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「久々に手合わせでもするか」
「貴方様が望まれるのでしたら」
すっと頭を垂れると、今から始まる訓練を知る騎士達は顔を青ざめさせ、すぐに素振りや訓練を続けている者たちへ必死の形相で「退避ー!」「死にたくないやつは逃げろー!」ととても失礼なことを口走りながら走り去っていく。顔は覚えたからな。あとで覚悟しておけ。
興味本位で退避位置まで下がっていない者は放置して、私と模擬剣を抜いた殿下は対峙する。
「行きます──」
ぶわりと私を中心にして、魔力の放出が始まる。
私が鉄扇を懐から取り出し、ザッと開いた。
それが、合図。
「ふっ──!」
殿下が一歩踏み出し、一閃。
その一歩はともすれば殿下が一瞬で消えたように感じるほど早く。気づけば目の前にいるような錯覚に陥るほどに急接近させている驚くべき脚力。魔物でさえも一太刀で屠れる魔力で強化された模擬剣は真剣と代わりない。一撃でも当たれば私の体は真っ二つに切れることは想像に難くなかった。
ギィイイインッと、殿下の剣が瞬間的に閉じた鉄扇の前に展開した防御壁を滑って、不快音をあたりに響き渡らせる。
剣圧によってフードが外れた。ふわりと私の黒髪が風に乗せて乱れるのも構わず、私の頭の中は静かに次の一手を予測、計算を繰り返す。
タンッと足を踏み鳴らした瞬間。
殿下が目を見開き、瞬時に後退した。
「はああああっ」
後退する殿下を追いかけるように発生した風の刃は、不可視であるにも関わらずに殿下の剣と拮抗し、弾かれる。弾かれた魔法は軌道をずらして、先にあった木を粉々にした。
その隣にいた危機管理の薄い騎士は顔を土色にしているが、まだ青ざめただけの騎士に引っ張られて安全地帯まで引きずられているので大丈夫だろう。
「殺す気ですか。殿下」
顔を歪めながら、再び鉄扇を開いて横薙ぎに振る。
銀糸を編み込んだ朱銀の飾り房が尾を引いた後、私の頭上に十数本の氷柱が形成された。
その氷柱は一つ一つ殿下の身長ほど大きく、殿下を狙う先は鋭い。すべての氷柱が同じ大きさなのは、多くの物質を形成する場合一番魔力の消費が少ないからだ。個々で大きさを変えること、軌道を変えることは普段片手で絵を描いている状態から両手で左右違う絵を描いている状態になることと同義である。
それでも、驚異であることには変わりない。
「お前っ……こそ!」
襲いかかる氷柱を時には避け、時には砕きながら私へと距離を詰める殿下へ、今度は下から上へ大ぶりに鉄扇をふり上げる。次に来る攻撃を察した殿下が即座に横へと転がれば、殿下が先程までいた地面から空に向けて地面が槍のように突き出された。
殿下が避けるのはわかっていることだ。振り上げた鉄扇を角度を変えて素早く斜めしたへと滑らせる。
殿下の回避行動前に形成され始めていた氷柱が、殿下の回避先へと向きを変えて突き刺そうと落ちていった。
「チィッ」
バネのように跳ね上がって後方へ次々と氷柱を避けた殿下は、態勢を整えると、刀身に指を這わせた。
途端に殿下の模擬剣は炎を纏う。
「行くぞ。ティア」
静かな宣言は、次で決めるのだという意思の表れ。
殿下の最も得意とする魔法を見て、応える為に私はタンッと足を踏み鳴らし、前に構えた鉄扇を翻した。
「貴方様の望むままに」
踏み鳴らした地面から地面が凍っていき、爪先少し前方から氷柱が生まれ出る。
私の頭上に新しく形成された氷柱は速度を上げる。先程までの攻撃がまるで歩いていたかのように。
そして、氷柱を形成出来るのは頭上だけではない。殿下の背後にも氷柱は形成されて、挟み撃ちを仕掛けた。
私と殿下以外の誰もが息を呑んだ気がした。一歩間違えれば、殿下を大怪我させる──殺すかもしれない魔法の連発に、本当に訓練なのかと思う闘いに。それを命じる殿下と、躊躇せず魔法を放つ私に。
前後そして地面から迫りくる氷柱を、殿下は慌てることなく、地面にめり込むほど深く踏み込んだ。
