半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子

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第一章

母の目覚め

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「……おなかすいた……」
 
 目覚めた瞬間、わたしはそうつぶやいた。
 ぐるるるる、というお腹の音も一緒に出た。
 
「おはようございます、キアラさん。昨日は、あまりごはんを食べられなかったですもんね」
 
 わたしもお腹がすいてしまいました、と笑いながら返事をしてくれたのは、すでに起きていたらしいセラだ。
 
 昨日は大変な一日だった。
 それなのに、あまりごはんを食べられなかったせいで、今とても空腹だった。
 
《……朝から元気だな、キアラ》
「あっ、クロ。おはよう! よく眠れた?」
《……さぁな》
 
 クロはまだ眠そうにあくびをした。クロはだいたいいつも朝が弱いけれど、ベッドで寝てもそれは同じだったらしい。こんなに寝心地のいいベッドだったのに。
 
「あっ! お母さんは!?」
 
 ハッと気がついて母の寝ているベッドを見るが、彼女はまだ目を覚ましておらず、昨日ルーシャスさんに寝かされた状態のまま、ぐっすりと眠っているようだった。
 
「……お母さん、まだ起きないのね。大丈夫かなぁ」
「たぶん、疲れているんだと思います。サーシャさんも、昨日は大変だったでしょうから。きっと、もうすぐ目を覚ましますよ」
「うん……」
 
 痛そうなアザを作ってぐったりとしていた母の姿を思い出して、小さく返事をした。するとその時、外からドアを叩く音がした。
 
「おーい。起きてる?」
「あっ、ルーシャスさん!」
 
 急いでドアを開けると、彼が布をかぶせた大きめのカゴを持ち上げて、笑顔を見せた。
 
「おはよう、キアラ。お腹すいてるだろ?」
「おはよう、ルーシャスさん! うん、すっごくお腹がすいてるわ!」 
 
 カゴの中には、たくさんのパンとハム、チーズにミルク、それにたっぷりのジャムが詰まった瓶が入っていた。
 
「うわぁ、すごい! これ、わたしたちも食べていいの?」
「美味しそうです!」
「もちろん、一緒に食べよう。君のお母さんが食堂まで来るのはまだ無理かなと思って、宿の人に持ち運びできるものを詰めてもらっただけだから、たいしたものじゃなくて悪いけど」
「ううん、すっごいごちそうよ。ありがとう、ルーシャスさん!」
「……そうか。それなら良かった」
 
 なぜか、ルーシャスさんがそう言いながらも眉を下げた。
 
「あ、そこに水場があるから、先に顔を洗ってくるといいよ」
「はーい!」
 
 セラと二人で水場へ行き、帰ってくると、ルーシャスさんが朝食をカゴから出して待っていてくれた。
 
「よし。それじゃあ、食べようか。君たちはまだ子供なんだから、しっかり食べるように」
「うん! セラ、クロ、食べよう!」
「はい!」
 
 クロが食べやすいよう分けてあげながら、わたしは自分のぶんも手に取っていく。とっても美味しい。
 セラは小さな口で少しずつ、ルーシャスさんは大口でバクバクと食べている。多すぎるのではないかと思っていた食べ物が、次々となくなっていって、ちょっとびっくりした。ルーシャスさんは大食いらしい。
 
「彼女はまだ目覚めないんだね」
「そうなの……。お母さん、大丈夫かなぁ」
 
 ジャムを塗ったパンを食べながら、わたしはちらりと母を見る。
 
 ……お母さんも、きっとお腹がすいているわよね。
 
「ルーシャスさん。残りのわたしのぶんは、お母さんに取っておいてもいい?」
「そんなこと、気にしないで食べて。君のお母さんのぶんは、食べやすいものをまた別に用意させるから。何なら、おかわりを持ってこようか?」
「本当!? ありがとう、ルーシャスさん!」
 
 ……じゃあ、お腹いっぱい食べようっと!
 
 ルーシャスさんは、わたしたちに本当に優しくしてくれる。それはわたしが竜人族の子供だからのようだが、わたしが竜人族だなんて、本当にそうなのかなと、本当はまだ少し疑っている。
 
 だって、領主も言っていたけれど、ちょっと力が強いだけで、わたしにはルーシャスさんみたいな角や爪はないから。それに、何より母からは獣人族だと聞かされていたのだ。もしわたしが竜人族なら、母はどうして、嘘をついていたのだろう。
 
 そんなことを考えながら朝食を終えると、わたしはまだ眠る母の元へと行ってみた。いつもは早起きの母が、昨日の夕方からずっと眠ったままだ。いつ目覚めるのだろうか。
 
「お母さん……」
 
 小さな声で呼んでみただけだったが、ちゃんと聞こえたのだろうか、なんと母はゆっくりと目を開けた。
 
「お母さん! 良かったぁ!」
「……キアラ? ここは……」
 
 母は体を起こすと、ここが家ではないことにすぐ気づいたようだ。軽く周囲を見回してからわたしに視線を戻し、首を傾げた。
 
「ここはね、ヴェラっていう街の宿屋よ。ルーシャスさんが、領主からわたしたちを助けてくれたあと、ゆっくり休めるようにって連れてきてくれたの!」
「ルーシャスさん……?」

 わたしの視線を追って彼を見つけた母が、ハッと目を見開いた。
 
「平気そうで何より。キアラの母親であるあなたに、少し訊きたいことがあるのだが……」
「ダメ!!」
「うぇっ?」
 
 母が、いきなり大声を出してわたしを強く抱きしめた。
 
「キアラは私の子です、絶対に渡しません! お願いですから、連れて行かないでください……!!」
 
 
 
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