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第2章
第21話ーー迷いの断ち切りーー
しおりを挟む夜のうちに長に頼んだようにわざわざやってきた山賊あるいは冒険者擬きの連中を取り調べた結果。
彼らは境界山脈を隔てた先にあるクローゲン砦からやってきたウォーカーと呼ばれる冒険者擬きだと分かった。
ウォーカーとは所謂裏稼業を生業としてる一種で元は普通の冒険者だったが、何らかの理由で冒険者を辞めて殺しやら奴隷狩りやらと後ろ暗い仕事を請け負う連中の事らしい。
クローゲン砦というのは境界山脈から最も亜人が暮らす土地に近いことからいつ亜人が攻めて来てもいいようにと建てられた防衛戦の事らしいが、現状ではその目的も忘れて奴隷売買が主となっている場所らしい。
連中がやってきた理由は奴隷となる亜人の数が減ってきたのでその補充をしに来たというのと、最近ダイラス迷宮に出現するはずの魔物の数が減少している事が重なり合ってやってきたとのことだった。
普段ならダイラス迷宮に迷い込んできた獣人を捉えて人間と交配させてから生まれた子供を貴族や商人に高値で売りつけていたのだが、近年親となる獣人の数が減ってきたので仕方なく魔物の数が減っていることもあってここまで足を運んできたようだ。
「なぁ、やっぱコイツら殺していいか?いいよな?胸糞悪いったらねぇんだが」
全ての話を聞き終わってから同意を求めるようにミリナを見るとミリナ本人も頭が痛そうに首を擡(もた)げている。
余りにも勝手すぎる言い分に怒りや苛立ちを通り越して呆れてくるが、俺の中では既にゴキブリよりも嫌悪感が湧き出る不快害虫にしか見えてこない。
マジで生かしとく価値も理由も一切見えないんだが。
「一応念の為聞いておくが、コボルト的にはどうするよ?」
そういって近くにいたコボルトの長に話題を振ってみる。
「ん?そうじゃな……掟に従うとしたら此奴らは奴隷にして売り飛ばす事となるが、ここから人間の奴隷を取り扱っとる市まで行くのには流石に時間がかかり過ぎる。
蓄えもそれほど余裕があるわけではないしの」
「ってことは?」
「処刑するのが適当じゃろう」
なんだやっぱ殺すのか。
まぁそりゃそうだよな、輸送すんのにもどこにあるかは知らんがそれなりの人員が欲しいし、車なんて便利なもんはねぇから徒歩だといつたどり着くのかすら分からんからな。
その間の護衛と最低限とはいえ連中の食料までも考えれば奴隷として売っぱらった時の収入と見合ってるかすら怪しい。寧ろ赤字じゃねぇかな。
そんな事を考えながら視線だけミリナに向けると諦めたようにため息を零した。
「分かりました……ただし条件として嬲るのはダメです。そんな畜生みたいなことはしないで下さい」
「心配すんなやるのは俺じゃねぇからよ」
「え?」
「長。お前らがやれ」
「……何?」
俺は周りを見回しながら集まっていたコボルトを見据える。
「コイツらはお前らを狙って来たんだ。ならそのケジメをつける為にもお前らがコイツらを殺せ」
「い、いや。待て、わしらは確かに身を守る為なら武器を手に取るが、何もワシらがやる事などないのではないか?
現に昨日お主が此奴らの頭を執ったであろう」
「あ?何言ってんだお前?俺はまだ誰も殺してねぇよ。嬲っただけだ」
「はぁ?」
その言葉に驚き声を上げた長はバッと中心の檻に囚われていた肉塊を近づいて見に行った。
そこには両手足の付け根までもがぐしゃぐしゃになって動かぬ塊と化した男がいたが、よく見ればまだ微かにだが息をしているのが分かる。
そりゃそうだ。俺がやったのは手足を潰しただけだが、必要以上に血が流れすぎないようにちゃんと太い血管なんかは押し潰して止血してたんだからな。
そう簡単に死なせてやるかよ。
その行いに更に表情を青ざめて戻ってきた長は震える声で告げてきた。
「お主は……なら余計に手慣れているお主がやった方が良いのではないか」
その言葉に苛立ちが沸き起こり、俺は長の胸ぐらを掴んで言葉を続けた。
「バカかテメェ。俺はケジメをつけろって言ったんだ。
周りをよく見ろ!特に女と子供をだ!
