145 / 178
2章 球技大会
俺は……伊織のことが……大好きっ
しおりを挟む俺は早歩きで家まで向かった。
すると、やっぱり付いて来た伊織に手を掴まれて止められた。俺はその手を振り払って睨んでやった。
「貴哉、何でそんなに怒ってるんだよ?俺が金を出したからか?」
「うるせぇ!付いてくんな!」
「いや、今の貴哉は人を殴りそうだし、心配だから送らせてくれ」
「殴らねぇよ!」
「貴哉、俺はもう話しかけない方がいいか?」
伊織はポツリと言った。
寂しそうに、伊織っぽくなかった。
「出来るんならそうしろ!二度と目の前に現れるな」
「……はは、そっか」
薄く笑って下を向く伊織。
伊織があんな風に言うならいっその事そっちの方がマシだ。
だって、俺はまだ伊織の事が好きだから……
「お前ムカつくんだよ!いつも余裕ぶって、奢るとか送るとか!何が友達だよ!なれる訳ねぇだろお前となんか!」
「分かったよ。貴哉が嫌なら無理には……」
「お前の好きはっ……その程度だったのかよっ……」
俺の言葉に目を大きくして驚く伊織。
俺もしまったと思って口を手で押さえる。
つい言葉にしてしまったけど、もう遅かった。
それを聞いた伊織は近寄って来て俺の腕を強く引いた。
「貴哉の事を好きなのは誰にも負けない自信がある!けど、それを受け入れてもらえなかったらただ重いだけの気持ちになるだろうが!」
「っ離せ!」
「離さねぇよ!人がどんな気持ちでいるかも分からねぇ癖に、俺は貴哉を諦めなきゃいけねぇのにっ」
「……伊織」
「だってそうだろ!?決めたのは貴哉だろ!いざ諦めようとしたら怒られるとか、俺はどうしたらいいんだよ!」
そんなのは自分が一番良く分かってんだ。
突き放したのは俺なのに、こんなワガママな事したり言ったりして。伊織の立場が俺だったらブチギレてるよ絶対。
「伊織は……になればいい」
「は?」
「俺を嫌いになればいい。そうすりゃもう話す事も会う事もなくなる」
「……本心か?」
「ああ」
「分かった」
あっさり承諾する伊織に俺の心には更に黒くて重い何かがのしかかって来た。伊織に嫌われる。嫌だ。本当は嫌なのに。
伊織なら出来ないって言うと思ってたのに。
もう自分でも何がしたいのか分からなくなって来た……
「なら、俺が貴哉を嫌いになるような事を言ってくれよ。そうだな、心から伊織の事は大嫌いだって言ってもらおうか」
「…………」
「ほら早く言えよ。俺に嫌われたいんだろ?」
「あ、伊織の事は……」
「ん?」
嫌いって言うだけなのに、言葉が出てこなかった。嘘でも言うのが怖かったんだ。
言ってしまったら本当に伊織を失ってしまうかもしれない。
そう思ったら俺は伊織に指定された言葉は言えなかった。
代わりに涙が溢れて来た。
真っ直ぐに俺を見る伊織を見れなくて下を向きながら俺は、小さい声で喋った。
「俺は……伊織のことが……大好きっ……だから、嫌いって言えないっ」
「ほんと、お前は……」
伊織は眉間に皺を寄せて、怒ったような顔をしてすぐに俺を抱き締めた。
人通りのある場所だからこんな事したらヤバいのに、でも俺はこれを待っていたんだ。
伊織の腕の中で俺は泣きじゃくった。
昼間散々泣き腫らしたのに、また目が重くなるじゃん。もぉどうでもいいやそんな事。
とにかく俺は伊織を辞められないんだ。
伊織には好かれていたいし愛されていたいんだ。
とんでもないワガママ野郎だったんだな俺って。
伊織に手を引かれて場所を移された。
ここは駅の近くの路地裏か。視界を遮られてたから良く分からないけど、きっと人目に付かない場所だろう。
俺は伊織にしがみ付いたまま離れずに抱かれていた。
「貴哉、俺も大好きだよ。嫌いになんてなれねぇよ」
「本当か?でも、友達としてだろ?」
「ううん。こう言う事したくなる好き」
伊織は今度は優しく笑ってキスをしてきた。
俺も目を閉じて受け入れた。
「またしちゃったな」
「伊織のバカ!なんでっ友達になんかっ!」
「はぁ?だって貴哉は早川を選んだだろ?……いや、俺が悪かったよ。だから泣くなよ」
伊織は優しく言って俺の頭を撫でた。
伊織の言う事は正しい。だけど、俺がこんなだから折れてくれたんだ。
「何でそんなにヘラヘラ笑ってられるんだよっ」
「ったく!貴哉が言ったんじゃねぇか。俺が笑顔でいる限り、俺の事愛してくれるんだろ?別れてもその気持ちは変わらないって今日言ってたじゃねぇか」
