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事件録4-5
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「……塚本先輩。」
平端の声が届いているかどうかもわからない。塚本は、署内の休憩所で、項垂れるように座っていた。
4人目の被害者は、塚本の娘で、事件が起こってからは子どもだけで外に出るな、と言い聞かせていた。しかし、母親不在で長男は家事手伝いをしており、インターホンが鳴ったことに気づかなかった。インターホンの音に反応した光里は、宅配業者と名乗る男を信用し、ドアを開けたところを改造エアガンで至近距離で複数回撃たれた。撃たれどころは微妙な箇所であったが、出血が多く、搬送先でも意識が戻らないということだった。
塚本は、それを聞いて本部長に掴み掛かった。坂倉をホシと早期に断定し、真犯人を野放しにした、だから坂倉と断定せず、他に調べるところがあるから調べさせろと言ったんだ、と怒りの勢いに任せて本部室で怒鳴りつけた。何とかその場は平端をはじめ、捜査官たちで収めたが、塚本は自身の身内が被害に遭ったことから捜査から外され、本部室を追い出されるような形となった。
「……病院へ、行かないんですか。」
「…光里の容体が良くなるなら、すぐにでも行ってやるよ。」
「先輩の分まで、私が頑張りますから、先輩は…」
「納得できるかよ!!!」
平端は初めて、塚本の本物の怒りに触れて、塚本の声に反応するように体が震えるのを感じた。
「…すまん。」
「いえ…。」
平端は項垂れる塚本の横に座りこんだ。
「…私は、結婚もしてないですから、塚本先輩の気持ちは想像できても、全部理解できるわけじゃないです。申し訳ないですけど…」
塚本は黙ったまま、独り言のような平端の言葉を聞いていた。
「でも、子どもを狙った犯罪は許せないって気持ちはわかるつもりです。特に、葵ちゃんなんか見てると、居た堪れなくて…。泣きそうになることもあります。何でこの子が死ななきゃならなかったのって。」
「……お前も、辛いよな。死んじまった子どもが見えてて、しかも死んだことにすら気付けずに、ひたすらお前の後をついてくるんだから…」
平端はその言葉に小さく笑みを浮かべ、塚本を見つめる。
「でもね、葵ちゃんその度に、私に向かって笑いかけるんですよ。元気出してって言われてるみたいに。今は、塚本先輩の前で、必死で元気付けようと笑って、笑ってって励ましてますけどね。」
塚本は、見えるはずのない葵の姿を見るように、目の前を見据え、涙を浮かべる。葵は、目があったと思ったのか、さらに笑顔で塚本に笑いかけ、元気を出させようと健気に振る舞っていた。
「娘さんのところに、行ってあげてください。何もできないって歯痒い気持ちはわかりますけど、捜査から外されて勝手に動き回った挙句、免職なんてくらったら、娘さん悲しみますよ。何かわかったら、報告します。娘さんを酷い目に遭わせたやつは、必ず捕まえます。葵ちゃんと、2人で頑張りますから。」
そう言うと、塚本は決心したように涙を拭い、立ち上がった。
「……絶対捕まえろよ。葵ちゃんのためにも、娘のためにもな。」
「ええ、もちろん。娘さんが帰ってくることを信じて、待っててください。」
「……葵ちゃんに、ありがとなって伝えといてくれ。」
塚本はそれだけ言うと、足早に光里の搬送先である病院へ向かった。葵はその背中を見送り、またきょとんとした顔をしている。
(おじさん、ありがとうって言ってたよ。)
そう心の中で呟くと、葵は嬉しそうに笑顔で頷いた。
平端は、やるせなさを抱えながらも、娘の元に向かう塚本を見送った後、すぐに車に乗り込み葵が唯一恐怖を抱いた中学校へ向かった。
(死んだことにも気づいてない葵ちゃんが、唯一怖がった場所…。生前に何か、怖い目に遭った?例えば、ここの制服を着た生徒にいじめられたとか…)
