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第十七章・逢瀬〔忍び愛〕エドの町に愛した人を求めて〔架空江戸時代〕
第59話・楡崎 幽玄の場合②
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背後に体が透けて見える男性を、従えた幻斎が言った。
「立ち話しもなんだ、部屋に上がって、熱い茶でも出そう」
土間から部屋に上がった亜夢は、七霧が傘張りの内職をしている部屋の隣りにある、発明品が乱雑された部屋に案内された。
幻斎と向かい合って座った亜夢の前に、七霧がお盆に乗せたお茶が注がれた、湯呑みを置く。
熱い茶をすすった亜夢は、部屋の隅に膝を抱えて座っている。背景が体を通して透けて見える顔色が悪い男性を気にしながら。
隣部屋にいる、忍びの七霧を意識して。最初に小声でレイ・ジルドに訊ねる。
「この世界で、今度は何を企んでいるんですか」
「小声で話す必要はないぞ、忍者の耳には聴こえていない……そうだろう、七霧」
七霧の両耳が、折りたたむように耳穴をふさぐ。
七霧が傘張りをしながら答える。
「オレ、何も聴こえていませんよ……聴いていませんよ」
幻斎が亜夢の質問に答える。
「何も企んでいない……この江戸時代世界では、肉欲の性の交わりも愛情の性の交わりも、両方が受け入れられて存在している。自由で理想的な世界だ……わたしが、どうこうする世界ではないだろう」
「では、なぜこの世界に?」
「単なる道楽だ、それより何かオレに訊ねたいコトがあるんじゃないか?」
「そうだった」
亜夢は幻斎に、エレキテルの実用的な利用方法について聞いてみた。
腕組みをして亜夢の話しを聞き終わった幻斎が言った。
「エレキテルを城下町で、利用するとなると大規模な土木工事が必要になるな、川をせきき止めて高低差で流れ落ちる水流で水車を回して、巨大なエレキテルで発電させる」
「大変な国家事業になりますね」
「工事はそこで終わりじゃない、エドの町まで配電するためには、銅製の送電線と電柱が必要になってくる……エドの時代では難しい大工事だな」
亜夢が再度、幻斎に訊ねる。
「では、電気を有効に利用するのはムリなので?」
「いや、お天道さまの光りを電気に変えて利用すれば、水力発電のような大規模な工事をしなくても済む……気づかなかったか、この長屋の屋根が黒いコトに」
「言われてみれば」
亜夢は、かたつむり長屋の屋根が、黒光りする瓦で覆われていたコトを思い出した。
幻斎が言った。
「あれは、日の光りを受けて発電をする、太陽光発電の瓦だ……かたつむり長屋の明かりを補っている。今は電球だけだが、そのうちに他の家電も発明するつもりだ」
「さすが、幻斎先生……ところで、さっきから気になっていたのですが」
亜夢は、部屋の隅で膝を抱えて座っている、存在感が薄いイケメン男性に視線を向ける。
「アレはなんですか? 体が透けて視えるんですが?」
「あぁ、アレはエレキテルを手動で動かした時に、集まってきて形になった長屋に漂っていた残留思念の幽霊だ……静電気に引き寄せられるホコリみたいなもんだ」
「名前はあるんですか?」
「名無しだと呼びにくいから『楡崎 幽玄』と名付けた……幽玄、そこの修理箱を取ってくれ」
立ち上がった幽玄は、棚に乗っている木箱を必死に取ろうとする、幽玄の手は木箱をすり抜けて取るコトができない。
幻斎が言った。
「見ての通りだ──毒にも薬にもならない無害な幽霊だから、置物代わりに部屋に住まわせてやっている……どうやら、この世に未練があって成仏できないみたいだ……そうだ、亜夢、七霧と一緒に幽霊の未練を解明して成仏させてやってくれないか」
「はぁ、まあヒマだから別にいいですけれど」
亜夢は、幻斎を演じているレイ・ジルドが、このエドのマルチバースでは何も企んでいないと確信して、七霧と一緒にエドの町で楡崎 幽玄の未練探しをするコトになった。
「立ち話しもなんだ、部屋に上がって、熱い茶でも出そう」
土間から部屋に上がった亜夢は、七霧が傘張りの内職をしている部屋の隣りにある、発明品が乱雑された部屋に案内された。
幻斎と向かい合って座った亜夢の前に、七霧がお盆に乗せたお茶が注がれた、湯呑みを置く。
熱い茶をすすった亜夢は、部屋の隅に膝を抱えて座っている。背景が体を通して透けて見える顔色が悪い男性を気にしながら。
隣部屋にいる、忍びの七霧を意識して。最初に小声でレイ・ジルドに訊ねる。
「この世界で、今度は何を企んでいるんですか」
「小声で話す必要はないぞ、忍者の耳には聴こえていない……そうだろう、七霧」
七霧の両耳が、折りたたむように耳穴をふさぐ。
七霧が傘張りをしながら答える。
「オレ、何も聴こえていませんよ……聴いていませんよ」
幻斎が亜夢の質問に答える。
「何も企んでいない……この江戸時代世界では、肉欲の性の交わりも愛情の性の交わりも、両方が受け入れられて存在している。自由で理想的な世界だ……わたしが、どうこうする世界ではないだろう」
「では、なぜこの世界に?」
「単なる道楽だ、それより何かオレに訊ねたいコトがあるんじゃないか?」
「そうだった」
亜夢は幻斎に、エレキテルの実用的な利用方法について聞いてみた。
腕組みをして亜夢の話しを聞き終わった幻斎が言った。
「エレキテルを城下町で、利用するとなると大規模な土木工事が必要になるな、川をせきき止めて高低差で流れ落ちる水流で水車を回して、巨大なエレキテルで発電させる」
「大変な国家事業になりますね」
「工事はそこで終わりじゃない、エドの町まで配電するためには、銅製の送電線と電柱が必要になってくる……エドの時代では難しい大工事だな」
亜夢が再度、幻斎に訊ねる。
「では、電気を有効に利用するのはムリなので?」
「いや、お天道さまの光りを電気に変えて利用すれば、水力発電のような大規模な工事をしなくても済む……気づかなかったか、この長屋の屋根が黒いコトに」
「言われてみれば」
亜夢は、かたつむり長屋の屋根が、黒光りする瓦で覆われていたコトを思い出した。
幻斎が言った。
「あれは、日の光りを受けて発電をする、太陽光発電の瓦だ……かたつむり長屋の明かりを補っている。今は電球だけだが、そのうちに他の家電も発明するつもりだ」
「さすが、幻斎先生……ところで、さっきから気になっていたのですが」
亜夢は、部屋の隅で膝を抱えて座っている、存在感が薄いイケメン男性に視線を向ける。
「アレはなんですか? 体が透けて視えるんですが?」
「あぁ、アレはエレキテルを手動で動かした時に、集まってきて形になった長屋に漂っていた残留思念の幽霊だ……静電気に引き寄せられるホコリみたいなもんだ」
「名前はあるんですか?」
「名無しだと呼びにくいから『楡崎 幽玄』と名付けた……幽玄、そこの修理箱を取ってくれ」
立ち上がった幽玄は、棚に乗っている木箱を必死に取ろうとする、幽玄の手は木箱をすり抜けて取るコトができない。
幻斎が言った。
「見ての通りだ──毒にも薬にもならない無害な幽霊だから、置物代わりに部屋に住まわせてやっている……どうやら、この世に未練があって成仏できないみたいだ……そうだ、亜夢、七霧と一緒に幽霊の未練を解明して成仏させてやってくれないか」
「はぁ、まあヒマだから別にいいですけれど」
亜夢は、幻斎を演じているレイ・ジルドが、このエドのマルチバースでは何も企んでいないと確信して、七霧と一緒にエドの町で楡崎 幽玄の未練探しをするコトになった。
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