25光年の侵略愛娘

楠本恵士

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第十話・なんの卵?TKGにしたら何人分かな?

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 砂浜に漂着したらしいナゾの卵は、最初の長さ25メートルから日を追って成長して今は、五十メートルの大きさをにまで成長していた。
 
『ナゾの卵、果たして爬虫類の卵か鳥類の卵か⁉』

 連日、そんな内容のニュースで埋め尽くされていた。
 オレは少々、マンネリな特集番組に飽きてきていた。
「卵の正体なんて、なんだっていいじゃないか……殻に穴を開けて、割ってみればいいだろう」
 オレの呟きを隣で聞いていたマヤが言った。
「中身がまだ卵黄と卵白だったら……どんな料理にするの地球のサルは? 調理したら、食べごたえはありそうだけれど」

 オレは必死に、ノートに描いた内容を思い出そうとする。
「ダメだ卵の絵を描いたのは覚えているが……それ以上は思い出せない」
 なぜか、最近オレの家に出入りをしている月影が言った。
「何が出てくるかわからないワケだ……厄介なモノを描いたな」
 その時──マヤの顔のシワ伸ばしアイロンで、女子高校生の顔に若返った母親の声が階段の下から聞こえてきた。
「月影さん、悪いけれど近所の商店街で卵買ってきてくれない、今日特売日だから……あたし腰が少し痛くて」
「はーい、お母さま」
 月影が立ち上がって部屋を出て階段を降りていく……なぜか、月影はオレの母親を『お母さま』と呼んでいる。

 マヤがまたゴーグル型の機器を腹のポケットから、取り出して言った。
「お父さんが、どんな卵を描いたのか思い出せないなら、強制的に記憶再生しようか……脳細胞プチプチと潰れるけれど」
「それは、やめてくれ! そのうち思い出すから」

  ◆◆◆◆◆◆

 その日の夕食は天津飯だった。
「いただきます」
「うわぁ、おばあちゃんの手料理……これが、地球のサルの食べ物か」
 オレとマヤと月影と母さんは、食卓で一緒に食事をする。
 顔は女子高校生、体はそれなりの年齢体の母さんが天津飯を食べているオレに聞いてきた。
「巨大卵の正体、なんて書いたのか思い出せた?」
「ぜんぜん、思い出せない」
 卵の絵には、何か設定を書き込んだ記憶はあるけれど。
 母さんはオレのカミングアウトを受け入れて、オレがヒーローであるコトを認めてくれた。

 銀色のスプーンを持った月影がオレに言った。
「だいたい、得体が知れない卵なんて描くから……この間の彗星怪獣みたいな、卵に手足が生えた怪獣だったりして」
 オレは月影が手にしている、銀色のスプーンを凝視していて思い出した。
「思い出した! 卵はもう一個あるって設定に書いてあった!」
「もう一個? どんな卵」
「〝銀色の卵〟」
「はぁ? なにそれ」

  ◆◆◆◆◆◆

 2日と5時間が経過した、卵に変化が現れた。
 卵の表面に、斑模様が浮かびはじめた。
「コケ? じゃないよね」
 そして浜から少し離れた、山の斜面が崩れて銀色の卵が現れた。
 銀色の卵は転がって、浜にあった卵と融合して一個の卵になった。
 テレビの画面を見ていた、オレたちの目が卵に釘づけになる。
 卵に突然、亀裂が走りその亀裂が盛り上がって、何かが生まれ出ようとしていた。
 そして、それは卵の中から現れた。
「ミニュゥゥ」
 愛らしい声で鳴く、銀色のイモムシが亀裂から顔を覗かせる。

 母さんが言った。
「あら、可愛い怪獣」
 オレは母さんの言葉に顔をしかめる、幼少期のトラウマが甦る。
 家の中にいつの間にか侵入していた、毛むくじゃらの茶色の毛虫が、戦車のようにオレの方に向ってくる光景がフラッシュバックで甦る。

(嫌なコトを思い出した……あの体験があったから、卵の絵なんて描いたのか……ムリ、人間が同サイズのイモムシや毛虫と闘うなんてムリ!)

