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【番外編】もふもふ女神
【番外編15】7年前・神界/係長バスティーニの苦悩
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(係長バスティーニ 一人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私はキニトの小さな画面に表示される部下からの報告書をチェックしていた。
キニトとは200年前から神々の業務に使われるようになったアイテムである。
私に言わせれば紙の資料の方がよっぽど使いやすいのだが、時代の流れには逆らえない。
まったく、迷惑な話だ。
上司は理不尽に厳しい部長、部下は使えないことこの上ない。その間に立つ係長という中間管理職はつらい。
と、1つの報告書に目をとめる。
魂の転生に関するデータだ。
(11歳の子どもを転生?)
本来、転生は産まれて1年以内に死んだものにのみ許される。
11歳の子どもを転生など異例中の異例だ。
部下の書いた補足文を読む。
『産まれて数日で死ぬはずであったが、医療が中途半端に発達している世界であったため、11歳まで生存した。しかしながら、病室からほとんど出ることができず一生を終えたため(神法12条2項)』
……言いたいことは理解できないではないが、『しかしながら~ため』と繋げるのは、微妙に文法がおかしくないか?
記入したのは……あ、やっぱりカルディか……あのコギャル娘め……
それにしても神法12条2項とはいくらなんでも……
カルディは神免許を取得してまだ20年という若い神だ。
若いだけならともかく、やることなすこと常識外。
なぜ私があの娘の世話をせにゃならないのか……
何かを呪いたい気分だが、残念ながら神を呪うことはできない。何しろ私も神だ。
ええーい、とにかく呼び出しだ。
私はキニトを通話モードにしてカルディを呼び出す。
しばしして……
「はぁい、こちらカルちゃんだよー。バスさん何か用?」
私の名前はバスティーニ。
部長にならともかく、部下に名前を省略されるいわれはない。
というか、敬語くらい覚えろ。
……といったようなことが頭に渦巻き、瞬間言葉が出てこない。
「あんれー、返事が聞こえないよー。電波悪いかなぁ?」
私がすぐに返事をしないとみるやそんなことを言い出した。
キニトの外見は確かに下界の通信機器に近い形状だが、神のアイテムが電波を使っているわけがないだろうに。
……まあ、それはともかく。
「すぐ、私の部屋に来い」
私は冷たい声で言う。
「うわ、バルさんなんか、オコ中?」
「お、オコ中?」
何語だ、それは?
「とにかく、今すぐ来い」
「はいはーい、わかったわよー」
しばしして、カルディが私の部屋に……やってこなかった。
――あ、あの娘ぇぇぇぇ!!
私はもう1度キニトでカルディを呼び出す。
「はいはいー、こちら……」
「いつになったら来るんだ、この馬鹿娘!!」
私はキニトに向かって怒鳴った。
「うわぁ、ひどい、バルさん、パワハラっ!!」
「誰がパワハラだ、そんな台詞はまともに仕事をしてからいえ!! これだから最近の若い者は……」
「ありゃぁ、『最近の若い者』だって。ジジくさい台詞ナンバーワンじゃん」
この娘が部下になってから1つ分かったことがある。
それは、怒りとは頂点を通り越すと強烈な疲労感に変わるということだ。
「で、なんで来ないんだ?」
「メンゴメンゴ、ちょっとお化粧を直していて……」
「……神は姿自由自在だろうが、なぜ化粧をする必要がある?」
「えー、それは女子のこだわり……みたいな?」
「いいから、15秒以内に来い。来なければ減俸だ」
「そ、そんなぁ、いまちょっとマスカラを……」
「10、9、8……」
「わ、ヒドイ、15秒っていったのに10秒から数え始めたよっ!!」
「……5、4……」
「ま、まって……」
1までカウントしたとき、私の目の前にカルディが現れた。
腐っても神なので、彼女も瞬間移動はできるのだ。
「いきなり部屋の中に現れるな、まず扉をノックしろっ!!」
「だって、バルさんがすぐに来いって……」
頬を膨らませるカルディ。
それにしても、この娘の格好はどうだろう。
