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第四部 少年少女と王侯貴族達 第二章 王都到着

3.ひとごろし

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 僕、キラーリアさん、アル様の3人で、それぞれ東、北、西を護る。矢は南からは飛んでこなかったので、おそらくそちらからの襲撃はないだろう。

「パド、キラーリア、敵を通すなよ。レイク、万が一の時は馬と荷車も含めて結界を張って護れ」

 僕達はアル様の指示に頷く。
 僕は足下に落ちている石を1つ拾っておく。剣術は覚えられなかったけど、石を投げつけるだけでも十分だ。

 そして。

 僕らの前に厳つい男達が現れた。それぞれの手には鉄剣や槍。どう見ても『仲良くしましょう』といったかんじではない。

「ふんっ、女とガキと優男か。おめえら、荷車を置いてとっとと……」

 アル様の前に現れた、彼らの代表らしき男が何やら言おうとし――

 ――次の瞬間、彼の体と頭は切り離された。

 アル様の剣によって、首を切り落とされたのだ。
 首から上が地面に落ち、胴体から血が噴き出す。

「お、おかしらっ!!」

 どうやら、今死んだ男が連中のかしらだったらしい。

 戸惑う盗賊達に、アル様の冷たい声。

「こうなりたくなければ、引け」

 その威圧に、盗賊達はおののく。

「く、くそっ」

 それでも動いたのは僕が護る東の盗賊達5人。
 そのうち1人が僕を捕えようと右手を伸ばす。
 どうやら、僕を殺すつもりはないらしい。

 僕を捕まえて、人質に取るつもりか?
 確かに、アル様やキラーリアさんとちがって、武器を持っていない7歳の僕ならどうにでもできると思っても無理はないけど。

 ゴクリ。

 僕は唾を飲み込む。

 僕のチートをもってすれば、こんなヤツらを倒すのは難しくない。
 が、多勢に無勢である以上、そうそう手加減もできない。

 僕は一番先頭の男に石を投げつける。
 チートが乗った石は男のお腹に直撃する。

 男は後方に吹っ飛び、大木にぶち当たった。

「ぐっ、が……」

 それっきり、男は動かなくなった。

「なんだ……何が……?」

 戸惑う盗賊達。
 僕は残り4人に飛びかかる。

 2人目の膝を思いっきり蹴飛ばす。
 相手の骨が砕ける嫌な感触。
 その場に崩れ落ちる。

 3人目の男が槍を振り上げる。
 彼が振り下ろす前に、僕は脇腹にパンチ。

「ぐわっ」

 血反吐を吐いてその場に倒れる男。

 4人目と5人目。

「ひ、ひぃぃぃぃ」

 剣を捨てて逃げ出した。
 逃げるなら、追わなくてもいいかな。

 僕は自分が倒した3人の容体を確認する。
 石を投げつけてやった男と脇腹をなぐりつけてやった男は、すでに事切れていた。

 膝を砕いた男は生きているが、動ける状況ではないらしい。
 わざわざとどめを刺す必要はないだろう。

「てめぇ、一体……」

 足の骨を砕かれながらも、男は僕を睨む。

「ごめんなさい。手加減できなかった」

 一方、キラーリアさんとアル様の方も決着が付いていた。
 こちらもほとんど一方的な戦いだったようで、それぞれ数人の盗賊の死体が転がり、残りは逃げ出したようだ。生き残ってこの場にいる盗賊は、僕が膝を砕いた男だけか。

 男が僕に言う。

「殺せ」

 だけど、そんなことをする意味はないと思う。

「これ以上は意味がないでしょう」
「自分の体がどういう状況かくらい分かる。どのみち俺に生きる道はない」

 そんな。
 確かに男の足は骨折しているし、もしかしたらもう元には戻らないかもしれないけど、でも、だからって……

 戸惑う僕。

「そいつの言うとおりだな」

 アル様が僕に近づき言う。

「足を砕かれた盗賊など、のたれ死ぬだけだ。仮に我々が捕えて衛兵に引き渡したとしても待っているのは処刑だけ。
 ここで殺してやるのが、コイツのためだ」

 もはや無抵抗な男に、アル様は剣を構える。
 僕はグッっと右手を握りしめる。
 アル様の言っていることは、多分正しい。
 彼をこのまま見逃しても、飢え死にするか獣に食われるかだろう。
 このまま、アル様の剣で眠らせた方が――

 ――いや、だめだ。
 それは無責任なんだ。

 僕はアル様に言う。

「待ってください」
「助けてやれと?」
「いいえ。僕がやります。僕が倒した相手ですから」

 僕は血反吐を吐く思いで、そう言った。

「そうか」

 アル様は頷いて剣を引く。
 僕は再び石を拾い上げる。

 ――せめて、一撃で。

 僕は、男の脳天に力いっぱい石を振り下ろした。

 ---------------

「う、うう……」

 僕はうずくまって胃の中の物を全て吐き出した。
 僕の吐瀉物の横には、僕が殺した男達の死体。

 分かっている。
 相手は盗賊だ。
 僕達を理不尽に襲ってきたヤツらだ。
 正当防衛だし、アル様の言うとおり殺してやるのが正解だった。

 それでも。
 それでもっ。

 僕は初めて人を殺した。

 いや、リリィは殺したけれど、あれは違った。
 リリィは『闇』になっていたし、何よりここまで一方的に相手を蹂躙したわけじゃない。

 僕は今初めて、圧倒的なチートで人を殺したのだ。

「うう、ううぅ」

 胃の中が空っぽになっても気分はよくならない。

「パド」

 リラが駆け寄ってきた。

「大丈夫?」
「……うん、大丈夫……とはいえないかな、やっぱり」

 リラに支えられ、立ち上がる僕。

 情けないなぁと思う。
 バラヌがいなくてよかったとも思う。

 アル様やキラーリアさんは、そんな僕らに何も言わなかった。
 ルアレさんとピッケも。

 レイクさんだけは黙って水袋を渡してくれた。

「ありがとうございます」

 僕はお礼を言って、口をゆすいだ。

「馬が目覚めたら、先に進む。それまでパドは休んでいろ」

 アル様はそう言ってくれたけど、たぶん、今夜は眠れないだろうなぁ。
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