竜太のドラゴンライダー学園

ななくさ ゆう

文字の大きさ
4 / 14
入学試験と俺たちの契約

第3話 危険な試験! 勇気のジャンプ(前編)

しおりを挟む
 佐野原先輩に案内されるまま、俺たち受験生は校舎の階段を上った。

「さ、ここが受験会場だよ」

 え? そうはいうけど、ここは……
 疑問に思ったのは俺だけではなかったようだ。
 ミカが代表して先輩に聞いた。

「あの、ここって屋上じゃありませんか?」

 その通り。佐野原先輩に案内されたのは校舎の屋上。
 フェンスもなく冷たい風が吹きぬけている。
 屋上の中央にはブルードラゴンが鎮座中だ。
 俺たちと同じくらいの背丈だから、まだまだ子どものドラゴンだ。

「その通りだね」
「試験って、ここでやるんですか?」
「そうだよ。厳密には第一試験の会場。試験官の先生はもうすぐ来る。あ、ちなみにこのブルードラゴンは俺のパートナーでホンっていうんだ。よろしくね」

 ホンは「くぅん」と先輩に甘えるような声で鳴いた。
 先輩は戸惑う俺たちに「分るよ」とうなずく。

「そうだねぇ、驚くよねぇ。俺も去年は同じだったから。でも、間違いなく試験会場はここだよ。ほら、先生もきた」

 先輩が上空を指さす。見上げるとホンよりもはるかに大きなブルードラゴンが、屋上へと降り立とうとしていた。
 あわてて屋上の端に走る俺たち。
 ゆっくりと屋上に着地するブルードラゴンとその騎手。
 先輩はドラゴンの翼が巻き上げる風に負けじと大声で俺たちに言った。

「最後に先輩からのアドバイスだ。みんな、死なないようにね」

……はい? 死なないように?
 えーっと、強風のせいで聞き間違えた……かな?

 困惑しているいとまもなく、ブルードラゴンが屋上に降り立ち、一人の女性が騎手席から飛び降りた。
 彼女は俺たち受験生を「ふーむ」と一通り観察して、先輩に確認する。

「こいつらが今回の受験生か?」
「はい、乱獅子らんしし先生」
「ふんっ、なるほどな。二人か、せいぜい三人といったところか」

 どういう意味だ?
 疑問に思う俺の心を読んだかのように女性――乱獅子先生はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。

「第一試験を合格する人数の予想だよ」

 このとき俺たちはこのあとに待つ、恐ろしいまでにシンプルで命がけの試験内容を知るよしもなかったのだった。
 先生はさらに続ける。

「さて、これから試験を始めるわけだが……まずは自己紹介といこうか。私は乱獅子万代ましろ。今日の試験を担当すると共に、新年度は一年生の担任兼実技を担当する。すなわち、諸君がもしも合格したならば私が諸君の担当教諭になるわけだな。この意味が分るか?」

 首をひねる俺たち。
 そりゃ、言葉の意味は分る。
 だからこそなぜそんなことをわざわざ確認されるのかが分らない。
 何か言葉通り以上の意味があるのだろうか?

「つまるところ、諸君が全員不合格になれば、私は来年度ほとんど仕事をすることなく給料だけもらえるということだ。というわけで、全員不合格になってもらえればうれしい」

 おい!

「……とはいえだ。あまちゃんのガキどもとはいえ、一応夢に向かう若人わこうどたちだ。チャンスは与えようじゃないか。ここにいる時点で、小学校時代にそれなりの努力はしたのだろうからな」

 なんだよ、この先生?
 龍矢とは別の意味でムカつく。
 それはみんな同じ気持ちだったと思うが、相手は試験官だ。
 さすがに抗議の声をあげるやつはいない……と思ったのだが。
 龍矢が進み出た。

「ふんっ、ずいぶんとふざけた女だな」

 失礼教師には失礼生徒が対抗とでもいうのか。

「ほう、少しは骨のあるガキもいるか。名前は?」
「高力龍矢だ。ドラゴンライダー学園の教師でありながら世界チャンプの息子も知らんのか?」
「もちろん知っているさ。だがそれはお前が高力昇龍の息子だからではない。受験生のプロフィールは全て頭に入っているからだ。私が言いたいのは……」