神に制服などはない。が、それにしても下界の学校のセーラー服姿、しかも化粧やピアスをつけているなど、完全に不良娘だ。
ちなみに、私は伝統的な白い法衣をまとっている。肩口の青のストライプが密かなおしゃれポイントである。
「いろいろ言いたいことはあるが、まあいい。呼び出したのはこの報告書についてだ」
私は先ほどの転生に関する報告書を見せた。
「えーっと、あ、ゆータンの転生ね。それがどうかした?」
「説明文の文法がおかしいだろ」
「……そうかしら? 結構がんばって書いたんだけど……」
ため息が出そうになる。
どうやら、本当にわからないらしい。
しかたがない、こんなこともあろうかと例文は作っておいた。
私はその例文をカルディに見せる。
『多くの世界ならば産まれて数日で死亡する魂であった。しかし医療が発展した世界であったため11歳まで病院から1度も出ることなく治療を受けて生存した。【神法12条2項】に基づき特例として記憶を消した上で転生させることとする』
「おおっ!!」
「わかったか? 文章はちゃんと書け」
「……で、私のと何が違うの? 言っていること同じじゃん」
……神が神を殴ってはいけないとする神法32条が憎い。
「ま、いいや、じゃあ報告書にはそう書いておいてよ」
面倒くさいといわんばかりにいうカルディ。
こ、この娘は……
自分で書き直せっ!!
……と言いかけて、どうせ書き直させたらまた変な文章になるのだろうなと思い直す。
そうしたら、また私の疲労が増えるだけだ。
「わかった、今回に限り処理しておく」
怒りと疲労の割合が、2対8くらいになってきた。
まあ、事務処理についてはしかたがない。
だが、もう1つ問いたださねばならないことがある。
「カルディ、もう1つ聞きたいことがある」
「なーに?」
「なぜこの少年を転生させた?」
「報告した通りよ」
素っ気なく応じるカルディ。
確かに神法12条2項には『1歳未満で死ぬべきであった人間の魂が、外的要因などにより本来よりも長く生きたケースにおいては、担当神の判断で記憶を消去した上で転生させてもよい』と書かれている。
今回のケースならば、そう強弁できなくはない。
できなくはないが……
「神法12条2項は有名無実化した規定だ。実行された例はほとんどない」
そう、1年以上生存した人間の魂を転生させる神などいないのだ。
神法を最初に作ったのはすべての神の創造主とされる。
神の創造主がどのような存在なのか、私のような末端の神には想像もできない。
神法12条は魂の転生に関する記述で、1項には『1年未満で死んだ人間の魂は転生させなければならない』と書かれている。
こちらは現在ではほとんど自動的に転生するシステムが作られており、神が手を煩わせる必要もない。
一方12条2項には先に述べたとおり、『1歳未満で死ぬべきであった人間の魂が、外的要因などにより本来よりも長く生きたケースにおいては、担当神の判断で記憶を消去した上で転生させてもよい』と定められている。
だが、『させてもよい』とうことは『させなくてもよい』ということである。
12条2項にもとづいて魂を転生させた例などほとんどない。
500年ほど前に酔狂な神がこの規定を使用したらしいが、それも1年と2ヶ月で死んだ子どもの魂だ。
11歳の子どもの魂を転生させるなど前代未聞である。
「有名無実化してようとなんだろうと、神法は神法よ」
カルディはフンと鼻を鳴らせた。
「確かにその通りだ。だが、現実に11歳まで生きた少年を、1年で死ぬはずだったというのはかなり強引な論法とみなされてもしかたがないとは思わないか?」
「医療が発達していない世界で産まれていたら1年未満で死んでいたわよ」
「神法学者の間では、12条2項の規定の解釈は『その世界において死ぬはずだった』とするのが一般的だ」
「……ぅ……で、でも、あの世界だって他の国だったら……」
「確かに発展途上国ならばそうかもしれん。しかし現実に11年生きたという事実は重い」
「……」
カルディはそっぽを向く。
――まったく……
「なぁ、カルディ、おまえよく12条2項なんて知っていたな」
「私だって神よ。免許取得のために勉強くらいしたわ」
「……この前、神なら誰でも知っている規定を知らなかっただろうが」
「うるさいわねっ!!」
私はため息をつく。
「おまえ、この子どもを助けるために必死に神法を調べたな」
「な、なんのことよ?」
