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第一章
セラのこれから
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「キアラさーん!」
「セラー!」
わたしたちは、ひしっと抱き合った。一日ぶりだけれど、色々あったからか、久しぶりに会えたような気がして嬉しい。
「セラ。その格好、とっても可愛いわ!」
「キアラさんこそ、ものすごく素敵です。お姫様って感じです!」
「えへへ、そう?」
手を取り合い、二人ではしゃぎ合う。
セラも、見違えるほど綺麗な格好をしていた。
たぶん、ルーシャスさんの家でわたしと同じようにお風呂に入れてもらったのだろう。髪もつやつやになっているし、淡いピンクのヒラヒラした洋服がとても似合っていた。
「セラを連れてきてくれてありがとう、リリアン!」
「いいえ、とんでもないことです。向こうでもすぐに迎えが来るだろうと準備していたようで、話が早く済みましたし」
リリアンがにっこり笑ってそう言ってくれた。
「セラも、今日からここで暮らせるのよね?」
「キアラ様のお客様として城に滞在するぶんには問題ないかと思われますが……念のため、晩餐会で陛下にお尋ねになられてはいかがでしょうか?」
「……うーん、お客様かぁ」
それは、なんだかよそよそしい響きに感じた。わたしが皇族になってしまったから、今までのように家族同然というのは難しいのかもしれないけれど、どうしても寂しく思ってしまう。
「あ、あのっ、何か、わたしにもできるお仕事はないでしょうか? できれば、たまにでもいいので、キアラさんと一緒に過ごせるような……」
「セラ!?」
突然何を言い出すのだろうと、驚いてセラを見る。
でも、セラは真剣な表情でまっすぐにメリアンたちを見ていて、わたしに視線を向けなかった。
「わたし、キアラさんが皇族だってわかってから、ずっと考えていたんです。どうすれば、これからもキアラさんと一緒にいられるだろうって。キアラさんも、サーシャさんも優しいから、きっとわたしを放り出すようなことはしないと思うけど、わたしはずっと二人の優しさに甘えているばかりでいいのかなって」
セラが、少し震えている手を強く握るのがわかった。
「キアラさんは、わたしを救ってくれた女神様のような存在なんです。だから、皇女様だとわかって、遠い存在になってしまっても、できるだけ近くにいたいんです。そしてできれば、甘えてばかりのお客様じゃなくて、キアラさんの役に立てるような存在になりたいです! ……だ、ダメでしょうか……」
最後は声が小さくなってしまったけれど、引っ込み思案なセラにしては、信じられないほどハッキリと願いを口にした。
「セラ……」
セラは、まだまっすぐにメリアンたちを見ている。
それはセラの決意が固いものなのだと物語っていた。
「わたし、セラと一緒にいられるだけで嬉しいよ? セラはすごく優しいし、お母さんのケガを二回も治してくれたし……」
「いいえ。キアラさんは、ここが本当の家族のお家なのですから、ここで暮らすのが当然です。でも、わたしは何もせずにこんな立派な場所で暮らすわけにはいきません。……でも、キアラさんのそばにはいたいですから、何かお役目をもらって、住み込みで働けないかと思ったんです」
セラの考えが立派すぎて、わたしは何も言えなくなってしまった。そんなわたしたちを、メリアンたちが微笑ましそうに見ている。
「キアラ様、どうされますか?」
「キアラ様がお望みになるのでしたら、彼女に何らかの仕事を紹介することも、ただお客様としてそばに置くことも可能かと思われますが」
リリアンとメリアンがわたしにそう尋ねてきた。
セラの願いがどうであれ、決定権はわたしにあるらしい。
「キアラさん、お願いします」
わたしが迷っていると、セラが強い決意を秘めた目をわたしに向けた。
「わたしは、生まれた集落ではいつも役立たずのお荷物でした。獣人族なのに、力が強くないし、視力や聴力もそれほど良くなかったからです。だから、治癒力があるとわかると、親に獣人族であることを隠して神殿へ売られてしまったんです」
知らなかったセラの生い立ちに、わたしは目を見開いた。セラは少し目を伏せたが、それでも話し続けた。
「神殿では、初めて人から優しく扱われました。毎日たくさんの人の治療をするのは大変だったけど、同じ境遇の仲間もいたし、わたしも人の役に立てるんだって、ここにいてもいいんだって思えました。でも、わたしが獣人族だと知られると、みんな態度を変えました。獣人族は聖女なんかじゃないって、神殿も追い出されてしまったんです」
「そんな……」
……ひどい。セラは間違いなく、治癒ができる聖女なのに!
