神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
106 / 201
【番外編】教皇と枢機卿

【番外編23】枢機卿の疑問

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(3人称/枢機卿ラミサル視点)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 商業都市アラルバ。
 大陸中央に位置するこの都市は、名義上はテラニス領の一部である。が、一種の治外法権扱いされている場所だ。
 治外法権というと、スラム街のような治安が悪い場所のイメージが浮かぶが、むしろこの街は聖テオデウス王都とならんで大陸一安全な街とも言われている。

 アラブシ・カ・ミランテの小屋を経って1日目。
 教皇スラルス・ミルキアス一行はこの街に滞在していた。

 この街は商人の街。
 王族や貴族の権力や、教会のカリスマ力とはまた違った、『物流』という人々の暮らしに根付いた力によって管理されている街だ。

 街全体の経済規模は王都を越え、商人たちの相互補助による福利厚生も整い、他の街なら少なからず見かけるストリートチルドレンもほとんどいない。
 医療設備も王都と並んで最高峰。経済的にも豊かである。

 教会への信仰心は高くないが、人々に経済的余裕がある街なので教会への寄付金もそれなりに潤っている。
 ゆえに、教皇一行が滞在しているこの街最大の教会は、王都の総本山ほどではないにせよ、かなりの規模であった。

 ---------------

 貸し与えられた部屋に入り、ラミサルと2人きりになると、教皇スラルスは疲れきった様子でソファーに座った。
 いつもならばラミサルと2人きりであってもここまでグタッとした様子は見せない。
 ラミサルの目から見ても、彼に相当な疲労がたまっていることは明らかだった。

「お体は大丈夫ですか?」
「心配はいりません。が、いささか疲れているのも事実ですね」

 無理もない。
 寿命を削るとされる教皇にしか使えない飛行魔法の連続使用。
 王都からラクルス村まで休憩を挟みつつ3日間。その後『闇』との戦いを経て、今度は王都への飛行1日目だ。
 老体の枢機卿にとっては無謀に近い。

 いや、それだけではない。
 予期せぬアル王女との出会いによる心労。睡眠不足による肉体的疲労。キラーリア・ミ・スタンレードに使った回復魔法。
 さらにいえば、この街の教会に着いてからも、現地の教会関係者と堅苦しい挨拶をしなければならなかった。
 さすがに『せっかく教皇猊下においでいただいたのですから、是非とも説法を』という希望はやんわり断ったが。

 パド少年の母親は部屋のすみで心のこもらない笑みを浮かべ続けている。

 現地の教会には『彼女のことは深入り無用』とだけ伝えてある。
 なにしろ、世界の滅亡の可能性を示唆する神託に関わる話である。できる限り情報は機密にしなければならない。

「状況的に致し方がないとはいえ、あまりご無理をされないでください。やはりこの街で数日休息を取りましょう」

 ラミサルはコップに白湯をついで教皇に渡した。

 彼にとって、教皇スラルス・テオデウスは『尊ぶべき教皇』であり、『信頼する上司』であり、『少年時代からの親代わり』でもある。
 今教皇に倒れられたら困るという実務的な問題と同時に、本心からの心遣いでもあった。

「しかし……いえ、そうですね。確かにこれ以上無理をするのは得策ではないでしょう」

 確かに総本山に教皇とラミサルがいない状態が長く続くのは、教会内の政治的勢力バランスや、王家および諸侯連立との関係から考えればあまり好ましくはない。
 しかし、数日単位の誤差であればどうという問題でもないのだ。
 さすがに飛行魔法を使わずに馬車で数ヶ月かけて移動するわけにはいかないが。

「しかし……本当にあれでよかったのでしょうか」

 ラミサルは本題をぼかしつつ問いかける。
 パドをアル王女らに預けた決定。
 天より賜りし神託に逆らうかのごとき所業。

「神託はパドくんの抹殺を示唆していました。ですが、あの場でそれを行うことが適切だったとは思えません」
「確かに、罪もない子どもを殺すというのは私も避けたいです。彼はアラブシ師匠の最後の弟子でもありますし。しかし世界の滅びの可能性と天秤にかけるとなると……」
「ええ、私もそう思ったからこそ、飛行魔法を使ってまで大陸の南まで向かったのです。しかし、いくつかの理由で断念しました」

