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第三部 エルフと龍族の里へ 第三章 龍と獅子と少年少女達
8.涙の価値
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僕が横に座ると、バラヌが睨みつけてくる。
「なんで、そこに座るんだよ?」
その問いに、僕は一言答える。
「座りたいから」
「はあ?」
何言っているんだコイツみたいな表情のバラヌ。実際、僕も自分で、何言っているんだって思うしね。
「もう少し言うと、バラヌと話がしたかったからかな」
「僕は別に、あんたと話なんてないよ」
プイッと顔を背けるバラヌ。
「さっきは『お兄ちゃん』って言ってくれたのに」
苦笑する僕に、バラヌは何やら慌てた様子。
「あれはっ。とっさだったし」
「いや、いいよ。実際、いきなり兄だなんて言っても実感わかないだろうしさ。僕もまさかこんなところで弟に出会うなんて、戸惑いの方が大きいし」
「だったら、ほっといてくれよ」
母親を亡くしたばかりの異母弟はそう言って、僕を邪険にした。
「でも、バラヌとはまだ話ができるから」
「だから、話なんて……」
「死んだ僕のお師匠様や、バラヌのお母さんとはもう話はできないけど、僕と君とは話ができる」
人が死ぬっていうのは、二度と話ができなくなるってことだ。
お師匠様とはもうと話ができない。
ミラーヌさんとだって、僕はもっと話をするべきだった。
それだけじゃない。
前世の家族ともだ。
今思えば、病気で直接会えなかったとしても、手紙を書いて看護婦さんに託すくらいはできたじゃないか。手紙じゃなくて伝言をお願いすることだってできた。
お父さんにも、お母さんにも、稔にも、僕は話しかけることができたんだ。
それなのに、僕はそんなこと一切しなかった。
お父さんやお母さんに『生んでくれてありがとう』とも『迷惑をかけてごめんね』とも言わなかった。
稔にも何もしてあげられなかった。
この世界に転生してからも、お母さんにもっと話しかけることはできたはずだ。
11年間、病院のベッドで寝ているだけだった桜勇太も。
7年間、お母さんの心を開けなかったパドも。
どっちも大馬鹿なんだ。
死んだらもう二度と会話なんてできない。
僕は、前世の両親や弟と会話する機会を失った。
でも、今目の前にいるバラヌとは話をすることができる。
なら、それを大切にしたい。
そう思う僕に、バラヌが言う。
「あんたに、僕の何が分かるのさ?」
「君が泣きたがっていることくらいは分かるよ」
僕の言葉に、バラヌが目を見開く。
そして。
「僕は泣きたくなんて……」
「いいんだよ、泣いて。お母さんが死んで、悲しくない子どもなんていない。そうだろう?」
僕はそう言って、バラヌを優しく抱擁する。
人とふれあえるくらいには力を制御できるようになっていてよかったと思いながら。
「やめろよ」
バラヌは僕の手を振り払おうとする。
が。
「大丈夫、誰にも言わないから。今なら泣いていいから」
僕はバラヌの背をさする。
彼は本当は泣きたいんだ。
それをずっと耐えている。
まだ5歳なのに。
前世の記憶があるわけでもない、生まれて5年しか経っていない小さな心を張り詰めている。
「僕は……」
「大丈夫、バラヌ。僕が全部受け止める。これでもお兄ちゃんだからね」
ふと思う。
僕はバラヌを稔の代替えにでもしているんだろうか?
前世で弟に何もできなかった償いを、彼にしようとしているだけなんだろうか?
違うとは言い切れない。
それでも、バラヌの気持ちを少しでも穏やかにしてあげたいと思ったのは事実だ。
「僕は……お母さんを……助けられなくて……僕みたいな魔無子を、お母さんはかばって、なんで……」
僕の腕の中で、バラヌが嗚咽しだした。
僕は黙って抱きしめ続ける。
「僕は、いらない子なのに。生まれちゃいけない子だったのに……」
『生まれちゃいけない子』か。
僕の中に様々なことが思い浮かぶ。
禁忌の子と呼ばれ、全てを恨んでいたリラ。
国王の血を引きながら、この世界の最下層に落とされたアル様。
――そして。
前世の記憶とチートのせいで、村と家族を壊してしまった僕。
アル様はわからないけど、リラも僕も、自分は『生まれちゃいけない子』だったんじゃないかって何度も考えた。
自暴自棄になってしまった方が楽だったから。
でも、それじゃあダメなんだ。
自分を否定してはいけない。
それは、自分を大切に思ってくれた人達のことを否定するってことだから。
そのことをお師匠様が命がけで教えてくれたから。
『まだそんなことを言っているのか、この馬鹿弟子ども!!
