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2章 球技大会
伊織、頼むから笑っててよ
しおりを挟む部室のすぐ近くの自販機の横のベンチに、伊織は一人で座っていた。何かを考えてるような難しい顔してた。反省でもしてたらいいんだけどな。
「伊織!戻るの遅えから心配したぞ」
「!……貴哉」
伊織の隣に座ると、驚いたように見て来た。俺が近付いたのも分からなかったみたいだ。
そしてすぐに困ったような顔をした。
「一人で何考えてたんだ?」
「いや、何でもねぇよ」
「何でもないなんて顔してなかったぞ?こんな風にしかめっ面してた」
「あはは、ひでぇなそりゃ」
俺がさっきの伊織の顔を真似すると、いつもみたいに笑った。やっぱり伊織はこうでなくちゃな。
「伊織は笑ってた方がいい。俺、伊織の笑顔見るの好きなんだ」
「……そっか」
「なぁ、俺らが初めて会った日のこと覚えてるか?」
「覚えてるよ。裏校舎の階段だろ。貴哉めっちゃ怒ってたな」
「お前が変態だったからな」
「なんか懐かしいな~」
「あの時からさ、ムカついたけど嫌な気はしなかったんだよ。お前の事。その日の夜に会いに来たのも良く覚えてる」
「行ったな。コンビニでコーラ買ってやった時だろ?」
「ああ。あの頃から俺はお前の笑顔を見るとここら辺が変になるんだ。くすぐったい感じ」
俺は胸を押さえながら言うと、伊織は笑顔で見ていた。そうだ、俺は伊織のこの笑顔が好きなんだ。空と付き合ってるから、伊織と何度も離れようと思っていたのに出来なかった理由の一つ。
「伊織、頼むから笑っててよ」
「…………」
「みんなにああいう態度は取って欲しくねぇ」
「はぁ、悪かったよ。何か貴哉が他の奴と仲良くしてんの見てたらイラッときちまったんだ。俺も自分がこんなに嫉妬深いとは思わなかった。今度からは気を付けるよ」
「ん。分かればよろしい!そんじゃそろそろ教室戻るかな~!」
「茜ちゃん達のとこ戻らねぇの?」
「別にいいだろ。あいつらはあいつらで仲良いし、教室に戻るってメッセージ入れときゃいい」
「じゃあ教室まで送……」
「ん?どうした?」
「あ、いや……もしかして、こういうのウザいか?」
「は?何が?」
「貴哉と付き合えて浮かれてるのって俺だけっぽいし、迎えとかそういうの辞めた方がいいか?」
伊織は元気なく言った。せっかくいつもの伊織に戻ったと思ったのに、そんな事気にしてやがったのか。
「辞められるんなら辞めればー?ちなみに俺もちゃんとお前の事好きだぜ!じゃなきゃ二人と付き合うなんて面倒な事しねぇし」
「本当か?」
「本当だって~。んー、確かに伊織とは後から付き合う事になったし、少し不利なとこあるよな。よし!そんじゃ恋人らしい事すっか!」
「え……?」
「授業はサボれねぇけど、休み時間ギリギリまで一緒にいようぜ♪ほら、前に教えてくれた図書室の隣の部屋あったろ?そこ行って二人だけで過ごそう」
俺が伊織の腕を引いて立ち上がると、目を潤ませて見つめて来た。
こいつもこんな顔するんだな。
俺は伊織と付き合うって答えを簡単に出し過ぎたのかもしれないな。実際空と付き合ってるのに、他の奴と付き合うなんておかしな話なのに。なんでも面倒くさがる俺がそんな器用な事出来る訳もねぇんだ。
絶対どちらかを傷付けるに決まってるのに。
多分そのどちらかが伊織なんだろうな。
伊織なら強いから大丈夫だって勝手に思い込んでたけど、きっと伊織は伊織で傷付いてたんだ。
そりゃそうだろ。好きな奴と付き合えたのに二番目だなんて悔しいだろ。
俺だったらムカついてるな。
だから今伊織はこんな悲しそうな顔してるんだと思う。
俺と伊織はその後無言で図書室の横の部屋に向かった。
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