とここまで考えた時、平端は車を方向転換させ、行き先を変更した。車がたどり着いた先は、葵が事件直前まで遊んでいたと思われる市民公園だった。葵は、公園に来られて嬉しそうにはしゃいでいるが、平端はひたすら歩いて公園を見回った。
(確か、塚本先輩が聴取に行った中学校でも、この公園のことが話に出てきてたはず。もしかしたら…)
と思った瞬間、背後からヒヤッとする感覚が平端の体に走った。ついた当初はあれだけはしゃいでいた葵が、いつの間にか平端の背後に回り、何かから隠れるように背中にくっついていた。
(あー、びっくりした…、いや、それより、どうしたんだろ、葵ちゃん…)
よくよく葵の視線の先を見ると、小学生の子どもたちが砂場で遊んでいたらしいところに、中学生数人が邪魔をしており、子どもたちが怯え切っていた。
「こら!何やってんの!!」
平端は、小学生の子達を庇うように背後に隠し、中学生数人の前に立ちはだかった。少年達は、なんだこいつ、や、あの学校の先公じゃねぇの、と言葉は悪いが、パッと見た容姿はどこにでもいる中学生、という印象だった。
「小さい子を怖がらせて何してるの。」
「別に?そんな怖がってました?その子ら。」
リーダー格のような少年がそう言うと、くすくすと嫌な笑い方をしながら、平端を挑発する。
「ちゃんと目がついてるんだから、見なさいよ。泣きそうになってる子もいるでしょう。」
「楽しすぎて笑っても涙は出るでしょ、これはそういうやつですよ、な!そうだろ?」
少年が、平端の背後にいる子どもたちに、威圧にもとれる同意を得ようとするが、子どもたちは怯えて震えるだけで、返事もできなかった。少年グループの方は、何を喋っているのか聞こえないが、コソコソ喋っては笑っている。
「まぁいいや。てか、おばさん、マジ邪魔だから、どいてくれる?」
「どくのはあなた達。ついでに言うと、退散しなきゃ、痛い目見るわよ。」
「は?おばさん、俺に勝てると思ってんの?そんな弱そうな体で?」
ゲラゲラと笑う少年たちに、平端は胸から警察手帳を出し、身分を示した。
「剣道5段、柔道は黒帯だけど。勝てる自信ある?しかも、私に少しでも攻撃すれば、公務執行妨害でたとえ中学生でも逮捕よ。」
「……は?警察?」
先ほどまで自分たちが有意だと思い込んでいた中学生たちは、目の色を変えて青ざめた。
「あと一回しか言わないわ、さっさと退散しなさい!」
「お、おい、渡部…さすがにやべぇって。」
「…くそが!」
渡部と呼ばれたリーダー格の少年は、悔しそうに土を入れるためのおもちゃのバケツを蹴り上げると、走って退散して行った。小学生達は、緊張の糸が切れたようで、一様に泣きはじめた。
「もう大丈夫、追い払ったから。怖かったね。」
「お姉ちゃん、ありがと…」
「怪我とかない?あったら見せて、手当てするから。」
「……大丈夫、どこも痛いとこないよ。」
見たところ、小学生数人は土まみれであるが、直接的に殴られたような跡や、傷をつけられた跡はなく、子どもたちが遊んでいたところを少年たちが邪魔をし、怯える姿をみて愉しんでいた、というところか、と平端は推測した。
葵も目の前の子どもたちと同様に怯えながらも、泣いている子たちをなぐさめようと頭を撫でようとしている。
(葵ちゃんが怯えていた理由、やっぱりあの中学校の生徒が関係してそう…。だから、体育の授業を受けてる中学生を見て、怖くなったんだ。)
葵は、助けを求めるような顔で、平端を見た。
(葵ちゃん、今から中学校行くよ。怖かったら、公園で待っててもいいから。)
子どもたちが落ち着いたところを見計らい、平端は公園を後にした。車に乗り込み、アクセルを踏み出すと、後部座席にはしっかりと葵がついてきていた。平端は驚きつつも、葵の表情を見て改めて気合を入れ直した。その目には、先ほどの子どもたちを怖い目にあわせた少年たちを許せない、という純粋な正義が宿っていた。
