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第二部 少年と王女と教皇と 第二章 決意の時
12.覚醒の時
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「僕が、僕がもっと早く来ていれば……ううん。そもそもお師匠様のところに転がり込まなかったら……転生なんて望まなかったら……」
嘆く僕に、お師匠様は最後まで厳しかった。
コツンと頭を叩いて、お説教。
「まだそんなことを言っているのか、この馬鹿弟子ども!!
お前達の命はね、ご両親が、友達が、そしてこのアラブシ・カ・ミランテが命を賭けて護ったものなんだっ!! お前達だけのもんじゃないんだ!!」
分かってる。
分かっているけど。
それでも考えてしまう。
僕という存在がなければ。
転生者という異物がこの世界に迷い込まなければ。
どこかで間違わなければ。
どこかで違う決定をしていれば。
お師匠様が死ぬことなんてなかったんじゃないか。
そう感じてしまう。
「お前達に最後の教えだ。
自分を呪うな。それは麻薬だ。誰が否定したとしても、自分で自分を否定してはいけない。
神託がなんだ。禁忌がなんだ。神がなんだ。闇がなんだ。
パドの力は人を救えるし、リラは獣人と人族とを結びつける鍵になる。
自分を肯定しろ。他の誰が否定しても、お前達だけはお前達を嫌いになってはいけない。
わかったか!?」
血反吐を吐かんばかりのお師匠様の言葉。
麻薬。
そうだ。マイナスのことばかり考えて。
自分を責め立てて自己嫌悪ばかりしていて。
それは責任とか反省とかじゃない。
ただ、その方が楽だからだ。
自分が全部悪いんだと嘆いていれば、誰かが慰めてくれるから。
そんなことばかりやっていた結果がこれだ。
僕とリラは泣きながらお師匠様最後の教えに頷いた。
---------------
だけど。
お師匠様が自らの身を犠牲にしてもなお、戦いは終わらなかった。
『闇の獣』と『闇の鳥』そして人型の『闇』に僕らは襲われた。
『闇の獣』はアル王女達に任せて、僕は2体の『闇』と対峙する。
だが、これまでのように圧倒はできない。
1対1と1対2では全く違う。
左の『闇』の指を弾いたと思ったら、右の『闇』が襲いかかる。
右の『闇』を攻撃しようとすると、『左』の闇が防ぐ。
それに、今まで倒した『闇』よりも、この2体はどこか戦い慣れている印象がある。
しかも、『闇の獣』をアル王女達がすべて捌けるわけじゃない。
一部は僕にも襲いかかってくる。
漆黒の刃を使えば、『闇の獣』の方は倒せるのだけど、そのスキを『闇』に衝かれると非常にやっかいだ。
そして1番の問題は、僕の魔力が持たないという事実だ。
いや、魔力自体はまだあるのかもしれないが、かつてお師匠様が教えてくれたとおり、僕の肉体が度重なる魔力の放出に悲鳴を上げているのが分かる。
ついでにいえば、教皇の結界魔法やアル王女達にだって限界はくるだろう。
(このままじゃ……)
せめて、『闇』を1体でも倒せればっ!!
そう思って斬りかかるが、それをかばうように『闇の獣』が飛び出してくる。
反射的に『闇の獣』を斬る。『闇の獣』は消滅したが、その間に『闇』は距離を取って僕に指を伸ばす。
――あ、だめだ、意識が……
これ以上漆黒の刃を使い続けられない。
僕はいったん左腕から刃を消す。
『闇』の攻撃を素手で払い、殴りかかる。
だが、その僕の首に、もう1体の『闇』の指が巻き付く。
「くぅ」
首を締め上げられ、僕は苦痛のうめき声すら出せない。
再び漆黒の刃を出し、僕の首を絞める指を切り落とす。
僕は解放されたが、意識が飛びそう。
だめだ、これ以上は魔法は本当に使えない。
それはつまり、詰みだ。
そんな僕らにさらなる追い打ち。
これまで地上の様子をうかがっていただけの『闇の鳥』達が一斉降下してきたのだ。
『闇』と『闇の獣』に加えて、『闇の鳥』の波状攻撃。
『闇の鳥』の攻撃自体はそこまで威力があるわけではないが、なにしろ数が多い。
そんななか、教皇の結界が割れ、アル王女達が『闇の鳥』の勢いに圧倒されるのが見えた。
「リラ!!」
僕は叫ぶ。
このままじゃ、リラとお母さんが。
いや、それだけじゃない。
他の皆も、僕も死んでしまう。
――ルシフ、何を考えている!?