コイツらはお前らを殺した後アイツらを嬲ってたんだぞ。
抵抗できないように手足の腱を切り払われ、牙を根こそぎ引き抜かれ、無理矢理犯された挙句に死ぬまで陵辱され続ける運命だった。
それが偶々運良くカルッサオはが出てきたから防がれただけで確実に待ち受けていた運命から目をそらすのか?!」
これは覆ることのない絶対の運命だ。
何せ連中は奴隷狩りをしにダイラス迷宮近くにある集落を襲いにやってきていたのだから俺たちが来なければ、カルッサオが現れなければ確実に待ち受けていた運命だ。
それを手慣れているからという理由で俺らが終わらせて良い事じゃない。
やられたらやり返せ、襲われるのなら襲ってやる。
子供でも分かる単純な心理だ。
それを手放す事など許さない。他人任せなんかさせるものか。
「想像しろ、自分の愛する女が、子供が襲われ、住む場所全てを焼き払われる光景をーーそれでも尚俺に終わらせてほしいのか?」
「…………」
沈黙の空気がその場を支配した。
だが、周りをみれば誰もがその瞳に怒りを宿しているのが分かった。
俺の言ったことがよく理解出来たのだろう。ならこれ以上俺から何かを言うことは何もない。
胸ぐらをを掴んでいた手を離すと俺は背中を向けて集落の外へ向かって歩き出し、その後ろをミリナが付いてきた。
しばらくして後ろの方から悲鳴が聞こえてきたが、そのまま戻る事もなくエリセンへと向けて歩いて行った。
☆
「ちょっと意外でした」
コボルトの集落を出てしばらくするとミリナが上機嫌で呟いた。
「あ?俺がイカレ野郎かなんかだと思ったのか?」
「まさか、違いますよ。でもシロさんなら躊躇う事無く連中の首を取るだろうと思っていたのも事実です」
「ムカついたらやってたさ。だが、それよりも先にケジメをつけさせるべき相手がいるならそっちを優先させるのは当たり前だろう」
「ふふ。かもしれませんね。それでこれからどうします?」
「決まってんだろ。一度エリセンに戻って今回の報告をしたら、落とし前をつけさせに行く」
ダイラス迷宮の魔物の数が減ったのは俺が原因である可能性が高い。だが、それを良いことに奴隷狩りなんざを観光してくるバカどもの首はきっちり執ってこねぇと気が済まねぇ。
「グローゲン砦ですか……ですが彼処は奴隷市場として賑わっているだけじゃないので危険ですよ」
「どう言うことだ?」
「確かに非合法で捕らえられた奴隷を売買するのは犯罪ですが、それ以前に彼処は国が管理している砦なので、そこを攻撃するということは国そのものに喧嘩を売ることとなります」
そりゃまた厄介な……。
砦としての機能は建前だけだと思ってたが、確かに国が保有してる持ち物ならそれに攻撃を加えたとなれば国に喧嘩をふっかけたってことになる。
「ちなみにその国ってのはどこが保有してんだ?」
「確か、スルグベルト公国だったと思います」
「…………へぇ」
あの国か。
俺らを勝手に召喚して、最弱のステータスだからとあっさり切り捨ててきたあの国か。
そうか、随分と勝手な奴らだと思ってたが、裏じゃ違法奴隷の売買を黙認、いや。或いは容認しているくらいに腐った連中なのか。
そうか、そうか。それなら遠慮なんざする必要はねぇか。
どす黒い感情が胸の奥から沸き起こり、ふつふつと怒りが芽生え始めたが、不思議と笑みが溢れてくる。
その黒い感情が何なのかはよく知ってる。ずっと昔から付き合ってきた感情だ。
ここしばらくは顔を出していなかったが、それが久しぶりに顔を出してやってきた。
「あ、あのシロさん?」
これまで見せたことのなかった表情に困惑した様子でミリナが話しかけてきた。
普段ならすぐに理性で引っ込めさせるが、どうも昨日から感情の高ぶりが激しいせいか、思うように押し殺す事が出来ず笑みを浮かべた状態で「何でもない」とだけ言ったが、ミリナはビクリと肩を震わせるとそれ以上は追求してこなかった。
ーーあぁ、ダメだ。感情が高ぶってならねぇ。そういや、あの国には使徒様がいらっしゃるんだったか?
俺と同じように召喚されながらも順風満帆ライフを送ってる元クラスメイトと教師が。
アイツらはどうしてっかなぁ。ひょっとしたら載せられて担がれてるだけかもしれんが、まぁ関係ないか。
ーー必要なら殺すだけだ。
「くっははは」
「シロさん?」
やべぇ、やべぇ。つい楽しくなってきた。
あの国を壊したくて仕方がなかったからな。思わず声に出して笑っちまった。
魔王の復活だかなんだか知らねぇが、そんなもんの前にもっと楽しいイベントを提供したくなってきた。
「ミリナ」
「は、はい!」
「次の目的地が決まったぞ。まぁ多少寄り道するが」
「すっごく嫌な予感がするんですけど……」
「四大魔境の一つ。暗闇の樹海だ」
割と最近面白半分でたまたま行き着いた先で痛い目にあって逃げ帰ってきた場所を口にするとミリナは目を白黒させて女の子が出しちゃいけない声で驚愕しながら口を開いた。
「な、何言ってるんですか?!この間行ってみて分かったでしょう?!それに砦の話はどうするんですか?!」
「まぁ聞けって。樹海に行く前にグローゲン砦に通じるダイラス迷宮の洞窟は崩落させて来るから心配ねぇ。
そしたらいくらかの時間稼ぎは出来るし、稼いでる間に魔物や魔獣が増えてくれるかもしれねぇだろ?」
「いや、それはそうかもですけど、でも何でわざわざ樹海なんですか?!死にたいんですか?!」
「だから聞けって。時間稼ぎをすんのは何も魔獣どもが増えるまでの時間を稼ぎたいからじゃねぇ。
俺たちのレベルアップが目的だからだ。落とし前をつけさせる為にもな」
「……まさか」
「あぁ、そうだ。落とし前をつけさせる。そんでもってスルグベルト公国に喧嘩を吹っかけてやんのさ」
「ッ!」
高ぶる感情の中で冷静な部分の俺が出した答えはまずは力をつける事だった。
俺のステータスにあるレベルは表示されていないが、それでもスキルや技能なんかは習得していっている。
昨日も何かのスキルを習得した感覚はあったが、それが何なのかはみていないので分からないが、確かな手応えはあったので力がついて行ってるのは分かる。
所詮個の戦力なんてのは高々知れてる。
いくら俺のステータスが万越えをしてるぶっ壊れであっても数の暴力で攻められたら負けるのがオチだ。
何より同じ転移者の連中。特に勇者の称号を持つ獅堂 アキラとかが出張ってきた日には恐らく同程度かそれ以上のステータスを持ってる為俺の敗北はより濃厚なものになるだろう。
それらを考えると最低でも魔力以外は億越えのステータスを目指さなけりゃならんのだが、ここら辺で安全に気を使ってやってたんじゃいつになるか分からんので、手っ取り早く四大魔境の一つである暗闇の樹海に行こうと考えたのだ。
「あぁ、別にこりゃ強制じゃねぇぞ。お前が付いてくるような義理はねぇんだからな。道案内だけはしてほしいが、それ以上の事は流石に望んでねぇ。
一緒に死のうって言ってんのと変わらねぇことくらい理解してっからよ」
「……はぁ、分かってますよ。そのくらい。でも仕方ないですね、私もお供します」
一応ミリナのレベリングも考慮していたが、それでもわざわざ俺に付き合わせる訳にはいかないので断ってみたが、思いのほかすぐに答えが返ってきた。
「死ぬぞ?」
「忘れてませんか?私は冒険者ですよ。死に場所なんて選べない立場にいるんです。
それが死ぬ可能性が高くなるってだけで冒険を止めるなんて出来ませんし、何より私は楽しいんですよ。
シロさんと一緒にいるのが何よりも楽しいんです。だから私も一緒に行きます。楽しいのを終わらせたくありませんから」
その答えに脅しでも何でもない事を言ったつもりだったのに、思わず呆気にとられてしまった。
そして先ほどまでとは違う意味でまた笑みが溢れてくる。
「ははっお前も大概イカレてんじゃねぇか」
「シロさんにだけは言われたくありません」
「違いねぇ、なら行くぞ。暗闇の樹海に」
「はいっ!」
グリグリと頭を撫でてやってから俺たちはエリセンへと足を運んでいった。
☆
「それにしてもカルッサオなんて大物よく倒せたわねぇ」
エリセンの冒険者ギルドでクゥーウェンに素材の買取をしてもらいながら話題を振ってきた。
ちなみにミリナは買い物があるとかでここには俺一人しかいない。
「そんなに大物なのか?」
「当たり前じゃない。姿を自在に消せる上に気がついたら後ろに回り込まれてたり、あの巨体でしょ?毎年多くの冒険者や小さな村落が被害に合ってるのよ」
あぁ、確かに。あの擬態能力は肉眼だとよっぽど目が良くないと見つけらんねぇくらい凄かったな。
俺も熱源感知が出来なきゃ苦戦は免れなかっただろう。
「普通なら最低でも銀クラスの冒険者チームが三つはないと倒せないんだから本当に凄いわね。貴方なら金クラスくらいはいけるんじゃないかしら」
「そんな事ねぇよ。運が良かっただけだ。それより金クラスにはどうやったら上がれるんだ?」
「ふふっ。興味深々じゃない」
「謙遜してたわけじゃねぇからな」
「面白い人ね。金クラスにはジャック・トレントの討伐かツインレックスの討伐が大前提としてあるわ。