平端の声が届いているかどうかもわからない。塚本は、署内の休憩所で、項垂れるように座っていた。
4人目の被害者は、塚本の娘で、事件が起こってからは子どもだけで外に出るな、と言い聞かせていた。しかし、母親不在で長男は家事手伝いをしており、インターホンが鳴ったことに気づかなかった。インターホンの音に反応した光里は、宅配業者と名乗る男を信用し、ドアを開けたところを改造エアガンで至近距離で複数回撃たれた。撃たれどころは微妙な箇所であったが、出血が多く、搬送先でも意識が戻らないということだった。
塚本は、それを聞いて本部長に掴み掛かった。坂倉をホシと早期に断定し、真犯人を野放しにした、だから坂倉と断定せず、他に調べるところがあるから調べさせろと言ったんだ、と怒りの勢いに任せて本部室で怒鳴りつけた。何とかその場は平端をはじめ、捜査官たちで収めたが、塚本は自身の身内が被害に遭ったことから捜査から外され、本部室を追い出されるような形となった。
「……病院へ、行かないんですか。」
「…光里の容体が良くなるなら、すぐにでも行ってやるよ。」
「先輩の分まで、私が頑張りますから、先輩は…」
「納得できるかよ!!!」
平端は初めて、塚本の本物の怒りに触れて、塚本の声に反応するように体が震えるのを感じた。
「…すまん。」
「いえ…。」
平端は項垂れる塚本の横に座りこんだ。
「…私は、結婚もしてないですから、塚本先輩の気持ちは想像できても、全部理解できるわけじゃないです。申し訳ないですけど…」
塚本は黙ったまま、独り言のような平端の言葉を聞いていた。
「でも、子どもを狙った犯罪は許せないって気持ちはわかるつもりです。特に、葵ちゃんなんか見てると、居た堪れなくて…。泣きそうになることもあります。何でこの子が死ななきゃならなかったのって。」
「……お前も、辛いよな。死んじまった子どもが見えてて、しかも死んだことにすら気付けずに、ひたすらお前の後をついてくるんだから…」
平端はその言葉に小さく笑みを浮かべ、塚本を見つめる。
「でもね、葵ちゃんその度に、私に向かって笑いかけるんですよ。元気出してって言われてるみたいに。今は、塚本先輩の前で、必死で元気付けようと笑って、笑ってって励ましてますけどね。」
塚本は、見えるはずのない葵の姿を見るように、目の前を見据え、涙を浮かべる。葵は、目があったと思ったのか、さらに笑顔で塚本に笑いかけ、元気を出させようと健気に振る舞っていた。
「娘さんのところに、行ってあげてください。何もできないって歯痒い気持ちはわかりますけど、捜査から外されて勝手に動き回った挙句、免職なんてくらったら、娘さん悲しみますよ。何かわかったら、報告します。娘さんを酷い目に遭わせたやつは、必ず捕まえます。葵ちゃんと、2人で頑張りますから。」
そう言うと、塚本は決心したように涙を拭い、立ち上がった。
「……絶対捕まえろよ。葵ちゃんのためにも、娘のためにもな。」
「ええ、もちろん。娘さんが帰ってくることを信じて、待っててください。」
「……葵ちゃんに、ありがとなって伝えといてくれ。」
塚本はそれだけ言うと、足早に光里の搬送先である病院へ向かった。葵はその背中を見送り、またきょとんとした顔をしている。
(おじさん、ありがとうって言ってたよ。)
そう心の中で呟くと、葵は嬉しそうに笑顔で頷いた。
平端は、やるせなさを抱えながらも、娘の元に向かう塚本を見送った後、すぐに車に乗り込み葵が唯一恐怖を抱いた中学校へ向かった。
(死んだことにも気づいてない葵ちゃんが、唯一怖がった場所…。生前に何か、怖い目に遭った?例えば、ここの制服を着た生徒にいじめられたとか…)
とここまで考えた時、平端は車を方向転換させ、行き先を変更した。車がたどり着いた先は、葵が事件直前まで遊んでいたと思われる市民公園だった。葵は、公園に来られて嬉しそうにはしゃいでいるが、平端はひたすら歩いて公園を見回った。