アイツの目的が僕の想像通りなら、ここで僕らを殺す意味なんてないはずだ。
だが、『闇』達の攻撃は終わらない。
僕の見当違いか、あるいはさっき挑発しすぎたか。
いや、そもそもルシフの目的を考えれば、僕やアル王女はともかく、リラや教皇は殺しても何ら問題がないのかもしれない。
だめだ。
こんなところで。
リラも僕も死ねない。
僕らの命はお師匠様が、お父さんやお母さんが、ジラやスーンが、皆がくれたものなんだ。
お師匠様が言うとおり、僕らだけのものじゃないんだ。
絶対に死なない。いや、死ねない!!
僕は『闇の鳥』を振り払い、『闇』の1体を殴り飛ばし、リラの方へと駆ける。
その瞬間だった。
リラの口から光の閃光が巻き上がった。
---------------
――なに、これ?
思い浮かぶのはお師匠様が最後につかった魔法。
あれとよく似た光だ。
――命を燃やす。
まさか、リラまでっ!!
だが、よく見ると違った。
この光はリラの口から吐き出されている。
まるで、怪獣映画の炎のように。
その光の炎が『闇の鳥』を、『闇の獣』を。次々に消滅させていく。
「これは、浄化の炎。まさか……」
教皇が呟くように言う。
いずれにせよ、光の炎によって、『闇の獣』と『闇の鳥』はほぼ消滅し、残すは人型の『闇』2体のみとなった。
光の炎が消えた後、僕はリラに駆け寄る。
「リラ、今のは?」
「わからない……わかんないわよ。ただ死にたくないと思ったら炎を吐いていた」
確かに意味が分からない。
教皇は浄化の炎と言っていたが……
「2人とも考察も検討も後だ。まだ戦いは終わっていない」
アル王女が叫び、2体の闇に大剣を構える。
――だが。
次の瞬間、ヤツラは空に跳び上がり、そしてすっと姿を消した。
「逃げた?」
「もしくは、引いただな」
呟く僕に、アル王女が言う。
こうして、『闇』との戦いは終わった。
僕たちが生き残ったのは奇跡だったのかもしれない。
実際、最後のリラの炎は全く想定外だったのだ。それがなかったら、たぶん今頃みんな死んでいただろう。
だけど、無事を喜ぶ気にはなれない。
――お師匠様。
僕はっ――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(以下、三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『くそっ、なんなんだ、あれはっ!!』
漆黒の世界でルシフの顔が歪む。
『荒れているな、ルシフよ』
『またか、犬っころ。お前と話すことなんて何もないっ!!』
『ふん、パド少年を追い詰めるつもりが、自分が追い詰められているようだな』
『うるさいっ。世界一の魔法使いだけならまだしも、なんだあの炎は。あんなの予想できるもんかっ!!』
ルシフにとって、リラという少女は取るに足らない存在だった。
極論、あの場にいる人間でルシフにとって重要なのはパドとアルだけである。
教皇は神託を聞いた者であるという程度の意味しかないし、パドの母親はパドがアルに協力する動機付けでしかない。
レイクやラミサルなど心の底からどうでもよかったし、ましてやリラなどという少女のことは眼中にすらなかった。
その眼中にすらなかった少女がルシフの集めた『闇の獣』や『闇の鳥』を一気に排除したのだ。
機嫌も悪くなろうものである。
『ちくしょう。ちくしょうっ!!』
まるで駄々っ子の幼児のように叫ぶルシフ。
だが、やがてその憎々しげな表情の中に、嫌らしい笑みがまじりる。
『このままじゃすまさないよ、パドお兄ちゃん……』
もはや、その表情は、桜稔の顔の原型を残しているかどうかも怪しかった。
嘆く僕に、お師匠様は最後まで厳しかった。
コツンと頭を叩いて、お説教。
「まだそんなことを言っているのか、この馬鹿弟子ども!!
