っている敵陣に対して、弾道ミサイルを三発だけ撃つ。想定通り飛行隊が迎撃したようだね。
「リビティナ様、自陣後方よりダミーの砲撃が開始されました」
その後のカノン砲による砲撃と見せかける攻撃を行ない、誰もいない後方の林から狼煙を上げて相手の飛行隊をおびき寄せる戦法だ。
約三百にも及ぶ大規模な飛行隊が後方に飛んで行ったと報告が入った。後は計画通り戦闘機が敵を殲滅してくれることに期待しよう。
「兵力が分散していましたからな。一点突破で来られると止める事は難しいですな」
ネイトスをはじめ主要閣僚にはお城に集まってもらっている。現地から続々と入る情報をまとめて、テーブルの上の戦況ボードに落とし込む。
最前線に出てきた敵兵力は約二万五千人。こちらも前面には二万八千人の兵を当てているけど、各地に分散して敵主力に対しては約半数の一万三千人の兵力となっている。
「中央に集中するように、兵を移動させる事も可能ですが、どういたしましょう」
「今まで通り村や町を守ったままでいいよ。移動させると飛行部隊が各地を攻撃してくるからね」
守るべきものは、住民の命だ。各村や町には以前より自衛の訓練をしている。それに加え武器と兵士を配置すれば、そうそうやられる事はない。
「敵を一つにまとめておいた方が、こちらもやり易いしね」
「しかし敵は多数の飛行部隊を用意しており、その運用に自信を持っているようですが」
「前の戦争で学んだという事かな」
魔法の射程外からの砲撃。それに対抗するため、ウィッチアが取った攻撃を参考にしているはずだ。
「ウィッチアはどう思う?」
「あの時も帝国の将軍は、後方に大攻勢をかければいいと言ってたわ。それを実行するつもりなんでしょうね」
「それなら、それを逆手に取った作戦を考えようか」
敵が進軍してくるルートに土塁を築くけど、今回長さは短くてもいい。敵がそこで停止すればいいだけだからね。
両軍が布陣できる場所を予想して、正面に当たらせている味方を後退させる。
「土塁は一日で作れる分だけでいいから、陣地の防御を厚くしてくれるかい」
「リビティナ。それであの数の飛行部隊をやっつけられるの。いくらフィフィロでも一人じゃ無理でしょう」
フィフィロとは武闘大会でも戦っていて、実力はウィッチアも良く知っている。
「ウィッチアには悪いけど、あの飛行部隊程度では航空戦力にはならないんだ。だから前回魔国として部隊編成しなかったんだよ」
「戦力にならない?! 空を飛んで陣地の後方に攻撃できるのよ!」
開発した飛行ユニットをけなされたと思ったのか、声を荒げて噛みつくように言ってくる。
この世界では画期的な事なんだろうけど、地上からの魔法攻撃で撃墜できてしまう。これは魔国の反重力装置でも同じだ。あの程度の速度しか出せないようなら戦力足り得ないんだよ。
「今回、開発したのは戦闘機なんだ。これで敵の飛行部隊を叩くつもりなんだよ」
「セントウキ? それが魔国の新兵器なのね。いくつ用意しているの。相手は数百の飛行部隊よ」
「今回は二十機を飛ばすつもりさ」
「たったの二十機! 戦力差が十倍以上だとでも言うの!」
歩兵に対して騎馬の戦力差は三倍だと言われている。十倍以上というのは普通考えられない数値だから驚くのも無理はないね。
今回開発したのは、反重力装置とロケット型のエンジンを積んだ戦闘機。球形の燃焼室に魔道具の糸で火魔法を誘導して爆発させる。噴出ノズルから爆風を超音速で噴射させて推進力を得る飛行機。
反重力装置も大量生産できるようになっている。高精度のガラス管とモーターを動かす燃料電池。燃料の水素は水力発電の余った電気で作れるし、電極となる白金も安定して生産できている。
まずは垂直に離着陸できて、高速で空を飛ぶことができる機体を全部で四十機造っている。これならフワフワ飛ぶだけの飛行隊は目じゃないよ。
「ウィッチアも一度乗ってみるかい。ちょうど今、訓練しているしね」
「えっ、いいの! 是非乗せてちょうだい」
「操縦は無理だけど、二人乗りだから後ろに乗せてもらって、射撃訓練ならすぐにでもできるよ」
それを聞いたウィッチアは、喜び勇んで訓練場に向かって行った。
今回、この魔国にウィッチアが派遣されたのは二つの意味がある。魔国に協力して友好的になりたいという思い。これは巫女様の考えだろうね。
それともう一つは魔国の軍事力を知りたいと言うものだ。大将軍の考えだろうけど、敵対した場合どのような戦術が考えられるかなどの戦力分析をしたいんだろう。
それなら軍事力の一部を見せて、敵対しても対抗手段がない事を分からせてあげればいい。
今回の戦闘機も見ただけでは模倣すらできない。ロケットエンジン部分は人工のマダガスカル鋼でできていて、ノズル形状の計算も必要だ。下手な事をすれば爆発するだけだからね。
羽の魔道具は世に広まって戦争に利用されても、遥か先の技術を持つ魔国に戦争では勝てないと知らしめるのも平和のためにはいい事だ。
ウィッチアには悪いけど、少し利用させてもらうつもりだ。機密事項は漏らさずに魔国の実力を見てもらう事にしよう。
国境を越えた帝国軍は、想定通り土塁の手前に陣を張って魔国軍と睨み合っている。こちらが攻撃してくるのを待っているんだろう。
敵が布陣している戦場へと、お城から戦闘機が発進していく。「できれば実際の戦闘も見せてほしいわね」というウィッチアを、隊長機の後ろに乗せて戦場に向かってもらった。
非常時以外、ウィッチアは直接攻撃をせずに見てもらうだけになる。その戦闘機隊が最前線に近づいてきたと報告があった。
「それじゃ作戦を開始しようか」
まずは、睨み合っている敵陣に対して、弾道ミサイルを三発だけ撃つ。想定通り飛行隊が迎撃したようだね。
「リビティナ様、自陣後方よりダミーの砲撃が開始されました」
その後のカノン砲による砲撃と見せかける攻撃を行ない、誰もいない後方の林から狼煙を上げて相手の飛行隊をおびき寄せる戦法だ。
約三百にも及ぶ大規模な飛行隊が後方に飛んで行ったと報告が入った。後は計画通り戦闘機が敵を殲滅してくれることに期待しよう。
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