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第二章 魔塔の魔法使い

意外とバイオレンス

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「ぎゃあっ!?」 
 
「えっ?」
 
 ズババババッ!
 
 どこから現れたのか、カロンがバッと男に飛びついて、顔中をひっかき始めた。
 鋭い爪に引き裂かれた場所から、激しい血飛沫が舞う。
 
「いでえええっ! な、何だ!? やめろ!!」
 
「カロン!?」
 
『あんたなんかこうしてやるわ! くらえーーー!!!』
 
 小さな体のどこに隠していたのか、カロンは猛獣のように鋭い爪で男の顔面を攻撃している。男が抵抗し始めると、カロンはちょこまかと体中を動き回りながら、さらに攻撃を加えていく。

 男は必死でカロンを捕らえようとしているが、小さくてすばしっこいカロンを捕らえることはできないようだった。
 
「やめろッ、やめ……ああああ!!」
 
 恐怖や痛みからか、ついに男は泡を吹いて倒れてしまった。男の体中、肉がえぐれて血まみれで、特に顔はなかなかひどい状態になっている。
 
 私が思わず青ざめていると、カロンは男の顔を血まみれにした長い爪をヒュッと引っ込めて、私の元へ駆けてきた。爪のことも不思議だが、それよりもっと不思議なことがある。
 
「カ、カロン。どうしてここに……?」
 
『リーシャ、大丈夫!? 遅くなってごめんね!!』
 
 バッと私の胸に飛び込んできたカロンを抱きしめてあげたいけれど、後ろ手に縛られている状況ではそれもできない。
 
「カロン、あの、私手が……」
 
『ああっ! リーシャ、こんなふうに縛られちゃって、可哀想に。今すぐに切ってあげるからね!』
 
 シャキンと先ほど男を切り裂いて失神させた長い爪を再び出して、カロンが目を光らせた。いつもはとても可愛らしいカロンを、初めて少し怖いと思ってしまった。
 
 手足の縄を難なく切ってくれたカロンにお礼を言いつつ、再び質問する。
 
「カロン、来てくれてとても助かったけれど、どうしてここがわかったの?」
 
『あら、そうね。言ってなかったわよね』
 
 カロンがふわふわの毛で覆われた胸を自慢気に張った。
 
『ワタシの能力は【影渡り】よ。魔力の気配を頼りに、影を渡って会ったことがある人物の元へ素早く駆けつけることができるの。同族なら、少しの間一緒に影の中へ身を潜めさせることもできるんだから!』
 
 カロンの思わぬ能力に、私は目を見張った。コロンが自身の能力を紹介した際に、危機察知の能力を地味だとカロンは言っていたけれど、確かにすごい能力だ。
 二匹は急に現れることが多いと思っていたけれど、小さいから見えていなかったのではなく、影に潜んでいたのかもしれない。
 
「でも、カロン。私には魔力がないのに、よく見つけられたわね?」
 
 マリッサのように魔力が豊富な人や、せめてルディオくらいの魔力があればその能力で見つけられても不思議ではないけれど、私は魔力が全くないのだ。カロンの能力は魔力の気配とやらを頼りに探すらしいので、私を見つけることは不可能に思える。
 
 ……それとも、もしかして本当はほんの少しくらい、私にも魔力があるのかしら!?
 
『あぁ、それはホラ、ご主人さまがいつもリーシャにマーキングしてるじゃない? ワタシはリーシャについたご主人さまの魔力を辿ったってワケよ!』
 
「……マーキング?」
 
 
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