25光年の侵略愛娘

楠本恵士

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第六話・お父さんが考えた「最強怪人弱点なし」

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 しばらくは怪獣の出現が無い、平和な日々が続いた。
(マヤのヤツも、このところは現れないし……昼間から風呂でも入るか)
 オレはバスタブにお湯を入れて、しばらく居間でお湯が溜まるのを待った。
 巨獣メガテリウム&古代植物怪獣デボンが踏み抜いた屋根は、マヤの復元光線とかで元の状態にもどっていた。
「便利だな破壊されても、元にもどる光線なんて」
 マヤの話しだと復元光線は、死んだ生物も甦らせてしまうので、滅多に使いたくないとのコトだった。
「だって、お父さんあたし、侵略者だよ……いちいち壊れた建物を直していたら侵略が進まないじゃない……おばあちゃんの家は特別だから」

 マヤの言葉を思い出して苦笑するオレ。
「確かにその通りだな……さてと、バスタブのお湯は溜まったかな?」
 オレが浴室の扉を開けると、見知らぬ女の子が一人……入浴をしていた。
「失礼……」
 慌てて扉を閉めたオレは、そうっと扉を開けて覗き込む。
 お湯がバスタブから溢れているだけで、誰もいなかった。
(なんだ、今の? 幽霊?)

 気を取り直して、お湯を止めたオレが脱衣場で脱ぎはじめた時──いきなり、マヤが瞬間移動テレポートで現れた。
「うわぁぁぁ!」
「お父さん、知らない人、見なかった?」
 オレはさっきの女の子のコトを、言おうとしてやめた……状況がわからないまま、迂闊うかつにマヤに喋るのは良くない気がする、タイムマシンの時の件もあるし。
「いや、見なかったな」
「そっか、転移座標が少しズレていたから別の場所に現れるのかな?」

 マヤは腹のポケットを探って、あまり可愛くない眉が太いヌイグルミのキーホルダーを取り出して、オレに渡す……後からわかったコトだが、マヤが衣服の腹ポケットから出しているように見えるのは、腹に開いている袋から出しているらしい……地球人の血が混じったマンコ・カパック星人は先祖返りをして、腹に袋がある有袋人類で誕生するらしかった。

「これ、持っていて」
「なんだ、この殺し屋みたいな目つきが鋭いヌイグルミは?」
「怪獣は巨大だから現れてもすぐにわかるけれど……それ以外の敵の出現を教えてくれる妖精人形」
「可愛くねぇ……それ以外の敵ってなんだ?」

 オレがマヤの答えを聞く前に、殺し屋妖精のヌイグルミが凄みのある声で叫ぶ。
「敵だ! 敵だ! 敵だ! 三時の方向に敵だ! 敵だ! 敵だ! ぶっ殺せ!」

 マヤが騒ぐヌイグルミの頭を変形するほどの力で押さえつけると、警告の声は止まった。
「お父さん行くよ、今度の敵は強敵だよ」

  ◇◇◇◇◇◇

 オレとマヤがヌイグルミが示した方向に向かうと、児童公園のブランコに一体の怪人が座っていた。
 二種混合怪人……イカとカマキリの『イカカマキリ』……オレが作った設定は最強怪人【弱点なし】
「うわぁぁぁ、ヤバいヤツが現れた……どうかしていた、子供の時のオレ」
 オレの姿に気づいた怪人イカカマキリは、ブランコから降りると丁重に頭を下げて言った。
「あたし……なんのために生まれてきたんですか? 何をするために存在しているんですか?」
 弱点なしのイカカマキリから聞こえてきたのは、女の子の声だった。

「女の子? イカカマキリの中の人は女の子?」
 そう言えば、中の人の設定はしてなかったのを、オレは思い出した。
 怪人イカカマキリが泣きながら喋る。
「もしも弱点なしの、あたしが倒されちゃったら、後に続く怪人さんたち自信無くしますよ……どうして、一番強い怪人を最初に出したんですか……恨みます」

 イカカマキリのカマが、オレに向って飛んできた……ヒーロー因子が組み込まれたオレは寸前でブーメランのようなカマをかわした。
「危ねぇ、何するんだ!」
「だって、あたし負けられないんです……あたしが負けたら他の怪人さんや魔人さんたちが困ります……死んでください」

 少し離れた場所からマヤが、ガッツポーズをして言った。
「侵略怪人……止められるもんなら、止めてみな」
 そんなに、オレに闘ってもらいたいのか……いいだろう、やってやる。
 オレは変身する。
 巨大ヒーローの等身サイズで、首にはマフラー、腹に変身アイテムがめり込んでいた。

 イカカマキリが、嬉しそうな声を発する。
「相手をしてくれるんですね……じゃあ、あたしも、もう一種追加して三種混合強化怪人になります」
 なにぃぃぃ?

 イカカマキリにリングが加わって『イカカマキリング』になった。
 カマとリングのダブル攻撃に加えて、イカの触手攻撃がオレを襲う。
(ヤバいくらい強い……ちょっと待て、確か前回マヤは「次はお父さんの弱点を責めてくる強敵だよ……覚悟してね」って言っていたような……オレのこのヒーローの弱点……まさか) 

 イカカマキリングが、いきなりオレに抱きついてきた。
「あたし、おじさまの弱点知っているんですよ……ここが、おじさまの弱点ですよね……コチョコチョ」

 イカカマキリングは、オレの体をくすぐりはじめた。
 身悶えするオレ。
「や、やめろぅ! くすぐられるのは苦手なんだ! やめてくれぇ!」
「降参するまで、やめません……ここか、ここがいいんかコチョコチョ」
「ぎゃはははっ」

 オレはくすぐられて、ギブアップする。
「わ、わかった降参する! だから、やめてくれ……ぎゃはははっ」
 オレは、怪人イカカマキリングに敗北を認めた──さすが、弱点なしの怪人強い。

 オレに勝利したイカカマキリングは、かぶっていた怪人マスクを外して素顔を晒す。
(お風呂で入浴していた女の子? 怪人の頭はマスクだったのか?)

 怪人マスクをかぶり直したイカカマキリングが、ペコリと一礼する。
「闘っていただいて、ありがとうございます……約束します、もうおじさまを困らせる侵略はしません、おじさまがピンチになった時には駆けつけます……それでは、おじさまごきげんよう」

 そう言ってイカカマキリングは、無人で走行してきたオートバイに乗って走り去ってしまった。
 変身を解いたオレは首をかしげる。
「なんだったんだ……いったい?」
 腕組みをして考えていたマヤが呟く。

「そう言えば、ノートのページに鉛筆で書いた文字を消しゴムで消した跡がある『ヒーローの味方になる怪人』って書いてあった……って連絡が怪獣工場の方から、弱点なしのアノ怪人がヒーローの味方になる裏切り怪人だったか……失敗したぁ」
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