「それから人さらいに捕まって、奴隷になりました。そこでの生活はひどいもので、獣人族だからと同じ奴隷の人たちからも蔑まれていました。わたしはどこへ行っても、価値のない存在だったんです」
「そんなことないわ!!」
わたしは、思わずセラをギュッと抱きしめた。彼女の体が強張って、少し震えているのがわかった。
「……出会った時からわたしに優しくしてくれて、あそこからわたしを救い出してくれたキアラさんが大好きですし、離れたくありません。でも、だからってずっと甘えていたくはないんです。わたしも、誰かの役に立つ人になりたい。そして、キアラさんが許してくれるなら、それはキアラさんがいいんです」
「セラ……」
抱きしめていた体を離すと、セラの目には涙が浮かんでいた。
「わたし、自分に自信を持ってキアラさんのそばにいたいんです。だからお願いします、キアラさん」
……そんなふうに言われたら、断われないよ。
「わかったわ。でも、無理はしないでね。あと、わたしはこれからもセラのことを友達だと思ってるから、困ったことがあったらいつでも言ってね。やめたくなったら、いつでもやめていいからね」
「……もう。キアラさんってば、わたしを甘やかしすぎですよ」
「だって、心配なんだもの!」
セラがふふふと笑うので、わたしもつい笑ってしまった。
「約束よ? 困ったことがあったらちゃんと言うって」
「はい。わかりました」
セラがそう約束してくれたので、とりあえずセラの望むとおりにしようと思う。
「メリアン、リリアン。セラがわたしの近くで働けるようにしてくれる?」
「はい、かしこまりました。キアラ様」
「かしこまりました」
こうして、セラがお城で働くことが決まったのだった。
「セラー!」
わたしたちは、ひしっと抱き合った。一日ぶりだけれど、色々あったからか、久しぶりに会えたような気がして嬉しい。
「セラ。その格好、とっても可愛いわ!」
「キアラさんこそ、ものすごく素敵です。お姫様って感じです!」
「えへへ、そう?」
手を取り合い、二人ではしゃぎ合う。
セラも、見違えるほど綺麗な格好をしていた。
たぶん、ルーシャスさんの家でわたしと同じようにお風呂に入れてもらったのだろう。髪もつやつやになっているし、淡いピンクのヒラヒラした洋服がとても似合っていた。
「セラを連れてきてくれてありがとう、リリアン!」
「いいえ、とんでもないことです。向こうでもすぐに迎えが来るだろうと準備していたようで、話が早く済みましたし」
リリアンがにっこり笑ってそう言ってくれた。
「セラも、今日からここで暮らせるのよね?」
「キアラ様のお客様として城に滞在するぶんには問題ないかと思われますが……念のため、晩餐会で陛下にお尋ねになられてはいかがでしょうか?」
「……うーん、お客様かぁ」
それは、なんだかよそよそしい響きに感じた。わたしが皇族になってしまったから、今までのように家族同然というのは難しいのかもしれないけれど、どうしても寂しく思ってしまう。
「あ、あのっ、何か、わたしにもできるお仕事はないでしょうか? できれば、たまにでもいいので、キアラさんと一緒に過ごせるような……」
「セラ!?」
突然何を言い出すのだろうと、驚いてセラを見る。
でも、セラは真剣な表情でまっすぐにメリアンたちを見ていて、わたしに視線を向けなかった。
「わたし、キアラさんが皇族だってわかってから、ずっと考えていたんです。どうすれば、これからもキアラさんと一緒にいられるだろうって。キアラさんも、サーシャさんも優しいから、きっとわたしを放り出すようなことはしないと思うけど、わたしはずっと二人の優しさに甘えているばかりでいいのかなって」
セラが、少し震えている手を強く握るのがわかった。
「キアラさんは、わたしを救ってくれた女神様のような存在なんです。だから、皇女様だとわかって、遠い存在になってしまっても、できるだけ近くにいたいんです。そしてできれば、甘えてばかりのお客様じゃなくて、キアラさんの役に立てるような存在になりたいです! ……だ、ダメでしょうか……」