お前達の命はね、ご両親が、友達が、そしてこのアラブシ・カ・ミランテが命を賭けて護ったものなんだっ!! お前達だけのもんじゃないんだ!!」
分かってる。
分かっているけど。
それでも考えてしまう。
僕という存在がなければ。
転生者という異物がこの世界に迷い込まなければ。
どこかで間違わなければ。
どこかで違う決定をしていれば。
お師匠様が死ぬことなんてなかったんじゃないか。
そう感じてしまう。
「お前達に最後の教えだ。
自分を呪うな。それは麻薬だ。誰が否定したとしても、自分で自分を否定してはいけない。
神託がなんだ。禁忌がなんだ。神がなんだ。闇がなんだ。
パドの力は人を救えるし、リラは獣人と人族とを結びつける鍵になる。
自分を肯定しろ。他の誰が否定しても、お前達だけはお前達を嫌いになってはいけない。
わかったか!?」
血反吐を吐かんばかりのお師匠様の言葉。
麻薬。
そうだ。マイナスのことばかり考えて。
自分を責め立てて自己嫌悪ばかりしていて。
それは責任とか反省とかじゃない。
ただ、その方が楽だからだ。
自分が全部悪いんだと嘆いていれば、誰かが慰めてくれるから。
そんなことばかりやっていた結果がこれだ。
僕とリラは泣きながらお師匠様最後の教えに頷いた。
---------------
だけど。
お師匠様が自らの身を犠牲にしてもなお、戦いは終わらなかった。
『闇の獣』と『闇の鳥』そして人型の『闇』に僕らは襲われた。
『闇の獣』はアル王女達に任せて、僕は2体の『闇』と対峙する。
だが、これまでのように圧倒はできない。
1対1と1対2では全く違う。
左の『闇』の指を弾いたと思ったら、右の『闇』が襲いかかる。
右の『闇』を攻撃しようとすると、『左』の闇が防ぐ。
それに、今まで倒した『闇』よりも、この2体はどこか戦い慣れている印象がある。
しかも、『闇の獣』をアル王女達がすべて捌けるわけじゃない。
一部は僕にも襲いかかってくる。
漆黒の刃を使えば、『闇の獣』の方は倒せるのだけど、そのスキを『闇』に衝かれると非常にやっかいだ。
そして1番の問題は、僕の魔力が持たないという事実だ。
いや、魔力自体はまだあるのかもしれないが、かつてお師匠様が教えてくれたとおり、僕の肉体が度重なる魔力の放出に悲鳴を上げているのが分かる。
ついでにいえば、教皇の結界魔法やアル王女達にだって限界はくるだろう。
(このままじゃ……)
せめて、『闇』を1体でも倒せればっ!!
そう思って斬りかかるが、それをかばうように『闇の獣』が飛び出してくる。
反射的に『闇の獣』を斬る。『闇の獣』は消滅したが、その間に『闇』は距離を取って僕に指を伸ばす。
――あ、だめだ、意識が……
これ以上漆黒の刃を使い続けられない。
僕はいったん左腕から刃を消す。
『闇』の攻撃を素手で払い、殴りかかる。
だが、その僕の首に、もう1体の『闇』の指が巻き付く。
「くぅ」
首を締め上げられ、僕は苦痛のうめき声すら出せない。
再び漆黒の刃を出し、僕の首を絞める指を切り落とす。
僕は解放されたが、意識が飛びそう。
だめだ、これ以上は魔法は本当に使えない。
それはつまり、詰みだ。
そんな僕らにさらなる追い打ち。
これまで地上の様子をうかがっていただけの『闇の鳥』達が一斉降下してきたのだ。
『闇』と『闇の獣』に加えて、『闇の鳥』の波状攻撃。
『闇の鳥』の攻撃自体はそこまで威力があるわけではないが、なにしろ数が多い。
そんななか、教皇の結界が割れ、アル王女達が『闇の鳥』の勢いに圧倒されるのが見えた。
「リラ!!」
僕は叫ぶ。
このままじゃ、リラとお母さんが。
いや、それだけじゃない。
他の皆も、僕も死んでしまう。
――ルシフ、何を考えている!?
