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第三部 エルフと龍族の里へ 第三章 龍と獅子と少年少女達
10.とてもシンプルなこと
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ルアレさんに連れられて部屋に入ってきたキラーリアさん。
どうやら砂漠の案内人も、結界を破る方法もなしに1人でエインゼルの森林までやってきて途方に暮れているところを、エルフ達が発見。ルアレさんが招き入れたらしい。
「おお、キラーリア、どうしたんだ慌てて」
「大変なんです、アル様。リリィが突然『闇』に変わって、ダルトを刺し殺してどこかに飛んでいって、私は何もできずに……」
どうやら、リリィはキラーリアさんとダルトさんの目の前で『闇』に染まったらしい。実際にはルシフとの会話があったはずだが、時間の経過がなければキラーリアさん視点では『突然』となるのだろう。
それにしてもやっぱり、リリィはダルトさんを殺していたのか。キラーリアさんには何もしなかったのは、ルシフがそう命じなかったからか?
「一体、私はどうしたらいいのか……」
いや、キラーリアさん、1人盛り上がっているのはいいんだけどさぁ。なんというか、今さらというか……
アル様がキラーリアさんをなだめる。
「キラーリア、その件ならすでに対処済だ」
「は?」
首をかしげるキラーリアさんに、アル様が一昨日の出来事を語る。
キラーリアさんの顔に様々な表情が浮かんでは消えていく。憤りもあったし、悲しみもあったようだ。
だが最後には、僕になんともいえない顔を向けた。
「パド、すまない。君に辛いことをさせてしまった」
キラーリアさんはそういって、僕に頭を下げた。
公爵の血を引き、騎士という立場にありながら平民の僕にこうして頭を下げてくれるキラーリアさんは、きっととても純粋なのだろう。
「いえ、キラーリアさんのせいじゃありません」
今でもリリィのなれの果てを――知り合いの人間を殺したという、嫌な感触はある。
でも、それは終わったことだ。
「リリィとダルトのことを悼むのはあとにしましょう。今はこれからのことです」
レイクさんはそう言って、キラーリアさんに改めて先ほどの説明を始めたのだった。
---------------
説明を聞き終え、キラーリアさんの顔に緊張が浮かぶ。
「ついに王都に戻るのですね」
レイクさんが頷く。
「ええ。これ以上王都を空けておく訳にはいきません。それにダルトの両親にも報告は必要でしょう」
「そうですか。そうですね……よしっ!」
キラーリアさんはグッと両手を握りしめた。
「私が命に代えてもアル様をお護りします」
王都に行けば王位継承権を巡って争うことになる。
きっと、大変な戦いだ。たぶん、獣人や『闇』との殺し合いよりもずっと複雑で、難しい争いになるだろう。
それでも、キラーリアさんはアル様を護ると断言した。
「もちろん、レイクやパドやリラのことも護る。わたしにはそれしかできないからな」
断言するキラーリアさん。
いや、ちょっと待って。僕の悩みは無視ですか?
「いや、そのことなんですけど、僕も王都に行くと決めたわけじゃ……」
「は? 何を言っているんだ君は? アル様を女王にしてお母さんの呪いを解くことが君の目的だったんじゃないのか?」
いや、それはそうなんだけどね。
あーそうか、キラーリアさんにはバラヌが僕の異母弟で、母親を殺された上にエルフ族からつまはじきにされているって説明していなかったっけ。
僕は軽くそのことを説明する。
「うむ。つまり、君は王都に弟を連れて行ってもいいか迷っているわけか? 心配するな、その子のことも私がちゃんと護る」
いや、そんなあっさり言われましても。
「そもそも砂漠を越えて大陸の北までの旅なんて、5歳児にさせていいものかどうかって問題もあるわけで。それに本人の意思も……」
僕が色々言いつのると、キラーリアさんは『なるほど』と頷く。
「だ、そうだがバラヌ、君はどうしたいんだ?」
いや、だから、キラーリアさん。あなた、言動があっさりしすぎだって。
5歳児にそんなことを決められるわけないだろうに……と、そう思ったのだが。
「僕はお兄ちゃんと一緒に行きたい」
え、マジ?
