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第五部 時は流れゆく 第二章 日の国・兄弟の再会
5.とんでもない世界
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リラと最低限の情報共有をしたところで、稔と看護師さんが戻ってきた。
で。
「つまり、2人とも記憶喪失っていうことなのかな?」
看護師さんが僕に尋ねる。
ううう、明らかに疑いの目だ。
そりゃあそうだろう。
記憶喪失なんてめったにあることじゃないだろうし、都合良すぎると感じても無理はない。
でも、正直にいうわけにもいかない。というよりも、正直に話して信じてもらえるとも思えない。
リラが僕に囁くように言う。
『ねえ、パド、あの女の人私たちを睨んでいるけど大丈夫?』
『うん、大丈夫……だと思う』
本当は大丈夫ではないのだけど、リラを安心させるためそう言う僕。
その僕の行動が、さらに看護師さんを訝しがらせることになる。
「2人の話している言葉って何語なのかな? 英語ではないわよね?」
「えっと……わかりません」
「それもわからないの?」
うう、看護師さんの目が、どんどん怪しい存在を見るようなかんじになっていく。
実際、怪しいことこの上ないもんね。
そんな看護師さんに、稔が言った。
「木崎くん、少し落ち着いて」
どうやら、看護師さんの名前は木崎と言うらしい。
そういえば、名札にも『木崎』と書かれている。漢字なんてもうほとんど忘れているけどさすがに『木』くらいは覚えている。『崎』は読めなかったけど。
「私たちは警察じゃなくて医療従事者だよ。患者を困らせてどうするんだい?」
その言葉に、看護師――木崎さんもちょっと反省したようだ。
「すみません、先生」
木崎さんはそう言って引き下がった。
稔が僕に尋ねる。
「なんにせよ、パドくんもリラちゃんも、保護者の方については分からないんだよね?」
「はい」
ある意味では、稔の両親は僕の両親ってことになるんだけど、それを言ったらさらにわけが分からなくなるだろう。
「そうか。まあ、今日のところは2人ともゆっくり休んでほしい。あ、もう点滴はぬかないようにね」
「はい……だけど……」
「なんだい?」
「僕らお金持っていないんですけど、薬代とか入院費とか……」
僕の言葉に、稔はちょっと困った顔をする。
「今回は緊急ってことで、こっちでどうにかしておくよ。子どもが余計な気を回さなくても大丈夫」
「はい。リラの手かせ外してもらってもいいですか?」
「暴れないならね」
「大丈夫です。ちゃんと話しましたから」
---------------
その日は、リラと同じ部屋に入院することになった。
男女同じ部屋でいいのかと木崎さんは言っていたが、リラだけだと言葉が通じないのと、僕がまだ幼児なのを理由に稔が特例で許可を出してくれたらしい。
島の小さな診療所だからこその融通ってところだろうか。
桜勇太が入院してた大学病院なら、こうはいかないだろう。
『パド、私たち、これからどうしたらいいんだろうね?』
『今は……様子を見るしかないよ。少なくともここ――日本は平和なところだし』
『パドは、こっちの世界で暮らしたい?』
『それは……向こうの世界に残してきたお母さんやバラヌのことは心配だよ。ラクルス村にも戻りたいと思う。だけど……』
僕はそこで口ごもる。
『ここも、パドの故郷なのよね』
『……ごめん』
『別に、謝らなくてもいいわよ』
『……うん』
『元の世界に戻る方法なんて見当もつかないし』
『そうだよね』
『それに……』
リラはいったんそこで言葉を句切った。
『それに?』
聞き返す僕に、リラは少し恥ずかしそうに言う。
『私はパドが一緒なら、どこで暮らしてもいいわ。ラクルス村でも、お師匠様の小屋があったところでも、テルグスでも、王都でも……あるいは、このニホンでも』
『ありがとう』
僕はお礼を言ったのだった。
その後、僕はリラと色々な話をした。
これまでの旅のこと、ルシフのこと、アル様達のこと。
それとは別に、日本のこと。
テレビを付けてみせると、リラは飛び上がるくらい驚いていた。
『何、これ、箱の中に人間がいるわよ!?』
うん、まさにテンプレ通りの驚き方だ。
『これはテレビっていうんだ。遠くの映像を映し出す道具』
『通信の魔法具なの?』
『似たような物かな? 魔法じゃなくて科学だけど』
そんな会話をしながら、僕は日本について――あるいは地球について話す。
飛行機とか、車とか、僕だって実際には見たことがないものについて話すと、リラは目を丸くした。
『パドの言うことを疑うわけじゃないけど……本当なの?』
だが、テレビのニュースで、車や飛行機が映り、リラも何となく事実だと理解したらしい。
『私たち、とんでもない世界に来ちゃったのね』
日本人の感覚からだと、魔法で漆黒の刃や魔力障壁を作れる方がとんでもない世界だけどね、とは言わないでおいた。
僕の口からそれを言ってしまうと、リラとの距離が広がってしまうような気がしたから。
---------------
翌日。
稔がやってきて言った。
「君達のこれからのことなんだけどね、できれば僕の家に来てくれないかな?」
「え?」
「いや、もちろん、行く当てがあるなら無理強いはしないけど」
行く当てなんてない。
それに――もし、稔と一緒に暮らせるなら。
形は全然違うけど、初めて兄弟で一緒に暮らすことになる。
僕にとっては嬉しいことだ。
「……いいんですか?」
「そうしてもらえると助かるんだ。むしろ、どこかに行かれてしまうと色々と面倒なことになる」
こうして僕らは退院し、稔の家に連れて行かれることになった。
