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第10章 ヘブンズ教国
第108話 マリアンヌ2
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入り口の向こうからやって来たのは、ネイトス首相とエルフィさん。それと知らない女性が二人。
「おや、マリアンヌじゃないか。すまんな、ここの掃除をしてくれているのか」
もう会う事もないと思っていたネイトスさんが、気楽に声をかけてくれる。
「あの……どうしてここに」
「昨日の事を正式に謝りに教皇庁へ行ってきた帰りだ。教皇は忙しいからと会えなかったんだがな」
そうよね。今日は大司教様と新しい壁画の解釈のため、会議をしていると聞いたもの。
「あ、あの。そちらの方は魔王様でしょうか」
「ああ、そうだ」
少女の顔つきだけど、豪華な黒い衣装を身に纏い威厳のある低い声で応える。やはりこの人が魔王様。
アタシは横に避けて、魔王様は天井の壁画がよく見える場所まで進んでいく。
「あれが本来の壁画ですか……。あそこに描かれているのはわたくし達鬼人族の女神、テウラニージ様ですね」
そう言ったのは、もう一人の女の人。東側の神様が鬼人族の人に刀を渡している壁画を見つめる。確かこの人は建国式典の記事に載っていた外務大臣……。
「あれとよく似た絵をキノノサト国で見たことがあります。女神様の顔は鬼人族の顔でしたけど、雰囲気はよく似ていますね」
遠い昔、ここの壁画を鬼人族も見たのだろうか……。
「あたしのお陰で、こんな素晴らしい壁画が見れるようになったのよ。あたしに感謝してもいいんじゃないかしら」
「いやいや。下手したら国際問題になってたんだぞ。エルフィよ、もう無茶はせんでくれよ」
「そうですよ。友好条約を破棄するなんて言われたら、どうするんですか」
「はい、どうもすみませんでした。あたしが悪かったです」
みんなから攻められたエルフィさんが、ペコペコと頭を下げていた。
一通り壁画を見終わった魔王様達が、入り口の方へと歩を進める。
もう帰るの! もうこの人達と会えなくなるの? そう思うと足が勝手に入り口の方へと向かった。
「アタシを……アタシをあなたの眷属にしてくれませんか!」
魔王様の前に出て、両膝を地面に突き手を組んで祈りの姿勢で訴える。すると隣にいたエルフィさんが驚きながら聞いてきた。
「マリアンヌ、一体どうしたの! 昨日までそんな事言ってなかったじゃない」
「あの壁画に描かれていた神様はみんな魔王様の眷属の方と同じ姿です。アタシも神様と同じ姿になりたいんです!」
突然の言葉に魔王様もすぐに答えを出せないようだわ。でも自分の感情に従って、なおも訴えかける。
「あなた方眷属が住む国は、神様の国に違いありません。アタシも連れていって下さい」
その必死の訴えにネイトスさんが応える。
「マリアンヌ、そんな事を言われても簡単にはいかんぞ」
魔国に連れて行くにはそれなりの手続きがいる。簡単に他国の国民を連れ出す訳にいかないと説明された。
「まあ、いいだろう。詳しい話は迎賓館で聞こうか」
魔王様がネイトスさんを抑えて、アタシの願いに耳を貸してくれる。
アタシは急いで、ここの作業責任者に魔王様と首都へ行くと告げて、魔王様の後ろを追う。大聖堂の前には黒塗りの見慣れない馬車。魔国の馬車のようだけど、アタシが乗るスペースはないそうで、エルフィさんが一緒に乗合馬車に乗って迎賓館まで付いて来てくれる。
「どんな事情があるか知らないけど、マリアンヌが魔国に行きたいなら、あたしは応援するわよ」
「ありがとうございます、エルフィさん」
エルフィさんは優しいわ。でも、アタシはこの人達に謝らないといけない事がある。
迎賓館に着いて案内された部屋には、魔王様はいなくて代わりに賢者様とアルディアさんを含む眷属の方々がいた。魔王様より賢者様の方が話しやすいだろうと配慮してくれたようだわ。正直に全部を話そう。