アイツの目的が僕の想像通りなら、ここで僕らを殺す意味なんてないはずだ。
だが、『闇』達の攻撃は終わらない。
僕の見当違いか、あるいはさっき挑発しすぎたか。
いや、そもそもルシフの目的を考えれば、僕やアル王女はともかく、リラや教皇は殺しても何ら問題がないのかもしれない。
だめだ。
こんなところで。
リラも僕も死ねない。
僕らの命はお師匠様が、お父さんやお母さんが、ジラやスーンが、皆がくれたものなんだ。
お師匠様が言うとおり、僕らだけのものじゃないんだ。
絶対に死なない。いや、死ねない!!
僕は『闇の鳥』を振り払い、『闇』の1体を殴り飛ばし、リラの方へと駆ける。
その瞬間だった。
リラの口から光の閃光が巻き上がった。
---------------
――なに、これ?
思い浮かぶのはお師匠様が最後につかった魔法。
あれとよく似た光だ。
――命を燃やす。
まさか、リラまでっ!!
だが、よく見ると違った。
この光はリラの口から吐き出されている。
まるで、怪獣映画の炎のように。
その光の炎が『闇の鳥』を、『闇の獣』を。次々に消滅させていく。
「これは、浄化の炎。まさか……」
教皇が呟くように言う。
いずれにせよ、光の炎によって、『闇の獣』と『闇の鳥』はほぼ消滅し、残すは人型の『闇』2体のみとなった。
光の炎が消えた後、僕はリラに駆け寄る。
「リラ、今のは?」
「わからない……わかんないわよ。ただ死にたくないと思ったら炎を吐いていた」
確かに意味が分からない。
教皇は浄化の炎と言っていたが……
「2人とも考察も検討も後だ。まだ戦いは終わっていない」
アル王女が叫び、2体の闇に大剣を構える。
――だが。
次の瞬間、ヤツラは空に跳び上がり、そしてすっと姿を消した。
「逃げた?」
「もしくは、引いただな」
呟く僕に、アル王女が言う。
こうして、『闇』との戦いは終わった。
僕たちが生き残ったのは奇跡だったのかもしれない。
実際、最後のリラの炎は全く想定外だったのだ。それがなかったら、たぶん今頃みんな死んでいただろう。
だけど、無事を喜ぶ気にはなれない。
――お師匠様。
僕はっ――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(以下、三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『くそっ、なんなんだ、あれはっ!!』
漆黒の世界でルシフの顔が歪む。
『荒れているな、ルシフよ』
『またか、犬っころ。お前と話すことなんて何もないっ!!』
『ふん、パド少年を追い詰めるつもりが、自分が追い詰められているようだな』
『うるさいっ。世界一の魔法使いだけならまだしも、なんだあの炎は。あんなの予想できるもんかっ!!』
ルシフにとって、リラという少女は取るに足らない存在だった。
極論、あの場にいる人間でルシフにとって重要なのはパドとアルだけである。
教皇は神託を聞いた者であるという程度の意味しかないし、パドの母親はパドがアルに協力する動機付けでしかない。
レイクやラミサルなど心の底からどうでもよかったし、ましてやリラなどという少女のことは眼中にすらなかった。
その眼中にすらなかった少女がルシフの集めた『闇の獣』や『闇の鳥』を一気に排除したのだ。
機嫌も悪くなろうものである。
『ちくしょう。ちくしょうっ!!』
まるで駄々っ子の幼児のように叫ぶルシフ。
だが、やがてその憎々しげな表情の中に、嫌らしい笑みがまじりる。
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