こっちも随分とあっさり。
っていうか、『お兄ちゃん』って呼んでくれた!?
「いや、だけどバラヌ、分かっているの? 5日間……いや、バラヌの足だったたぶん10日間くらいは砂漠を歩くんだよ。しかもその後も……」
慌てて言う僕に、アル様が言葉を挟む。
「あー、パド、そのことなら心配いらないぞ。龍族の長の息子が、我々を乗せて飛んでくれるそうだ」
――は?
あ、そうか、ドラゴン形態で飛ぶ龍族に乗っていけば砂漠も大陸もひとっ飛びなのか?
「いや、でも、だって……」
僕はなおも何か言おうとするが、言葉が出てこない。
そんな僕の頭を、リラがコツンと叩く。
「パド、あんた難しく考えすぎよ。もっとシンプルに考えなさい」
「シンプルに?」
「パドのやりたいことはなに?」
――僕のやりたいこと。
決まっている。
「お母さんを助けたい。バラヌもリラも助けたい」
言葉に出したら、とてもシンプルなことだった。
心を失ったお母さんを助け、お母さんを失ったバラヌを助け、居場所を失ったリラを助ける。
その為にぼくはできることをしたい。
それは、アル様の王位即位を手伝うことだ。
5種族の会談もいいじゃないか。禁忌と言われたリラも、魔力が無くて役立たずだと言われたバラヌも、それで救われるかもしれない。
その先に、僕の――僕らの幸せがあるなら。
僕がやりたいことも、やるべきことも決まっている。
だから、僕はみんなに向き直って言った。
「アル様。迷ってすみません。僕とバラヌとリラも王都に一緒に連れて行ってください」
僕が深々と頭を下げると、アル様はやがて苦笑して頷いてくれた。
こうして、僕、リラ、バラヌ、アル様、レイクさん、キラーリアさん、ルアレさん、それに龍族の長の息子は王都に向かって飛び立つことになったのだった。
どうやら砂漠の案内人も、結界を破る方法もなしに1人でエインゼルの森林までやってきて途方に暮れているところを、エルフ達が発見。ルアレさんが招き入れたらしい。
「おお、キラーリア、どうしたんだ慌てて」
「大変なんです、アル様。リリィが突然『闇』に変わって、ダルトを刺し殺してどこかに飛んでいって、私は何もできずに……」
どうやら、リリィはキラーリアさんとダルトさんの目の前で『闇』に染まったらしい。実際にはルシフとの会話があったはずだが、時間の経過がなければキラーリアさん視点では『突然』となるのだろう。
それにしてもやっぱり、リリィはダルトさんを殺していたのか。キラーリアさんには何もしなかったのは、ルシフがそう命じなかったからか?
「一体、私はどうしたらいいのか……」
いや、キラーリアさん、1人盛り上がっているのはいいんだけどさぁ。なんというか、今さらというか……
アル様がキラーリアさんをなだめる。
「キラーリア、その件ならすでに対処済だ」
「は?」
首をかしげるキラーリアさんに、アル様が一昨日の出来事を語る。
キラーリアさんの顔に様々な表情が浮かんでは消えていく。憤りもあったし、悲しみもあったようだ。
だが最後には、僕になんともいえない顔を向けた。
「パド、すまない。君に辛いことをさせてしまった」
キラーリアさんはそういって、僕に頭を下げた。
公爵の血を引き、騎士という立場にありながら平民の僕にこうして頭を下げてくれるキラーリアさんは、きっととても純粋なのだろう。
「いえ、キラーリアさんのせいじゃありません」
今でもリリィのなれの果てを――知り合いの人間を殺したという、嫌な感触はある。
でも、それは終わったことだ。
「リリィとダルトのことを悼むのはあとにしましょう。今はこれからのことです」
レイクさんはそう言って、キラーリアさんに改めて先ほどの説明を始めたのだった。
---------------
説明を聞き終え、キラーリアさんの顔に緊張が浮かぶ。
「ついに王都に戻るのですね」
レイクさんが頷く。
「ええ。これ以上王都を空けておく訳にはいきません。それにダルトの両親にも報告は必要でしょう」
「そうですか。そうですね……よしっ!」
キラーリアさんはグッと両手を握りしめた。
「私が命に代えてもアル様をお護りします」
王都に行けば王位継承権を巡って争うことになる。
きっと、大変な戦いだ。たぶん、獣人や『闇』との殺し合いよりもずっと複雑で、難しい争いになるだろう。
それでも、キラーリアさんはアル様を護ると断言した。
「もちろん、レイクやパドやリラのことも護る。わたしにはそれしかできないからな」
断言するキラーリアさん。
いや、ちょっと待って。僕の悩みは無視ですか?