誰もが──それこそ、私までもがきっと。殿下の技に魅入った。
後ろから迫りくる氷柱を見ることなく防ぎ、本当に邪魔な氷柱だけを叩き切りながらも、前へ進むその歩が決して緩まることはない。
殿下に切られた氷柱は一瞬で蒸発する。きらきらと蒸発した水蒸気が光を反射して光った。
それはまるで一枚の絵のようで。早いはずなのに、殿下の動きを目で追う私にはとてもゆっくりに見える。
口元が緩まるのをやめられない。半月を描く私の唇を抑えることはできず、きっと絵本の魔女のような醜悪さに見えることだろう。それでも、敬愛する殿下の勇姿に、気持ちの高ぶりは収まらない。
そんな殿下に対して、無様な姿をお見せするわけにはいかない。
くるりとつま先で地面に半円を描く。回り切る前に鉄扇をぱちりと閉じて先を左手で支えた。
私の鉄扇と殿下の剣が訓練場に響き渡るほどに激しい音と風圧を発生させながら交わった。実際には展開した防御壁と殿下の炎の剣が、であるが。
しかも、展開した3枚のうち2枚の防御壁が衝撃で破壊されたのはおかしいでしょうと叫びだしたかった。
「肉体強化使うとかずるじゃないかっ」
「これも魔法のうちですよっ」
魔法で肉体強化も行っているが、身長差だけではなく魔法で補っても殿下の力に押し負けそうな私は、やはり近接には向かない。それを感じさせない微笑みを浮かべる私に、地面に描かれた線を見て、殿下はハッとした。
「きったな──」
次に何がくるか察した殿下が私を鉄扇ごと押し飛ばす。
地面に描いた線を起点として起こった爆風は殿下を容赦無く吹き飛ばした。
ごろごろと吹き飛んだ先で、肩で息をする殿下。足元に防御壁を張って、それを更に足場にして爆風の衝撃を緩和させたのだろう。傷一つないのは流石としか言いようがない。
魔法士が相性の悪い近接職の接近を許すなど、罠以外にないと殿下も知っているだろうに。私を睨む視線にちょっと傷つく。
「──そこまで!」
パァンッと響き渡った柏手に、私と殿下は動きを止めた。
「貴方様が望まれるのでしたら」
すっと頭を垂れると、今から始まる訓練を知る騎士達は顔を青ざめさせ、すぐに素振りや訓練を続けている者たちへ必死の形相で「退避ー!」「死にたくないやつは逃げろー!」ととても失礼なことを口走りながら走り去っていく。顔は覚えたからな。あとで覚悟しておけ。
興味本位で退避位置まで下がっていない者は放置して、私と模擬剣を抜いた殿下は対峙する。
「行きます──」
ぶわりと私を中心にして、魔力の放出が始まる。
私が鉄扇を懐から取り出し、ザッと開いた。
それが、合図。
「ふっ──!」
殿下が一歩踏み出し、一閃。
その一歩はともすれば殿下が一瞬で消えたように感じるほど早く。気づけば目の前にいるような錯覚に陥るほどに急接近させている驚くべき脚力。魔物でさえも一太刀で屠れる魔力で強化された模擬剣は真剣と代わりない。一撃でも当たれば私の体は真っ二つに切れることは想像に難くなかった。
ギィイイインッと、殿下の剣が瞬間的に閉じた鉄扇の前に展開した防御壁を滑って、不快音をあたりに響き渡らせる。
剣圧によってフードが外れた。ふわりと私の黒髪が風に乗せて乱れるのも構わず、私の頭の中は静かに次の一手を予測、計算を繰り返す。
タンッと足を踏み鳴らした瞬間。
殿下が目を見開き、瞬時に後退した。
「はああああっ」
後退する殿下を追いかけるように発生した風の刃は、不可視であるにも関わらずに殿下の剣と拮抗し、弾かれる。弾かれた魔法は軌道をずらして、先にあった木を粉々にした。
その隣にいた危機管理の薄い騎士は顔を土色にしているが、まだ青ざめただけの騎士に引っ張られて安全地帯まで引きずられているので大丈夫だろう。
「殺す気ですか。殿下」
顔を歪めながら、再び鉄扇を開いて横薙ぎに振る。
銀糸を編み込んだ朱銀の飾り房が尾を引いた後、私の頭上に十数本の氷柱が形成された。