まぁこの二体は討伐難易度が高いというのもあるけど、滅多に姿を現さないから銀クラスで止まってしまう人も多いのだけどね。
ただ魔境にいけば割とすぐに見つかるようだけど、そこに行く人なんてまずありえないから地道に待つしかないのだけど」
ツインレックスってのは初めて聞いたが、そうかジャック・トレントが討伐対象に上がってるなら丁度いいな。
これから向かうのは暗闇の樹海で、最初に巫山戯たことをしてきたあいつには借りを返さねぇとなんねぇしな。
「さてと、それじゃカルッサオの外皮・甲殻・牙・爪などの状態からして買取価格は全部で金貨四十五枚と銀貨九枚になるわね」
「ん?思ったよりも多いな」
「えぇ、正直外皮や甲殻については少し値段が落ちてしまってるけどウォーカー達も捉えてくれたからその分が上乗せされてるの」
「なるほど。それは有難い話だが、ギルドに貰った報酬を預ける事は出来るか?流石にそんな大金を持ち歩いて冒険には出たくないんだが」
「言うと思った。勿論出来るわ。
ただ引き落としが出来るのはこのアグニスタ内にあるギルドだけね。例えば人間の領地にある冒険者ギルドでは管轄が違うから引き落としが出来ないので注意してね」
「あぁ、それくらいなら問題ない。まだしばらくは向こうに行く予定はないしな」
「それを聞いて安心したわ。貴方みたいな有能株に出ていかれるのはギルドとしてもちょっと損失が大きいのよ。
それじゃステータスプレートを貸してもらえる?」
「あぁ。装備やなんかも整えたいから、そうだな……金貨を十枚ほど残して後は預ける」
「分かったわ……はい、これで預金が完了した事になるから引き落とす際は金額とプレートの提示をお願いね」
「世話になったな」
「またのお越しをお待ちしてます」
金貨の入った小袋を受け取ると俺はギルドを出て行った。
ミリナとは夕方頃に宿屋で合流する事になってるが、まだ昼を過ぎたくらいなので時間がある。
適当に時間でも潰そうかと何となく近くにあった雑貨屋へと入っていくと、いつぞやの雑貨店を彷彿させる店内に少しだけ懐かしさを感じたが、置かれている品物は基本的に薬関係が多いようだ。
小瓶に入った液状タイプのものから小さな容器に入った軟膏タイプ、丸薬タイプなど種類も中々多いようだ。
効能は品名を読む限り、回復薬や解毒薬だけでなく麻痺のからの回復を促すものから毒などの耐性を底上げするものまで様々ある。
まぁこの辺りは地球にはないこの世界オリジナルのものなので実際に使ってみない限り本当に効果があるかは不明だが、いくつかは買っておいても損は無いだろう。
そう思いながら手に取っていくのは液状の回復薬を数本と解毒薬を中心とした薬を買う事にした。
暗闇の樹海は実際に見た限り自然が魔物化した特殊な土地という印象だった。
ならば出会す魔物は殆ど……いや、全てが毒を使った攻撃をしてくると考えた方が良いだろう。
地球だと毒を使ってくる動物は湿地帯などの緑が強い地域に偏ってるイメージがあったからだ。
この世界でもそれが当てはまるかは定かではないが、用意しておいて損はないだろう。
他にも何かないかと探していると、虫除けの魔道具が売られていた。
魔道具と言っても見た目は木札に魔法陣っぽいものが刻まれているだけなので神社とかにいくとよくある絵馬に見えなくもない。
「なぁ、これってどうやって使うんだ?」
店内の奥側で暇そうに煙管のような長ものを蒸していた狸の店主に声をかける。
「ん~?あぁ、そいつぁ魔力を流せば使えるがおススメしねぇよ。買うならその一個隣にある金属板の方にしな」
「何が違うんだ?」
「木札の方はわしが暇つぶしで作ったもんでな。効果はあんだが、半日も魔力を流しゃ使えなくなっちまう不良品よ。
金属板のは魔力の伝導率を上げるための鉱石が練りこまれてっからチトばかし値は張るが、半年は使い続けるられる優れもんだ。持ってて損はねぇよ」
「不良品て……そんなもん置いといて売れるのか?」
「たまーにな。使い捨てタイプにしては効果は中々なもんだからよ。虫型の魔物もコイツを嫌って逃げ出すくらいだ」
「効果のあるお守りみてぇなもんか」
そういう事なら一つくらいは買っても良いかと思ったが、金属板の方を持ち歩くのにわざわざ買う必要もないかと気付いて棚に戻した。
「他に虫除け系で使えるもんってねぇか?」
「ん~?あるにはあるが、変なこと聞く兄ちゃんだな」
「まぁちょっとばかし珍しいとこにいくからな。出来るだけ揃えときたいんだよ」
「ふ~ん?まぁどうでもいいか。よっこらせっと……虫除けってか虫型の魔物にも使えるもんって言ったらコイツが一番だろうな」
重い腰を上げて狸の店主が戸棚の奥から引っ張り出してきたのは見た目完全にダイナマイトの形状をした木の筒だった。
「スモッカーっていう道具で、先端の紐に火を付けると虫が嫌う煙を二時間ほど垂れ流し、その後は数日にわたって煙の効果がその周囲に及ぼすから長距離を移動する行商人なんかが重宝する代物だ」
