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第十七章・逢瀬〔忍び愛〕エドの町に愛した人を求めて〔架空江戸時代〕
第60話・楡崎 幽玄の場合③
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かたつむり長屋を出て、エドの町をぶらぶら歩く、亜夢、七霧、幽玄の三人……忍びの七霧が言った。
「それにしても、幽霊を成仏させるなんて、雲をつかむような話だな……いっそうのこと、このまま幽霊を連れて寺に行って、坊主に念仏でも唱えてもらった方がいいんじゃないか? その方が簡単に除霊できるから」
七霧の言葉に青ざめている幽玄を横目に、亜夢が七霧に言った。
「それはダメだ、幽玄は悪霊じゃないんだから……この世に残した未練がなんなのか、見つけて解決してやらないと」
「面倒くさいな、おいっ幽霊! おまえがこの世に残している未練はなんだ?」
幽玄が細い声で答える。
「思い出せないんです……誰かを待っていたような気も……気がついたら、陰間茶屋の一室で幽霊になって立っていました」
「陰間茶屋というコトは、誰か男と待ち合わせをしていたのかも知れないな……他に何か覚えているコトはないか?」
「微かに覚えているのは〝とろろ汁〟〝スッポン〟〝うなぎ〟を、誰かと一緒に食べたような記憶も」
肩をすくめる七霧。
「〝とろろ汁〟〝スッポン〟〝うなぎ〟……全部、精力がつく食べ物ばかりじゃないか」
亜夢が着物の懐中から、折りたたんだエドの地図を取り出して広げる。
「とりあえず、幽玄が思い出したモノの場所に行ってみましょうか……ここから一番近いのは、ウナギ屋ですね」
七霧の腹の虫がグゥッと鳴る。
「ちょうど、腹も減ってきたから食べ歩きしながら。幽霊の未練を探そう」
一行はウナギの蒲焼き屋に向った。蒲焼き屋に近づいてくると、ウナギの蒲焼きの香りが漂ってきた。
七霧が店先の桶の中に入っている、活きたウナギを指差して店頭でウナギを捌いている男に言った。
「この活きが良いウナギを捌いてくれ」
「お客さん、それはウナギじゃなくてアナゴですよ……うちの店では、アナゴ焼きもや
っているので」
「なんだ、ウナギじゃないのか」
亜夢たちは店先で笑い、店内で幽玄以外が蒲焼きを食べた。
次に一行が向ったのは、スッポン屋だった。
また七霧が何を思ったのか、店先に置いてあった木製のタライの中で泳いでいる、スッポンの鼻先に指を近づけると、驚いたスッポンが七霧の指に噛みつく。
「いててててっ、スッポンに噛みつかれた……なーんてな、忍法タコ指、スッポンが噛みついたのは作り物の指だ……はははっ」
「七霧は、おもしろい忍者だな……はははっ」
一行は大笑いしてから、スッポン屋で幽玄を除いてスッポン料理を完食した。
スッポンの効果で体が熱くなってきた、七霧と亜夢は最後のとろろ麦飯屋に向った。
とろろ屋で、とろろ麦飯を食べていると。店内で男二人が喧嘩をはじめた。
七霧が呟く。
「なんだよ、とろろ屋で夫婦喧嘩か?」
怒鳴り声の内容から、片方の男がもう一方の男の男妻だとわかった。
旦那の男が、男妻の男に怒鳴る。
「何度言ったらわかるんだ! オレが愛しているのは、おまえだけだ」
「じゃあなんで、さっきの色男に色目を使ったんだ」
「勘違いだ、オレが惚れているのは、おまえ一人だけだ昨夜も床で愛し合っただろう」
とろろ汁の入った丼を持って、男妻が怒鳴る。
「もっと激しく、オレを愛せ! 他に男がいるんだろう!」
頭からとろろ汁をぶっかけられた旦那が、怒って男妻を抱きしめる。
「この野郎、ヌルヌルになっちまったじゃねえか! おまえもヌルヌルにしてやる」
旦那もとろろ汁を、男妻の頭からぶっかける。
「上等だ、旦那一途のオレを愛せ、オレも旦那を愛してこうしてやる……んんんッ」
ヌルヌルの体で抱擁して、唇を重ね合う男と男の姿に呆れ返った。
亜夢たちは、とろろ麦飯を残したまま店を出た。
歩きながら、七霧が呟く。
「結局は旦那と男妻の、のろけた〝とろろ喧嘩〟かよ……見ているこっちの方が恥ずかしくなって熱くなる。ここまで精がつく食べ物ばかり食べると、発情して興奮してくるな」
立ち止まって、幽玄が言った。
「思い出しました、あの時もこんな風に二人で精がつく食べ物を食べ歩いて……体が熱くなって二人で陰間茶屋に入って……そして」
