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第八話
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レオは、少しだけ息を整えるみたいに喉を鳴らした。
「じゃあ……続きを話すね」
砂利の上に座ったまま、レオの声が、いつもより低く落ちる。
「黄金の王子が生まれたとき、みんな言ったんだ。
“あの子は全部持って生まれてきた”って」
私は想像する。金色の光みたいな赤子。祝福。賛美。
「でも、それはすぐに覆る。王子のお母さんが、流行病で亡くなる。
母方の家も、貿易の失敗と不作で傾いて……王子を守れる力がなくなった」
“守る力”。
その言葉が、胸の奥で小さく鳴った。
「王は新しい王妃を迎える。強い家の女だよ。
そして王妃は男の子を産む。第二王子」
レオは淡々と話しているはずなのに、どこか冷たい空気が混ざる。
「国中が、今度は言い始める。
“次の王は、第二王子だ”って」
私は思わず身を乗り出す。
「……黄金の王子は?」
レオが小さく息を吐いた気配がした。
「何度も、死にかける。
事故に見せかけた暗殺。食事に混ぜられる毒。
“生きてるだけで邪魔”って扱い」
私は、指先を握る。
見えないのに、景色が浮かんでしまう。
「そんな時に、王子は王都で赤髪の娘に出会う」
その瞬間、胸が少しだけ熱くなる。
赤髪。
私と同じ色。
「赤髪の娘は、孤児だった。孤児院で育って、今はそこで働いてる。
手は……荒れてて、あかぎれだらけで」
レオの声が、少しだけ柔らかくなる。
「でも、笑うんだ。いつも。
影のある生い立ちなのに、眩しいくらいに」
私は、きゅっと唇を噛んだ。
嬉しい。なのに、怖い。
「王子は、惹かれる。
初めは“助けたい”だったのが……いつのまにか、“会いたい”になる」
レオがそこで、ほんの少し間を置いた。
私の心臓が、その間に追いつけなくなる。
「でもね」
レオが言う。
「赤髪の娘は、ある日、王子に言うんだ」
そこで、レオの声がわずかに掠れた気がした。
「――王子様、お願い。私を見ないで下さい、って」
私は息を止める。
「それで王子は気づく。
自分が王子だって、ばれてたんだって」
風が木の葉を揺らす。
私は、黙って続きを待つ。
レオは静かに続ける。
「赤髪の娘は、言葉の途中で止まる。
“本当の私を見られたくない”って。
それ以上は言わない」
私は、胸の奥が痛くなるのを感じた。
分かる気がしてしまったから。
「最後に、こう言う。
――もう、来ないでください」
レオの声が、少しだけ固くなる。
「祈りみたいな声でね。
王子は、初めて“守れない”って思う」
私は、自分の手をぎゅっと握った。
「でも王子は、諦めない。
赤髪の娘を守るために、王になる決意をする。
王位を継ぐために、敵を倒して、国の膿を切って、全部背負う」
レオの声が、少しずつ熱を帯びていく。
それが、怖いのに、嬉しい。
「……なのに」
レオが、静かに言った。
「赤髪の娘は死ぬ」
その一言で、胸の奥が凍った。
「守れたはずだったのに、間に合わない。
最後に、赤髪の娘は王子に言うんだ」
レオは、そこで一拍置いてから――まるで覚えている言葉をそのまま取り出すみたいに、丁寧に言った。
「“次に生まれてくるなら、あなたの子どもがいいわ”」
私は、息を呑む。
「“奥さんは嫌よ”」
胸が、ずきりと痛む。
「“あなたに、子どもとして一生愛されたい”」
それは、恋の言葉なのに。
恋より、切実で。
ずるいほど、正直だった。
私は気づけば、膝の上で手を握りしめていた。
レオは続ける。
「王子は王になる。
そして、妻を娶る。政略でね」
声が少しだけ硬い。
「子どもが生まれる。
王は、その子を心から愛する」
――胸が、きゅっと縮む。
「赤髪の娘に与えたかったものを、全部、その子に与える。
守ること。未来。誇り。
“愛される場所”」
レオの声が、ふっと柔らかくなる。
「王が国を浄化するのも、赤髪の娘のせいだよ。
あの子が、王子を王にした」
私は、しばらく言葉が出なかった。
胸が、熱いのに、痛い。
「……素敵な話」
やっと、そう言った。
本当にそう思ったのに。
どうしてだろう。
涙が出そうだった。
私は慌てて笑う。
明るく、明るく。
「ねえレオ……その話、すごく素敵。すごく、好き」
それから、勢いのまま訊いてしまう。
「レオは……どうして、ここに来たの?」
レオは、ほんの少しだけ間を置いた。
「最初は、僕の家の関係で領地の視察」
淡々とした声。
そして、次に少しだけ柔らかくなる。
「今日は、ティアに会いたかったから」
胸の奥がぱっと明るくなる。
私は、笑ってしまう。
「……本当に?」
声が弾む。
「ねえ、次はいつ来れる? 明日? 明後日? すぐ?」
レオが困ったように息を吐く。
「なるべく早く来たい」
それは本音だと分かる。
でも。
「……約束は、できないんだ」
小さく、静かに。
「ごめん」
