神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
23 / 201
第一部 ラクルス村編 第二章 禁忌の少女

7.飛び降りた先に

しおりを挟む
 僕はしっかりとリラを抱きしめ、50メートル以上ある崖を落下する。
 いくら僕がチートを持っていたとしても。そして、これまでなんとなく分かったように、自分のチートに耐えられるような頑丈さもあるとしても。
 さすがにこの高さから落ちたら助かりようがない。
 まして、リラにはそんなものチートはない。

 だから、このままなら間違いなく死ぬ。
 獣人達も僕らが心中したと思うことだろう。
 僕の意図通りに。
 ルシフの提案通りに。

 眼前に木々が迫る。

 ――まだだ。
 ――まだ早い。
 ――まだ、崖の上から見える。

 やがて、木々の木の葉が僕らを叩く。

 ――よし、今だ。

 木々が僕らの姿を上空から完全に隠したと思われるタイミングで、僕はルシフにもらった魔法を発動した。

 ---------------

『つまりさ、獣人達は彼女が生きている限り追ってくる。なら、彼女が死んだと思わせれば良いんだよ』

 困惑する僕に、ルシフはそう言った。

『ちょうど良いことに、目の前には飛び降りれば確実に死ぬであろう崖があるじゃないか。そこから2人で飛び降りてみせれば、獣人達もそれ以上は追わないさ』

 いやいやいや、確かにそうかもしれないけど、死んだら意味がないじゃん。

『そこはボクが結界魔法を与えるよ』

 つまり、崖から落ちて死んだふりをする。
 そのために、落ちても死なないですむよう結界魔法――バリアのような魔法をくれるらしい。
 でも、死体が見つからなかったらバレバレじゃないかな?

『彼らは崖の下まで死体を探しには行かないさ』

 何でそんなことが分かるんだよ?

『崖の下の森には魔女が住む。獣人達は魔女とのトラブルを恐れる。生きたまま魔女の森に逃げ込んだならならともかく、確実に死んだ思われる状況を演出できれば崖の下は探さない』

 本当かな。

『それでも心配ならもう1つ魔法をあげよう。1時間くらいだけど、フェイクの死体を作れるよ』

 それならなんとかごまかせるか。

 っていうか、魔女が住む森か。
 なんか、それこそ僕らが無事で済むのかどうか。
 だが、僕の心配は無視したまま、ヤツは話を進める。

『じゃあ、少しだけ魔法についての授業だ』

 ルシフの説明によると、人族が魔法を使うには精霊か神様と契約する必要があるらしい。

『もっとも、神様はそうそう人間と契約したりしないし、その世界では、精霊との契約の大部分を教会が一元管理しているみたいだけどね』

 つまり、ルシフは神様か精霊?

『いいや、ボクは神様でも精霊でもないよ』

 いや、それは話がおかしい。
 今の説明はこうだ。

 魔法を授けられるのは神様と精霊だけ。
 ルシフは僕に魔法を授ける。
 でも、ルシフは神様でも精霊でもない。

 ……論理的矛盾ってヤツだ。

『厳密に言えば、今のボクは神様じゃないってところかな』

 なんだよ、それ。
 あ、ひょっとして免許が取れていないとか?
 おねーさんは神様免許とか言っていたし。

『それはひどい侮辱だ。30回も免許取得に失敗する下級神と一緒にしないでくれ。あんな試験はボクにとっては楽勝さ』

 ……30回も落第したのかよ、おねーさん……
 いや、それよりも、つまりルシフは……

『さあ、これ以上のことは、今は言えないし、お兄ちゃんには関係ないことだけどね』

 そして、僕はルシフと契約した。
 他に方法がなかったし、代償もないと言う言葉を信じるしかなかった。

 契約と同時に、僕の頭に2つの魔法の知識が浮かぶ。
 いや、魂だけの状態で頭と表現するのが正しいかは微妙だけど。

『特別サービスでお兄ちゃんの催夢魔法も解いておくね。あの鷹獣人の羽はもう打ち止めのはずだから安心して。
 コウモリ女の方は攻撃能力を持たないけど、夜目が利くから、魔法を使うのは木々に自分たちの姿が隠れてからの方が良いよ』

 わかった。
 僕はうなずく。

『そうそう、今後も何かあったらボクを呼んでね。できるかぎりお兄ちゃんの手助けをしたいから』

 そして、ルシフは稔の顔に邪悪な笑顔を浮かべる。

『ただし、次はそれなりの代償を払ってもらうけど』

 そして、僕の魂は元の世界に帰還し、リラと共に崖から飛び降りたのだ。

 --------------

 いまいち信用ならなかったが、結界魔法はちゃんと発動した。
 漆黒のバリアーが僕とリラを包み、落下の衝撃を吸収する。

「ぐはっ」

 それでも僕らの体にかかった衝撃はものすごかった。
 ルシフのやろう、落ちても大丈夫な魔法って言ったくせに。
 いや、アイツなら飄々と『死なない保証はしたけど、無傷を保証してはいない』とか言うんだろう。

 ともあれ、結界を解いて立ち上がる。
 肉体的にはともかく、脳への衝撃が凄かったのか、やや足下がおぼつかない。
 頭がクラクラする。
 あるいは魔法の発動には精神力を使うのかもしれない。

 リラは僕の腕の中で完全に気を失っている。
 しかも、彼女の右手はあらぬ方向を向いている。
 落下の衝撃ではなく、僕が強く抱きしめすぎたせいだ。
 やっぱり、僕の力は人を傷つけてしまう。
 心苦しいが、いまは気に病んでいる場合じゃない。

 とにかく、もらったもう一つの魔法で……

 僕は魔法を発動し、足下に僕とリラの遺体のフェイクを出現させる。
 1時間ほどで消えるらしいが、今の時点ではほとんど区別が付かない。ご丁寧に血まみれで首が折れている。正直、自分で作ったニセモノなのに吐き気がするくらいだ。

 その瞬間、今まで以上に頭がクラっとする。
 だめだ、意識が飛びそう。
 寝不足、緊張感の連続、今の衝撃、そして魔法の連続使用。

 だけど、今、僕まで気絶するわけには……
 ――これからどうしたものか。

 水も食料もない。
 リラは目覚めないし、彼女の骨折の治療もできる状況ではない。
 なにより、ルシフはああ言っていたが、鷹やコウモリの獣人達が僕らの様子を確かめに来る可能性は十分あると思う。
 鷹やコウモリの獣人だけならまだしも、犬の獣人らしいブルフまで一緒に来たら臭いでフェイクもバレるかもしれない。

 一刻も早くどこかに移動して、まずは水を確保して――
 でもそのまえにリラの腕を固定する方が先か?
 それとも、リラを起こす?

 何を優先すべきだ?

 それ以前に、意識がもたない。
 背後からガサガサと草をかき分ける音が聞こえた。

「誰!?」

 別の獣人?
 それともアベックニクスみたいな獣?
 僕が振り向くと、そこには真っ黒なローブを身につけた老婆が立っていた。

「こりゃ、驚いた。天から子どもが落ちてきて、しかも生きておるわ」

 崖の下には魔女が住む。
 僕はルシフのその言葉を思い出しながら、気を失った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...