幽玄が、うつむき加減でこちらに向かって日陰を歩いてくる、職人風の男を指差す。
「彼です『弥二郎』飾りかんざし職人の彼が、オレの恋人です」
弥二郎と名指しされた男は幽玄を見て青ざめる、どうやら、弥二郎には幽玄の姿が視えているようだった。
「まさか『花之助』か……ひっ、オレが悪かった成仏してくれ!」
いきなり弥二郎は、瓦屋根に飛び乗ると、走って逃げ出す。
超人的な跳躍力を見て、弥二郎の正体に気づく七霧。
七霧も瓦屋根に飛び乗って、弥二郎を追う。
七霧が投げた、分銅が付いた忍び縄が、弥二郎を捕らえて屋根から落とす。
弥二郎の近くに立った七霧が言った。
「おまえ、忍者だろう……あの身のこなし、魔賀の忍びか」
弥二郎が答える。
「そうだ、おまえは妖賀の忍びか……オレは魔賀の抜け忍だ」
亜夢と幽玄が、やっと追いつく。
幽玄が言った。
「すべて思い出した、オレの本当の名前は『楡崎 花之助』元若旦那で、腕がいい飾り職人の弥二郎のところに転がり込んだ恋人でした……あの日も、二人で陰間茶屋で愛し合おうと。精がつく食べ物ばかり食べさせられて、興奮しすぎたオレは陰間茶屋の家具に頭を打ちつけて……それで」
頭を下げる弥二郎。
「許してくれ、花之助をもっと発情させるために、口移しで【男根丸】を呑ませた……その結果、こんなコトに」
亜夢が呟き、七霧が答える。
「男根丸?」
「妖賀と魔賀に伝わる丸薬だ、男同士で激しく愛し合う時に使う男のモノが萎えない薬だ……とんでもねぇ、忍び薬を使いやがったな」
弥二郎が、もう逃げないと言ったので七霧は、忍び縄を解いた。
七霧が言った。
「魔賀の忍びだったら、かんざしの先端を人の首筋にでも突き刺して、人でも殺しているんじゃないか……冗談だって、そんな真顔になるなよ……さあ、どうして花之助が死んじまったのか、真相を語ってくれ」
弥二郎が静かな口調で語りはじめる。
「今の天下泰平の世になったら、魔賀忍軍も抜け忍追いはしなくなったが。追跡を逃れていた時の不安と恐怖がいつも心にあった。それを忘れたかったために、花之助に口移しで男根丸を呑ませて……花之助は未練を持ったまま幽霊に……許してくれ、花之助」
真相を知った亜夢が言った。
「じゃあ愛し合って、その花之助の未練を消して成仏させてやればいい……川の近くにあった水車小屋の中で真剣に、花之介を愛してやれば」
「それにしても、幽霊を成仏させるなんて、雲をつかむような話だな……いっそうのこと、このまま幽霊を連れて寺に行って、坊主に念仏でも唱えてもらった方がいいんじゃないか? その方が簡単に除霊できるから」
七霧の言葉に青ざめている幽玄を横目に、亜夢が七霧に言った。
「それはダメだ、幽玄は悪霊じゃないんだから……この世に残した未練がなんなのか、見つけて解決してやらないと」
「面倒くさいな、おいっ幽霊! おまえがこの世に残している未練はなんだ?」
幽玄が細い声で答える。
「思い出せないんです……誰かを待っていたような気も……気がついたら、陰間茶屋の一室で幽霊になって立っていました」
「陰間茶屋というコトは、誰か男と待ち合わせをしていたのかも知れないな……他に何か覚えているコトはないか?」
「微かに覚えているのは〝とろろ汁〟〝スッポン〟〝うなぎ〟を、誰かと一緒に食べたような記憶も」
肩をすくめる七霧。
「〝とろろ汁〟〝スッポン〟〝うなぎ〟……全部、精力がつく食べ物ばかりじゃないか」
亜夢が着物の懐中から、折りたたんだエドの地図を取り出して広げる。
「とりあえず、幽玄が思い出したモノの場所に行ってみましょうか……ここから一番近いのは、ウナギ屋ですね」
七霧の腹の虫がグゥッと鳴る。
「ちょうど、腹も減ってきたから食べ歩きしながら。幽霊の未練を探そう」
一行はウナギの蒲焼き屋に向った。蒲焼き屋に近づいてくると、ウナギの蒲焼きの香りが漂ってきた。
七霧が店先の桶の中に入っている、活きたウナギを指差して店頭でウナギを捌いている男に言った。
「この活きが良いウナギを捌いてくれ」
「お客さん、それはウナギじゃなくてアナゴですよ……うちの店では、アナゴ焼きもや
っているので」
「なんだ、ウナギじゃないのか」
亜夢たちは店先で笑い、店内で幽玄以外が蒲焼きを食べた。
次に一行が向ったのは、スッポン屋だった。