お前達の命はね、ご両親が、友達が、そしてこのアラブシ・カ・ミランテが命を賭けて護ったものなんだっ!! お前達だけのもんじゃないんだ!!』
僕は、両親やジラ達やお師匠様を否定しない。だから、僕のことも否定しない。
今度は、僕がバラヌに教えなくちゃいけない。
君の命には、価値があるんだよと。
どう話せばいいか分からないけど。
一生かけてでも、僕は君にそれを教えなくちゃいけない。
だって、僕は君のお兄ちゃんだもの。
僕の幸せになりたいという目標には、君の幸せも入っているんだから。
だから、今は、僕の中でたっぷり泣いて。
泣いて、泣いて、自分の気持ちを全部吐き出して。
「みんな、僕のことは、いらない子だって、駄目なヤツだって。お母さんだってそう言っていた。なのに、なんで……なんで、僕をかばうんだよ」
それはね、バラヌ。
ミラーヌさんが君のお母さんだからだよ。
「僕は、どうしたらいいの? どうしたら、いいんだよぉ……」
バラヌは嘆きながらすがりついてくる。
僕には答える言葉がない。
自分自身、これからどうしたらいいかまだまだ迷い中なのだ。
だから、代わりの言葉を君にあげる。
「バラヌ、僕は君がいてくれてよかった。ずっと、弟がほしかったから」
「でも、でもぉっ……」
うん、分かっている。
こんな言葉ですぐに立ち直れるほど、君の心の傷は浅くない。
だから、僕はバラヌを抱きしめる。
万の言葉よりも、そのことが君にとって救いだと思うから。
嗚咽を続けたバラヌは、やがて僕の腕の中で静かな寝息を立て始めた。
そういえば、もうそろそろ夜だ。
異母弟との出会い、リリィが変異した『闇』との戦い、龍族との会談、色々あった1日は、こうして静かに更けていったのだった。
「なんで、そこに座るんだよ?」
その問いに、僕は一言答える。
「座りたいから」
「はあ?」
何言っているんだコイツみたいな表情のバラヌ。実際、僕も自分で、何言っているんだって思うしね。
「もう少し言うと、バラヌと話がしたかったからかな」
「僕は別に、あんたと話なんてないよ」
プイッと顔を背けるバラヌ。
「さっきは『お兄ちゃん』って言ってくれたのに」
苦笑する僕に、バラヌは何やら慌てた様子。
「あれはっ。とっさだったし」
「いや、いいよ。実際、いきなり兄だなんて言っても実感わかないだろうしさ。僕もまさかこんなところで弟に出会うなんて、戸惑いの方が大きいし」
「だったら、ほっといてくれよ」
母親を亡くしたばかりの異母弟はそう言って、僕を邪険にした。
「でも、バラヌとはまだ話ができるから」
「だから、話なんて……」
「死んだ僕のお師匠様や、バラヌのお母さんとはもう話はできないけど、僕と君とは話ができる」
人が死ぬっていうのは、二度と話ができなくなるってことだ。
お師匠様とはもうと話ができない。
ミラーヌさんとだって、僕はもっと話をするべきだった。
それだけじゃない。
前世の家族ともだ。
今思えば、病気で直接会えなかったとしても、手紙を書いて看護婦さんに託すくらいはできたじゃないか。手紙じゃなくて伝言をお願いすることだってできた。
お父さんにも、お母さんにも、稔にも、僕は話しかけることができたんだ。
それなのに、僕はそんなこと一切しなかった。
お父さんやお母さんに『生んでくれてありがとう』とも『迷惑をかけてごめんね』とも言わなかった。
稔にも何もしてあげられなかった。
この世界に転生してからも、お母さんにもっと話しかけることはできたはずだ。
11年間、病院のベッドで寝ているだけだった桜勇太も。
7年間、お母さんの心を開けなかったパドも。
どっちも大馬鹿なんだ。
死んだらもう二度と会話なんてできない。
僕は、前世の両親や弟と会話する機会を失った。
でも、今目の前にいるバラヌとは話をすることができる。
なら、それを大切にしたい。
そう思う僕に、バラヌが言う。
