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2章 球技大会
するかよ。母ちゃんに怒られるわ
しおりを挟む伊織に送ってもらって一度家に帰り、着替えてから空んちまで向かう。荷物はスマホと財布だけ。泊まる気はなかった。あいつんちまでは距離があるからバスで行こうと思ってバス停まで行く。
あの後伊織に家に送ってもらって離れる時、すげぇ寂しかった。このままずっと伊織といたい。そう思ってた。
そして家の鏡を見て自分の顔面に驚いた。
一日中泣いてたからか目は腫れてるわ、顔は浮腫んでるわでひでぇブサイクだった。
俺あんな顔で外歩いてたとか終わってんな。
だから家を出る時は黒のキャップを深く被って暑苦しいけど、マスクも付けて出て来た。
バス停で次のバスの時間を確認する。
ちなみに今の時間は20時過ぎ。もしかしたらもうバス無いかもな。
ゲッ10分前のが最後かよ!
くそー!鏡なんか見てねぇで出てくりゃ良かった!
仕方ねぇから歩いて向かうか……着くのは21時とかになるかな。面倒くせーけど、俺はひたすら歩いていた。
さすがに病人に自転車漕がせて迎えに来させる訳にはいかねぇしなぁ。
てか仮に空んち着いたとしてそっから話して、帰るの何時になるの?
明日は藤野と紘夢とテニスだし、あんま疲れたくねぇんだけどなぁ。
「…………」
せめて暇つぶしが欲しい。バスだったらスマホでゲーム出来たから良かったけど、歩きじゃやりたくねぇ。
あ、伊織に電話すっか♪あいつなら出てくれそうだしな♪状況話したら送り迎えとかしてくれたりして?なんてな。
俺は少し期待しながら伊織に電話をかける。
けど、なかなか出ない。
あいつも俺んちから歩きで帰ってたしまだ着いてねぇとか?てか俺んちから空んち行くより遠いもんなー。
諦めて電話を切ろうとしたら、ギリギリで応答があった。すると、慌てた様子の声だった。
『悪い!出るの遅くなった!』
「いや、平気。伊織今どこにいんの?」
『あ、ちょっと急用で友達んち来てる。何かあったのか?』
「ふーん。そうなんだー」
友達って誰だよ。怜ちんとかなら名前出すだろうから俺の知らない奴か。
悪いから電話切るか~。
「それならいいや。ただ暇だったから電話しただけだから」
『暇って、早川と会ってるんじゃないのか?』
「んー、まだ会えてねぇよ。今歩いて空んち向かってるとこ」
『え、それってどれぐらい掛かるんだよ?』
「1時間ぐらい?バスもう無かったんだよ」
『ちょ、もちろん一人だよな?迎えに行くから待ってろ』
「いいよ。友達といるんだろ。伊織が一人だったら話し相手になってもらおうと思っただけだから。こっちの用終わったらまた連絡するわ」
『いやいや、心配だから!今どの辺ー?』
「本当大丈夫だって!あ、じゃあさ、空んち出たら迎えに来てよ。何時になるか分かんねーけど~……ん?」
電話をしながら歩いていると、通ったコンビニから出て来た男がこちらを見ていた。
てか派手な髪色と背格好、そしてあの感じ、見た事あるような?
『なんだ!?痴漢か!?』
「んな訳ねぇだろ。いや、今コンビニの前なんだけど……あ!」
『おい貴哉!?』
誰だか分かって俺が大きな声を出すと、向こうもニコッと笑って近付いて来た。
ずっとこっちを見ていたのは中学ん時の友達の野崎楓だった。
「やっぱ貴哉だー。マスクなんかしてどうしたんだよ?風邪か?」
「楓ー♪風邪じゃねぇよ~。ちょっと顔隠したいだけ」
『おい!楓って誰だよ!?』
あ、まだ通話中だった。伊織がすげぇ心配してるからちゃんと説明しねぇとな。
「あ、伊織!今俺もダチに会ったから切るな!また連絡する!」
『待てよ貴哉!おいっ』
強制的に電話を切って楓と向き合う。
最後に会ったのは芽依のストーカーを撃退した時か。
はは、また髪色変えてんじゃん。白に近い金髪に、前髪から左側の髪をピンクに染めていた。髪型は伸ばしてるのか後ろなんかは肩に付いていた。
「楓♪今度はピンクとか可愛い過ぎだろ」
「へへ♪結構気に入ってんだ。てか貴哉は何してんだ?」
楓に会えて俺はテンションが上がっていた。
昔から知ってるダチだからってのもあるけど、楓は違う高校だから今の俺を知らない。だから普通に接してくれるし、俺も何でも話せるんだ。
「今から空んち行くとこなんだよ」
「空?高校の友達か?」
「いや、彼氏。早川空だよ」
「あ、早川って下の名前って空って言うんだ。てか顔隠したいって何で?整形でもした?」
「するかよ。母ちゃんに怒られるわ」
「あはは、確かに!キャップまで被って、俺じゃなかったら貴哉だって分からなかったぞ……あれ?」
さすが楓って言おうとしたら、ぐいっと近付いて顔をジーッと見られた。ヤバい。ブサイク面がバレたか?