 そう言うと、教皇は白湯を少し口に含む。

「その理由をお聞きしても?」
「まず、パドくんが『闇』を倒した段階で、アル王女が彼を庇護することを決定していたようにみえたことです。
 パドくんのあの200倍の力と、盗賊女帝ロバー・エンブレスの力、さらにはキラーリア殿の剣術。それらを敵に回した状況下で、パドくんを抹殺するなど私たちの手にあまります。
 むしろ、下手な動きをすれば私たちのほうが無事では済まない状況だったと思いますよ。それならば、パドくんのお母さんを担保として預かるという妥協点は、決して悪い結果ではないでしょう」

 教皇の言い分はもっともだった。
 実際にアル王女らが敵に回ったかどうかはともかくとして、200倍の力と魔力を持つパド少年を、自分たちが抹殺できたかといえば相当に難しかっただろう。
 下手をすれば、アル王女に殺されたらしい異端審問官と同じ目にあっていたかもしれない。

「我が身の力不足、申し訳ありません」
「いえ、あなたはよくやってくださいました。むしろ、僧兵でもないあなたを危険な戦場に送り込んでしまったことを謝罪します」
「もったいないお言葉です。ですが、私は教皇猊下のためならば、この命など惜しくはありません」
「いいえ。私のために、あなたの命は惜しいのです。あなたに死なれては困ります」

 その言葉に、ラミサルは涙を流しそうになる。
 尊敬、崇敬、情愛。

(この方のために、私は全てを捧げよう)

 あらためて決意するラミサルに、教皇は続けた。

「――というのが、表向きの理由です。神託を知っている総本山の者たちには、この理屈で通しましょう」
「表向きとおっしゃいますと、別の理由もあると?」

 ラミサルの問いに教皇は頷いた。

「裏の理由は『闇』です。私やあなたの魔法は『闇』に対しては決定打たりえませんでした。アル殿下の大剣も人型の『闇』にはどこまで通じるのか。
 あれを倒せるのは、現状パドくんの魔法だけでしょう。
 龍族の使う浄化の炎ならばあるいは対抗できるのかもしれませんが、エルフ以上に龍族と人族との間には交流がありません。アル殿下は龍族の支援を受けようとしているようですが、上手くいくかどうか。
 それに、あの神託がルシフとやらの陰謀だったのではないかというアル殿下のお言葉も一理あります。私の立場上は認めにくいですがね。
 ならば、少なくとも『闇』への対抗措置が見つかるまでは、パドくんを抹殺するわけにはいかないでしょう」
「確かに、その通りです」

『闇』とルシフ。人族どころか、亜人種を含めた人間全体への脅威だ。
 神託の真偽はともかく、今パド少年を殺すわけにはいかないという判断には一理ある。

「もちろん、『闇』の存在そのものが公言できることではありません。パニックを呼ぶだけですからね。ゆえにこれは裏の理由です。
 もっとも、アル王女やラクルス村の住人も知っている以上、どこまで情報制御できるかは難しいところですが。
 ――とここまでが、公式的な立場での表と裏の理由ですかね」

 教皇のその言い方には、さらなる含みがあった。

「それ以外にも理由があると?」
「極めて個人的な感情をいうなら、パドくんに好意を持っているということですね。たぶん、本当はこれが1番の理由なのかもしれませんね」
「猊下……」

 教皇は本質的に良い人だ。やはり、子どもを抹殺するなどいかに神の言葉によるモノとはいえ抵抗があったのだろう。

「いずれにしても、パドくんの抹殺を取りやめたからには、教会としても彼の魔力制御修行に最大限に協力するべきでしょう。人族の魔力制御技術は、我々がもっとも知識も経験もあるわけですしね。
 今後の『闇』や諸侯連立への対抗措置という意味でも早急に方策を考えましょう」
「猊下、そのことなのですが私は1つ気になることがあります」
「なんでしょうか?」
「神託に寄ればパドくんの力と魔力は常人の200倍とのことです。たしかにあの力は常人の200倍に値する恐るべきモノかもしれません。ですが……」

 ラミサルはそこで言葉を句切る。

「……200倍の魔力といいますが、そもそも『常人の魔力』とはどの程度を示しているのでしょうか」

 それは、ラミサルがずっと考えていたことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

処理中です...