【完結】「お前を愛する者などいない」と笑われた夜、私は“本物の王子”に拾われた

波依 沙枝

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第九話

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夜明け前の空気は冷たい。
窓の外はまだ暗く、鳥の声も始まっていない。

それでも、眠れなかった。

胸の奥に溜まったものが、眠りを拒んでいる。
あの少女の声。
あの笑い方。
そして、自分が今どこへ向かっているのか。

野心なんて言葉で、片付けていいものではない。

王にならなければ、結局、私は殺される。
それが早いのか遅いのか――ただそれだけの違いだ。

ならば、選べる道は一つしかない。
王へと続く道だ。

生きるために牙を研ぐ。
それが、私の人生だ。

毒を飲まされて血を吐かされ、地面に膝をつかされても。
泥に這いつくばり、恨みを飲み込んだまま王妃を見上げることになっても。

それでも――

私から、王位継承者の資格は奪えない。
奪えると思うなら、試してみろ。

地獄のような日々の中で、味方を探すのではなく、使えるものを探した。
裏切るかどうか怯えるのではなく、裏切れば損をすると理解させることを選んだ。

私には価値がある。
私に従え。
次の王は私だ。

殺されそうになる度に、その思いは強くなる。
隠してきた牙は、鋭くなる。
いつでも喰らいつけるように。
仕留められるように。

人の欲は果てしない。
玉座は血に塗れている。
私が座る玉座も、例外ではない。

覚悟は、とうにできている。















━━━━━━━━

レオは、しばらく来られないのだろうと思った。

「約束は、できないんだ」

その一言に、全部が詰まっていた。

だから私は、待つしかないのだと――分かってしまった。

レオが去った翌日から、ばあやが読み聞かせをしてくれるようになった。

本はいつも新しかった。
紙の匂いが、まだ硬い。

歴史、神話、物語。
けれど、それがばあやの選んだものではないことは、すぐに分かった。

ばあやなら、もっと優しい話を選ぶ。
私が怯えないように、光のある結末を探してくれる。

でも、届く本は違った。

慰めではなく、輪郭。
優しさではなく、世界の広さ。

目を閉じても、逃げられない現実。

まるで――私に「知れ」と言っているみたいだった。

視力を失って、侯爵令嬢としての価値も失った。
私はそう思っていた。

捨てられたのだと。

けれど、新しい本の匂いがそれを許さなかった。

捨てられる役を、私に与えない。

貴族として、生きろ。
使命を果たせ。

言葉にされていない命令が、紙の間から滲んでくる。

私は指先を握りしめる。

怖いのに、嫌じゃなかった。

だってそれは――
私を「いらないもの」にしない力だったから。

暗闇の中で、私は耳を澄ます。

ばあやの声。
ページをめくる音。
紙が擦れる、乾いた気配。

世界はまだ、ここにある。

私は、その世界を手放さない。
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