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第二章 魔塔の魔法使い
謁見
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……私、どうしてこの場にいるのかしら?
誘拐事件から一夜明けた昼。
私は血の気が引く思いをしながら、必死に平静を装っていた。
今、私はなんと、人生で初めて玉座の間という場所に立っているのである。
そして、目の前には初めてお目にかかる、この国の頂点と呼べる方々がいた。
この上ない無表情で何を考えているのか全くわからない国王陛下と、嫌悪感をあらわにした表情でノラード様を見つめる王妃様。その周囲には、お二人の側近や護衛たちが数名。
そして、挑戦的な笑みを浮かべて二人を見据えるノラード様。
昔、王妃様はノラード様を嫌っていると聞いたことがあったが、この様子ならば、やはり噂は間違いではなかったらしい。
私はそんなことを考えつつも、何がなんだかわからないまま、彼の隣に立っていた。
……私、場違いすぎるわ。陛下たちに急遽謁見が可能になったことも不思議だけれど、仕返しに行くと言ったノラード様は、なぜここに私を連れて来たのかしら?
昨日、彼はとても怒っているように見えたけれど、冷静さは失っていなかったらしい。遅い時間帯であったし、休息が必要だろうということで、ひとまず私をメイド寮へと送ってくれた。明日はゆっくりでいいから、昼頃に来てねと言葉を残して。
おかげでよく休むことができて、昨日あんなことがあったにも関わらず私の体調は悪くなかった。
しかし彼はその後も色々と動いていたようで、今、こうして私たちは王の御前にいるというわけである。
「昨夜、何やら事件が起こったと聞いたが」
国王が、まるで感情を感じさせない声音で口火を切った。初めてそのお姿を拝見したが、彼はさすが国を背負う立場であるという威厳を持つ人物だった。
しかし何と言うか、とても疲れていらっしゃるのではないだろうか、とも思った。彼の覇気のない声と落ち窪んだ目元が、そう感じさせるのかもしれない。
「はい。今日の謁見を前に、私を始末しようと相手が手を打ったようです。もちろんこの通り私は無事ですが、おかげで私の大切な人が危険にさらされ、恐ろしい思いをさせることになってしまいました。到底、許すことなどできません」
そう言うノラード様は笑みを浮かべているものの、その目は冷え切っている。
それなのに、私はノラード様がさらりと発した「大切な人」という言葉に、内心悶絶しそうになっていた。
……こんな時にときめいている場合じゃないでしょ、私!
それに、この謁見は前もって決まっていたことだったらしい。私は、それもそうかと納得した。
今まで息子への愛情など少しも見せてこなかった国王のことだ。たとえ第二王子の暗殺未遂事件があったのだとしても、昨日の今日で正式な謁見を許可してくれると信じることはできなかった。
「それで、犯人は捕らえてあるのだろうな」
「もちろんです。雇われのゴロツキたちは陛下のお目汚しになりますので連れてきておりませんが、彼らの指示役はこの場に連れてきております」
ノラード様がサッと右手を軽く挙げると、扉付近に待機していたオラムが外へ声をかける。すると、騎士たちが一人の男を囲むようにして連れて入ってきた。
「……!」
王妃の後ろに控えている側近たちが、なぜかにわかにざわめいた。
手を後ろで縛られ、真っ青な顔をしてこちらへ連れてこられているのは、昨日ノラード様が捕らえた貴族風の男だ。
彼を見て、王妃が忌々しげに顔を歪めた。綺麗な顔立ちをしているのに、私の目には、その姿がとても醜悪に映った。
「彼が誰だか、王妃様はもちろんご存知ですよね?」
ノラード様の言葉に、ザワッとその場がどよめく。
私も、驚きに目を見開いて彼を見た。
もしや、王妃がノラード様の暗殺を指示したとでもいうのだろうか。彼の発言は、まさにそう指摘したに等しい。
「……無礼な。口を慎みなさい。証拠もないのに、わたくしがそこの犯罪者と知り合いだなどと、よくそのようなことが言えたものですね」
王妃が先ほどよりもさらに目つきを鋭くして、ノラード様を睨んだ。けれど、彼はそんなことなど全く意に介さない様子でニコリと微笑む。
「証拠がないなどと言った覚えはございません。まさに本人から聞いた話なのですから」
誘拐事件から一夜明けた昼。
私は血の気が引く思いをしながら、必死に平静を装っていた。
今、私はなんと、人生で初めて玉座の間という場所に立っているのである。
そして、目の前には初めてお目にかかる、この国の頂点と呼べる方々がいた。
この上ない無表情で何を考えているのか全くわからない国王陛下と、嫌悪感をあらわにした表情でノラード様を見つめる王妃様。その周囲には、お二人の側近や護衛たちが数名。
そして、挑戦的な笑みを浮かべて二人を見据えるノラード様。
昔、王妃様はノラード様を嫌っていると聞いたことがあったが、この様子ならば、やはり噂は間違いではなかったらしい。
私はそんなことを考えつつも、何がなんだかわからないまま、彼の隣に立っていた。
……私、場違いすぎるわ。陛下たちに急遽謁見が可能になったことも不思議だけれど、仕返しに行くと言ったノラード様は、なぜここに私を連れて来たのかしら?
