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第二章 魔塔の魔法使い
暴露
扉から入ってきたのは、なんと王太子だった。
その後ろには、数人の側近を引き連れている。
彼は険しい表情をしながら、ゆっくりとこちらに歩を進めてきた。
「……セオラド?」
息子の登場に、さすがの王妃もわずかに動揺を見せた。訝しげな顔をしながら、歩み寄る王太子を見つめる。
「……母上。このようなことになり、とても残念に思っています。ですが、私はこの国の王太子として、あなたの行いを許すことはできません」
辛そうに一度きつく目を閉じた王太子が、強い眼差しで母親を見据えた。
「あなたは、様々な汚れ仕事をウードに強要してきました。その彼との関係が明るみに出ないよう、細心の注意を払ってきましたね。息子の私でさえ、彼に会ったことは一度もなかった。それなのに彼へ何度も指示を出すことができたのは、側近たちの協力があったからではございませんか?」
そう言って王太子は、横にいた側近から古びた文箱のようなものを受け取った。
「そ、それは……!?」
王妃の斜め後ろに控えていた彼女の側近の一人が、明らかな動揺を見せた。その顔は蒼白になっている。
「そうです。私の配下があなたの部屋から拝借した、ウードやその他小間使いへの指示書と、その返事が保管された箱です。ここに入っていた手紙には、聞くに堪えない内容がいくつも記されていて本当に驚きました。もちろん、第二王子の暗殺を指示する手紙も入っています」
そう言って、一枚の手紙をひらりと振ってみせる。
「もちろん巧妙に隠されてはいましたが、自らの悪事の証拠でしかないこれらの手紙を大事に取っておいたのは、いつか母上が自分を裏切ろうとした時、脅しの材料になると考えたからでしょうか?」
王太子が、文箱の持ち主である男に目を向けた。
王妃がこれ以上ないほど目を見開いて、自分の斜め後ろにいる側近を見つめている。まさか、そのような証拠が残されているとは思ってもいなかっただろう。そして、それを自らの息子が暴くということも。
「……母上。あなたはこの国の王妃です。このようなことをしなければ、全てを手に入れた女性として、幸せに過ごすことができていたはずなのに、どうして……」
王太子の言葉に、王妃は彼を射殺しそうな目で睨みつけた。
「全てですって? わたくしがいつ、全てを手に入れたというの?」
「……母上?」
ブツブツと独り言を呟くように話した王妃が何を言っているのか、私は聞き取ることができなかった。
王妃は、ずっと無表情のまま話を聞いていた自分の夫へと視線を向ける。唯一の妻がこんな状況なのに、目を合わせても、彼は何とも思っていないような顔で見つめ返すだけだった。さっさと罪を認めたらどうだ、と言わんばかりの態度で。
そんな国王の様子に、王妃はフッと失笑をもらした。そして、ゆっくりと王太子に向き直る。
「いやですわ、王太子。それをわたくしが指示したという証拠が、どこにあるのです?」
冷静に自身の関わりを否定する母親に、王太子は一瞬たじろいだ。
「何を……この手紙に書かれていることは、全てあなたの邪魔になる者を害したり、弱味を握って脅したりせよという内容でした。彼はあなたの忠実な側近です。彼はあなたの命令で……」
「忠実だからこそ、それは彼がただわたくしのためを思って、勝手に行動した結果です。わたくしは関係ありませんわ」
「……お、王妃様?」
忠実な側近だという彼の方を見ることもなく、王妃はバッサリと、長年仕えてきたであろう相手さえ切り捨てた。
「陛下、あれらの手紙にわたくしが関与したという明確な証拠はございません。わたくしは、そのような手紙を書いたことは一度もございませんもの。わたくしは無関係ですわ」
「ふむ……」
笑みさえ浮かべながら堂々とそう言う王妃に、国王は少し目を伏せつつ、悩むような素振りを見せる。
そして国王は、呆然とする男へと視線を向けた。
睨んだわけでも、凄んだわけでもなかったが、男は「ヒッ」と声をあげて、混乱したように王妃を責め始めた。
「王妃様! 幼い頃からあなたに尽くしてきた私を、なぜこのようにあっさりと捨てられるのですか! 私がどれだけあなたのために汚れた仕事も引き受けてきたか、覚えておられるはずでしょう!!」
「あら、嫌ですわ、汚れた仕事だなんて。もちろん、わたくしはとても悲しいですし、残念に思ってもいるのですよ? あなたはよく仕えてくれた部下でしたもの。ですがわたくしのためとはいえ、あなたが許されないことをしたというならば、罰を受けるのは当然のことではありませんか。わたくしとて、あなたを手放すのは断腸の思いですわ」
「……! ふ、ふ、ふざけるなよ……」
怒りと恐怖に顔を歪めた男が、きつく握った拳をぶるぶると震わせている。
「何をしているの? 騎士たち、彼を連れて行きなさい」
完全に見放され、切り捨てられた男は怒りが我慢の限界を突破したようだ。
声を荒らげ、死なばもろともと、とんでもないことを口走り始めた。