「実はアタシ、教皇様に言われてあなた方魔王様一行の事を調べていたんです……」
「それじゃ、エルフィを助けたのも偶然じゃないという事なのかな」
賢者様が的確に質問してくる。
「はい。迎賓館から出てくるお二人の跡をつけて……でも誘拐事件が起こるなんて……」
近づくための自作自演だと思われるかもしれないけど、誘拐の事は全く知らなかった。その事を賢者様は分かってくれたようだわ。
「誘拐の事は教皇も知らなかったようだし、エルフィを助けてくれたのは事実だ。お陰でアルディアを早く見つける事ができたしね」
「で、マリアンヌは何が知りたくて俺達に近づいたんだ」
「眷属の方達の人となりと、魔王様の悪魔の力について調べるように言われていました。でも、もうアタシの仕事は無いそうです」
「すると、交渉のための事前調査が目的のようだな。まあ、よくある事だが子供を使って来るとはな」
ネイトスさんはその程度の事、知られたところで関係ないと言ってくれた。アタシが謝る程の事じゃないと。
「そうですわね。教団との交渉も終わっていますし、今は新しい壁画の事で教皇もそれどころじゃないのでしょう」
「今まで信じていた神様と違うからと、壁画を覆い隠せば済むという問題じゃないからね」
目撃者が魔国の人間とミシュロム共和国のエルフィさんだから、壁画の解釈次第で他国へ飛び火する事も考えられると……。賢者様はここが獣人の神様だけの聖地でない可能性があると言われた。
「ねえ、ねえ。それよりもマリアンヌを魔国に一緒に連れて行けるの」
エルフィさんが、難しい顔で悩んでいるネイトスさん達に尋ねてくれた。
「まあ、手続きが済めば連れ出せるんだが、明後日の朝には俺達はここを離れちまうからな」
手続きせず出国させるとネイトスさん達が誘拐犯になってしまうそうだ。
「ねえ、マリアンヌ。君は魔国に行って眷属になりたいという意思に変わりはないかい」
「はい、眷属になって神様と同じ姿になりたいです」
そう、これはアタシの切なる願い。その願いが変わることはないと訴えた。
「おや、マリアンヌじゃないか。すまんな、ここの掃除をしてくれているのか」
もう会う事もないと思っていたネイトスさんが、気楽に声をかけてくれる。
「あの……どうしてここに」
「昨日の事を正式に謝りに教皇庁へ行ってきた帰りだ。教皇は忙しいからと会えなかったんだがな」
そうよね。今日は大司教様と新しい壁画の解釈のため、会議をしていると聞いたもの。
「あ、あの。そちらの方は魔王様でしょうか」
「ああ、そうだ」
少女の顔つきだけど、豪華な黒い衣装を身に纏い威厳のある低い声で応える。やはりこの人が魔王様。
アタシは横に避けて、魔王様は天井の壁画がよく見える場所まで進んでいく。
「あれが本来の壁画ですか……。あそこに描かれているのはわたくし達鬼人族の女神、テウラニージ様ですね」
そう言ったのは、もう一人の女の人。東側の神様が鬼人族の人に刀を渡している壁画を見つめる。確かこの人は建国式典の記事に載っていた外務大臣……。
「あれとよく似た絵をキノノサト国で見たことがあります。女神様の顔は鬼人族の顔でしたけど、雰囲気はよく似ていますね」
遠い昔、ここの壁画を鬼人族も見たのだろうか……。
「あたしのお陰で、こんな素晴らしい壁画が見れるようになったのよ。あたしに感謝してもいいんじゃないかしら」
「いやいや。下手したら国際問題になってたんだぞ。エルフィよ、もう無茶はせんでくれよ」
「そうですよ。友好条約を破棄するなんて言われたら、どうするんですか」
「はい、どうもすみませんでした。あたしが悪かったです」
みんなから攻められたエルフィさんが、ペコペコと頭を下げていた。
一通り壁画を見終わった魔王様達が、入り口の方へと歩を進める。
もう帰るの! もうこの人達と会えなくなるの? そう思うと足が勝手に入り口の方へと向かった。