 先生は龍矢に近づき冷たく睨む。

「……教師に対して名乗りもせずに意見する非礼を正せという話だ」
「俺は習う価値のない相手を教師とは認めない。お前にその価値があるのか?」

 うわぁ、すごい会話。先生も先生なら龍矢も龍矢だ。
 俺がヒヤヒヤしながら見守っていると、先生は「なるほどな」とうなずいた。
 それから「はーははっ」と高らかに笑う。

「なかなか元気な小僧だ。非礼ではあるが何一つ反論できない他のガキどもよりはマシか」

 龍矢は胸をはる。

「ふんっ、当然だ。俺様をそんなモブザコキャラどもと一緒にするな」

 先生はギロリと龍矢を見下ろした。

「言っておくが、誰の息子だろうと試験に手心はくわえんぞ?」
「父の力など借りなくても俺は合格する」
「大した自信だな。私が不合格と言えば、そうなるというのに」
「そこまで理不尽な教師ならば、それこそ習う価値などない」
「そうか、ふふふっ」
「はははっ」

 高らかに笑いあう二人。
……これ、どうなっちゃうんだ?
 一通り笑い合ったあと、先生は俺たちに言った。

「さて、それでは高力龍矢の言うところのモブザコキャラたちの自己紹介も聞いておこうか」

 なんつー先生だ。俺は呆れかえるしかない。
 一方、ミカが「はーい」と手を上げた。

「じゃあ、私からね。私は風粉ミカ。別名、皆大好きランミカちゃんよ♪ あらためてヨロシク!」

 ミカの自己紹介に先生はうなずく。

「小学生リューチューバーか。競龍研究動画が評価されて実技科目は免除になったらしいな?」
「そうですねぇ。ま、私が本気を出せばなんかの運動競技で日本一になるくらい簡単ですけど」

 うわぁ、ミカも言うなぁ。

「結果を出していない人間の大口などに興味はない。が、龍矢につぐ積極性は評価しよう」

 積極性か。俺も負けてられない!

「なら、次は俺だ。大空竜太。実技科目は、空手全国大会三位だな。未来の競龍世界チャンピオンだ。覚えておけ!」

 そうカマしてやったのだが、返ってきたのは先生の冷たい言葉だった。

「もう一度言うが、結果を出していない人間の大口など私は興味もない。せいぜい今日不合格になって赤っ恥をかかないようにしろ」

 うう、反論できない。
 このあと、残る四人も自己紹介した。
 佐々木ささきめぐみは女子ジュニアマラソン優勝者で、加藤かとう翔汰しようたは男子ジュニアマラソン優勝者。二人は同じ小学校に通っているらしい。
 山田やまだ一太いちたは走り幅跳び男子小学生日本記録保持者。最後に丸山まるやまたけるという男子は小学生相撲大会全国優勝者で、体重は八十キロくらいありそうにみえた。
 全員の自己紹介がおわると、乱獅子先生は「ふむ」とうなずく。

「ではこれより第一試験の説明を行う。何、極めてシンプルなテストだ。諸君らならば簡単にクリアーできるだろうよ」

 そう言うと、先生はいきなり屋上の反対側に走り出す。
 そのまま先生は屋上の端から跳んだ。

「きゃぁ!」

 叫んだ受験生が誰だったか。あるいは全員悲鳴をあげていたかもしれない。
 当たり前だ。校舎は五階建て。その屋上から跳ぶなど正気の沙汰ではない。
 先生は華麗なジャンプで屋上から隣の校舎の屋上へと着地して、こちらを見る。

「これが第一試験だ。制限時間は十分じゆつぷん間。さあ、こっちに跳んでこい」

 マジかよ。
 俺は先生が跳んだ屋上の端へ向かう。俺だけでなく受験生全員がやってきていた。
 ミカが震える声で言う。

「うそでしょ……」

 俺は屋上から少しだけ身を乗り出した。

「地面までの高さは……九・二メートルか」

 当然、落ちたらまず間違いなく死ぬ高さだ。

「向こうの校舎までの距離は二・四メートル」

 誰にともなくつぶやいた俺に、龍矢が言う。

「モブザコキャラにしては正確な測量だな。厳密には高さは九・二一メートル、距離は二・三八メートルだが」

 どうやら龍矢も俺と同じ空間認識能力を持っているらしい。

「分っているよ! 厳密に言わなかっただけだ」

 決して跳べない距離じゃない。
 去年の九月の体力測定で俺の走り幅跳びの記録は四・一八メートルだった。
 だけど、それは地上での話だ。
 失敗したら死ぬような場所での話じゃない!

