半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

幕間 ノアの挨拶

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 キアラに命を救われて、目を覚ましてから三日が経った。

 キアラの眷属になったことによって、身体の不調は、嘘みたいにスッキリと消えた。
 成長するにつれ膨れ上がっていく魔力を抑えようと、常に気を張っている必要もなくなったし、身体能力も多少向上している。
 オレがこれほどの恩恵を受けているのに、キアラには何の変化も感じられないらしい。力を分け与えたようなものなのだから、何かしらの不調があったとしてもおかしくない。気を遣って隠しているのではないかとも思ったが、どうやら本当のようだ。キアラは隠しごとが上手くないから、間違いないと思う。
「ノアがどこにいるかとか、元気でいるかとかがわかるようになったから嬉しい!」とはしゃぐ姿に、何とも言えなくなった。

 ……キアラって、本当にバカだ。なのに、なんでこんなに愛しいんだろうな。

 
 今日は、キアラの父親である皇帝に呼び出されている。サーシャさんも一緒に話をしたいとのことだったが、きっとキアラ絡みの話だろう。もしかしたら、オレがキアラの眷属になったことについて、何か釘を刺すつもりかもしれない。

「陛下、ノアルード様がお見えになりましたよ」

 案内役の人がそう声をかけると、扉の奥から、「入れ」という落ち着いた声が響いた。
 扉を守る騎士の一人がゆっくりと扉を開けると、そこには優雅にソファに座る、一組の男女がいた。

「やあ、ノアルード。体の調子はどうかな?」

 そう穏やかに問いかけてくるこの男性は、竜人族の国、バルドゥーラの皇帝だ。一見して端正な顔立ちの優男に思えるが、その見た目通りの人では決してないことを、オレは知っている。万全の状態ではない時に、オレの魔力暴走に巻き込まれても平然としていたのだから、かなりの武闘派だ。今思えば、あの頃はつがいであるサーシャさんを失っていたことで、すでにかなり衰弱していたのだろう。再会できたことで、どうやら完全に回復したらしく、あの時とは違って、とても元気そうだった。

 彼の隣にいる女性は、キアラの母親の、サーシャさんだ。オレを、プーニャだった時と変わらない優しい目で見つめている。あのボロ小屋にいた時も綺麗な人だと思っていたが、今はさらに磨きがかかり、女神のような美しさを放っていた。

「全く問題ありません。むしろ、以前よりもずっと調子がいいです。キアラに助けてもらったおかげです」
「……そうか、それは良かった。とりあえず、そこへ座りなさい」

 オレに力を分け与えてしまったキアラのことが、心配なのだろう。それでもオレに辛く当たらないどころか、心配さえしてくれるのだから、この人は本当にいい父親だ。

 ……オレの父親とは、大違いだな。

 オレの父は、オレに利用価値がある間は軟禁しながら生かさず殺さずで放置して、必要がなくなれば即殺そうとするような下衆だ。野生の獣の方がマシな奴とは比べるのも失礼な話だが、皇帝は何も持たず不利益しかもたらさない、人質のオレにも優しかった。この人がオレをどう思っているかはわからないが、オレはこの人のことが好きだし、尊敬している。

「わざわざ来てもらってすまないな。君とは、一度きちんと話しておかなければと思ってね」
「とんでもないことです。皇帝陛下には、以前から格別のご配慮をいただいていたこと、心より感謝しています」

 それなのに、一度もお礼を言ったことがなかった。オレは皇帝に向かって片膝をつき、頭を垂れた。

「厄介者の人質に過ぎないオレなんかに快適な居場所を与えてくださり、魔力暴走を止める術まで探してくださっていたご恩は、決して忘れません。本当にありがとうございます」

 そして、サーシャさんの方に視線を向ける。

「あの、サーシャさん……いえ、皇后陛下」
「まぁ。サーシャさんでいいのよ、ノアくん。一緒にあの小さな小屋で、家族として暮らした仲じゃない。私もキアラと同じで、姿が変わっても、あなたのことは家族だと思っているわ」

 家族だと言われて、グッと胸が詰まる。本当の母親はオレを捨てたのに、この人はプーニャの姿で数ヶ月一緒に暮らしただけのオレのことを、家族だと言ってくれたのだ。

「ありがとう、ございます。普通のプーニャではないとわかっていたはずなのに、得体の知れない存在だったオレを受け入れてくれて、いつも優しくしてくれた、サーシャさんの温かさにも……オレは救われていました。感謝しています」

 サーシャさんにも頭を下げると、彼女の「頭を上げて」という優しい声が聞こえた。

「ほら、やっぱり。ノアくんなら、心配ないって言ったでしょう?」

 クスクスと笑うサーシャさんの横で、皇帝がバツの悪そうな顔をしている。何の話だろうか。

「はぁ。そんなに殊勝な態度を見せられたら、あまり厳しいことは言えなくなってしまうじゃないか。私は君に、キアラの眷属としての心構えをきっちり説いておこうと思っていたのに」

 拗ねたような皇帝を、サーシャさんが宥めている。とても仲の良さそうなその雰囲気は、とても何年も離ればなれでいたようには見えなかった。

「いえ。キアラの眷属として、何か気をつけるべきことや心得ておくべきことがあるなら、是非教えてください。オレはあの時、この命が尽きるまでキアラに寄り添い、共にあると誓ったんです」

 皇帝はものすごく複雑そうな顔をしたが、サーシャさんはオレの言葉を聞いて、とても嬉しそうに笑ってくれた。

「もちろんよ。これからも、キアラをよろしくね。ノアくん」
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