また七霧が何を思ったのか、店先に置いてあった木製のタライの中で泳いでいる、スッポンの鼻先に指を近づけると、驚いたスッポンが七霧の指に噛みつく。
「いててててっ、スッポンに噛みつかれた……なーんてな、忍法タコ指、スッポンが噛みついたのは作り物の指だ……はははっ」
「七霧は、おもしろい忍者だな……はははっ」
一行は大笑いしてから、スッポン屋で幽玄を除いてスッポン料理を完食した。
スッポンの効果で体が熱くなってきた、七霧と亜夢は最後のとろろ麦飯屋に向った。
とろろ屋で、とろろ麦飯を食べていると。店内で男二人が喧嘩をはじめた。
七霧が呟く。
「なんだよ、とろろ屋で夫婦喧嘩か?」
怒鳴り声の内容から、片方の男がもう一方の男の男妻だとわかった。
旦那の男が、男妻の男に怒鳴る。
「何度言ったらわかるんだ! オレが愛しているのは、おまえだけだ」
「じゃあなんで、さっきの色男に色目を使ったんだ」
「勘違いだ、オレが惚れているのは、おまえ一人だけだ昨夜も床で愛し合っただろう」
とろろ汁の入った丼を持って、男妻が怒鳴る。
「もっと激しく、オレを愛せ! 他に男がいるんだろう!」
頭からとろろ汁をぶっかけられた旦那が、怒って男妻を抱きしめる。
「この野郎、ヌルヌルになっちまったじゃねえか! おまえもヌルヌルにしてやる」
旦那もとろろ汁を、男妻の頭からぶっかける。
「上等だ、旦那一途のオレを愛せ、オレも旦那を愛してこうしてやる……んんんッ」
ヌルヌルの体で抱擁して、唇を重ね合う男と男の姿に呆れ返った。
亜夢たちは、とろろ麦飯を残したまま店を出た。
歩きながら、七霧が呟く。
「結局は旦那と男妻の、のろけた〝とろろ喧嘩〟かよ……見ているこっちの方が恥ずかしくなって熱くなる。ここまで精がつく食べ物ばかり食べると、発情して興奮してくるな」
立ち止まって、幽玄が言った。
「思い出しました、あの時もこんな風に二人で精がつく食べ物を食べ歩いて……体が熱くなって二人で陰間茶屋に入って……そして」
幽玄が、うつむき加減でこちらに向かって日陰を歩いてくる、職人風の男を指差す。
「彼です『弥二郎』飾りかんざし職人の彼が、オレの恋人です」
弥二郎と名指しされた男は幽玄を見て青ざめる、どうやら、弥二郎には幽玄の姿が視えているようだった。
「まさか『花之助』か……ひっ、オレが悪かった成仏してくれ!」
いきなり弥二郎は、瓦屋根に飛び乗ると、走って逃げ出す。
超人的な跳躍力を見て、弥二郎の正体に気づく七霧。
七霧も瓦屋根に飛び乗って、弥二郎を追う。
七霧が投げた、分銅が付いた忍び縄が、弥二郎を捕らえて屋根から落とす。
弥二郎の近くに立った七霧が言った。
「おまえ、忍者だろう……あの身のこなし、魔賀の忍びか」
弥二郎が答える。
「そうだ、おまえは妖賀の忍びか……オレは魔賀の抜け忍だ」
亜夢と幽玄が、やっと追いつく。
幽玄が言った。
「すべて思い出した、オレの本当の名前は『楡崎 花之助』元若旦那で、腕がいい飾り職人の弥二郎のところに転がり込んだ恋人でした……あの日も、二人で陰間茶屋で愛し合おうと。精がつく食べ物ばかり食べさせられて、興奮しすぎたオレは陰間茶屋の家具に頭を打ちつけて……それで」
頭を下げる弥二郎。
「許してくれ、花之助をもっと発情させるために、口移しで【男根丸】を呑ませた……その結果、こんなコトに」
亜夢が呟き、七霧が答える。
「男根丸?」
「妖賀と魔賀に伝わる丸薬だ、男同士で激しく愛し合う時に使う男のモノが萎えない薬だ……とんでもねぇ、忍び薬を使いやがったな」
弥二郎が、もう逃げないと言ったので七霧は、忍び縄を解いた。
七霧が言った。
「魔賀の忍びだったら、かんざしの先端を人の首筋にでも突き刺して、人でも殺しているんじゃないか……冗談だって、そんな真顔になるなよ……さあ、どうして花之助が死んじまったのか、真相を語ってくれ」
弥二郎が静かな口調で語りはじめる。
「今の天下泰平の世になったら、魔賀忍軍も抜け忍追いはしなくなったが。追跡を逃れていた時の不安と恐怖がいつも心にあった。それを忘れたかったために、花之助に口移しで男根丸を呑ませて……花之助は未練を持ったまま幽霊に……許してくれ、花之助」
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