神が下界に手出しできる手段は限られている。
そして、死者の魂に対して行えることも多くはない。
彼女の立場でこの子どもの魂を救済するなら他に方法はないだろう。
おそらく必死に神法を調べ、強引な解釈をしてでも転生させたのだろう。
「お前はやさしすぎるな」
私がカルディを放り出せない理由はこれだ。
敬語も使えない娘だが、性根の部分ではやさしい。
やさしすぎる。
「わ、私は別に……」
「カルディ、不幸な人生を送る人間はいくらでもいる。幼くして戦乱で死亡する子どもも、病気で死ぬ子どもも、事故で死ぬ子どもも」
「だって、ゆータンは……」
「わかっている。あの子の履歴は私も見た。確かに不幸な人生だったと思う。だが、そういう子どもは世の中にいくらでもいる。神とはいえすべてを救済することは不可能だし、神だからこそ人間にむやみに救済を与えてはならない」
「……でもっ、だって……」
カルディは目に涙を浮かべる。
それは彼女のやさしさが流させる涙だ。
だが、人間のために涙すること自体、神としては失格である。
「まあ、今回はすんだことだ。これ以上は言うまい」
私はそういって話を打ち切った。
私の書いた説明文で報告書を上書きし、最終のチェックをする。
……え?
…………これは……
「おい、カルディ、お前この子の魂のステータスを弄らなかったか?」
「え、えーっと、ほら、また病気だとかわいそうと思ったから、常人の200%の体力と魔力を与えてみたんだけど……」
それ自体大問題だが、それだけではすまない。
「2年前、ステータス表示の変更について通知があったよな?」
「……あったけ?」
「あったのだ。そして、パーセント表示をやめて倍率表示になった」
「……そ、それがどうしたの?」
顔中に冷や汗をかいているあたり、どうやら本人も気づいているらしい。
「お前、200%と設定したつもりで200倍と設定しただろう!?」
「ははは、まあ、そういう事実もあったかもしれないけれども、ないかもしれないわけで、きっとどうにかなるみたいな?」
――何語だ、本当に。
「しかも、200倍もの潜在魔力を持っているとなると、記憶の消去もできていない可能性が高いぞ!!」
沈黙。
沈黙。
ひたすら沈黙。
やがて。
「えええええええええええええ、どうすんのよ、それ!?」
「私に聞くなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫ぶ2人。
すでに転生した以上、神にも手出しできる方法は限られる。
……というよりも、カルディや私のような下級神には手出しする方法は無いといっていい。
「や、やばいよね……これ……あたし、減俸?」
「そんなものではすまん。まず間違いなくクビだな」
「そ、そんなぁぁぁぁ。ゆ、許してください……悪気はなかったんですぅ」
泣き顔のカルディだが、泣きたいのはこっちだ。
「私に許す権限なんぞないわっ!! というか、私や部長も含めてクビになりかねん」
「そ、そんなぁ……」
上司は部下の責任をとるためにいる。
係長である私や部長もおそらく責任をとらされる。
――なんでこの娘のために私が……
コネだけで部長になったあの男に必死に媚びを売って、ようやく100年前に係長に昇進したというのに……
――こんな、こんなことで……
――理不尽だ。
――理不尽すぎる。
……
…………
………………
私は黙ってキニルを操作し始めた。
「何をしているの?」
「なかったことにする」
「それって、隠蔽工さ……」
「お前に言われる筋合いはないっ!!!」
こうして私も、『神文書偽造』というまごうことなく神法に違反する行為に手を染めたのだった。
(係長バスティーニ 一人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私はキニトの小さな画面に表示される部下からの報告書をチェックしていた。
キニトとは200年前から神々の業務に使われるようになったアイテムである。
私に言わせれば紙の資料の方がよっぽど使いやすいのだが、時代の流れには逆らえない。
まったく、迷惑な話だ。
上司は理不尽に厳しい部長、部下は使えないことこの上ない。その間に立つ係長という中間管理職はつらい。
と、1つの報告書に目をとめる。
魂の転生に関するデータだ。
(11歳の子どもを転生?)