「なっ!お前っ!んな恥ずかしい事言うんじゃねぇよ!」
「待てコラ!嘘だったのかよアレ!」
「嘘じゃねぇよ!俺は伊織の笑った顔が好きなんだ!だから、笑っていて欲しくて……あの時は……」
「あの状況で笑えるかっての。まぁ何でもいいや。結局貴哉にまた手ぇ出しちまったしな。やっと踏ん切りつくと思ったんだけど、どうにも無理そうだな」
「ごめん……俺、伊織が離れるの嫌だっ」
「ほんとーに可愛いなぁお前は♡そんじゃとことん深みにハマりますか♪」
「伊織はいいのか?辛くないのか?」
「辛ぇけど、貴哉に泣かれる方が辛い。多分貴哉より俺のがメンタル強ぇから俺が我慢するわ」
「なんだそりゃ。あはは!伊織大好きっ!」
「……あのさ、貴哉さん?」
俺がおかしくて笑って伊織をぎゅーってすると、困ったように顔を擦り寄せて来た。俺は嬉しくてほっぺにチュッてしてやる。
すると、真剣な顔をして見て来た。
「何?」
「今日早川んち行くのか?」
「そういや空に連絡したんだった」
「早川んち行かないなら俺んち来ねぇか?貴哉んちでもいい」
「……いいけど」
「それと、キスまではしていいって言ってたけど、それ破っちゃダメ?」
「!」
朝話した事か!そう言えばそんな話したよなぁ。でもあの時は伊織とも付き合ってたしなぁ。
いや、もうそんなのどうでもいいか。
きっと伊織は俺に手を出したくてウズウズしてるんだろう。下半身を押し付けて来てるから分かる。てか俺も伊織としたい。
「……いいよ。とにかく空に電話してみる。一回メッセージ送ったんだけど、次電話して反応無いなら……あ」
言いながらスマホを確認すると、空からメッセージが来ていた。牛丼食ったり伊織とゴチャゴチャしてて気付かなかったわ。
すぐに開いて見てみると、「体調は平気。聞いて欲しい話があるから来れる?」って。
これに俺は一気に現実に引き戻された。
俺、空と付き合ってるんだ……
そんで今日泊まりに行く事になってんだ。
パッと伊織を見ると、「ん?」って優しく見て来た。
うわぁ、俺、また伊織を傷付けるじゃん……
「どした?あ、早川から連絡来てたのか?ちょっと見せてみろ」
「あ!」
伊織はいつものように笑顔のまま俺の手ごとスマホを自分に向けて空からのメッセージを読んでいた。別に見られてマズイ文じゃねぇよな?
「ふーん。風邪は良くなったんだな。聞いて欲しい話って何?」
「俺も知らない」
「聞いて来いよ。どんな内容か気になるじゃん」
「でも……」
てっきり伊織は行くなとか言うのかと思った。けど、笑顔のまま俺の背中を押すような言葉をくれた。
「どんな話か分からねぇけど、早川がこう言ってんだし行って来いって。俺はその後でいいし。もし早川んちに泊まるんならそれはそれでいい。貴哉から連絡なかったら泊まるんだなって思うからさ」
「伊織……」
「あ、別に貴哉の事どうでもいいとかそういうんじゃねぇぞ?俺のがメンタル強ぇから我慢するだけだ。ずっと好きでいるから安心して行って来い♪」
「本当に?でも、伊織は……」
「俺はとりあえず今日は家で待ってるわ。何かあったら連絡しろよ。早川と上手くいってんなら連絡はいらねぇ」
「分かった。あのさ、伊織っ」
「何よ?」
「ありがとう!なるべく早く帰って来るからな!」
「ったく……」
少し背伸びをして俺から伊織にキスをすると、困った顔して笑った。
空の話が何なのかは分からないけど、話を聞いたら帰って来よう。
今の俺は伊織に傾きつつある。
少しでも伊織と過ごしたいと思っていた。
10
あなたにおすすめの小説
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています
七瀬
BL
あらすじ
春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。
政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。
****
初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は未定
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
・本格的に嫌われ始めるのは2章から
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる