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17:お母様の命日
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誕生日から約2週間後。
皆が黒い服に身を包みます。
お兄様も、私も。使用人も皆。
この世界においても喪服というのは黒なのですね。
私はアンナが抱っこしてくれています。
天気は曇り。
陰湿な空気があたりを包みます。
初めてこの世界で出た理由はお母様の一周忌。
一周忌とは称しているけれど、この世界に仏様はいないので便宜上私がそう呼んでいる。
と、言うよりみんなの言う一年後の命日をそう心のなかで翻訳しているのだけれど。
教会の裏にある墓地には既に多くの人が集まっていました。
一様に喪服を着ています。
「あれが忘れ形見の……」
「あんな小さな子供なのに……」
「呪い子では……」
「タイミング的にも……」
耳障りな声というのでしょうか。
あちらそちらでこそこそと話しているのが感じられます。
しかも、同情や憐憫の他にも良くないものが混じっていますね。
暫くしてお父様が到着します。
「それでは、一周忌を執り行わせて頂きます」
神父のような人がそう言って皆に難しい話を始めました。
その殆どが私の知らない単語です。
聞き取れた内容から察するに、お母様の魂は神様の元へ行きましたよ的なことでしょうか。
生きている人が死んで魂が無いというのなら、今行っているこの儀式は生きている人に向けて心の整理がつくようにするものでしょうか。死んでいる人のためじゃなくて、生きている人のために。
それは、お父様にとって大切なことなのでしょう。
お父様は終始怖い顔をされています。
ちょっとちびりそうです。
神父の長い話が終わって、集まった親族達が花を添えて去っていきます。
お父様やお兄様に声をかける人もいましたが、短く返されるだけでした。
「ガザン様もお久しぶりですわぁ」
ねっとりとした声です。
そこには、一人のご婦人がいらっしゃいました。
「ディスマルク伯爵夫人でしたか」
お父様がご婦人に挨拶を返しました。
喪服を着ては居ますが、その手には黒い羽扇子が握られています。
他の方どなたも持っていらっしゃらなかったのですが、とても高そうですね。
たっぷりと厚化粧されているので、なんというか私にとってはとてもきつい匂いです。
「夫人が亡くなって1年……。早いものですわねぇ」
何が言いたいのでしょう。
ピリッとした空気が流れ始めました。
含む言い方ってどうしてもこう嫌に聞こえてしまうのでしょうか。
羽扇子で口元を隠しながら、ディスマルク伯爵夫人はお父様に微笑みかけます。
「ですが、多感な時期である幼い子ども達にも新しい母親が必要だとは思いませんかぁ」
その言葉にカチンときたのは、私だけではないと思います。
よりにもよって、たった1年しか経っていない死者の墓の前で吐く言葉ではありません。
「それは今、ここでいう必要があるものでしょうか」
お兄様がとても低い声で言います。
その気迫はお父様に引けを取りません。
ディスマルク伯爵夫人はごくりと息を呑みます。
「わ、私は侯爵家の未来を憂いて──」
「よりにもよって、母の墓の前でよくそんな口を聞けたものです」
「そうだな。人の妻に関してあれこれ言う前にディスマルク伯爵夫人には礼節というものを学んで頂きたいものだ」
ディスマルク伯爵夫人が何か言おうとしたのに被せてお兄様とお父様が追撃します。
へぇ。我が家って侯爵家なんですね。
伯爵よりも格が上じゃないですか。
前世の知識通りならですが。
それなのにこんな不躾なことが許されて良いのでしょうか。
「ふぇええっ」
止めに泣いておきます。
子供だから許されることですね。
私じゃなくてもこの空気は幼い子が泣き出しても不思議ではありません。
アンナもお兄様も心配して私を覗き込んできました。
「早くその呪い子を泣き止ませなさい!」
羽扇子を握りしめて、品も無くディスマルク伯爵夫人は命令します。
それに対してお兄様とお父様の視線が更に鋭くなりました。
「呪い子とは?」
「聞き捨てなりませんね」
そういえば、親戚の中にも私のことを呪い子という方がいらっしゃったように思います。
なんとなく想像は付きますが……。
「母の死と共に生まれてきた子が呪い子以外のなんなのでしょう」
それを自信満々に言うこのひともどうかと思いますが。
「母が亡くなったのはコーラルが生まれてから2週間後です。直後ではないので呪い子の定義には当てはまりません」
「シュシュが命がけで産んだ子をそのような呼び名で呼ぶものがいるとは……このことは正式にディスマルク伯爵へ抗議した上、今後の付き合いは考えさせてもらおう」
そもそもからして貴方は呼んでいないのだが?
そのお父様の言葉に思わず口が開きっぱなしになりました。
なに、親戚でもなんでもないのにこの人乗り込んできたんですか。
ただお父様に嫁をとれと言うために?