本来、転生は産まれて1年以内に死んだものにのみ許される。
11歳の子どもを転生など異例中の異例だ。
部下の書いた補足文を読む。
『産まれて数日で死ぬはずであったが、医療が中途半端に発達している世界であったため、11歳まで生存した。しかしながら、病室からほとんど出ることができず一生を終えたため(神法12条2項)』
……言いたいことは理解できないではないが、『しかしながら~ため』と繋げるのは、微妙に文法がおかしくないか?
記入したのは……あ、やっぱりカルディか……あのコギャル娘め……
それにしても神法12条2項とはいくらなんでも……
カルディは神免許を取得してまだ20年という若い神だ。
若いだけならともかく、やることなすこと常識外。
なぜ私があの娘の世話をせにゃならないのか……
何かを呪いたい気分だが、残念ながら神を呪うことはできない。何しろ私も神だ。
ええーい、とにかく呼び出しだ。
私はキニトを通話モードにしてカルディを呼び出す。
しばしして……
「はぁい、こちらカルちゃんだよー。バスさん何か用?」
私の名前はバスティーニ。
部長にならともかく、部下に名前を省略されるいわれはない。
というか、敬語くらい覚えろ。
……といったようなことが頭に渦巻き、瞬間言葉が出てこない。
「あんれー、返事が聞こえないよー。電波悪いかなぁ?」
私がすぐに返事をしないとみるやそんなことを言い出した。
キニトの外見は確かに下界の通信機器に近い形状だが、神のアイテムが電波を使っているわけがないだろうに。
……まあ、それはともかく。
「すぐ、私の部屋に来い」
私は冷たい声で言う。
「うわ、バルさんなんか、オコ中?」
「お、オコ中?」
何語だ、それは?
「とにかく、今すぐ来い」
「はいはーい、わかったわよー」
しばしして、カルディが私の部屋に……やってこなかった。
――あ、あの娘ぇぇぇぇ!!
私はもう1度キニトでカルディを呼び出す。
「はいはいー、こちら……」
「いつになったら来るんだ、この馬鹿娘!!」
私はキニトに向かって怒鳴った。
「うわぁ、ひどい、バルさん、パワハラっ!!」
「誰がパワハラだ、そんな台詞はまともに仕事をしてからいえ!! これだから最近の若い者は……」
「ありゃぁ、『最近の若い者』だって。ジジくさい台詞ナンバーワンじゃん」
この娘が部下になってから1つ分かったことがある。
それは、怒りとは頂点を通り越すと強烈な疲労感に変わるということだ。
「で、なんで来ないんだ?」
「メンゴメンゴ、ちょっとお化粧を直していて……」
「……神は姿自由自在だろうが、なぜ化粧をする必要がある?」
「えー、それは女子のこだわり……みたいな?」
「いいから、15秒以内に来い。来なければ減俸だ」
「そ、そんなぁ、いまちょっとマスカラを……」
「10、9、8……」
「わ、ヒドイ、15秒っていったのに10秒から数え始めたよっ!!」
「……5、4……」
「ま、まって……」
1までカウントしたとき、私の目の前にカルディが現れた。
腐っても神なので、彼女も瞬間移動はできるのだ。
「いきなり部屋の中に現れるな、まず扉をノックしろっ!!」
「だって、バルさんがすぐに来いって……」
頬を膨らませるカルディ。
それにしても、この娘の格好はどうだろう。
神に制服などはない。が、それにしても下界の学校のセーラー服姿、しかも化粧やピアスをつけているなど、完全に不良娘だ。
ちなみに、私は伝統的な白い法衣をまとっている。肩口の青のストライプが密かなおしゃれポイントである。
「いろいろ言いたいことはあるが、まあいい。呼び出したのはこの報告書についてだ」
私は先ほどの転生に関する報告書を見せた。
「えーっと、あ、ゆータンの転生ね。それがどうかした?」
「説明文の文法がおかしいだろ」
「……そうかしら? 結構がんばって書いたんだけど……」