「へぇ。そりゃ便利だな。高いのか?」
「いんや、銀貨一枚程度だ。コイツを作る素材は何処にでもあっからな。作り方さえ知ってれば誰だって作れるんだ」
「ならそいつを十本ほどくれ。ついでにそれの作り方を書き記したレシピもあれば買い取りたい」
「そんなに?はっはっ律儀な兄ちゃんだな。レシピはタダにしとくよ。他にも色々買ってくれるみたいだしな」
「あぁ、悪いな……あ、そだ。もう一個あったらいいんだが、スモッグは置いてるか?」
「スモッグ……?あぁ、人間の土地で最近流行りだしたアレか。悪いがここには置いてねぇよ。紙は貴重品だからな」
「だよなぁ。まぁそれなら仕方ねぇか」
「その代わりといっちゃなんだが、コイツならあっぞ」
狸の店主が陳列していたものの一つを見せてきたのは十センチほどの筒状をした真っ黒な棒だった。
初めて見るそれに何かと思ったが、手にとってみてそれが葉巻だと分かった。
真っ黒だったから分からんかったが、この世界ではこれが普通のようだ。名前もスモロールと変わった名称をしてるが、煙が出てくるものには『スモ』を付けるのが常識なんだろうか……?まぁどうでもいいか、それよりもどうしようか。
葉巻は別に嫌いじゃないが、匂いが独特だし舌がビリビリすっからちっと苦手なんだよなぁ。でも気になるんだよなぁ。
「ん~、そんじゃそれ一本とオッさんが吸ってたあれはあるか?」
「カンカンの事か?お前さん、まだ若いだろうにスモロールよりそっちのがいいのか?」
おっ。初めてスモ以外の単語が聞けたが、カンカンってのか。そのまんまじゃねぇか。
日本でも煙管の事を一部の地域ではカンカンと呼ぶ場所があったらしい。語源は灰皿に打ち付ける音が元らしいが、この世界でも一緒だったとは思いもよらない発見だったな。
「まぁな。一番はスモッグみてぇなのだが、その次はカンカンだな。スモロールに比べて味がある」
「ほぉ~、若ぇのに分かってんじゃねぇか。気に入った。ちょっとばかしマケといてやるよ」
「おいおい、いいのか?カミさんに叱られるぞ?」
「はっはっは。心配すんな、こんだけ買ってもらったんだ。大して損はしてねぇよ」
「なら有り難く……助かるよ」
「おう、また来いや」
薬品を数種類と虫除け板。それとスモッカーを十本に葉巻一つと煙管を一式。占めて金貨一枚と銀貨三枚になったが、まだ余裕はあるしいい買い物が出来た。
雑貨屋を出ると日差しが傾き始めていた。
どうやら思っていたより吟味に時間をかけていたようだ。
色々と買った事だし、最後に酒場でウィスキーっぽい酒が入った小タルを買うと宿屋へと戻っていった。
☆
自室で買ってきた葉巻と酒を楽しみながらぼんやりと陽がゆっくりと傾いていく光景を窓辺をみながら考え事を続けていた。
この世界に来てから本当に色々とあったと思う。
召喚された翌日には結奈と共に狩に行かされ、戻ってきたら教会の連中から睨まれ、騎士団長から選別を渡され、放浪した先でギルド長のジーンパークとアニーと知り合って、森へ行ったら大熊と出くわして……。
本当、色々あり過ぎなくらいあったなぁ。
そういや、結奈はどうしてるか。
使徒様と称えられ、勇者一行の一人として活躍してるのだろうか。
だとしたら俺がグローゲン砦を襲撃したら敵対関係になるんだろうなぁ。まぁしょうがねぇか。
それよりもアニーの方が気がかりか。
なんせ悪魔の子とやらが出たからその討伐をしに出て行ったきりギルド長も俺も帰らぬ人となったわけだし、てんやわんやしたんだろうなぁ。
いつか詫びをいれにいかにゃならんな……。
あぁ、そういや知り合ったって言えばエレナもそうだったな。
また抱きてぇもんだ。サキュパス ってだけあってありゃ娼婦としても中々のもんだったしな。
ーーっていかんいかん。飲み過ぎたなこりゃ。
考えてみたらこうやってのんびり物思いに耽るだけゆっくりした時間ってのはなかった気がする。
今まで色々あり過ぎたってのもあるかもだが、明日っからは更にハードな日々が待ってんだ。気を緩め過ぎるわけにはいかねぇよな。
「……はぁ。酔い過ぎだな」
椅子から立ち上がると酔い冷ましに水でも貰いに行こうと扉に向かったタイミングでノックがされた。
「ん?ミリナか?」
「はい。失礼しま……うわぁ」
部屋に入ってすぐミリナが鼻を抑えて顔を顰める。
「あ、悪い。嫌いだったか」
「……いえ、大丈夫です。どこかへ行くところでしたか?」
「ちと飲み過ぎたから水でも貰いにな」
「それなら私が貰ってくるのでシロさんは座ってて下さい。フラフラじゃないですか」
「悪いな」
手を引かれて再び部屋の奥へと連れて行かれるとベッド脇に座らされた。
「ちょっと待ってて下さいね。すぐ持ってきますから」
そう言ってミリナは部屋を出て行った。
正直、そこまで酔っ払ったわけじゃない。少し頭がぼーっとするが、意識もはっきりしてるし思考もクリアだったが、世話をしてくれるというのならお言葉に甘える事にしたのだ。
葉巻は既に消してある。
もう余り吸っていなかったし、やっぱり俺には葉巻は合わなかったようだ。途中からは悪戯に煙を立たせていただけだしな。
それから少ししてミリナが水差しを持って戻ってきた。
「はい、これ飲んで落ち着いて下さい」
「あぁ。サンキューな」
「さん……?何ですかそれ」
「ありがとうって意味だ」
「へぇ~、あ。いえ、どういたしまして、です」
何故か突然言葉がどもりだしたが、そんなことより貰った水が思ってたより冷えていて美味かったので気にしない事にした。
「ふぅ……それで今日は何してたんだ?」
「あ、はい。樹海に行くので必要になりそうなのを色々準備してたんです」
「あぁ、そっか保存食とかいるもんな」
「それだけじゃありませんけどね。長期間ここを離れることになるので、武具の手入れをする道具とか色々ありますし」
「なるほど、一応俺の方でもいくらかは揃えたが、ミリナの方がその辺は心配ねぇか」
「シロさんは何を買ったんですか?」
「主に解毒薬とか虫除けとかだな。毒を使ってくる魔物が多そうだったし、小さい虫でも危ねぇのがいるかもだしな」
「小さい虫?それって危険なんですか?」
「は?あ、そうか医療が発展してねぇから知られてねぇのか」
小さい虫……特に蚊などが危険なウィルスやら病原菌をもっていると知られるようになったのは地球の長い歴史の中でも割と最近のはずだった気がするのを思い出した。
「暑い時期になるとこう、虫に刺されて痒くなったりしたことねぇか?」
「あぁ、ありますね。嫌ですよね、アレ」
「アイツらは俺たちの血を吸う前に皮膚に直接麻痺毒みたいなのを流して皮膚を柔らかくしてから血を吸ってくるんだが、そいつらの体内に元から病気を持つ者がいると、高熱を出したり病に侵されたりするんだ」
「へぇ~、よく知ってますね」
「まぁな。んでそれ対策として虫除け用の道具をちょこっと揃えたってわけだ」
「なるほど、考えたことなかったです」
マラリアとかがこの世界にもあるとは限らないが……ただ場合によっちゃそれよりヤバそうなのはありそうだが。
そういうわけで俺とミリナは打ち合わせをしたわけではないにしても互いに必要なものを買い揃えていた。
特にミリナの方は長期間の旅を前提としていたらしくそこそこ大荷物となっていたが、二人で分割すれば問題ないだろう。
この後、俺たちは暗闇の樹海に生息する魔物について色々と話し合ったが、結果からいうと余り分かったことはなかった。
何せ暗闇の樹海は決して入ってはならない禁足地となっているため訪れる者は殆どおらず、居たとしてもそれが帰ってこられた試しが一度もないのだ。
長い歴史の中でそんなことあるのかと思ったが、すぐに熱源感知でみた森の光景を思い出して「あ、やっぱ無理かも」と考え直した。
森全体が魔物と化してるんじゃないかと思えるくらいに真っ赤な生体反応の数はその殆どが擬態しており、一見するだけじゃまず見破れないものばかりだったのだ。
アレを初見で見破れるのは専門家か同じ魔物の類しか無理だろう。
しかし、そうなると気になってくるのは入り口にあったあの遺跡だ。色々と長い年月をかけて朽ちてきてはいたが、未だ現状を留めており、かつあそこだけ一切の魔物の類がいなかったのが気になる。
「遺跡に関しては生息する魔物以上に謎ですよ」
「そうなのか?」
口に出していないつもりだったのに、ミリナから考えていた事を言い当てられたが、最近よくある事なので気にしないことにする。
「はい。いつ、誰が、何の目的で建てた物なのかはっきり分かっていないんです。伝承にすら残っていないので、調べようがないんです。
ただ分かっているのは樹海の奥にはアレと同じ遺跡があるそうです」
「は?何でそんな事が分かるんだ?誰一人帰ってこれないんだろ?」
「昔、鷹族の冒険者が空からなら何か分かるかもと言って試してみたそうなんです」
「そしたら?」
「はい。ジャック・トレントの攻撃を受けて亡くりました」
「だよなぁ~」
考え方としては悪くないが、その対抗策が甘かったわけだ。
いや、対策はしてたがジャック・トレントは普通じゃかなりレアな魔物らしいからな。事前情報もなく対策も何もあったもんじゃないわな。
「ですが亡くなる直前に『遺跡がある』そう言っていたそうです」
「へぇ。そりゃ面白そうな話だな」
「実際に入り口にある遺跡から先には草木で見えなくなってますけど、石畳がしかれているようです」
「あぁ、そういやそれっぽいのがあったな」
朧げだが、何となく森の中へと石畳が続いていたのを思い出した。
ってなると、あの遺跡は単なる遺跡じゃなくて何か意味があんのかもしんねぇな。
魔境の中にある謎の遺跡とか……インディさんに憧れた事はあっても体験したいと思った事はねぇんだけどなぁ~。
でも実際あると、これはこれで中々楽しくなってきたじゃねぇの。
「そんじゃその遺跡の探索を目的にすっかね……なぁ魔境ってのは全部で四つあるんだよな?」
「はい。亜人領域の『暗闇の樹海』魔族領域フルストの『氷結の監獄』人間の領域には『奈落の霊廟』と『死灰の孤島』があるとされています」
指を折りながら一つずつ教えられたお陰で何となく場所が分かった。
魔王が生まれたとされる魔族領はだいぶ北にあるようだ。
それこそ普通に人の足で向かおうとしたら移動だけで年単位が必要なくらいの距離があるらしい。
人間側にある『奈落の霊廟』とやらは正確な場所は分かっておらず、ダイラス迷宮からしか向かう事が出来ない上に地下深くにあるとされているようだ。
『死灰の孤島』に関しては南の海に面した先に常にその島の上空にだけ暗い雲がかかった場所があるらしい。
それにしても、すっかり忘れてたなぁ……魔王の存在。
元はと言えば魔王が復活だかなんだかしたから俺たちが召喚されたんだっけ。
それなのに俺ときたら……割と色々忙しかったせいで元凶である魔王に関して何にも調べず、忘れてたとは。
我ながら呆れてくるな。
まぁだからといってこれから何かをしようとは思わないんだがな。
そーいう面倒なことは勇者(笑)にでも任せとけばいいか。
あ、でもスルグベルトには嫌がらせはしたいからある程度の情報収集は続けておくべきか。
一応ミリナに現在の状況を聞いてみたところ、魔王は現在復活してから力を溜め込んでいるため戦争になるのはもう少し先の話になるだろうということだった。
そりゃそうか。いくら魔王であっても復活したら即進撃って訳にはいかんのだろう。
軍備や指揮系統を整えたり、移動するまでの時間を考えたらまだ当分先の話だろうしな。
つまるところレベルアップを測るには今が丁度いいってことだな。
いや、本当ならもっと早くやるべきだったんだろうが、何分今のこの身体に馴染むには時間が欲しかったからな。しょうがねぇ。
「さてと、それじゃあそろそろ寝るとするかね」
「はい……あの、一つお願いしても良いですか?」
「ん?まだなんかあるのか?」
自分から言い出した癖に随分と歯切れが悪かったが、やがて意を決したように、それでも何故か照れた様子で口を開いた。
「えっと……私も一緒に寝ていいですか?」
「…………は?」
一拍……二拍……三拍目で漸く思考が戻った。
こいつは一体何を言ってるんだ?
余りにも唐突過ぎる発言に思考放棄をしたが、改めて考えるとコイツが何を考えているかさっぱりだ。
ミリナはこれまで色々話したり共に行動している中で頭が良いのはよく分かる。
俺の勝手な判断だが、恐らく同年代の中でも頭の回転は早い方だと思うし、何より視野も広いので気遣いが出来る正に出来る女の代表例と言ってもいいと思っていたが……流石にこれはアホ過ぎるだろ。
「一応……一応聞くが、そりゃどういう意味かわかって言ってんのか?」
「それは……その、勿論、です……でもやっぱり嫌ですよね。シロさんからしたら私みたいな獣人を相手にするのは気持ち悪いですよね」
自分から言い出したにも関わらず、勝手にどんどんと落ち込むように暗い表情になり、それに合わせて耳と尻尾も垂れ下がっていくのだが……何勝手に自己完結してんだよ。
「は?いや、そんなくだらねぇ事はどうでも良いんだよ」
「え?」
「俺が聞きたいのは何でそんな事をしたいのかって事だ。別に獣人相手じゃ気持ち悪いだなんて微塵も思わねぇし、ミリナが相手してくれるってんなら元気百倍にもなる。
が、基本的に抱くのはプロの娼婦か、惚れた女だけって決めてんだ」
「え?え?何ですかその誠実なのか不純分からない理屈」
全くその通りである。
聞き手によってはカッコよくも聴こえてしまうセリフだが、よくよく考えてみたら一途アピールをしながらも浮気宣言をしているようにも聴こえてくる。
恐らくこの場にクラスの男子がいたら『おぉ、アイツ。漢だな……』と感嘆の声を漏らしていただろうが、その反面女子からは『勇気だして言ったのにビッチと気に入った女しか抱かない最低なヘタレ野郎』の烙印を押されること請け合いだろう。
まぁそんな女子には『愛のあるセ◯クスをするのと愛の無いセッ◯スをするの、どっちが良い?』とか言って是非とも論破して見せたいところだが、基本的に人間は理性よりも感情で怒り、動く生き物だというのを知ってるのでどんな罵詈雑言を浴びせられても気にしない事にしてる。
ただ一つだけ言いたいことがあるとしたら、決してヘタレなわけではないということだ。
これは俺の一つのケジメなので、優柔不断な訳でもハッキリしないわけでもない。
寧ろ即断即決してキッパリ言い切るタイプだ。それをヘタレと言ってくるのは実に心外である。
とりあえずこれ以上は話が脱線するので元に戻そう。
「おいおい、俺が聖人君子を謳うような人間に見えるか?誠実でもなければ純情でもねぇよ。それでもあえていうならコレは俺のケジメであり、真人間としての至極真っ当な考えだよ」
「何だが屁理屈を重ねられてる気がします」
「んなことねぇっての。それで?お前はどうして一緒に寝たいだなんていったんだ?」
「……シロさんの事が好きだからです」
ハッキリとミリナはそういった。
元々その事を告げる覚悟があったのか、照れて赤くなる感情を押し殺しながらもミリナは真っ直ぐと俺の目を見て言ってきた。
だから俺もありったけの誠意をもって答える事にした。
「俺もミリナの事は好きだ。だからその気持ちは素直に嬉しい、が。俺の好きとお前の好きは違うんだよ」
「…………」
「それでもお前はまだ一緒に寝たいだなんて思うのか?」
「…………ズルい人ですね。知ってますよ、そのくらい。分かってたに決まってるじゃないですか」
ため息と共に大きく息を吸って言葉を吐き出すと、ミリナは穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「それでも私はシロさんと一緒に寝たいと思います。だって、これから死ぬかもしれない場所に行くのに心残りなんて残したくありませんから」
「……はぁ、そんな死亡フラグみてぇな事いうなよな」
何となく答えを察してはいたが、こうも改めて言われると照れくさいものがある。
俺は軽くミリナの頭を撫でると部屋の灯りを消した。
「明日は早い……が、寝れると思うなよ。誘ったのはお前なんだからな」
「あんまり酷いのは嫌ですよ?」
「知るか。お前は黙って舌を出せ」
「…………っんく」
言われるがまま、為すがままに舌を這わせキスをし、ミリナの身体を堪能した。
ケモノってのは見た目こそ猫っぽいが、身体の作りは人とそんなに大差ない。
強いて言うならザラついた舌の感触がいかにも猫っぽい感じがしてそれはそれで楽しめた。
程よく括れた腰回りに腕を通し、抱き寄せると柔らかい毛並みが全身を包み込むようで、暖かい上に柔らかな感触と肌触りの良い毛並みとで最高の一言に尽きる。
胸や陰部なども毛並みに覆われてはいたが、触ってみると人間では決して味わうことの無い感触に何度も弄り回してしまった。
いつもなら前戯はそこそこに、軽く遊んだら済ませていたのだが、ミリナは今回が初めてだったようで膣に入れようとしたら、そのままじゃ入りそうになかった。
仕方なく普段よりもじっくりと時間をかけてほぐしていくのだが、その度にビクビクと初々しい反応が返ってくるのでついついイジメたくなり、必要以上に弄ったせいで恨めしそうに少しだけ睨まれてしまったのは言うまでもない。
「ふにゃっ……うぅっく……」
「っ……落ち着けよ。力を抜けって」
「ぅう……は、い……でも、シロ、さん」
「ほら、こっち見ろ」
「はぁはぁ……っく、嫌っです……そんな、見ないでぇ……」
「いいからこっち向けっての」
挿入してすぐ、初めての感覚に戸惑ったのか痛いくらいに締め付けてくるミリナの顔を半ば無理矢理上げさせると再びキスをした。
同時に落ち着かせるように何度も背中を摩るように撫で、気持ちを落ち着かせていく。
女性の中には一思いに一気にやってほしい人もいるそうだが、わざわざ痛がる方法を取るのは好きじゃない。
だから、馴染んでくるまでの間出来るだけ昂ぶる気持ちを落ち着かせようと何度も声をかけ、キスをした。
「も、だいじょぶ……です。来て下さい、シロさん」
「あぁ。そのつもりだ」
「んっ!くぁあっ……!」
最初はゆっくりと、徐々に熟れてきてからは自分のペースで腰を動かしていった。
その間もずっと初々しいというか、何というか、やけに扇情的な反応と喘ぎ声についつい支配欲に似た、思わず蹂躙したくなる気持ちが湧き出てくるが、何とか理性で押し殺しながら楽しんでいった。
プロ相手だと男を悦ばせる為に喘ぎ声を上げたり、逆に恥じらうように声を押し殺したりするのだが、そんな打算も余裕もない全くのド素人だと、それはそれでヤバいものがある。
叔母に連れられて何度か『仕込み』をした事はあるが、その時には全く感じなかった感情に思わず戸惑ってしまい、また愛おしいとすら感じてしまった。
自分でも何でそんな風に思ったのかは疑問だが、今は兎に角ミリナとの時間を楽しむ事に専念しようと思考を放棄する事にしたのだった。
☆☆☆☆☆
ご愛読の皆様、新年明けましておめでとうございます。
いつも『頭にきたから異世界潰す』を読んで頂き誠にありがとうございます!
そして予定していた日程よりも遅れてしまい申し訳ありませんでした。
次回の投稿予定日と致しましては一月七日を予定にして鋭意作成中ではございますが、少し遅れて投稿する事になると思いますので予め御容赦下さい。
さて、話はあまり変わりませんが新年を迎えたということで、私自身の今年の抱負と致しましては2019年もこの『頭にきたから異世界潰す』を投稿し続け、年が変わる前には完結させたいと思っておりますので、応援のほど是非よろしくお願いいたします。
また、読者の皆様から何か「こういうのが欲しい」「あの話はどうなったんだ?」といったご要望や疑問がありましたら遠慮なくお申し付け下さい。
私自身の活力にもなりますし、そういったコメントがあると大変嬉しいです。
長々となりましたが、今年もよろしくお願いいたします。
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