最後は声が小さくなってしまったけれど、引っ込み思案なセラにしては、信じられないほどハッキリと願いを口にした。
「セラ……」
セラは、まだまっすぐにメリアンたちを見ている。
それはセラの決意が固いものなのだと物語っていた。
「わたし、セラと一緒にいられるだけで嬉しいよ? セラはすごく優しいし、お母さんのケガを二回も治してくれたし……」
「いいえ。キアラさんは、ここが本当の家族のお家なのですから、ここで暮らすのが当然です。でも、わたしは何もせずにこんな立派な場所で暮らすわけにはいきません。……でも、キアラさんのそばにはいたいですから、何かお役目をもらって、住み込みで働けないかと思ったんです」
セラの考えが立派すぎて、わたしは何も言えなくなってしまった。そんなわたしたちを、メリアンたちが微笑ましそうに見ている。
「キアラ様、どうされますか?」
「キアラ様がお望みになるのでしたら、彼女に何らかの仕事を紹介することも、ただお客様としてそばに置くことも可能かと思われますが」
リリアンとメリアンがわたしにそう尋ねてきた。
セラの願いがどうであれ、決定権はわたしにあるらしい。
「キアラさん、お願いします」
わたしが迷っていると、セラが強い決意を秘めた目をわたしに向けた。
「わたしは、生まれた集落ではいつも役立たずのお荷物でした。獣人族なのに、力が強くないし、視力や聴力もそれほど良くなかったからです。だから、治癒力があるとわかると、親に獣人族であることを隠して神殿へ売られてしまったんです」
知らなかったセラの生い立ちに、わたしは目を見開いた。セラは少し目を伏せたが、それでも話し続けた。
「神殿では、初めて人から優しく扱われました。毎日たくさんの人の治療をするのは大変だったけど、同じ境遇の仲間もいたし、わたしも人の役に立てるんだって、ここにいてもいいんだって思えました。でも、わたしが獣人族だと知られると、みんな態度を変えました。獣人族は聖女なんかじゃないって、神殿も追い出されてしまったんです」
「そんな……」
……ひどい。セラは間違いなく、治癒ができる聖女なのに!
「それから人さらいに捕まって、奴隷になりました。そこでの生活はひどいもので、獣人族だからと同じ奴隷の人たちからも蔑まれていました。わたしはどこへ行っても、価値のない存在だったんです」
「そんなことないわ!!」
わたしは、思わずセラをギュッと抱きしめた。彼女の体が強張って、少し震えているのがわかった。
「……出会った時からわたしに優しくしてくれて、あそこからわたしを救い出してくれたキアラさんが大好きですし、離れたくありません。でも、だからってずっと甘えていたくはないんです。わたしも、誰かの役に立つ人になりたい。そして、キアラさんが許してくれるなら、それはキアラさんがいいんです」
「セラ……」
抱きしめていた体を離すと、セラの目には涙が浮かんでいた。
「わたし、自分に自信を持ってキアラさんのそばにいたいんです。だからお願いします、キアラさん」
……そんなふうに言われたら、断われないよ。
「わかったわ。でも、無理はしないでね。あと、わたしはこれからもセラのことを友達だと思ってるから、困ったことがあったらいつでも言ってね。やめたくなったら、いつでもやめていいからね」
「……もう。キアラさんってば、わたしを甘やかしすぎですよ」
「だって、心配なんだもの!」
セラがふふふと笑うので、わたしもつい笑ってしまった。
「約束よ? 困ったことがあったらちゃんと言うって」
「はい。わかりました」
セラがそう約束してくれたので、とりあえずセラの望むとおりにしようと思う。
「メリアン、リリアン。セラがわたしの近くで働けるようにしてくれる?」
「はい、かしこまりました。キアラ様」
「かしこまりました」
こうして、セラがお城で働くことが決まったのだった。
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