昨日、彼はとても怒っているように見えたけれど、冷静さは失っていなかったらしい。遅い時間帯であったし、休息が必要だろうということで、ひとまず私をメイド寮へと送ってくれた。明日はゆっくりでいいから、昼頃に来てねと言葉を残して。
おかげでよく休むことができて、昨日あんなことがあったにも関わらず私の体調は悪くなかった。
しかし彼はその後も色々と動いていたようで、今、こうして私たちは王の御前にいるというわけである。
「昨夜、何やら事件が起こったと聞いたが」
国王が、まるで感情を感じさせない声音で口火を切った。初めてそのお姿を拝見したが、彼はさすが国を背負う立場であるという威厳を持つ人物だった。
しかし何と言うか、とても疲れていらっしゃるのではないだろうか、とも思った。彼の覇気のない声と落ち窪んだ目元が、そう感じさせるのかもしれない。
「はい。今日の謁見を前に、私を始末しようと相手が手を打ったようです。もちろんこの通り私は無事ですが、おかげで私の大切な人が危険にさらされ、恐ろしい思いをさせることになってしまいました。到底、許すことなどできません」
そう言うノラード様は笑みを浮かべているものの、その目は冷え切っている。
それなのに、私はノラード様がさらりと発した「大切な人」という言葉に、内心悶絶しそうになっていた。
……こんな時にときめいている場合じゃないでしょ、私!
それに、この謁見は前もって決まっていたことだったらしい。私は、それもそうかと納得した。
今まで息子への愛情など少しも見せてこなかった国王のことだ。たとえ第二王子の暗殺未遂事件があったのだとしても、昨日の今日で正式な謁見を許可してくれると信じることはできなかった。
「それで、犯人は捕らえてあるのだろうな」
「もちろんです。雇われのゴロツキたちは陛下のお目汚しになりますので連れてきておりませんが、彼らの指示役はこの場に連れてきております」
ノラード様がサッと右手を軽く挙げると、扉付近に待機していたオラムが外へ声をかける。すると、騎士たちが一人の男を囲むようにして連れて入ってきた。
「……!」
王妃の後ろに控えている側近たちが、なぜかにわかにざわめいた。
手を後ろで縛られ、真っ青な顔をしてこちらへ連れてこられているのは、昨日ノラード様が捕らえた貴族風の男だ。
彼を見て、王妃が忌々しげに顔を歪めた。綺麗な顔立ちをしているのに、私の目には、その姿がとても醜悪に映った。
「彼が誰だか、王妃様はもちろんご存知ですよね?」
ノラード様の言葉に、ザワッとその場がどよめく。
私も、驚きに目を見開いて彼を見た。
もしや、王妃がノラード様の暗殺を指示したとでもいうのだろうか。彼の発言は、まさにそう指摘したに等しい。
「……無礼な。口を慎みなさい。証拠もないのに、わたくしがそこの犯罪者と知り合いだなどと、よくそのようなことが言えたものですね」
王妃が先ほどよりもさらに目つきを鋭くして、ノラード様を睨んだ。けれど、彼はそんなことなど全く意に介さない様子でニコリと微笑む。
「証拠がないなどと言った覚えはございません。まさに本人から聞いた話なのですから」
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