品どうのと言う前に常識がなさすぎる。
ディスマルク伯爵夫人の周りは止めなかったんですかね。
そのままディスマルク伯爵夫人は墓前からつまみ出されました。
唖然とその様子を見ていると、お父様がアンナから私を抱き上げます。
「コーラル。お前はシュシュが愛した子だ。不作法者の言葉に耳を貸す必要はない」
そう慰めて頂きます。
お母様の命日。私が家の外では何と言われているのか知った日になりました。
皆が黒い服に身を包みます。
お兄様も、私も。使用人も皆。
この世界においても喪服というのは黒なのですね。
私はアンナが抱っこしてくれています。
天気は曇り。
陰湿な空気があたりを包みます。
初めてこの世界で出た理由はお母様の一周忌。
一周忌とは称しているけれど、この世界に仏様はいないので便宜上私がそう呼んでいる。
と、言うよりみんなの言う一年後の命日をそう心のなかで翻訳しているのだけれど。
教会の裏にある墓地には既に多くの人が集まっていました。
一様に喪服を着ています。
「あれが忘れ形見の……」
「あんな小さな子供なのに……」
「呪い子では……」
「タイミング的にも……」
耳障りな声というのでしょうか。
あちらそちらでこそこそと話しているのが感じられます。
しかも、同情や憐憫の他にも良くないものが混じっていますね。
暫くしてお父様が到着します。
「それでは、一周忌を執り行わせて頂きます」
神父のような人がそう言って皆に難しい話を始めました。
その殆どが私の知らない単語です。
聞き取れた内容から察するに、お母様の魂は神様の元へ行きましたよ的なことでしょうか。
生きている人が死んで魂が無いというのなら、今行っているこの儀式は生きている人に向けて心の整理がつくようにするものでしょうか。死んでいる人のためじゃなくて、生きている人のために。
それは、お父様にとって大切なことなのでしょう。
お父様は終始怖い顔をされています。
ちょっとちびりそうです。
神父の長い話が終わって、集まった親族達が花を添えて去っていきます。
お父様やお兄様に声をかける人もいましたが、短く返されるだけでした。
「ガザン様もお久しぶりですわぁ」
ねっとりとした声です。
そこには、一人のご婦人がいらっしゃいました。
「ディスマルク伯爵夫人でしたか」
お父様がご婦人に挨拶を返しました。
喪服を着ては居ますが、その手には黒い羽扇子が握られています。
他の方どなたも持っていらっしゃらなかったのですが、とても高そうですね。
たっぷりと厚化粧されているので、なんというか私にとってはとてもきつい匂いです。
「夫人が亡くなって1年……。早いものですわねぇ」
何が言いたいのでしょう。
ピリッとした空気が流れ始めました。
含む言い方ってどうしてもこう嫌に聞こえてしまうのでしょうか。
羽扇子で口元を隠しながら、ディスマルク伯爵夫人はお父様に微笑みかけます。
「ですが、多感な時期である幼い子ども達にも新しい母親が必要だとは思いませんかぁ」
その言葉にカチンときたのは、私だけではないと思います。
よりにもよって、たった1年しか経っていない死者の墓の前で吐く言葉ではありません。
「それは今、ここでいう必要があるものでしょうか」
お兄様がとても低い声で言います。
その気迫はお父様に引けを取りません。
ディスマルク伯爵夫人はごくりと息を呑みます。
「わ、私は侯爵家の未来を憂いて──」
「よりにもよって、母の墓の前でよくそんな口を聞けたものです」
「そうだな。人の妻に関してあれこれ言う前にディスマルク伯爵夫人には礼節というものを学んで頂きたいものだ」
ディスマルク伯爵夫人が何か言おうとしたのに被せてお兄様とお父様が追撃します。
へぇ。我が家って侯爵家なんですね。
伯爵よりも格が上じゃないですか。
前世の知識通りならですが。
それなのにこんな不躾なことが許されて良いのでしょうか。
「ふぇええっ」
止めに泣いておきます。
子供だから許されることですね。
私じゃなくてもこの空気は幼い子が泣き出しても不思議ではありません。
アンナもお兄様も心配して私を覗き込んできました。
「早くその呪い子を泣き止ませなさい!」
羽扇子を握りしめて、品も無くディスマルク伯爵夫人は命令します。
それに対してお兄様とお父様の視線が更に鋭くなりました。
「呪い子とは?」
「聞き捨てなりませんね」
そういえば、親戚の中にも私のことを呪い子という方がいらっしゃったように思います。
なんとなく想像は付きますが……。
「母の死と共に生まれてきた子が呪い子以外のなんなのでしょう」
それを自信満々に言うこのひともどうかと思いますが。
「母が亡くなったのはコーラルが生まれてから2週間後です。直後ではないので呪い子の定義には当てはまりません」
「シュシュが命がけで産んだ子をそのような呼び名で呼ぶものがいるとは……このことは正式にディスマルク伯爵へ抗議した上、今後の付き合いは考えさせてもらおう」
そもそもからして貴方は呼んでいないのだが?
そのお父様の言葉に思わず口が開きっぱなしになりました。
なに、親戚でもなんでもないのにこの人乗り込んできたんですか。
ただお父様に嫁をとれと言うために?
品どうのと言う前に常識がなさすぎる。
ディスマルク伯爵夫人の周りは止めなかったんですかね。
そのままディスマルク伯爵夫人は墓前からつまみ出されました。
唖然とその様子を見ていると、お父様がアンナから私を抱き上げます。
「コーラル。お前はシュシュが愛した子だ。不作法者の言葉に耳を貸す必要はない」
そう慰めて頂きます。
お母様の命日。私が家の外では何と言われているのか知った日になりました。
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