「貴哉、泣いた?目が赤い」
「まじ!?くそー!まだ収まらねぇかぁ!これじゃ空に会っても心配されるよなぁ~」
「何があったんだよ?早川と喧嘩って訳じゃなさそうだな」
「うーん、なぁ楓って今暇か?ちょっと話聞いてくんね?」
楓とこんなやり取りをしてる間もスマホがずっと鳴っていた。きっと伊織からだろ。中途半端に話したし、伊織は楓の事知らないもんなぁ。今度ちゃんと紹介してやるか!
「いいぜ。コンビニに菓子買いに来ただけだから」
「じゃあ久しぶりにあの公園行こう!」
「おー、いいね~」
俺が言う公園は子供の頃に良く楓と遊んだ公園だ。中学になってからは行かなくなったから今どんな風になってるかは分からない。
「いやー、懐かしいなぁここ!てかこんなに狭かったっけ?」
「俺らがデカくなったからそう感じるんだろ。ほれ、そこのベンチ座って話そうぜ」
元々そんな広い訳じゃないけど、改めて来てみるとなんだかとても小さく感じた。
遊具とかはあの頃のままで、本当に懐かしかった。
砂場の近くにあるベンチに座って話を聞いてもらう事になった。
と、その前にずっと鳴りっぱなしのスマホをどうにかしなくちゃだな。
「さっきからずっと鳴ってんね。早川?」
「いや、高校の先輩。さっき楓と会う前に電話してたんだけど、楓の事知らないから気になるみたいでよー」
「先輩って、二年?三年?」
「二年。ちょっと電話出るから楓が上手く言ってくんね?」
「別にいいけど」
楓からも許可を取って伊織からの電話に出る。
すぐに伊織の声が聞こえて来た。あ、やべー。怒ってんなー。俺はスピーカーにして、楓にも聞こえるようにした。
『貴哉ぁ!今どこだよ!何で電話でねぇんだよ!』
「悪い悪い。楓とバッタリ会っちゃってさ~」
『その楓って誰?男?女?』
「男で、俺の親友♪だから伊織にも紹介すっから。楓、何か話して?」
「どうも、野崎楓です。貴哉とはガキの頃から友達やってます……ってか伊織って、桐原伊織さんですか?」
『そうだ!俺が桐原伊織だ!てか貴哉を出せ!』
「俺も聞いてるって。スピーカーだし。楓、伊織の事知ってるのか?」
「うん。前、髪色を赤にした時、周りに言われたんだ。桐原伊織みたいって。有名人か誰かかと思ってたんだけど、どうやら城山高校の生徒らしくて、貴哉と一緒の高校だから気になってたんだよ」
「伊織すげぇじゃん!光陽でも有名人なんだってよ!」
『光陽だぁ?野崎、お前ヤンキーか?』
「いえ、俺は一般人です」
「見た目はヤンキーだけどなー!って事だからよ、心配すんなよ!」
「あ、桐原さん、安心して下さい。貴哉とはほんと昔から一緒なんで。久しぶりに会ったんで少ししたらちゃんと帰しますから」
『待て。一応聞いておく。貴哉の事狙ってねぇよな?』
「え?」
「何て事聞いてんだよバカ伊織!もう切るぞ!」
『だって貴哉モテるんだもん!心配じゃん!』
「えっとー、普通に友達だと思ってますよ。貴哉の事」
「楓を困らせんな!」
『チッ!分かったよ!じゃあ連絡待ってるからな!あ!そうだ!野崎お前俺の代わりに貴哉を早川んちに送ってやれ!絶対やれよ!?』
「楓に命令してんじゃねぇ!」
ここで俺は電話を切った。
あいつはすぐ調子に乗るからな!
楓が気を悪くしたらどうしてくれんだ!
「悪かったな。伊織って俺様なとこあるからよ」
「俺は平気。てかすげぇ人に気に入られてんね。うちの学校でも大人気よ桐原さんて。ファンクラブとかあるし」
「ゲッ!そっちにもあるのかよ!?」
「……貴哉は誰からも好かれるな」
「誰からもって事ぁねぇよ。前に会った戸塚って覚えてるか?あいつには初めすげぇ嫌われてたんだぜ」
「覚えてる覚えてる。おぼっちゃまだよな。芽依ちゃんの従兄妹の。でも今では好かれてんだろ?戸塚くんにも」
「好かれてるんかなー?いや、普通かな?」
ふと夏休み中に戸塚と風呂でやった事を思い出した。好かれてねぇとあんな事出来ねぇよな?
ってか楓とも似たような事はしたよな。
いや、楓は他の奴らとは違うってか……
俺が一人でいろいろ考えてると、隣に座ってた楓が「ハハ」と笑った。
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