 乱獅子先生は本気なのか?
 受験生に万が一のことがあったらどうするんだ?
 だが、先生は向こうの屋上から叫ぶ。

「どうした? あと八分だぞ」

 他の受験生たちが固まる中、龍矢が笑う

「はーははっ。さすがは天下のドラゴンライダー学園か。かましてくれる」

 そう言ったかと思うと。龍矢は一度屋上の反対側に行き、走る。
 そして、先生のいる屋上へジャンプ。落ちることなく無事着地した。

「ふむ、たしかに簡単にクリアーできるくだらん試験だな」

 俺の背中に冷たい汗が流れる。
 信じられない! 先生も龍矢も正気なのか?
 と、そんな俺たちに先輩が言う。

「無理はしない方がいいよ。なにもドラゴンライダーになることだけが人生じゃない。自信が無いならリタイアすることも勇気だ」

 最初に先輩が言った『死なないように』というアドバイスの意味を俺は理解できた。
 背中に冷や汗が流れるのを感じていると、走り幅跳び記録保持者だという一太が言う。

「なるほど、たしかに簡単なテストだな」

 そう言って、彼も先生と龍矢のいる校舎へと跳ぶ。さすが、龍矢以上に安定したジャンプだった。
 だが、やはり恐怖はあったらしく、着地したあと「ふぅ」安心したような息を吐いた。
 龍矢と一太の二人が第一試験をクリアーして、先生が言う。

「さて、残る諸君はどうする? 残り時間は六分十二秒だ」

 くそっ。
 こんなところでおわってたまるか!
 俺は自分を奮い立たせた。いいさ、跳んでやろうじゃないか。
 助走の距離を取るため校舎の反対側に立ち、ゴクリと唾を飲み込む。
 大丈夫、跳べるさ。距離は問題ないんだ。たった二・三八メートルだ。
 ミカが心配そうに言う。

「竜太……」
「平気さ。向こうで待っているから」

 俺は走る。走って、踏み切り、ジャンプ!
 その瞬間、下を見てしまう。眼下九・二一メートルの地面。

(大丈夫。とどく!)

 俺は先生と龍矢たちのいる屋上へと降り立ち、第一試験をクリアーしたのだった。

「たしかにラクショーな試験だな」

 強がってそう言ってみたけど、俺の声はガクガクと震えていた。
 龍矢はそんな俺を鼻で笑う。

「ふんっ。貴様みたいなモブザコがクリアーできるくらいだしな」

 一方、向こうの屋上へと目をやると。
 女子ジュニアマラソン優勝者の恵が跳ぼうとしていた。

「私だって、モブキャラでおわるつもりはないわ」

 叫び、彼女もジャンプ。こちらの屋上へ着地した。

 あと、三人。
 リューチューバーランミカことミカ。
 男子ジュニアマラソン優勝者翔汰。
 そして――

「僕、僕は……むりだよぉ」

 そう泣き叫び、膝を突いてしまったのは小学生相撲大会優勝者の剛。
 たしかに彼の体重では厳しいかもしれない。不可能ではないにしろ、失敗する可能性もそれなりにある。

「僕はリタイアする。先生も、龍矢たちも、頭がおかしい!」

 そう叫んで、彼は屋上の入り口から逃げ出した。
 龍矢が言う。

「賢明な判断だな。そもそも、ドラゴンライダーになろうというのに体重が必要な競技を選ぶ時点で無能だが」

 ドラゴンライダーは体重を絞ることが求められる。
 相撲という競技を選んだ時点で、剛は失敗していたのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

この町ってなんなんだ!

朝山みどり
児童書・童話
山本航平は両親が仕事で海外へ行ってしまったので、義父の実家に預けられた。山間の古風な町、時代劇のセットのような家は航平はワクワクさせたが、航平はこの町の違和感の原因を探そうと調べ始める。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

処理中です...