Who

Mind

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舞台は3、

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「だってかさみ、それしかやってくれないじゃん。」
まあ、確かに。
あの頃は、殺す、とかそういう言葉を当たり前のように使ってた。なんの恐怖も罪悪感も感じなかった。
実際、あの頃の俺は誰でも殺せたんじゃないかな、なんて物騒なことを考えるときもある。
「かさみ、たまにはお姫様ごっこしよう!」
ユミは昔からいかにも女子、という感じの女子だった。
持ってるものも可愛かったし、いつもクラスの中心にいて、頭も良かった。
それに、ユミは可愛かった。
顔が、とかじゃなくて、あいつの中身が、あいつから放たれるオーラのようなものが、周りを惹きつけていた。
しかし俺からすればそんなことはどうでも良かったのだ。
「じゃあ、私がお姫様するから、かさみは執事やってね!」
はいはい、とテキトーに相槌を打つと、ユミのパンチが飛んできた。
こんな年から、ちっこい見かけのくせに、こいつのパンチは重かった。
「そんなテキトーな感じじゃやだ!もっとちゃんとやって。」
「…俺はお前のオウジサマにはなれねえのかよ。」
口走ってしまった瞬間に、波のように後悔が押し寄せてきた。
昔のことをこんなチビユミに聞いたって、もうどうしようもないのに。
ユミは一瞬ポカンとして、すぐに花のような笑顔を見せた。
「いいよ!かさみ、けっこんしよお。」
差し伸べられた手のひらに、うっかり触れてしまうと、目の前でユミの姿が霧のように朧げになった。
そして、数秒もかからない間に、ユミは俺の前から消え去った。











ソファの上で、身体を丸めて目をつぶって。
こんな風に一人でぼんやりするのも悪くないのかもしれない。
少なくとも、あの真っ暗な世界に閉じ込められているよりはましだ。
「コーヒーでも飲もうかな。」
とつぶやいてみて、思い出す。
「…やっぱやめよ。」
僕はコーヒーなんて飲めないじゃないか。馬鹿らしい。
にしても、と暗い部屋を見渡した。

彼はいつもこんな世界で生きているのか。

僕の世界も同じ暗闇の中にあるけど、でも彼は、僕のように昔の記憶に殴られたり、おままごとをしたりはしない。
わかってる。
僕はこの世界にいちゃいけない存在だ。
でも、仕方がなかった。
時間なんて概念もない、真っ暗な世界の中で、ただひたすら彼の昔の記憶の人々に責め立てられる生活は、正直もうなれてしまっていたから辛いとも思わなかった。
もちろん初めは、彼の存在なんて知らなかった。
ただ、本当にぼんやりとだけど。
何もない世界で閉じた瞼の裏に、彼の姿が映るようになった。いつからだっただろうか。

その黒い目が、あまりに寂しそうだったから。
僕は思わず手を伸ばしてしまったんだ。
大丈夫だよ、今は辛いかもしれないけど、
いつか必ず幸せになれるから。
そうか細い声で何度も繰り返した。
そしたら、僕の体はあの花畑にいて。
夢の中でだけど、彼と会うことができた。
あれは、もしかしたら僕が、僕自身へ向けた言葉だったのかもしれないな。
一体なんの感情なのかわからないため息で、
僕は再び目を閉じた。













ユミ、なんて名前が大嫌いだった。
だって、弓だよ?全然可愛くないんだもん。
そうマリに愚痴ったこともある。
どうせならもっと可愛い名前にしてほしかった。
帰りの電車は、いつにも増して混雑している。
窓から溢れる茜色の光に照らされて、少し気分が穏やかになる。
スマホを取り出して、お気に入りのメイクブランドの名前を入れ始める。
あんまし品質は良くないんだけど。
[Black Eyes]のkまで入れたところで、トンネルに入った。
窓の前に立った自分の姿があらわになる。
ミニのスカート、ブカブカのブラウンセーターに、ピンクのハートの髪飾り、真っ白な肌に長い睫毛。
昔からみんな自分のことを、白雪のようだ、人形のようだ、ともてはやした。
淡いピンクのアイシャドウは、フローラルな甘いコロンによく似合う。真っ赤なリップとグロスで艶を出して、仕上げに綿棒で形を整えて。
おしゃれをするのは、確かに楽しい。

だけどーー…

気がつくとため息が漏れていた。
トンネルはまだ終わらない。
早く終わってよ、もう見たくない。
そんな風に睨んでも、まだまだ光はささない。
みんな私を可愛いって言う。
それが気持ち悪かった。
小学校の時、親友だった子に、おしゃれだねって言われた時、私はその子に裏切られた気がした。
心の底から好きでおしゃれをやってるわけではない。
完璧でないと、自分を許すことができなかったんだ。
その病気は、現在進行形。
少しでもスカートが乱れてたり、少しでも成績が悪かったり、少しでも空気が読めなかったりすると、私は素に戻ってしまう。
臆病で弱虫で、絶対的完璧主義者で、どうしようもない人間に。
人付き合いをしてる時は、素じゃない自分を必死で演じる。演じることに関しては、私はおどけたピエロにも匹敵するほどに力があるような気がする。
だから、常に気を張ってなければいけない。

やっとトンネルが終わった。
ピエロの私は、何事もなかったかのようにスマホに目を落とした。















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