上 下
5 / 19

第4話 地獄へようこそ(後編)

しおりを挟む
 カケル達は扉の前に立つ。
 近づいてみると、本当に大きな扉だ。圧迫感すら感じる。
 それにデザイン。やたらリアルなドクロが掘られている。

「悪趣味」

 ケイミがそう吐き捨てたが、カケルも同感だ。
 カオリが不安そうに言う。

「この扉、わたしたちに開けられるのかな?」

 確かに。
 鍵がかかっているかどうかという以前に、何しろ巨大な鉄の塊だ。全員で押しても動かせるかどうか……

 ツヨシが言う。

「わからんが、全員で押してみるしかあるまい」

 確かに。ケイミやカオリはともかく、男子3人は肉体派の転載児。特にフトシは怪力の持ち主だ。
 カケル達はうなずき合い、扉に手をふれ……られなかった。
 扉に触ろうとしたら、体がしびれたのだ。まるで電気ショックを受けたかのように。

 カオリが叫ぶ。

「なにこれ、扉に電気が流れているの!?」

 本当に、一体何なんだこの状況は。
 意味がまるで分からない。
 いずれにしても、扉を開けるのは無理そうだ。そう考えたのはカケルだけではなく、カオリもケイミも、それにフトシも諦めた様子だ。

 だが、諦めなかったヤツもいる。
 ツヨシだ。

「仮にそうだとしても、進む先は扉の向こうしかない」

 彼はもう1度鉄扉に手を伸ばそうとする。
 フトシが慌てて止める。

「ちょっと、ツヨシくんやめなよ、むちゃだよ!」

 彼がそう言うのも無理はない。
 さっきの電気ショックのような衝撃はかなりのものだった。静電気をピリッと感じたなんてものじゃない。今だに手に痛みが残っているくらいだ。
 カケルとケイミもツヨシにいう。

「フトシの言うとおりだと思う」
「そうよ、私はもう無理!」

 だが、ツヨシは諦めない。

「俺はどんなときでも諦めず前に進む。そう決めている」

 そう言い切るツヨシ。

(『諦めず前に進む』か)

 カケルはふぅっとため息。
 その言葉は、むしろカケルの人生観そのものだ。

「わかった、オレも手伝う」

 カケルは覚悟を決めた。
 42.195キロ走る時と同じだ。
 とても無理だと投げ出してしまえば何もできない。

 ケイミとカオリが困惑した声を出す。

「ちょっと、本気なの?」
「体育会系はこれだから……」

 ツヨシは言う。

「ケイミとカオリに手伝えとは言わん」

 カケルもケイミやカオリに手伝ってもらおうとは思わない。男女差というより、2人ともインドア系の天才だ。肉体的な力は一般中学生の平均よりも低いだろう。はっきりいって、鉄扉を動かす戦力にはほとんどならない。

 が。

「それって、僕には手伝えって言っているよね?」

 フトシが泣きそうな声でそう言う。
 カケルはうなずく。

「まあな」

 5人の中で1番力があるのはフトシだ。
 フトシと比べれば、カケルだって戦力外かもしれない。
 フトシは「はぁ……」とため息。

「わかったよっ! 手伝えばいいんだろ」

 どうやらフトシも覚悟を決めたらしい。
 3人で鉄扉に手を伸ばす。
 が。
 その瞬間だった。

「やめておきなよ。せっかく地獄に招待してあげたのに、そんなことをしたら、魂が消滅しちゃうよ」

 聞こえてきたのは見知らぬ声。

 いや、違う。
 この声には聞き覚えがある。

 そうだ。教室で最後に聞こえてきたあの声。
『地獄に招待』と言った謎のメッセージ。
 あの時の声と同じだ。
 今回は脳に直接ではなく、普通に耳から聞こえてきたが。

「どこだ!?」

 叫ぶツヨシ。
 島には誰もいなかった。それはもう確認済。
 ならば、扉の向こうか?

 いや、違う。
 上空だ。

 血のように赤い空に、10歳前後の女の子が浮かんでいた。
 そう、浮かんでいたのだ。
 重力なんて関係ないかのように。
 驚愕に目を見開くカケル達5人の前に、女の子がするすると降りてくる。

「その扉は生(せい)者(じや)が開けられるものじゃない。無理に開けようとしたら、命が危ないよ」

 女の子の言葉に、カケルは確認する。

「それはつまり、オレ達は死んでいないと?」
「ははっ、もちろん!」

 にっこり笑う女の子。

「生きたまま、アタシが招待したんだよ。この地獄の入り口にね」

 地獄の入り口。
 ゴクリとカケルは唾を飲み込む。
 ケイミが尋ねる。

「それは比喩としての地獄? それとも、本当の意味での地獄?」

 女の子はニコニコしたまま答える。

「答えは後者かな。ここは『地獄のような場所』じゃない。『死んだ後に悪人が落ちる地獄』だ」
「なるほどね……」

 ケイミは何かを考え込み始めた。
 一方、ツヨシが女の子をにらむ。

「それで、お前は何者だ?」
「アタシ? そうね……アタシは閻魔王女」
「閻魔王女?」
「そう、かの有名な閻魔大王の娘だよ」

 女の子――閻魔王女はそう言うと、どや顔を決めてから続けた。

「みなさん、地獄へようこそ! 心から歓迎するよ!」
しおりを挟む

処理中です...