(確か、塚本先輩が聴取に行った中学校でも、この公園のことが話に出てきてたはず。もしかしたら…)
と思った瞬間、背後からヒヤッとする感覚が平端の体に走った。ついた当初はあれだけはしゃいでいた葵が、いつの間にか平端の背後に回り、何かから隠れるように背中にくっついていた。
(あー、びっくりした…、いや、それより、どうしたんだろ、葵ちゃん…)
よくよく葵の視線の先を見ると、小学生の子どもたちが砂場で遊んでいたらしいところに、中学生数人が邪魔をしており、子どもたちが怯え切っていた。
「こら!何やってんの!!」
平端は、小学生の子達を庇うように背後に隠し、中学生数人の前に立ちはだかった。少年達は、なんだこいつ、や、あの学校の先公じゃねぇの、と言葉は悪いが、パッと見た容姿はどこにでもいる中学生、という印象だった。
「小さい子を怖がらせて何してるの。」
「別に?そんな怖がってました?その子ら。」
リーダー格のような少年がそう言うと、くすくすと嫌な笑い方をしながら、平端を挑発する。
「ちゃんと目がついてるんだから、見なさいよ。泣きそうになってる子もいるでしょう。」
「楽しすぎて笑っても涙は出るでしょ、これはそういうやつですよ、な!そうだろ?」
少年が、平端の背後にいる子どもたちに、威圧にもとれる同意を得ようとするが、子どもたちは怯えて震えるだけで、返事もできなかった。少年グループの方は、何を喋っているのか聞こえないが、コソコソ喋っては笑っている。
「まぁいいや。てか、おばさん、マジ邪魔だから、どいてくれる?」
「どくのはあなた達。ついでに言うと、退散しなきゃ、痛い目見るわよ。」
「は?おばさん、俺に勝てると思ってんの?そんな弱そうな体で?」
ゲラゲラと笑う少年たちに、平端は胸から警察手帳を出し、身分を示した。
「剣道5段、柔道は黒帯だけど。勝てる自信ある?しかも、私に少しでも攻撃すれば、公務執行妨害でたとえ中学生でも逮捕よ。」
「……は?警察?」
先ほどまで自分たちが有意だと思い込んでいた中学生たちは、目の色を変えて青ざめた。
「あと一回しか言わないわ、さっさと退散しなさい!」
「お、おい、渡部…さすがにやべぇって。」
「…くそが!」
渡部と呼ばれたリーダー格の少年は、悔しそうに土を入れるためのおもちゃのバケツを蹴り上げると、走って退散して行った。小学生達は、緊張の糸が切れたようで、一様に泣きはじめた。
「もう大丈夫、追い払ったから。怖かったね。」
「お姉ちゃん、ありがと…」
「怪我とかない?あったら見せて、手当てするから。」
「……大丈夫、どこも痛いとこないよ。」
見たところ、小学生数人は土まみれであるが、直接的に殴られたような跡や、傷をつけられた跡はなく、子どもたちが遊んでいたところを少年たちが邪魔をし、怯える姿をみて愉しんでいた、というところか、と平端は推測した。
葵も目の前の子どもたちと同様に怯えながらも、泣いている子たちをなぐさめようと頭を撫でようとしている。
(葵ちゃんが怯えていた理由、やっぱりあの中学校の生徒が関係してそう…。だから、体育の授業を受けてる中学生を見て、怖くなったんだ。)
葵は、助けを求めるような顔で、平端を見た。
(葵ちゃん、今から中学校行くよ。怖かったら、公園で待っててもいいから。)
子どもたちが落ち着いたところを見計らい、平端は公園を後にした。車に乗り込み、アクセルを踏み出すと、後部座席にはしっかりと葵がついてきていた。平端は驚きつつも、葵の表情を見て改めて気合を入れ直した。その目には、先ほどの子どもたちを怖い目にあわせた少年たちを許せない、という純粋な正義が宿っていた。
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