「王妃様、私が一人で罪を被ると思ったら大間違いですぞ! 公爵家にのみ咲く白い花の毒を側妃様に飲ませ続けて殺したことを陛下が知られれば、あなた様もただでは済みますまい!!」
その後ろには、数人の側近を引き連れている。
彼は険しい表情をしながら、ゆっくりとこちらに歩を進めてきた。
「……セオラド?」
息子の登場に、さすがの王妃もわずかに動揺を見せた。訝しげな顔をしながら、歩み寄る王太子を見つめる。
「……母上。このようなことになり、とても残念に思っています。ですが、私はこの国の王太子として、あなたの行いを許すことはできません」
辛そうに一度きつく目を閉じた王太子が、強い眼差しで母親を見据えた。
「あなたは、様々な汚れ仕事をウードに強要してきました。その彼との関係が明るみに出ないよう、細心の注意を払ってきましたね。息子の私でさえ、彼に会ったことは一度もなかった。それなのに彼へ何度も指示を出すことができたのは、側近たちの協力があったからではございませんか?」
そう言って王太子は、横にいた側近から古びた文箱のようなものを受け取った。
「そ、それは……!?」
王妃の斜め後ろに控えていた彼女の側近の一人が、明らかな動揺を見せた。その顔は蒼白になっている。
「そうです。私の配下があなたの部屋から拝借した、ウードやその他小間使いへの指示書と、その返事が保管された箱です。ここに入っていた手紙には、聞くに堪えない内容がいくつも記されていて本当に驚きました。もちろん、第二王子の暗殺を指示する手紙も入っています」
そう言って、一枚の手紙をひらりと振ってみせる。
「もちろん巧妙に隠されてはいましたが、自らの悪事の証拠でしかないこれらの手紙を大事に取っておいたのは、いつか母上が自分を裏切ろうとした時、脅しの材料になると考えたからでしょうか?」
王太子が、文箱の持ち主である男に目を向けた。
王妃がこれ以上ないほど目を見開いて、自分の斜め後ろにいる側近を見つめている。まさか、そのような証拠が残されているとは思ってもいなかっただろう。そして、それを自らの息子が暴くということも。
「……母上。あなたはこの国の王妃です。このようなことをしなければ、全てを手に入れた女性として、幸せに過ごすことができていたはずなのに、どうして……」
王太子の言葉に、王妃は彼を射殺しそうな目で睨みつけた。
「全てですって? わたくしがいつ、全てを手に入れたというの?」
「……母上?」
ブツブツと独り言を呟くように話した王妃が何を言っているのか、私は聞き取ることができなかった。
王妃は、ずっと無表情のまま話を聞いていた自分の夫へと視線を向ける。唯一の妻がこんな状況なのに、目を合わせても、彼は何とも思っていないような顔で見つめ返すだけだった。さっさと罪を認めたらどうだ、と言わんばかりの態度で。
そんな国王の様子に、王妃はフッと失笑をもらした。そして、ゆっくりと王太子に向き直る。
「いやですわ、王太子。それをわたくしが指示したという証拠が、どこにあるのです?」
冷静に自身の関わりを否定する母親に、王太子は一瞬たじろいだ。
「何を……この手紙に書かれていることは、全てあなたの邪魔になる者を害したり、弱味を握って脅したりせよという内容でした。彼はあなたの忠実な側近です。彼はあなたの命令で……」
「忠実だからこそ、それは彼がただわたくしのためを思って、勝手に行動した結果です。わたくしは関係ありませんわ」
「……お、王妃様?」
忠実な側近だという彼の方を見ることもなく、王妃はバッサリと、長年仕えてきたであろう相手さえ切り捨てた。
「陛下、あれらの手紙にわたくしが関与したという明確な証拠はございません。わたくしは、そのような手紙を書いたことは一度もございませんもの。わたくしは無関係ですわ」
「ふむ……」
笑みさえ浮かべながら堂々とそう言う王妃に、国王は少し目を伏せつつ、悩むような素振りを見せる。
そして国王は、呆然とする男へと視線を向けた。
睨んだわけでも、凄んだわけでもなかったが、男は「ヒッ」と声をあげて、混乱したように王妃を責め始めた。
「王妃様! 幼い頃からあなたに尽くしてきた私を、なぜこのようにあっさりと捨てられるのですか! 私がどれだけあなたのために汚れた仕事も引き受けてきたか、覚えておられるはずでしょう!!」
「あら、嫌ですわ、汚れた仕事だなんて。もちろん、わたくしはとても悲しいですし、残念に思ってもいるのですよ? あなたはよく仕えてくれた部下でしたもの。ですがわたくしのためとはいえ、あなたが許されないことをしたというならば、罰を受けるのは当然のことではありませんか。わたくしとて、あなたを手放すのは断腸の思いですわ」
「……! ふ、ふ、ふざけるなよ……」
怒りと恐怖に顔を歪めた男が、きつく握った拳をぶるぶると震わせている。
「何をしているの? 騎士たち、彼を連れて行きなさい」
完全に見放され、切り捨てられた男は怒りが我慢の限界を突破したようだ。
声を荒らげ、死なばもろともと、とんでもないことを口走り始めた。
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