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第二章 魔塔の魔法使い
懐かしい魔法
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「だ、第二王子殿下……?」
「よく見たら、魔塔出身の魔法使いだけが持てるという、一級魔法使いの徽章をつけていらっしゃるわ」
「じゃあ、彼は世界で指折りの魔法使いになったということ?」
「それよりも見て、あの美貌。なんて素敵なのかしら……」
「嘘、彼があの幽閉王子?」
「シッ! 聞こえるわよ!」
小声で様々な言葉がメイドたちによって交わされているのが聞こえてきた。ほとんどが好意的なものではあるが、中には失礼な過去のあだ名を口にする者もいたし、そもそも本人の前で噂話をするとは失礼ではないだろうか。
私はそっと殿下の表情を窺ってみるが、メイドたちの声が聞こえているのかいないのか、彼が気分を害した様子はなかった。
彼がただにこにことこちらを見ている様子に安堵したものの、ここに長々といるのもまずい気がした。
「第二王子殿下。ひとまず、お戻りになったことを陛下にお伝えしてはいかがでしょうか。立派になった殿下のお姿をご覧になれば、きっとお喜びになると思われます」
そう提案すると、殿下は面倒そうな顔をした。
「あぁ、うん。そうだね……」
今にもため息を吐きそうに眉を寄せる彼の様子を見れば、気が乗らないのだということはすぐにわかるが、彼はこの国の王子である。戻ったことを、父親である国王へ知らせずに済ませるわけにはいかないだろう。
「じゃあリーシャ、一緒に行ってくれる?」
彼の思いもよらないお願いに、私は目を見張った。
なぜ、ただのメイドにすぎない自分が一緒に報告へ行くことになるのか。七年前ならばともかく、現在は彼の専属ですらない。むしろ、王太子であるセオラドの専属になっているのだ。一緒に行ったところで、おかしな目で見られるのが落ちだろう。
「その、わたくしはまだ仕事が残っておりますから」
遠回しに断ったつもりだったが、殿下は「あぁ」と納得したように頷くと、スイッと軽く人差し指を動かした。
すると、キラキラとした光の膜が殿下を中心に広がっていった。そこにあるもの全てを浄化するような美しい魔法に、私はその場にいたメイドたちと共に息を呑む。
掃除中だった窓や、バケツの水がこぼれた床、天井まで、あっという間にピカピカになってしまった。
私は、この魔法を見たことがあった。
殿下は以前も、この魔法で自身の部屋や、私が手の届かなかった天井部分などを綺麗にしていた。けれど、発動がすごく早くなっているし、効果範囲はずっと大きくなっている。彼の成長は、見た目だけではないのだということを肌で感じた。
「どう? これで、僕と一緒に行けるよね?」
殿下が、キラキラした笑顔でそう尋ねてきた。
無邪気な笑顔は以前と変わらないのだなと、私は思わず苦笑した。
……ここまでされたら、断れないじゃない。
「かしこまりました。わたくしでよろしければ、お供させていただきます」
「リーシャ以外に、一緒に来てほしい人なんていないよ」
……蕩けるような甘い笑顔で、そんなことを言わないでください。私はしなくても、周囲の人たちが誤解しますから!
メイドたちの視線を後ろからグサグサと感じながら、私は振り返ることなく、殿下と共にそそくさとその場を後にしたのだった。
「よく見たら、魔塔出身の魔法使いだけが持てるという、一級魔法使いの徽章をつけていらっしゃるわ」
「じゃあ、彼は世界で指折りの魔法使いになったということ?」
「それよりも見て、あの美貌。なんて素敵なのかしら……」
「嘘、彼があの幽閉王子?」
「シッ! 聞こえるわよ!」
小声で様々な言葉がメイドたちによって交わされているのが聞こえてきた。ほとんどが好意的なものではあるが、中には失礼な過去のあだ名を口にする者もいたし、そもそも本人の前で噂話をするとは失礼ではないだろうか。
私はそっと殿下の表情を窺ってみるが、メイドたちの声が聞こえているのかいないのか、彼が気分を害した様子はなかった。
彼がただにこにことこちらを見ている様子に安堵したものの、ここに長々といるのもまずい気がした。
「第二王子殿下。ひとまず、お戻りになったことを陛下にお伝えしてはいかがでしょうか。立派になった殿下のお姿をご覧になれば、きっとお喜びになると思われます」
そう提案すると、殿下は面倒そうな顔をした。
「あぁ、うん。そうだね……」
今にもため息を吐きそうに眉を寄せる彼の様子を見れば、気が乗らないのだということはすぐにわかるが、彼はこの国の王子である。戻ったことを、父親である国王へ知らせずに済ませるわけにはいかないだろう。
「じゃあリーシャ、一緒に行ってくれる?」
彼の思いもよらないお願いに、私は目を見張った。
なぜ、ただのメイドにすぎない自分が一緒に報告へ行くことになるのか。七年前ならばともかく、現在は彼の専属ですらない。むしろ、王太子であるセオラドの専属になっているのだ。一緒に行ったところで、おかしな目で見られるのが落ちだろう。
「その、わたくしはまだ仕事が残っておりますから」
遠回しに断ったつもりだったが、殿下は「あぁ」と納得したように頷くと、スイッと軽く人差し指を動かした。
すると、キラキラとした光の膜が殿下を中心に広がっていった。そこにあるもの全てを浄化するような美しい魔法に、私はその場にいたメイドたちと共に息を呑む。
掃除中だった窓や、バケツの水がこぼれた床、天井まで、あっという間にピカピカになってしまった。
私は、この魔法を見たことがあった。
殿下は以前も、この魔法で自身の部屋や、私が手の届かなかった天井部分などを綺麗にしていた。けれど、発動がすごく早くなっているし、効果範囲はずっと大きくなっている。彼の成長は、見た目だけではないのだということを肌で感じた。
「どう? これで、僕と一緒に行けるよね?」
殿下が、キラキラした笑顔でそう尋ねてきた。
無邪気な笑顔は以前と変わらないのだなと、私は思わず苦笑した。
……ここまでされたら、断れないじゃない。
「かしこまりました。わたくしでよろしければ、お供させていただきます」
「リーシャ以外に、一緒に来てほしい人なんていないよ」
……蕩けるような甘い笑顔で、そんなことを言わないでください。私はしなくても、周囲の人たちが誤解しますから!
メイドたちの視線を後ろからグサグサと感じながら、私は振り返ることなく、殿下と共にそそくさとその場を後にしたのだった。
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