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前世という名のプロローグ
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燃えるような痛みと熱さに目を細める。
人々の憎悪という熱気は留まることを知らず、広場にある見晴らしの良い中央台に突き出された私は彼らを見下ろした。
「殺せ! 殺せ!」
「あの魔女を殺せ!」
人々の叫び声は耳の良い私にとって痛いほど聞こえてきた。
氷柱のように私を突き刺す呪詛を彼らは吐き、石を投げる。
「虐殺姫! あの人を返して!!」
悲痛な叫び。
愛する人を失った声ほど今の私に響くものはなかった。
きゅっと噛みしめる唇は、その答えを述べることさえ許されない。
「静粛に!!」
カァンッと高い鐘の音が広場いっぱいに鳴り響く。
手持ちの鐘ではそれくらいが限度なのだが、民衆を黙らせるには十分な音だった。
「これより我が国を戦争に誘導し、数多の人間を混乱と絶望の渦に陥れた魔女、カリアの処刑を執行する!」
役人は王族から除籍されてただのカリアとなった私の行く末を宣言する。
私はかつて、この国で英雄と呼ばれていた。
この国の王が始めた戦争と貧困を食い止めるために戦い、そして国として勝利し続けた。
多くの兵が死んだ。
中には親しくなった者も少なくはない。
敵も味方もなく、戦争はこの国の力を削ぎ落とした。
それでも、負ければ更なる絶望が齎される。
故に負けるな。お前の肩に国民すべての命がかかっている。
そう言われて剣を振るい、時には田畑を耕し、国内を駆け回って尽力し続けた。
そして、和平協定が行われた昨年。
用済みとばかりにすべての罪を私に着せて、戦争と貧困の元凶は私だと御触れを出した。
それは政治にとって必要なことだったのかもしれない。
争っていた他国との政治的な取引が私の死だったのかもしれないし、単純に『家族』である王族達が私を疎んでいたということもあるのかもしれない。
英雄と讃えられた私はさぞ扱いにくかっただろう。
戦争の元凶ということにしてしまえば一気に転落する程度の名声だったというのに。
なんにせよ、民は容易くそれを信じたのだ。
英雄と呼び、私がいるから守られていたのだと。
褒め称えていた同じ口で英雄と呼ばれるために戦争を起こしたのだと罵られた。
(私生児の王族……私のどこにそんな権限があるんだ)
そんな言葉は民衆に伝わらない。
愛する人を失い、憎しみの対象を失った人々には『生贄』が必要だった。
得意の魔法を封じる拘束具をつけているが、そんなものがなくとも逃げる気など起きなかった。
優しい記憶と人としての儚い思いを教えてくれた人はもう、この世にはいないのだから。
「お前の、せいで!!」
そんな声とともに頭へ衝撃を受ける。
おそらく投げられた石が頭に当たったのだろう。
たらりと血が流れたが、痛いとも感じずに心は凪いでいた。
(神よ)
なんの感情も映さずに処刑器具へと体を預ける。
鈍色の重い刃は間もなく私の首を叩き斬るのだろう。
それでも恐怖は起きなかった。
そういう一族に生まれたからというのもあるのかもしれないが、思い残すことももうなかった。
(私達が一体何をしたというのだ)
命令されるがままに戦って英雄と呼ばれるまでに上り詰めた。
貧困に喘ぐ人を救うために数多くの対策を取り、寄り添おうとした。
その結末が全ての責を押し付けられ、友人さえも有りもしない罪で命を奪われるなんて。
(ヘルト……)
呟くように、口が彼の名を形作る。
もういない友人のことを想いながら。
友人と私を救わない神を呪いながら。
カリア・スプラウトという名の王女はその生涯を閉じた。
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人々の憎悪という熱気は留まることを知らず、広場にある見晴らしの良い中央台に突き出された私は彼らを見下ろした。
「殺せ! 殺せ!」
「あの魔女を殺せ!」
人々の叫び声は耳の良い私にとって痛いほど聞こえてきた。
氷柱のように私を突き刺す呪詛を彼らは吐き、石を投げる。
「虐殺姫! あの人を返して!!」
悲痛な叫び。
愛する人を失った声ほど今の私に響くものはなかった。
きゅっと噛みしめる唇は、その答えを述べることさえ許されない。
「静粛に!!」
カァンッと高い鐘の音が広場いっぱいに鳴り響く。
手持ちの鐘ではそれくらいが限度なのだが、民衆を黙らせるには十分な音だった。
「これより我が国を戦争に誘導し、数多の人間を混乱と絶望の渦に陥れた魔女、カリアの処刑を執行する!」
役人は王族から除籍されてただのカリアとなった私の行く末を宣言する。
私はかつて、この国で英雄と呼ばれていた。
この国の王が始めた戦争と貧困を食い止めるために戦い、そして国として勝利し続けた。
多くの兵が死んだ。
中には親しくなった者も少なくはない。
敵も味方もなく、戦争はこの国の力を削ぎ落とした。
それでも、負ければ更なる絶望が齎される。
故に負けるな。お前の肩に国民すべての命がかかっている。
そう言われて剣を振るい、時には田畑を耕し、国内を駆け回って尽力し続けた。
そして、和平協定が行われた昨年。
用済みとばかりにすべての罪を私に着せて、戦争と貧困の元凶は私だと御触れを出した。
それは政治にとって必要なことだったのかもしれない。
争っていた他国との政治的な取引が私の死だったのかもしれないし、単純に『家族』である王族達が私を疎んでいたということもあるのかもしれない。
英雄と讃えられた私はさぞ扱いにくかっただろう。
戦争の元凶ということにしてしまえば一気に転落する程度の名声だったというのに。
なんにせよ、民は容易くそれを信じたのだ。
英雄と呼び、私がいるから守られていたのだと。
褒め称えていた同じ口で英雄と呼ばれるために戦争を起こしたのだと罵られた。
(私生児の王族……私のどこにそんな権限があるんだ)
そんな言葉は民衆に伝わらない。
愛する人を失い、憎しみの対象を失った人々には『生贄』が必要だった。
得意の魔法を封じる拘束具をつけているが、そんなものがなくとも逃げる気など起きなかった。
優しい記憶と人としての儚い思いを教えてくれた人はもう、この世にはいないのだから。
「お前の、せいで!!」
そんな声とともに頭へ衝撃を受ける。
おそらく投げられた石が頭に当たったのだろう。
たらりと血が流れたが、痛いとも感じずに心は凪いでいた。
(神よ)
なんの感情も映さずに処刑器具へと体を預ける。
鈍色の重い刃は間もなく私の首を叩き斬るのだろう。
それでも恐怖は起きなかった。
そういう一族に生まれたからというのもあるのかもしれないが、思い残すことももうなかった。
(私達が一体何をしたというのだ)
命令されるがままに戦って英雄と呼ばれるまでに上り詰めた。
貧困に喘ぐ人を救うために数多くの対策を取り、寄り添おうとした。
その結末が全ての責を押し付けられ、友人さえも有りもしない罪で命を奪われるなんて。
(ヘルト……)
呟くように、口が彼の名を形作る。
もういない友人のことを想いながら。
友人と私を救わない神を呪いながら。
カリア・スプラウトという名の王女はその生涯を閉じた。
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