 卵から出てきたイモムシ型怪獣は、下部の無限軌道キャタピラーで前進しながら、体の左右から出した重機クレーンアームのような、細い機械アームを動かして進行していく。

 オレが今回は出撃したくないなぁの、気持ちを察するコトなくマヤが言った。
「お父さん、出撃だ! 侵略怪獣に倒されちゃえ」
「おまえ、どっちの味方……あっ、侵略宇宙人だから基本的には怪獣&怪人側か」
 
  ◆◆◆◆◆◆

 どこかに向って進行していく、イモムシ型怪獣を見てマヤが言った。
「たぶん、あの怪獣は『古代イモムシの卵』と『機械生命体の卵』が合体して誕生した怪獣だと思う……名前はお父さんつけなかったから」

 機械生命体イモムシは、高い鉄塔を利用してアゲハ蝶のサナギ形態に変わった。
 やがて、サナギの背中が割れて羽化した生体が現れた。

 オレは、その現れた姿を見て思わず声をあげた。
「なんで、あんなモノがイモムシのサナギの中から?」
 正義顔をした巨大ロボットが、サナギの中から現れた。
「ミニュゥゥ」

 鳴き声は可愛かったが、その姿はどう見てもスーパー戦隊モノに登場する正義のロボットだった。
 マヤが頭を掻きながら呟いた。
「あちゃ、なんか侵略怪獣とはギャップが大きい機械生命体が現れた……なんか、乗り物に変形しそう」
「名前つけてやれよ、オレは何も思いつかないから」
「キング・イモムシ」
「もう少しまともな名前を……すでに、イモムシじゃないから」
「じゃあ、コロネパンが浮かんだから『キング・コロネ』で……これ以上のネーミングは認めないから」

 侵略機械生命体『キング・コロネ』が、剣を振り回して暴れ回る。
 見た目はどうあれ、コイツやっぱり侵略怪獣だ。
 オレがどうするか、考えているとマヤが言った。
「お父さん……キング・コロネは倒しちゃってよし!」
「いいのか?」
「あんな正義ツラをした侵略怪獣で、地球を侵略したらマンコ・カパック星の笑い者だよ……もっと、侵略に相応しい怪獣でないと……お父さん、巨大ヒーローに変身して」

 オレは愛娘の言葉を受けて、巨大ヒーローに25秒で変身した。
 オレと同じ目線で対峙するキング・コロネ……正義の顔をした巨大ロボット相手だと、どうもやりづらい。
 オレが躊躇ちゅうちょしていると、キング・コロネはオレを真っ二つにしようと、剣を大きく振りかぶった。
 マヤの叫ぶ声が聞こえた。
「お父さん、真剣白刃取り!」
「できるか!」

 その時──近づいてくる戦車の音と、スピーカーを通した月影の声が聞こえてきた。
「受けてみろ、オーガズム砲の数百倍の威力がある、オーガズム戦車の力を! ファイヤー!」
 砲撃一発──顔面に命中した、キング・コロネが顔を押さえて剣を地面に落とす。
「ミニュゥゥ!」

 同時に戦車の中から月影の。
「あはぁぁぁんんッ」
 という艶めかしい声が聞こえた。

 地面に突き刺さった、大剣を引き抜いたオレはキング・コロネに向って剣を突き出す。
「しゅね、侵略怪獣!」
 剣はキング・コロネの胴体を貫いて、火花が散った。
 剣を引き抜くと、生卵の白身と黄身を混ぜ合わせたTKGのような体液が、正義顔をした巨大ロボットの傷口から迸る。
 剣を放り投げたオレは、目尻を吊り上げた目からとどめの『お父さん眼力光線』をキング・コロネに向けて発射した。
「ギュギュギュゥゥゥ」

 火柱になった、キング・コロネの体は前倒しに倒れる。
 オレはまた、一体の侵略怪獣を倒した。
 だが、オレとキング・コロネの闘いを、遠くから見ていた子供たちの視線は冷たかった。

「ウソだ……目尻が吊り上がった偽物の巨大ヒーローが、正義のロボットを焼き殺した」
 そんな声がオレの超ヒーロー耳に届いて、オレはしばらく落ち込んだ。
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