そこで、僕はさらなる再会を果たすことになるのだった。
で。
「つまり、2人とも記憶喪失っていうことなのかな?」
看護師さんが僕に尋ねる。
ううう、明らかに疑いの目だ。
そりゃあそうだろう。
記憶喪失なんてめったにあることじゃないだろうし、都合良すぎると感じても無理はない。
でも、正直にいうわけにもいかない。というよりも、正直に話して信じてもらえるとも思えない。
リラが僕に囁くように言う。
『ねえ、パド、あの女の人私たちを睨んでいるけど大丈夫?』
『うん、大丈夫……だと思う』
本当は大丈夫ではないのだけど、リラを安心させるためそう言う僕。
その僕の行動が、さらに看護師さんを訝しがらせることになる。
「2人の話している言葉って何語なのかな? 英語ではないわよね?」
「えっと……わかりません」
「それもわからないの?」
うう、看護師さんの目が、どんどん怪しい存在を見るようなかんじになっていく。
実際、怪しいことこの上ないもんね。
そんな看護師さんに、稔が言った。
「木崎くん、少し落ち着いて」
どうやら、看護師さんの名前は木崎と言うらしい。
そういえば、名札にも『木崎』と書かれている。漢字なんてもうほとんど忘れているけどさすがに『木』くらいは覚えている。『崎』は読めなかったけど。
「私たちは警察じゃなくて医療従事者だよ。患者を困らせてどうするんだい?」
その言葉に、看護師――木崎さんもちょっと反省したようだ。
「すみません、先生」
木崎さんはそう言って引き下がった。
稔が僕に尋ねる。
「なんにせよ、パドくんもリラちゃんも、保護者の方については分からないんだよね?」
「はい」
ある意味では、稔の両親は僕の両親ってことになるんだけど、それを言ったらさらにわけが分からなくなるだろう。
「そうか。まあ、今日のところは2人ともゆっくり休んでほしい。あ、もう点滴はぬかないようにね」
「はい……だけど……」
「なんだい?」
「僕らお金持っていないんですけど、薬代とか入院費とか……」
僕の言葉に、稔はちょっと困った顔をする。
「今回は緊急ってことで、こっちでどうにかしておくよ。子どもが余計な気を回さなくても大丈夫」
「はい。リラの手かせ外してもらってもいいですか?」
「暴れないならね」
「大丈夫です。ちゃんと話しましたから」
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その日は、リラと同じ部屋に入院することになった。
男女同じ部屋でいいのかと木崎さんは言っていたが、リラだけだと言葉が通じないのと、僕がまだ幼児なのを理由に稔が特例で許可を出してくれたらしい。
島の小さな診療所だからこその融通ってところだろうか。
桜勇太が入院してた大学病院なら、こうはいかないだろう。
『パド、私たち、これからどうしたらいいんだろうね?』
『今は……様子を見るしかないよ。少なくともここ――日本は平和なところだし』
『パドは、こっちの世界で暮らしたい?』
『それは……向こうの世界に残してきたお母さんやバラヌのことは心配だよ。ラクルス村にも戻りたいと思う。だけど……』
僕はそこで口ごもる。
『ここも、パドの故郷なのよね』
『……ごめん』
『別に、謝らなくてもいいわよ』
『……うん』
『元の世界に戻る方法なんて見当もつかないし』
『そうだよね』
『それに……』
リラはいったんそこで言葉を句切った。
『それに?』
聞き返す僕に、リラは少し恥ずかしそうに言う。
『私はパドが一緒なら、どこで暮らしてもいいわ。ラクルス村でも、お師匠様の小屋があったところでも、テルグスでも、王都でも……あるいは、このニホンでも』
『ありがとう』
僕はお礼を言ったのだった。
その後、僕はリラと色々な話をした。
これまでの旅のこと、ルシフのこと、アル様達のこと。
それとは別に、日本のこと。
テレビを付けてみせると、リラは飛び上がるくらい驚いていた。
『何、これ、箱の中に人間がいるわよ!?』
うん、まさにテンプレ通りの驚き方だ。
『これはテレビっていうんだ。遠くの映像を映し出す道具』
『通信の魔法具なの?』
『似たような物かな? 魔法じゃなくて科学だけど』
そんな会話をしながら、僕は日本について――あるいは地球について話す。
飛行機とか、車とか、僕だって実際には見たことがないものについて話すと、リラは目を丸くした。
『パドの言うことを疑うわけじゃないけど……本当なの?』
だが、テレビのニュースで、車や飛行機が映り、リラも何となく事実だと理解したらしい。
『私たち、とんでもない世界に来ちゃったのね』
日本人の感覚からだと、魔法で漆黒の刃や魔力障壁を作れる方がとんでもない世界だけどね、とは言わないでおいた。
僕の口からそれを言ってしまうと、リラとの距離が広がってしまうような気がしたから。
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翌日。
稔がやってきて言った。
「君達のこれからのことなんだけどね、できれば僕の家に来てくれないかな?」
「え?」
「いや、もちろん、行く当てがあるなら無理強いはしないけど」
行く当てなんてない。
それに――もし、稔と一緒に暮らせるなら。
形は全然違うけど、初めて兄弟で一緒に暮らすことになる。
僕にとっては嬉しいことだ。
「……いいんですか?」
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こうして僕らは退院し、稔の家に連れて行かれることになった。
そこで、僕はさらなる再会を果たすことになるのだった。
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