神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ  第二章 エルフの里で

3.君の憎しみは

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 惨劇が繰り広げられていた。
 エルフの里に何十匹もの『闇の獣』がばつする。
 さらに、上空からは人型の『闇』が見下ろしている。

『闇の獣』の牙によって、幼きエルフの子どもの鮮血が飛ぶ。
 赤子を抱いた女性が悲鳴を上げて逃げ惑う。
 男達が弓矢で必死に抵抗を試みるも、矢は無情にも『闇の獣』をすり抜ける。

 ――パニック状態だ。
 ダメだ、普通の攻撃では『闇』や『闇の獣』には通じない。

「アル様、リラっ!!」

 僕の漆黒の刃や、アル様の大剣、リラの浄化の炎で戦うしかない。
 あるいは、エルフも浄化の力を使えるかもしれない。それならば、まずは実戦してみせれば……

 だが、戦場に飛び込もうとした僕を、アル様が止める。

「待て、パド」
「何ですか、このままじゃ」
「闇雲に飛び込んでどうする!? まずは相手の数と目的を把握するんだ」

 ――そんなこと言っている場合か。

 思わずそう反論しかけた僕に、レイクさんが冷静に言う。

「パドくん、落ち着いて。アラブシ先生に何を習ったんですか。まずはパニック状態を抑えないと」

 お師匠様の名前を出されて、僕の頭が冷える。

 そうだ。
 こんな時こそ冷静にならないと。

 ――どうする?
 ――どう動くのが最善だ?

 今1番の問題は――

「アル様、レイクさんといっしょにおさのところへ。状況の説明をお願いします。
 リラ、僕と一緒に来て。少しでも犠牲を減らそう」

 まずは、おさに『闇』について伝えてもらう。
 もし、浄化の力をもつエルフがいるならば協力してもらいたいし、そうでなくてもエルフ達を統率できるのはおさだけだ。
 その間はリラの浄化の炎と僕の力で犠牲を減らす。ただし、リラは浄化の炎は使えても直接戦闘はできない。だから、リラの身は僕が護る。

 犠牲0にはできないだろうけど、おそらくこれが最善手だ。

「いいだろう。いくぞ、レイク」

 アル様はレイクさんの首根っこを掴んで駆け出した。

「リラ、僕におぶさって」
「え?」
「それが1番護りやすい。できるだけ浄化の炎で『闇の獣』を倒そう」
「わかった」

 僕はリラをおんぶして、戦場に飛び出した。

 ---------------

 ――くそ、数が多すぎる。

『闇の獣』の数が多い。
 リラの浄化の炎の力で、すでに十匹以上消しているが、それでも全然減った感じがしない。
 数十匹どころか、数百匹はいるんじゃないか!?

「皆さん、落ち着いてください。コイツらには浄化の力が有効です。浄化の魔法とかが使える人がいたら手伝ってください」

 戦場を駆け巡って『闇の獣』を倒しながら、僕は叫び続けた。

 リラの活躍を見て、エルフ達も少し冷静さを取り戻したようだ。
 しかし、対抗手段が分からないことに変わりはない様子。

「おい」

 エルフの男が僕に声をかける。
 弓矢とレイピアを装備している辺り、エルフの戦士といったところか。
 よく見てみると、彼の周囲にも戦士達がいて、彼はその隊長のような存在らしい。

「ヤツラには通常攻撃が効かないのか?」
「はい。ゴーストのように、浄化の力でないと効果がありません。ですが、敵の攻撃はこちらに当たります」
「理不尽な。しかし、そうなると我々には何もできんな」
「エルフは浄化の力を持たないんですか?」
「エルフの魔力は植物を操る方向に長けている。浄化のみならず、戦闘用の魔法はほとんど使えない」

 そういうことか。
 どうやら、覚悟を決めるしかないようである。

「わかりました。ではヤツラの相手は僕らに任せてください。皆さんは避難誘導を」
「了解した」

 エルフの戦士達は、避難指示を伝えるためほうぼうに分かれていく。
 その間も、『闇の獣』は僕らに向かってくる。

「リラっ!!」
「分かってる」

 リラが浄化の炎を吐く。
 漆黒の刃はできるだけ使いたくない。
 ルシフの魔法だからというだけじゃない。あれは持続時間が短すぎる。上空にはまだ人型の『闇』がいるのだ。

 リラの炎をかいくぐって襲い来る『闇の獣』

 僕はチートを調整しつつ上空へ飛び上がる。
 ラクルス村の時みたいに大きなクレーターを作らないよう気をつけて。
 跳び上がったのは上空3メートル程度。

 ――くそっ、今どういう状態なんだ!?