「あんたに、僕の何が分かるのさ?」
「君が泣きたがっていることくらいは分かるよ」
僕の言葉に、バラヌが目を見開く。
そして。
「僕は泣きたくなんて……」
「いいんだよ、泣いて。お母さんが死んで、悲しくない子どもなんていない。そうだろう?」
僕はそう言って、バラヌを優しく抱擁する。
人とふれあえるくらいには力を制御できるようになっていてよかったと思いながら。
「やめろよ」
バラヌは僕の手を振り払おうとする。
が。
「大丈夫、誰にも言わないから。今なら泣いていいから」
僕はバラヌの背をさする。
彼は本当は泣きたいんだ。
それをずっと耐えている。
まだ5歳なのに。
前世の記憶があるわけでもない、生まれて5年しか経っていない小さな心を張り詰めている。
「僕は……」
「大丈夫、バラヌ。僕が全部受け止める。これでもお兄ちゃんだからね」
ふと思う。
僕はバラヌを稔の代替えにでもしているんだろうか?
前世で弟に何もできなかった償いを、彼にしようとしているだけなんだろうか?
違うとは言い切れない。
それでも、バラヌの気持ちを少しでも穏やかにしてあげたいと思ったのは事実だ。
「僕は……お母さんを……助けられなくて……僕みたいな魔無子を、お母さんはかばって、なんで……」
僕の腕の中で、バラヌが嗚咽しだした。
僕は黙って抱きしめ続ける。
「僕は、いらない子なのに。生まれちゃいけない子だったのに……」
『生まれちゃいけない子』か。
僕の中に様々なことが思い浮かぶ。
禁忌の子と呼ばれ、全てを恨んでいたリラ。
国王の血を引きながら、この世界の最下層に落とされたアル様。
――そして。
前世の記憶とチートのせいで、村と家族を壊してしまった僕。
アル様はわからないけど、リラも僕も、自分は『生まれちゃいけない子』だったんじゃないかって何度も考えた。
自暴自棄になってしまった方が楽だったから。
でも、それじゃあダメなんだ。
自分を否定してはいけない。
それは、自分を大切に思ってくれた人達のことを否定するってことだから。
そのことをお師匠様が命がけで教えてくれたから。
『まだそんなことを言っているのか、この馬鹿弟子ども!!
お前達の命はね、ご両親が、友達が、そしてこのアラブシ・カ・ミランテが命を賭けて護ったものなんだっ!! お前達だけのもんじゃないんだ!!』
僕は、両親やジラ達やお師匠様を否定しない。だから、僕のことも否定しない。
今度は、僕がバラヌに教えなくちゃいけない。
君の命には、価値があるんだよと。
どう話せばいいか分からないけど。
一生かけてでも、僕は君にそれを教えなくちゃいけない。
だって、僕は君のお兄ちゃんだもの。
僕の幸せになりたいという目標には、君の幸せも入っているんだから。
だから、今は、僕の中でたっぷり泣いて。
泣いて、泣いて、自分の気持ちを全部吐き出して。
「みんな、僕のことは、いらない子だって、駄目なヤツだって。お母さんだってそう言っていた。なのに、なんで……なんで、僕をかばうんだよ」
それはね、バラヌ。
ミラーヌさんが君のお母さんだからだよ。
「僕は、どうしたらいいの? どうしたら、いいんだよぉ……」
バラヌは嘆きながらすがりついてくる。
僕には答える言葉がない。
自分自身、これからどうしたらいいかまだまだ迷い中なのだ。
だから、代わりの言葉を君にあげる。
「バラヌ、僕は君がいてくれてよかった。ずっと、弟がほしかったから」
「でも、でもぉっ……」
うん、分かっている。
こんな言葉ですぐに立ち直れるほど、君の心の傷は浅くない。
だから、僕はバラヌを抱きしめる。
万の言葉よりも、そのことが君にとって救いだと思うから。
嗚咽を続けたバラヌは、やがて僕の腕の中で静かな寝息を立て始めた。
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