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1章 写真ばら撒き事件
頑張ってんだよ息子は
しおりを挟む夜、風呂に入って夕飯を食った後、リビングのテーブルで父ちゃんの部屋からパクった原稿用紙を広げて唸る。
それを見てた母ちゃんは珍しい物を見るかのように目の前でビールを自分でコップについで飲んでいた。
「あんたが勉強なんてどんな風の吹き回しだい?そんなの高校受験の時以来じゃん」
「勉強じゃねぇよ。反省文書いてんの」
「また何かやったのか?」
「始業式サボった」
「それだけで反省文なんか書かされんの?面倒な学校だね」
「なぁ母ちゃん、何て書けばいいんだ?教えてくれよ」
「私に聞くんじゃないよ。そんなの書いた事もないね」
「不良だったのに?あ、中卒だもんな、母ちゃん」
「そういうのは父ちゃんに聞きなよ」
「父ちゃん帰ってくるの遅えんだもん」
いつもは適当に書いてたけど、今回は真面目に書こうとか思った俺が甘かった。だってさ、サボった理由はアレだぜ?何をどう反省すりゃいいってんだ。
反省すべきはばら撒いた奴だろーが。
思い出したら腹立って来たな。
今回、反省文書くのって空達もだよな?ちょっと電話して聞いてみようかな。
まずは空から。
『もしもーし?どうしたー?もう会いたくなった?』
「ちげーよ。お前反省文書いた?」
『いや、今風呂入ってた。これから書く予定』
「なんて書くんだ?」
『そりゃ、何で反省文を書く事になったかと、それについてどう改善して、これからどう行動するか書くんだろ?てか反省文なら慣れてんだろ貴哉は』
「いつもは、すいませんでした。もうしません。って書いてただけだ。だから本気の反省文わかんねーんだよ」
『お前、それで良く済まされてたな……』
「めんどくせーから空がやってくれよー」
『全然反省してねぇな』
「だって俺悪くねぇもん!犯人が悪いんじゃん!」
『とりあえず今はそれは置いとけって。今回の反省文は始業式に出なかった事についてだろ?それに関係ない事は……』
「あ?テメェは犯人の味方か?」
『そう言ってる訳じゃねぇだろ!』
「もういい。お前に聞いた俺が馬鹿だった」
『ちょ、貴哉っ……』
喧嘩になる前に強制的に電話を切ってやった。
相変わらず人に物教えるの下手だよなあいつは。
一連のやり取りを見ていた母ちゃんはやれやれと言った顔でキッチンに行った。
そんじゃ次は数馬いってみるか。
『あ、貴哉?どうした?』
「お前反省文書いた?」
『書いたよ。貴哉は?』
「今書いてんだけどよー、なんて書けばいいんだ?教えてくんね?」
『俺は普通に友達が困ってるからそれに協力してましたって書いたよ』
「なるほどな!そんで?」
『一応反省文だから、次からは学校行事を優先するって書いておいたよ。場合によっては担任とか他の先生に報告をしますって……まさか真似しないよな?』
「え?しちゃダメなのか?」
『ダメだろ!俺と貴哉が同じ文なんか書いたら写させたと思われてもう一度書き直しさせられちゃうだろ!』
「全く同じにはしねぇよ。少し変えるし。名前のとことか」
『当たり前だろ!』
「だってよー、俺こういうの分かんねぇんだもん!」
『空に聞いてみたら?貴哉の為なら良い文を考えてくれるんじゃないかな?』
「あいつはダメだ。お前は知らねぇと思うが、こういう事では役立たずなんだ」
『……そうなんだ』
「はぁ、んじゃ直登に頼るか~」
『そう言えば直登が明日作戦会議しようって言ってたよ。休み時間と放課後を使って』
「まじ?お前らまだ協力してくれるんだな。ありがとな♪」
『みんな貴哉の事が好きだからさ』
「あはは、モテる男は辛いぜ~」
『じゃあまた明日。反省文頑張ってね』
「おう!」
数馬って見かけによらず真面目だよなー。
さすが影の学年トップだ。
ここでもう一本缶ビールを持って戻って来た母ちゃんと目が合った。するとニヤニヤ笑ってた。
直登なら教えてくれるだろ!
俺は最後の砦に電話をした。
『はーい♪てか今貴哉にメッセージしようとしてたんだよー♡気が合うねー』
「あ、そういや連絡するとか言ってたな」
『心配だったからね。先生なんてー?』
「明日朝イチで会議室来いって」
『会議室とかガチじゃん!大丈夫かなぁ?貴哉って口悪いからなぁ』
「それよりも反省文教えろよ」
『反省文?そんなのまだ書いてないよ』
「はぁ!?お前書かねぇの!?」
『書くけど、寝る前でいいかなって。ネットの写すし。今時常識じゃない?』
「お前まさか前に壁壊した時のも?」
『もちろん♪しっかり書けてるなって褒められたよ?』
「すげー!お前ってすげーよ!」
『だろぉ?貴哉もネットの写しちゃえよ。始業式サボった、反省文で出てくるからさ~』
「直登に一番に電話すりゃ良かったぜ」
『俺一番じゃないの!?一番は誰!?』
「空。相変わらず役立たずだったけどな」
『あはは!空くんなんか頼っちゃダメでしょ』
「数馬も真面目過ぎてダメだった。写そうとしたら怒られた」
『数馬くんをいじめないでよねー』
「あ、話変わるけど、お前らって付き合ってんの?」
『それがまだなんだよぉ!数馬くんがなかなか付き合ってくれないんだ!』
「まぁ数馬だからな。んじゃ用は済んだから切るな」
『あ、待って、話聞い……』
何だか長くなりそうだったから空同様、強制的に切って俺は再びシャーペンを握った。
そして目の前に座る母ちゃんが声を上げて笑った。
「あはは!あんたの話聞いてると面白いわ!気になるワードがちょいちょい出て来たけど、逃げずに偉いじゃん♡さすが私の息子だ♡」
「だろー?面倒くせーけど、頑張ってんだよ息子は」
「ご褒美にちゅーしてやるよ♡ほらこっちおいで貴哉♡」
「いらねぇよ!父ちゃんにしてやれって!」
「照れちゃって可愛いなぁ♡」
「母ちゃんちょっとうるさい。やっぱ部屋で書くわ」
「あ、コラ逃げるな。反省文よりも私の相手をしろー!」
うるさくなって来た母ちゃんから逃げるように道具を持って二階の部屋に行く。
それにしても今日は疲れたな……
さっさと書いて寝ちまおう。
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