「いや、そのことなんですけど、僕も王都に行くと決めたわけじゃ……」
「は? 何を言っているんだ君は? アル様を女王にしてお母さんの呪いを解くことが君の目的だったんじゃないのか?」
いや、それはそうなんだけどね。
あーそうか、キラーリアさんにはバラヌが僕の異母弟で、母親を殺された上にエルフ族からつまはじきにされているって説明していなかったっけ。
僕は軽くそのことを説明する。
「うむ。つまり、君は王都に弟を連れて行ってもいいか迷っているわけか? 心配するな、その子のことも私がちゃんと護る」
いや、そんなあっさり言われましても。
「そもそも砂漠を越えて大陸の北までの旅なんて、5歳児にさせていいものかどうかって問題もあるわけで。それに本人の意思も……」
僕が色々言いつのると、キラーリアさんは『なるほど』と頷く。
「だ、そうだがバラヌ、君はどうしたいんだ?」
いや、だから、キラーリアさん。あなた、言動があっさりしすぎだって。
5歳児にそんなことを決められるわけないだろうに……と、そう思ったのだが。
「僕はお兄ちゃんと一緒に行きたい」
え、マジ?
こっちも随分とあっさり。
っていうか、『お兄ちゃん』って呼んでくれた!?
「いや、だけどバラヌ、分かっているの? 5日間……いや、バラヌの足だったたぶん10日間くらいは砂漠を歩くんだよ。しかもその後も……」
慌てて言う僕に、アル様が言葉を挟む。
「あー、パド、そのことなら心配いらないぞ。龍族の長の息子が、我々を乗せて飛んでくれるそうだ」
――は?
あ、そうか、ドラゴン形態で飛ぶ龍族に乗っていけば砂漠も大陸もひとっ飛びなのか?
「いや、でも、だって……」
僕はなおも何か言おうとするが、言葉が出てこない。
そんな僕の頭を、リラがコツンと叩く。
「パド、あんた難しく考えすぎよ。もっとシンプルに考えなさい」
「シンプルに?」
「パドのやりたいことはなに?」
――僕のやりたいこと。
決まっている。
「お母さんを助けたい。バラヌもリラも助けたい」
言葉に出したら、とてもシンプルなことだった。
心を失ったお母さんを助け、お母さんを失ったバラヌを助け、居場所を失ったリラを助ける。
その為にぼくはできることをしたい。
それは、アル様の王位即位を手伝うことだ。
5種族の会談もいいじゃないか。禁忌と言われたリラも、魔力が無くて役立たずだと言われたバラヌも、それで救われるかもしれない。
その先に、僕の――僕らの幸せがあるなら。
僕がやりたいことも、やるべきことも決まっている。
だから、僕はみんなに向き直って言った。
「アル様。迷ってすみません。僕とバラヌとリラも王都に一緒に連れて行ってください」
僕が深々と頭を下げると、アル様はやがて苦笑して頷いてくれた。
こうして、僕、リラ、バラヌ、アル様、レイクさん、キラーリアさん、ルアレさん、それに龍族の長の息子は王都に向かって飛び立つことになったのだった。
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