あぶはちとらず

井氷鹿

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第5章 Grasp all , Lose all.3 1995年 亘編 夏2

縁は異なもの味なもの1 Love knows no common rule.

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「はい、これわーちゃんに。使いやすくて、お気に入りなんだ」

 そう言って、紅緒が渡してくれたペンケース。

「私と色違い。今日は付き合ってくれてありがとう」

 モスグリーンの牛革製のペンケース。
 袋状でくるくると巻き付け、最後はベルトで止める、どちらかというと筆入れみたいな造りだ。
 紅緒のは少しくすんだサーモンピンクだって。

 今思い出しても、顔がにやけてしまうよ。

「よぉ。朝からニヤケちゃってご機嫌だな日向」

 うおっ、平川先輩。
 エレベーターを待っていると、いきなり横に並ばれた。

「お、おはようございます」

「おはようさん。週末に良いことでもあった?」

 降りてきたエレベーターに、そのまま乗り込む。
 後ろから来た人たちに追いやられ、後ろの壁を背に並んで立った。

 背にかけたボディバッグが潰れない様、前に回し両手で抱える。
 手に当たるこれは、ペンケースだ。

 えへへ。
 どうしよーかな、話しちゃおうかな。
 でも、先輩明日紅緒とデートなんだよな。

「なんだよ、ご機嫌じゃなかったのか」

 あ、思わず睨みつけちゃったよ。

「いや、あの、紅緒が僕にペンケース買ってくれたんですよ」

「べーちゃん? もう誘ったのか。悩んでたくせに、手早いな」

 はぁん? 

「ち、違いますよっ。来週崇直の誕生日だから、プレゼント一緒に選んでって誘われて、それでロフトに行って買ったから、そのお礼だって、い、色違いのペンケースを」

「へー、色違いのお揃いなんだ。良かったな、全然脈ありじゃん日向、それ」

「え?」

 色違いのお揃いって、そうなの。
 紅緒とお揃いって、そういうことなの?

「脈あり? マジで」

「そりゃ、嫌いな奴とお揃いはしないだろ普通」

 そりゃそうだけど。
 脈ありなんだ、これ。
 あはははっ。

「日向、今日は一段と仕事が捗りそうだな。ま、頑張れ」

 エレベーターが止まると先輩は僕の肩をポンと叩き、降りていく。
 そうかぁ、紅緒もまんざらじゃないんだ。
 なんだか照れるなぁ。
 なんて思ってたら、やばっ。
 ドアが閉まるところだったよ。

「先輩、金曜の夜突っ込んで帰ったジョブ、朝一で確認しておきます」

「うん。ターミナルの方はもうアポ入れてあるから、いつでも始めていいぞ」

 ラボに着くや、X端末専用機のスイッチを入れた。
 低いファンが回る機械音と共に、画面が明るくなる。
 サーバにログインし、gnuplotを立ち上げると、じわっと例のX11ウィンドウが浮かび上がった。

 無事走り切ってますように、と祈りを込めて週末のジョブの確認。
 エンターキーを叩いた。
 さぁ、来い。
 左から右へカーソルが目にも見えない速さで走り出す。
 おおっ、おっ、行ってる行ってる。
 エラーなしで最後まで走り切ってる。

「おっしゃ! エラー無し」

 シミュレーションの出力ログを開いて、後は数値の羅列を*awk で整え、 *gnuplot に読み込ませるだけだ。
 数秒後、物流ネットワークのグラフがX端末に描き出される。
 これで、ようやく人の目にも理解できる形になった。
 単位も数値も確認して、OK だな。

 プリントアウトして提出したら、後は入出庫管理と合わせて全体の流れが分かるように、組みなおしだ。

 僕のいる島の端にプリンター専用のラックが設置してある。
 右端のはいつも何かしら吐き出していて、紙が蛇腹に折り重なるよう専用の受け皿までついている。
 真ん中のプリンターに送り出し、続いて3インチフロッピーを突っ込む。
 読み込み待ちの間にプリンターを取りに行こうと思ったら。  
 
「おお、無事走ったようだな。さすがだね」 

 先輩の声がした。
 吐き出されたプリントを確認している。
 終わったところで、紙を切って持って来てくれた。

「ログ見せて」

 と肩越しに、キーボードを操作する。
 画面を呼び出し、画面をスクロールしてチェックが始まった。
 
「シンタックスエラーも、無しか。お前、天才だな」

 と満面の笑み。

「どうもっス」

 ふーっ、良かったぁ。
 普段がチャラいから、真剣にやられると肝が冷えるよ。

「じゃ、続きもよろしく。これ、もらってくね」

 と丸めたプリントを持って、ラボから出て行った。

 
 
 
 awk : UNIX/Linux系のテキスト処理に特化した汎用プログラミング言語
 gnuplot : 関数やデータを視覚化し、グラフを作成するための無料ソフトウェア
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