「アタシを……アタシをあなたの眷属にしてくれませんか!」
魔王様の前に出て、両膝を地面に突き手を組んで祈りの姿勢で訴える。すると隣にいたエルフィさんが驚きながら聞いてきた。
「マリアンヌ、一体どうしたの! 昨日までそんな事言ってなかったじゃない」
「あの壁画に描かれていた神様はみんな魔王様の眷属の方と同じ姿です。アタシも神様と同じ姿になりたいんです!」
突然の言葉に魔王様もすぐに答えを出せないようだわ。でも自分の感情に従って、なおも訴えかける。
「あなた方眷属が住む国は、神様の国に違いありません。アタシも連れていって下さい」
その必死の訴えにネイトスさんが応える。
「マリアンヌ、そんな事を言われても簡単にはいかんぞ」
魔国に連れて行くにはそれなりの手続きがいる。簡単に他国の国民を連れ出す訳にいかないと説明された。
「まあ、いいだろう。詳しい話は迎賓館で聞こうか」
魔王様がネイトスさんを抑えて、アタシの願いに耳を貸してくれる。
アタシは急いで、ここの作業責任者に魔王様と首都へ行くと告げて、魔王様の後ろを追う。大聖堂の前には黒塗りの見慣れない馬車。魔国の馬車のようだけど、アタシが乗るスペースはないそうで、エルフィさんが一緒に乗合馬車に乗って迎賓館まで付いて来てくれる。
「どんな事情があるか知らないけど、マリアンヌが魔国に行きたいなら、あたしは応援するわよ」
「ありがとうございます、エルフィさん」
エルフィさんは優しいわ。でも、アタシはこの人達に謝らないといけない事がある。
迎賓館に着いて案内された部屋には、魔王様はいなくて代わりに賢者様とアルディアさんを含む眷属の方々がいた。魔王様より賢者様の方が話しやすいだろうと配慮してくれたようだわ。正直に全部を話そう。
「実はアタシ、教皇様に言われてあなた方魔王様一行の事を調べていたんです……」
「それじゃ、エルフィを助けたのも偶然じゃないという事なのかな」
賢者様が的確に質問してくる。
「はい。迎賓館から出てくるお二人の跡をつけて……でも誘拐事件が起こるなんて……」
近づくための自作自演だと思われるかもしれないけど、誘拐の事は全く知らなかった。その事を賢者様は分かってくれたようだわ。
「誘拐の事は教皇も知らなかったようだし、エルフィを助けてくれたのは事実だ。お陰でアルディアを早く見つける事ができたしね」
「で、マリアンヌは何が知りたくて俺達に近づいたんだ」
「眷属の方達の人となりと、魔王様の悪魔の力について調べるように言われていました。でも、もうアタシの仕事は無いそうです」
「すると、交渉のための事前調査が目的のようだな。まあ、よくある事だが子供を使って来るとはな」
ネイトスさんはその程度の事、知られたところで関係ないと言ってくれた。アタシが謝る程の事じゃないと。
「そうですわね。教団との交渉も終わっていますし、今は新しい壁画の事で教皇もそれどころじゃないのでしょう」
「今まで信じていた神様と違うからと、壁画を覆い隠せば済むという問題じゃないからね」
目撃者が魔国の人間とミシュロム共和国のエルフィさんだから、壁画の解釈次第で他国へ飛び火する事も考えられると……。賢者様はここが獣人の神様だけの聖地でない可能性があると言われた。
「ねえ、ねえ。それよりもマリアンヌを魔国に一緒に連れて行けるの」
エルフィさんが、難しい顔で悩んでいるネイトスさん達に尋ねてくれた。
「まあ、手続きが済めば連れ出せるんだが、明後日の朝には俺達はここを離れちまうからな」
手続きせず出国させるとネイトスさん達が誘拐犯になってしまうそうだ。
「ねえ、マリアンヌ。君は魔国に行って眷属になりたいという意思に変わりはないかい」
「はい、眷属になって神様と同じ姿になりたいです」
そう、これはアタシの切なる願い。その願いが変わることはないと訴えた。
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