ため息が出そうになる。
どうやら、本当にわからないらしい。
しかたがない、こんなこともあろうかと例文は作っておいた。
私はその例文をカルディに見せる。
『多くの世界ならば産まれて数日で死亡する魂であった。しかし医療が発展した世界であったため11歳まで病院から1度も出ることなく治療を受けて生存した。【神法12条2項】に基づき特例として記憶を消した上で転生させることとする』
「おおっ!!」
「わかったか? 文章はちゃんと書け」
「……で、私のと何が違うの? 言っていること同じじゃん」
……神が神を殴ってはいけないとする神法32条が憎い。
「ま、いいや、じゃあ報告書にはそう書いておいてよ」
面倒くさいといわんばかりにいうカルディ。
こ、この娘は……
自分で書き直せっ!!
……と言いかけて、どうせ書き直させたらまた変な文章になるのだろうなと思い直す。
そうしたら、また私の疲労が増えるだけだ。
「わかった、今回に限り処理しておく」
怒りと疲労の割合が、2対8くらいになってきた。
まあ、事務処理についてはしかたがない。
だが、もう1つ問いたださねばならないことがある。
「カルディ、もう1つ聞きたいことがある」
「なーに?」
「なぜこの少年を転生させた?」
「報告した通りよ」
素っ気なく応じるカルディ。
確かに神法12条2項には『1歳未満で死ぬべきであった人間の魂が、外的要因などにより本来よりも長く生きたケースにおいては、担当神の判断で記憶を消去した上で転生させてもよい』と書かれている。
今回のケースならば、そう強弁できなくはない。
できなくはないが……
「神法12条2項は有名無実化した規定だ。実行された例はほとんどない」
そう、1年以上生存した人間の魂を転生させる神などいないのだ。
神法を最初に作ったのはすべての神の創造主とされる。
神の創造主がどのような存在なのか、私のような末端の神には想像もできない。
神法12条は魂の転生に関する記述で、1項には『1年未満で死んだ人間の魂は転生させなければならない』と書かれている。
こちらは現在ではほとんど自動的に転生するシステムが作られており、神が手を煩わせる必要もない。
一方12条2項には先に述べたとおり、『1歳未満で死ぬべきであった人間の魂が、外的要因などにより本来よりも長く生きたケースにおいては、担当神の判断で記憶を消去した上で転生させてもよい』と定められている。
だが、『させてもよい』とうことは『させなくてもよい』ということである。
12条2項にもとづいて魂を転生させた例などほとんどない。
500年ほど前に酔狂な神がこの規定を使用したらしいが、それも1年と2ヶ月で死んだ子どもの魂だ。
11歳の子どもの魂を転生させるなど前代未聞である。
「有名無実化してようとなんだろうと、神法は神法よ」
カルディはフンと鼻を鳴らせた。
「確かにその通りだ。だが、現実に11歳まで生きた少年を、1年で死ぬはずだったというのはかなり強引な論法とみなされてもしかたがないとは思わないか?」
「医療が発達していない世界で産まれていたら1年未満で死んでいたわよ」
「神法学者の間では、12条2項の規定の解釈は『その世界において死ぬはずだった』とするのが一般的だ」
「……ぅ……で、でも、あの世界だって他の国だったら……」
「確かに発展途上国ならばそうかもしれん。しかし現実に11年生きたという事実は重い」
「……」
カルディはそっぽを向く。
――まったく……
「なぁ、カルディ、おまえよく12条2項なんて知っていたな」
「私だって神よ。免許取得のために勉強くらいしたわ」
「……この前、神なら誰でも知っている規定を知らなかっただろうが」
「うるさいわねっ!!」
私はため息をつく。
「おまえ、この子どもを助けるために必死に神法を調べたな」
「な、なんのことよ?」
神が下界に手出しできる手段は限られている。
そして、死者の魂に対して行えることも多くはない。
彼女の立場でこの子どもの魂を救済するなら他に方法はないだろう。
おそらく必死に神法を調べ、強引な解釈をしてでも転生させたのだろう。
「お前はやさしすぎるな」
私がカルディを放り出せない理由はこれだ。
敬語も使えない娘だが、性根の部分ではやさしい。
やさしすぎる。
「わ、私は別に……」
「カルディ、不幸な人生を送る人間はいくらでもいる。幼くして戦乱で死亡する子どもも、病気で死ぬ子どもも、事故で死ぬ子どもも」
「だって、ゆータンは……」
「わかっている。あの子の履歴は私も見た。確かに不幸な人生だったと思う。だが、そういう子どもは世の中にいくらでもいる。神とはいえすべてを救済することは不可能だし、神だからこそ人間にむやみに救済を与えてはならない」
「……でもっ、だって……」
カルディは目に涙を浮かべる。
それは彼女のやさしさが流させる涙だ。
だが、人間のために涙すること自体、神としては失格である。
「まあ、今回はすんだことだ。これ以上は言うまい」
私はそういって話を打ち切った。
私の書いた説明文で報告書を上書きし、最終のチェックをする。
……え?
…………これは……
「おい、カルディ、お前この子の魂のステータスを弄らなかったか?」
「え、えーっと、ほら、また病気だとかわいそうと思ったから、常人の200%の体力と魔力を与えてみたんだけど……」
それ自体大問題だが、それだけではすまない。
「2年前、ステータス表示の変更について通知があったよな?」
「……あったけ?」
「あったのだ。そして、パーセント表示をやめて倍率表示になった」
「……そ、それがどうしたの?」
顔中に冷や汗をかいているあたり、どうやら本人も気づいているらしい。
「お前、200%と設定したつもりで200倍と設定しただろう!?」
「ははは、まあ、そういう事実もあったかもしれないけれども、ないかもしれないわけで、きっとどうにかなるみたいな?」
――何語だ、本当に。
「しかも、200倍もの潜在魔力を持っているとなると、記憶の消去もできていない可能性が高いぞ!!」
沈黙。
沈黙。
ひたすら沈黙。
やがて。
「えええええええええええええ、どうすんのよ、それ!?」
「私に聞くなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫ぶ2人。
すでに転生した以上、神にも手出しできる方法は限られる。
……というよりも、カルディや私のような下級神には手出しする方法は無いといっていい。
「や、やばいよね……これ……あたし、減俸?」
「そんなものではすまん。まず間違いなくクビだな」
「そ、そんなぁぁぁぁ。ゆ、許してください……悪気はなかったんですぅ」
泣き顔のカルディだが、泣きたいのはこっちだ。
「私に許す権限なんぞないわっ!! というか、私や部長も含めてクビになりかねん」
「そ、そんなぁ……」
上司は部下の責任をとるためにいる。
係長である私や部長もおそらく責任をとらされる。
――なんでこの娘のために私が……
コネだけで部長になったあの男に必死に媚びを売って、ようやく100年前に係長に昇進したというのに……
――こんな、こんなことで……
――理不尽だ。
――理不尽すぎる。
……
…………
………………
私は黙ってキニルを操作し始めた。
「何をしているの?」
「なかったことにする」
「それって、隠蔽工さ……」
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24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
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