11 / 19
十一話(王太子視点)
しおりを挟む
悪女、悪女、悪女。
己が吐いた言葉が、頭の中で反響する。
――ヴァレリアは悪女だ。
そう決めつけてきた。
そうでなければならなかった。
雪を踏みしめる音が、やけに大きく聞こえる。
誰も動かない。騎士たちも、従者も、聖女の言葉の余韻に縛られたまま沈黙していた。
その沈黙が、ひどく居心地が悪い。
だが、聖女の言葉は、私の用意していたすべてを真正面から打ち砕いた。
足をかけたのも。
シャンパンをかけたのも。
すべては――私が聖女を支えたことで生まれた嫉妬。
ヴァレリアではない令嬢たちの、仕業。
悪女、悪女、悪女。
その言葉を、私は何度も使ってきた。
使うたびに、楽になった。
考えなくて済んだからだ。
視線が、勝手に彼女を捉える。
雪の中に立つ、ヴァレリア。
困ったように揺れる瞳。
凍てつく空気の中で、やけに静かな佇まい。
……美しい。
――違う。
何を考えている。
今、考えるべきことは、そこではない。
美しいかどうかなど、関係ない。
これは裁きだ。断罪だ。
ヴァレリアは、悪女で――
……いや、違う。
まただ。
思考が、勝手に逸れる。
引き戻そうとするほど、逆に滑っていく。
目の前の彼女は、整っていて、静かで、凛としていて――
美しい。
だから違うと言っている!!
美しいだの何だの、そんな感想を持つこと自体が間違いだ。
私は、断罪しに来たのだ。
悪女だと、裁くために。
――なのに。
胸の奥が、嫌な音を立てて軋む。
ヴァレリアが悪女でない可能性を、
「美しい」という感想で誤魔化そうとしている自分に、気づいてしまった。
心臓が早鐘を打つ。
過去の光景が、制御もなく流れ込んでくる。
あの日、あの時、あの選択。
間違った判断。
都合のいい解釈。
それを正しいと思い込もうとした自分。
認められない。
だから私は、目の前の“見た目”に逃げた。
美しい。
だから悪女だ。
――そんな理屈のない結論に、縋りついていた。
その瞬間、足元が揺れた。
よろめく。
しまった、と思った時には遅く、
無様に体勢を崩し、額から汗が滲む。
見てはいけない。
そう思うのに、視線は再び彼女へ向かう。
……美しい。
違う!!
本当に、違う!!
これは色恋の話ではない。
感情の話でもない。
――私が、間違っていたかどうかの話だ。
そう理解した瞬間、
胸の奥で、逃げ場が完全に塞がれた。
私は、なんと愚かなのだろう。
あの日、王宮で。
私が初めてヴァレリアを「悪女」と呼んだ時。
彼女の瞳は、悲しげに揺れていた。
その瞳を見て、胸が痛んだ。
確かに、痛んだはずなのに。
それでも私は、立ち止まらなかった。
考えることを、やめた。
――そして今日。
私は、ここで。
心の中で言葉でいったい何度、
ヴァレリアを「悪女」と呼んだのだろう。
己が吐いた言葉が、頭の中で反響する。
――ヴァレリアは悪女だ。
そう決めつけてきた。
そうでなければならなかった。
雪を踏みしめる音が、やけに大きく聞こえる。
誰も動かない。騎士たちも、従者も、聖女の言葉の余韻に縛られたまま沈黙していた。
その沈黙が、ひどく居心地が悪い。
だが、聖女の言葉は、私の用意していたすべてを真正面から打ち砕いた。
足をかけたのも。
シャンパンをかけたのも。
すべては――私が聖女を支えたことで生まれた嫉妬。
ヴァレリアではない令嬢たちの、仕業。
悪女、悪女、悪女。
その言葉を、私は何度も使ってきた。
使うたびに、楽になった。
考えなくて済んだからだ。
視線が、勝手に彼女を捉える。
雪の中に立つ、ヴァレリア。
困ったように揺れる瞳。
凍てつく空気の中で、やけに静かな佇まい。
……美しい。
――違う。
何を考えている。
今、考えるべきことは、そこではない。
美しいかどうかなど、関係ない。
これは裁きだ。断罪だ。
ヴァレリアは、悪女で――
……いや、違う。
まただ。
思考が、勝手に逸れる。
引き戻そうとするほど、逆に滑っていく。
目の前の彼女は、整っていて、静かで、凛としていて――
美しい。
だから違うと言っている!!
美しいだの何だの、そんな感想を持つこと自体が間違いだ。
私は、断罪しに来たのだ。
悪女だと、裁くために。
――なのに。
胸の奥が、嫌な音を立てて軋む。
ヴァレリアが悪女でない可能性を、
「美しい」という感想で誤魔化そうとしている自分に、気づいてしまった。
心臓が早鐘を打つ。
過去の光景が、制御もなく流れ込んでくる。
あの日、あの時、あの選択。
間違った判断。
都合のいい解釈。
それを正しいと思い込もうとした自分。
認められない。
だから私は、目の前の“見た目”に逃げた。
美しい。
だから悪女だ。
――そんな理屈のない結論に、縋りついていた。
その瞬間、足元が揺れた。
よろめく。
しまった、と思った時には遅く、
無様に体勢を崩し、額から汗が滲む。
見てはいけない。
そう思うのに、視線は再び彼女へ向かう。
……美しい。
違う!!
本当に、違う!!
これは色恋の話ではない。
感情の話でもない。
――私が、間違っていたかどうかの話だ。
そう理解した瞬間、
胸の奥で、逃げ場が完全に塞がれた。
私は、なんと愚かなのだろう。
あの日、王宮で。
私が初めてヴァレリアを「悪女」と呼んだ時。
彼女の瞳は、悲しげに揺れていた。
その瞳を見て、胸が痛んだ。
確かに、痛んだはずなのに。
それでも私は、立ち止まらなかった。
考えることを、やめた。
――そして今日。
私は、ここで。
心の中で言葉でいったい何度、
ヴァレリアを「悪女」と呼んだのだろう。
10
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。
蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。
しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。
自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。
そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。
一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。
※カクヨムさまにも掲載しています。
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
「君の回復魔法は痛い」と追放されたので、国を浄化するのをやめました
希羽
恋愛
「君の回復魔法は痛いから」と婚約破棄され、国外追放された聖女エレナ。しかし彼女の魔法は、呪いを根こそぎ消滅させる最強の聖なる焼却だった。国を見限って辺境で薬草カフェを開くと、その技術に惚れ込んだ伝説の竜王やフェンリルが常連になり、悠々自適なスローライフが始まる。
一方、エレナを追放した王国はパニックに陥っていた。新しく迎えた聖女の魔法は、ただ痛みを麻痺させるだけの「痛み止め」に過ぎず、国中に蔓延する呪いを防ぐことができなかったのだ。
原因不明の奇病、腐り落ちる騎士の腕、そして復活する魔王の封印。
「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう遅い。
私の店は世界最強の竜王様が警備しているので、王家の使いだろうと門前払いです。
※本作は「小説家になろう」でも投稿しています。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。
リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる