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過去とユメとユミ

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今頃彼は、僕が元いた場所にいるのだろうか。
まだ落ちている途中かもしれない。

シャツに触れられてすぐ、僕は彼を取り込んだ。得体の知れないブラックホールに飲み込まれた瞬間の、彼の怯えきった目に胸が痛んだ。

ごめんね。でも今は、こうするしかないんだ。

あれから、僕はまっすぐ家に帰って、眠かったけど、まだ眠らずにいた。
眠ってしまったら、意味がなくなってしまうから。
ソファに腰掛けて、そっと目を閉じた。
そして、彼を思い浮かべた。

目を開けると、俺は、何もない部屋の中で寝転がっていた。

寝起きのような、ふわふわした感覚で頭がぼーっとする。
そのままじっとしていると、上から声が聞こえてきた。

お前なんかうちの子じゃない。
そんなこともできないんなら出て行きな。
このグズッ！うまなけりゃ良かった。

この鋭い声、どこかで聞いたことがある。

お前そんなこともできないのか？ユミちゃんと違ってバカだなぁ。
そんなんじゃいい大学行けねえぞ？そんで、いい大学行けなかったら、お前、仕事なんてねえんだぞ？
一生社会のお荷物で生きていくんだぞ？
それでもいいのか？あ？
なんとか言えよこのカスッ！

バシッと破裂音が耳に響いて、俺は右の頬に衝撃を受けた。
これってもしかして俺が小学生とかの頃の。

あのさ、あたしだってお前に相当な時間と金かけてやってるわけ。
愛情こんなにたっぷりそそいでやってんのにさ、なんでユミちゃんみたいにできないの？
死んだら？もう。

あ、思い出した。これはあのクソババアだ。

よくよく目を凝らすと、平凡で清純そうな女が、目を釣り上げて寝転がってる俺を睨んでいた。
この女は親父が帰ってくると猫を被ったようになる。そうだった、懐かしい。
躾だと名付けて俺に執拗に暴力を振るうような女だったんだ、こいつは。
後で聞いた話だと職場でうまく行ってなかったとかなんとか。
まあ、なんか理由つけて八つ当たりしたかったんだろうな。
「おい、聞いてんのかこのカス。」
目の前の女はまだ喋っている。
俺は、めんどくさかったので押し黙って目をつぶっていた。
すると女は俺の腹を蹴り上げた。
流石に吐き気がして、俺は女をきつく睨んだ。
「あのさ、あんたを母親なんて思ってないから。」
そう言いかけて、俺の視界は真っ赤になった。
唐突に女の腹に、ナイフが刺さって、その返り血が俺の全身に飛びうつったのだ。
あ、なんか見たことある。そう思った時には、もう女は消えていた。

「ねぇ、ユミ！」
その待ち受けの男の子、誰？かわいーじゃん。あんたにそんなロリ趣味があったなんて思わなかったわー。」
友達のマリが私の携帯をひったくった。
私は返してよと取り返そうとするが、モデル体型で身長も15センチ違うマリに敵うわけがない。
「っていうかロリコンじゃないし！その子は中学まで一緒で家が近かっただけのただの幼馴染！」
「ふーん、ただの幼馴染ねぇ…。」
マリは面白そうに、赤くなる私を見てニヤニヤしてる。
腹立つわこいつ自分に彼氏がいるからって…と私は殺意すら覚えた。
「あ？なんだって？ユミ、友達を殺したいの？」
「あ、あんた心が読めるのかッッ！？」
昼休み、二人がじゃれ合ういつもの光景。
こんなに楽しい２０分がこの世にあるのだろうか。
と最近になって私は思う。
それも、マリが一緒にいてくれるおかげなんだよな。
やっとの事で携帯を取り返すと同時に、授業開始のチャイムが鳴った。
5時間目の古典は寝る人が続出する。無論私もそのうちの一人だ。
だけど、今日は違った。
あの子のことを思い出して、眠れなかった。
中学の時の彼は、どこか頼りなさげで。
いつも何かに怯えてた。
でも、瞳が綺麗だった。
真っ黒で男子にしては大きな、あの目で見つめられると、私はどうにも身動きが取れなくなって、いつのまにか嫌なことが、すって消えていった。
そんなあの子を私はずっとー
「はい、白川さん。この「けり」の意味用法は？」
唐突に中年の先生に当てられて、パニックになる。
「え、えっと…。」
ガサガサと参考書で調べ始めた私を、先生は鼻で笑った。
「ハっ！たいして頭も良くないのに、居眠りなんていいご身分だ。」
教室中にかすかな笑いが起きる。
っあー…こいつを「けり」たい…ッ！
斜め前の席でマリがあの先公マジ腹立つ！と書かれたメモを渡してくれた。
うんうん、やっぱ持つべきものは友達っしょ！

あの女の次に出てきたのは、二つ結びの、小さな女の子だった。
「ねー、遊ぼ！かさみー！」
ちなみにかさみというのは、俺が最近はやりのトップアイドルの顔に似ているからとユミが勝手に命名したもので、俺の本名じゃない。
「ねっ！かさみ！遊ぼ？」
懐かしいな、ユミの香りだ。
「…人殺しゲームならいいけど？」
昔の俺のセリフをそのままユミにぶつけると、ユミは嫌そうな顔をした。
「だってかさみ、それしかやってくれないじゃん。」

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