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一章
カップルの挑発
しおりを挟む美月side
壱矢と夜の街を歩く。
これから壱矢が調べた夜景を観に行くんだ。
放課後デートの筈がガッツリ大人なデートになって俺は少し疲れてた。
高級フレンチ店なんて初めてだったし、料理も慣れない物だったからどうやって食べたらいいか分からなかったし、挙げ句の果てには壱矢のお母さん登場で付き合ってるってバレてるし。
それにしてもそれには驚いたな。今日は驚いてばかりだったけど、受け入れてくれたお母さんもだけど、壱矢があっさりカミングアウトしてたなんて……
俺が親に言ったらお母さん泣いちゃうよ。お父さんには怒られるかなぁ。
だから壱矢は凄いよ。
ビックリはしたけど、嬉しさもあった。
俺の事を親に紹介出来るぐらい壱矢は真剣に考えてくれてるって事だろ?
「壱矢のお母さん、綺麗な人だな」
「ああ、仕事柄身だしなみにはうるさいんだ」
「お母さん似だよね壱矢は。お父さん見た事無いけど」
「良く言われるぞ。頑固なところとか、何でもやりたがるところとかな」
「壱矢、親に話してくれてありがとう」
「え、ああ……」
「ビックリしたけど、壱矢みたいに隠さずに話して認めてもらうのが一番なんだよな。嬉しかったよ」
「俺は一人っ子だから孫の顔を見せてやれないのは残念だが、こればかりは仕方ないだろう」
「孫って、壱矢もしかしてずっと一緒にいてくれるの?」
「おかしな事を言うんだな。恋人とはそういうものだろう。なんだ、すぐに別れるつもりだったのか?」
「違うよ!俺は壱矢と別れたくない!壱矢は何でも出来るし、やりたがるから、他に良い人出来たらそっち行っちゃうんじゃないかって……」
「それは見くびられたものだな。確かに恋愛に関しては素人だが、俺は美月とこの先も一緒にいるという自信があるぞ」
「どうして?」
「俺が決めた相手だからだ。俺は一度決めたら譲らない。譲りたくないんだ。美月の他なんて考えられない。もし美月が他の人を好きになって別れたとしたら俺は一人でまたやりたい事を探すだろうな」
壱矢はそう言うけど、きっと壱矢は俺と別れたら別れたで今と変わらない気がするんだ。
悔やむ時間が惜しいとか言ってね。
「人間嫌いの俺が壱矢以外を好きになると思う?」
「その人間嫌いって何だ?俺も美月も人間だろう」
「俺って小さい頃とか人見知り凄かったんだよ。反対に葉月は小さい頃からあんな感じでさ、一卵性だからって良く比べられたんだ。葉月は愛想がいいのに美月は悪いって。それが嫌で逃げてたら他人が苦手になっちゃってさ~」
「兄弟が居るのも大変なものなんだな」
「美月の事は好きだよ。いつも比べられてる俺を庇ってくれたし、引き篭った時も毎日来てくれたし。本当はさ、俺自信が一番嫌いなんだよね。こんな自分」
「美月……」
あ、壱矢が引いてる……
恋人のこんな話なんて聞きたくないよね。
でもいつかはバレる事だし。
何よりも事実だ。
「あは、俺の事嫌いになった?」
「なる訳がないだろう!アホ!」
「あ、アホ?」
「悪いが久しぶりに言わせてもらうぞ!今自分が嫌いだと言ったな?それは俺を敵に回すのと同じ事だ!俺は美月の事が好きだからな!」
うわ、壱矢が怒ってる……
でも嫌じゃない。
むしろこの感じ、懐かしい。
「俺の認めた者を貶す者は許さん!たとえ美月でもな!だからそんな事を言うな!」
「貴哉ってば本当変な人~」
「何だと!?人を怒らせておいて何だそのセリフは!」
「あはは♪怒られてるのに嬉しいや♡」
「まったくお前は……あ、そろそろ着くぞ」
「うわぁ高いね~」
見上げてもてっぺんが見えないぐらいの電波塔。
平日でもカップルとかが何組か入って行くのが見える。
確かにここなら良い夜景が見れそうだ。
チケットを買って大きなエレベーターで上まで向かう。その間も壱矢はムスッとしていてそれがおかしくてまた笑った。
エレベーターが見晴らしエリアまで到着して降りると、そこには既に来ていた人達がいいムードで外の方を向いてイチャイチャしていた。
その中に男子高校生二人が居るっていうのは変な光景だった。
「美月、行こう」
「え」
スッと手を差し出されて俺は戸惑った。
これって手を繋げって事?
「親にもだが、俺は周りに美月との事を隠すのもしないつもりだ。勿論学校でもだ。美月は嫌か?」
壱矢が堂々と言った。
あまりにも堂々としていて呆気に取られてたけど、すぐに嬉しさが込み上げて来て、壱矢の手を取った。
「嫌じゃない♡だって俺の壱矢だもん♡」
「それでこそ俺の美月だ」
その後は普通の恋人のようにくっついて過ごした。なんて幸せなんだろう。
こんなにも人とくっつくのが暖かくて居心地のいいものだなんて思ってもみなかった。
二人で夜景を観ながらうっとりしていると、隣のカップルがキスをしてるのを見てしまった。
さ、さすがにアレは出来ねーよ!
「ん?どうした美月」
「ううん!」
「?」
「あ!壱矢そんな堂々と見たらダメだよ!」
壱矢は俺が見ている方を見て、しばらく固まっていた。隣のカップルは二人の世界に入っていて、気付いてないみたいだ。
「美月」
「どうしたの?」
「俺達もするぞ!」
「はぁ!?」
そう言ってグイッと顔を近付けて来る壱矢。
ヤバい!壱矢が言い出したら本当にやるぞ!
「待て!待って壱矢!」
「何だ、俺とは出来ないのか?もう一度しているではないか」
「そうじゃなくて!俺は……二人きりでしたい」
「!」
「だって、キスしたらそれ以上の事もしたくなっちゃうだろ?」
「美月!帰るぞ!」
「えっうわ!」
壱矢は真剣な顔で急に立ち上がり俺の腕を引いて来た順路で下まで降りる。
え、これ怒ってるのか?
いや、何なんだ?
訳が分からないまま着いて行く。
そしてバスに乗り込んだ。
「壱矢ぁ?コレどこ向かってるんだ?」
「家だ」
「家って壱矢の?」
「そうだ。二人きりならキス出来るんだろう?昨日言ってたイチャイチャとやらをしようじゃないか」
「そりゃしたいよー?でも家の人大丈夫なのか?時間も遅いし」
「母さんはあの通り夜遅くまで仕事だ。父さんは一ヶ月は帰って来ない。つまり俺の家には誰も居ない。美月も家の人に遅くなると連絡を入れておけ。そうだな、21時には帰すと」
「家は大丈夫だけど。壱矢、本気?」
「当たり前だ。俺が無駄を嫌うのを知っているだろう。問題は時間に間に合うかだ。美月を21時に帰すとして、今は20時前……」
「壱矢、時間は気にしなくていいよ。葉月に上手く言っておいてもらうから。だから思い切りイチャイチャしよ♡」
「美月……」
バスに乗ってる間も俺達の手は繋がれたまま。
キスをしていたカップルを見て興奮したのは俺だけじゃないみたいだな。
壱矢んちに着くのが待ち遠しくて仕方が無かった。
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