その「ごめん」が、さっきの本の最後の言葉みたいに聞こえてしまって。
私はまた、明るく笑わなきゃと思った。
「じゃあ……続きを話すね」
砂利の上に座ったまま、レオの声が、いつもより低く落ちる。
「黄金の王子が生まれたとき、みんな言ったんだ。
“あの子は全部持って生まれてきた”って」
私は想像する。金色の光みたいな赤子。祝福。賛美。
「でも、それはすぐに覆る。王子のお母さんが、流行病で亡くなる。
母方の家も、貿易の失敗と不作で傾いて……王子を守れる力がなくなった」
“守る力”。
その言葉が、胸の奥で小さく鳴った。
「王は新しい王妃を迎える。強い家の女だよ。
そして王妃は男の子を産む。第二王子」
レオは淡々と話しているはずなのに、どこか冷たい空気が混ざる。
「国中が、今度は言い始める。
“次の王は、第二王子だ”って」
私は思わず身を乗り出す。
「……黄金の王子は?」
レオが小さく息を吐いた気配がした。
「何度も、死にかける。
事故に見せかけた暗殺。食事に混ぜられる毒。
“生きてるだけで邪魔”って扱い」
私は、指先を握る。
見えないのに、景色が浮かんでしまう。
「そんな時に、王子は王都で赤髪の娘に出会う」
その瞬間、胸が少しだけ熱くなる。
赤髪。
私と同じ色。
「赤髪の娘は、孤児だった。孤児院で育って、今はそこで働いてる。
手は……荒れてて、あかぎれだらけで」
レオの声が、少しだけ柔らかくなる。
「でも、笑うんだ。いつも。
影のある生い立ちなのに、眩しいくらいに」
私は、きゅっと唇を噛んだ。
嬉しい。なのに、怖い。
「王子は、惹かれる。
初めは“助けたい”だったのが……いつのまにか、“会いたい”になる」
レオがそこで、ほんの少し間を置いた。
私の心臓が、その間に追いつけなくなる。
「でもね」
レオが言う。
「赤髪の娘は、ある日、王子に言うんだ」
そこで、レオの声がわずかに掠れた気がした。
「――王子様、お願い。私を見ないで下さい、って」
私は息を止める。
「それで王子は気づく。
自分が王子だって、ばれてたんだって」
風が木の葉を揺らす。
私は、黙って続きを待つ。
レオは静かに続ける。
「赤髪の娘は、言葉の途中で止まる。
“本当の私を見られたくない”って。
それ以上は言わない」
私は、胸の奥が痛くなるのを感じた。
分かる気がしてしまったから。
「最後に、こう言う。
――もう、来ないでください」
レオの声が、少しだけ固くなる。
「祈りみたいな声でね。
王子は、初めて“守れない”って思う」
私は、自分の手をぎゅっと握った。
「でも王子は、諦めない。
赤髪の娘を守るために、王になる決意をする。
王位を継ぐために、敵を倒して、国の膿を切って、全部背負う」
レオの声が、少しずつ熱を帯びていく。
それが、怖いのに、嬉しい。
「……なのに」
レオが、静かに言った。
「赤髪の娘は死ぬ」
その一言で、胸の奥が凍った。
「守れたはずだったのに、間に合わない。
最後に、赤髪の娘は王子に言うんだ」
レオは、そこで一拍置いてから――まるで覚えている言葉をそのまま取り出すみたいに、丁寧に言った。
「“次に生まれてくるなら、あなたの子どもがいいわ”」
私は、息を呑む。
「“奥さんは嫌よ”」
胸が、ずきりと痛む。
「“あなたに、子どもとして一生愛されたい”」
それは、恋の言葉なのに。
恋より、切実で。
ずるいほど、正直だった。
私は気づけば、膝の上で手を握りしめていた。
レオは続ける。
「王子は王になる。
そして、妻を娶る。政略でね」
声が少しだけ硬い。
「子どもが生まれる。
王は、その子を心から愛する」
――胸が、きゅっと縮む。
「赤髪の娘に与えたかったものを、全部、その子に与える。
守ること。未来。誇り。
“愛される場所”」
レオの声が、ふっと柔らかくなる。
「王が国を浄化するのも、赤髪の娘のせいだよ。
あの子が、王子を王にした」
私は、しばらく言葉が出なかった。
胸が、熱いのに、痛い。
「……素敵な話」
やっと、そう言った。
本当にそう思ったのに。
どうしてだろう。
涙が出そうだった。
私は慌てて笑う。
明るく、明るく。
「ねえレオ……その話、すごく素敵。すごく、好き」
それから、勢いのまま訊いてしまう。
「レオは……どうして、ここに来たの?」
レオは、ほんの少しだけ間を置いた。
「最初は、僕の家の関係で領地の視察」
淡々とした声。
そして、次に少しだけ柔らかくなる。
「今日は、ティアに会いたかったから」
胸の奥がぱっと明るくなる。
私は、笑ってしまう。
「……本当に?」
声が弾む。
「ねえ、次はいつ来れる? 明日? 明後日? すぐ?」
レオが困ったように息を吐く。
「なるべく早く来たい」
それは本音だと分かる。
でも。
「……約束は、できないんだ」
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私はまた、明るく笑わなきゃと思った。
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