 戦場が広がりすぎている。
 エルフの里はそもそもラクルス村の数倍の広さがある。
 木々や家があるため、見通しも悪い。
 そのあらゆるところから悲鳴が聞こえる。

 ――一体、どこから手をつけたらいいんだ!?

 瞬間迷う僕に、リラが警告の声を上げる。

「パド、上っ!!」

 言われハッとなったときにはもう遅い。
 人型の『闇』から伸びた指が、僕に迫る。

 しまった。
 上空にコイツがいるのに、跳び上がったのはかつだった。
 僕とリラは『闇』の指になぎ払われ、吹き飛ばされた。

 ---------------

 地面に落下し、一瞬頭がくらっとなる。

「くぅ」

 だが、今は横になっている場合じゃない。
 僕は立ち上がり、周囲を見回す。

 ――リラは!?
 よかった、すぐ近くで立ち上がっている。大きな怪我もしてない様子だ。

 ――付近に『闇の獣』は!?
 いない。

 その代わりに、倒れたエルフとそれに寄り添う子どもがいた。

「お母さん、しっかりしてよぉ」

 そう言って血まみれのエルフにしがみついているのは、バラヌだった。

「バラヌ」

 僕は叫ぶ。

「あなた……さっきの人族の……」

 あ、やっぱりお兄ちゃんとは呼んでくれないか。
 まあ、そりゃあそうだよね。

「ねえ、お母さんを助けて……」

 バラヌはそう言って僕に泣きすがる。
 倒れた女性はミラーヌ。お腹から血を流している。
 その顔にはすでに生気がなかった。

 リラがミラーヌに駆け寄る。

 ――そして。

 リラは静かに首を横に振った。

「私にはどうにもできないわ」
「そんな、回復魔法で……」

 泣き叫ぶバラヌ。

「私やパドには使えないわ」

 レイクさんなら、あるいはどうにかできるかもしれない。
 だけど、もう間に合わない。
 ミラーヌの命はすでに風前のともしだ。

「なんでだよ、なんで僕みたいな魔無子まなこをかばうんだよっ!!」

 ミラーヌはバラヌをかばってこうなったのか。

 だとしたら彼女を傷付けた『闇の獣』はどこに!?
 いや、というよりも、この傷は――

 僕がそこまで考えたときだった。

 人型の『闇』が僕らの目の前に降り立った。

「よくも、よくもお母さんをっ!!」

 バラヌが叫んで『闇』に殴りかかる。

「よせ、バラヌっ!!」

 僕は慌てて彼を抑える。
 あまりにも慌てていたのでチートを入れすぎてしまったのか、バラヌの顔が苦痛に歪む。

「離せよっ。アイツが、アイツがお母さんを刺したんだっ!!」

 どういうことだ?
 ミラーヌは『闇の獣』ではなく、目の前の『闇』に刺されたのか?
 確かに、傷口は獣の牙と言うよりも、もっと細長い、『闇』の指による傷に近かったが。

「リラ、バラヌを頼む」

 僕はリラにバラヌを押しつける。

「離せ、離せよっ」

 リラの腕の中でジタバタするバラヌ。
 母を刺された憎しみに、他が何も見えなくなっている。

 ――かつて、ラクルス村で最初に『闇』と対峙した時の僕と同じように。

 ダメだ。
 その感情を暴走させてはダメだ。
 その暴走の行き着く先を、僕は知っている。

 ――だから。

「バラヌ、君のお母さんのかたきは、僕がとる」

 僕は異母弟おとうとにそう言って、左手首から漆黒の刃を伸ばしたのだった。

「ゆるさないぞ、お前は」

 バラヌの母、ミラーヌのことを、僕は好ましく思っていなかった。
 それは今でも同じだ。

 だけど。
 それでも。

 こいつは異母弟おとうとの母親のかたきだ。
 義母兄あにとして、絶対に許すことができない相手だ。

『闇』は右手の指を直線上に伸ばす。
 5本の指は、細身の剣の姿に変形する。

 ――今までの『闇』と違う?

 いぶかしく思うが、関係ない。
 漆黒の刃で本体ごと斬るだけだ。

 ――だが。

 次の瞬間『闇』の口が開く。

「……パド……」

『闇』の口から、声がした。

「……許さない……」

 冷たい冷たい、ゾッとするような声が。

「……絶対に……」

 だけど。
 この声は……

「……私から、奪った……」

 この声はっ。

「……アルお姉様を……」

 そう言った直後、『闇』が動く。
 同時にリラが叫ぶ。

「リリィ!?」

 そう、『闇』の声はリリィのそれと同じだった。
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