その氷柱は一つ一つ殿下の身長ほど大きく、殿下を狙う先は鋭い。すべての氷柱が同じ大きさなのは、多くの物質を形成する場合一番魔力の消費が少ないからだ。個々で大きさを変えること、軌道を変えることは普段片手で絵を描いている状態から両手で左右違う絵を描いている状態になることと同義である。
それでも、驚異であることには変わりない。
「お前っ……こそ!」
襲いかかる氷柱を時には避け、時には砕きながら私へと距離を詰める殿下へ、今度は下から上へ大ぶりに鉄扇をふり上げる。次に来る攻撃を察した殿下が即座に横へと転がれば、殿下が先程までいた地面から空に向けて地面が槍のように突き出された。
殿下が避けるのはわかっていることだ。振り上げた鉄扇を角度を変えて素早く斜めしたへと滑らせる。
殿下の回避行動前に形成され始めていた氷柱が、殿下の回避先へと向きを変えて突き刺そうと落ちていった。
「チィッ」
バネのように跳ね上がって後方へ次々と氷柱を避けた殿下は、態勢を整えると、刀身に指を這わせた。
途端に殿下の模擬剣は炎を纏う。
「行くぞ。ティア」
静かな宣言は、次で決めるのだという意思の表れ。
殿下の最も得意とする魔法を見て、応える為に私はタンッと足を踏み鳴らし、前に構えた鉄扇を翻した。
「貴方様の望むままに」
踏み鳴らした地面から地面が凍っていき、爪先少し前方から氷柱が生まれ出る。
私の頭上に新しく形成された氷柱は速度を上げる。先程までの攻撃がまるで歩いていたかのように。
そして、氷柱を形成出来るのは頭上だけではない。殿下の背後にも氷柱は形成されて、挟み撃ちを仕掛けた。
私と殿下以外の誰もが息を呑んだ気がした。一歩間違えれば、殿下を大怪我させる──殺すかもしれない魔法の連発に、本当に訓練なのかと思う闘いに。それを命じる殿下と、躊躇せず魔法を放つ私に。
前後そして地面から迫りくる氷柱を、殿下は慌てることなく、地面にめり込むほど深く踏み込んだ。
誰もが──それこそ、私までもがきっと。殿下の技に魅入った。
後ろから迫りくる氷柱を見ることなく防ぎ、本当に邪魔な氷柱だけを叩き切りながらも、前へ進むその歩が決して緩まることはない。
殿下に切られた氷柱は一瞬で蒸発する。きらきらと蒸発した水蒸気が光を反射して光った。
それはまるで一枚の絵のようで。早いはずなのに、殿下の動きを目で追う私にはとてもゆっくりに見える。
口元が緩まるのをやめられない。半月を描く私の唇を抑えることはできず、きっと絵本の魔女のような醜悪さに見えることだろう。それでも、敬愛する殿下の勇姿に、気持ちの高ぶりは収まらない。
そんな殿下に対して、無様な姿をお見せするわけにはいかない。
くるりとつま先で地面に半円を描く。回り切る前に鉄扇をぱちりと閉じて先を左手で支えた。
私の鉄扇と殿下の剣が訓練場に響き渡るほどに激しい音と風圧を発生させながら交わった。実際には展開した防御壁と殿下の炎の剣が、であるが。
しかも、展開した3枚のうち2枚の防御壁が衝撃で破壊されたのはおかしいでしょうと叫びだしたかった。
「肉体強化使うとかずるじゃないかっ」
「これも魔法のうちですよっ」
魔法で肉体強化も行っているが、身長差だけではなく魔法で補っても殿下の力に押し負けそうな私は、やはり近接には向かない。それを感じさせない微笑みを浮かべる私に、地面に描かれた線を見て、殿下はハッとした。
「きったな──」
次に何がくるか察した殿下が私を鉄扇ごと押し飛ばす。
地面に描いた線を起点として起こった爆風は殿下を容赦無く吹き飛ばした。
ごろごろと吹き飛んだ先で、肩で息をする殿下。足元に防御壁を張って、それを更に足場にして爆風の衝撃を緩和させたのだろう。傷一つないのは流石としか言いようがない。
魔法士が相性の悪い近接職の接近を許すなど、罠以外にないと殿下も知っているだろうに。私を睨む視線にちょっと傷つく。
「──そこまで!」
パァンッと響き渡った柏手に、私と殿下は動きを止めた。
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