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第二十三話
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ティアのパートナーにランドール卿を選んだのは、私だ。
ランドール卿は落ち着いた紳士で、娘もティアより年上だ。余計な噂にならない。――そう判断した。
本当は、私がパートナーになりたかった。
けれどそれは、リヒトが婚約者の立場にいる限り無理なことだ。
……分かっている。分かっているのに。
豊かで柔らかそうな胸が外気に触れて寒そうだ、などと。
胸元を見つめながら感想を述べる自分に腹が立つ。
私は、女性の身体に特別関心がある方だとは思っていなかった。
けれど。
ティアを見て、自分もなかなか欲のある人間だと思った。俗的な――そう、俗的な。
デコルテから大きく開かれた胸元。
のぞく豊かな胸。豊穣の女神のようだ。
……いや、違う。そういう綺麗な言葉で飾るな。
太ももの付け根あたりまで入った大胆なスリットからのぞく白い脚。
一歩、歩くたびに覗いて、隠れて、また覗く。視線が勝手に落ちる。
くるりと回れば、華奢な背中がすべて見える。
薄い布が、肌に沿って呼吸している。
美しい。綺麗だ。
その感想と一緒に、男としての欲も覗く。
そんな自分が――ティアに見抜かれないといい。
一度、ドレスショップで見た時のことを思い出す。
慣れようと思った。
慣れてしまえばいい、と。
だから不躾なくらいの視線をティアに向けた。
目を逸らさない、と決めて。
胸元も、脚も、背中も。――全部を“情報”として見ようとした。
けれど、慣れることは出来ていなかったみたいだ。
完敗だ、と分かる。
二回目でこれなら、初めて見る者たちはどうなる。
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなる。
苛立ちとは違う。焦りとも違う。
――手応えだ。
私が完敗を感じている。
その事実そのものが、作戦の成功に直結している気がした。
リヒトが、平気でいられるはずがない。
社交界が、見逃すはずがない。
そして私は、ドレスショップでの自分を思い出す。
我を忘れて、声を荒らげた。
そのドレスは駄目だ、と猛反対した。
理屈を並べた。
どんな理屈を並べたのか覚えていないくらい、その場の勢いで早口に。
けれど本当は、もっと単純だったのだろう。
見せたくなかった。
誰にも。
その自分を思い出して、苦く笑う。
――今夜、私が笑っていられるのは、ここまでだ。
視線の波がティアへ吸い寄せられていく。
ざわめきが膨らみ、誰かが名を問う。家紋を探す。噂が走る。
その中心に、必ず届く。
リヒトの耳に。
リヒトの目に。
あいつが最初に何を言うか。
何を“言ってしまう”か。
私はそれを待った。
ティアが傷つく未来ではなく、庇いきれない理由が出来る瞬間を。
社交界がセレスティアの味方になった時、リヒトの落ち度は今までの何倍にも膨らむ。
同じ言葉でも、同じ態度でも。
“見られ方”が変われば、罪の重さが変わる。
そして今夜、社交界は味方につく。
そして今夜、セレスティアは――小さな女王になる。――私の目の前で。
ランドール卿は落ち着いた紳士で、娘もティアより年上だ。余計な噂にならない。――そう判断した。
本当は、私がパートナーになりたかった。
けれどそれは、リヒトが婚約者の立場にいる限り無理なことだ。
……分かっている。分かっているのに。
豊かで柔らかそうな胸が外気に触れて寒そうだ、などと。
胸元を見つめながら感想を述べる自分に腹が立つ。
私は、女性の身体に特別関心がある方だとは思っていなかった。
けれど。
ティアを見て、自分もなかなか欲のある人間だと思った。俗的な――そう、俗的な。
デコルテから大きく開かれた胸元。
のぞく豊かな胸。豊穣の女神のようだ。
……いや、違う。そういう綺麗な言葉で飾るな。
太ももの付け根あたりまで入った大胆なスリットからのぞく白い脚。
一歩、歩くたびに覗いて、隠れて、また覗く。視線が勝手に落ちる。
くるりと回れば、華奢な背中がすべて見える。
薄い布が、肌に沿って呼吸している。
美しい。綺麗だ。
その感想と一緒に、男としての欲も覗く。
そんな自分が――ティアに見抜かれないといい。
一度、ドレスショップで見た時のことを思い出す。
慣れようと思った。
慣れてしまえばいい、と。
だから不躾なくらいの視線をティアに向けた。
目を逸らさない、と決めて。
胸元も、脚も、背中も。――全部を“情報”として見ようとした。
けれど、慣れることは出来ていなかったみたいだ。
完敗だ、と分かる。
二回目でこれなら、初めて見る者たちはどうなる。
そう思った瞬間、胸の奥が熱くなる。
苛立ちとは違う。焦りとも違う。
――手応えだ。
私が完敗を感じている。
その事実そのものが、作戦の成功に直結している気がした。
リヒトが、平気でいられるはずがない。
社交界が、見逃すはずがない。
そして私は、ドレスショップでの自分を思い出す。
我を忘れて、声を荒らげた。
そのドレスは駄目だ、と猛反対した。
理屈を並べた。
どんな理屈を並べたのか覚えていないくらい、その場の勢いで早口に。
けれど本当は、もっと単純だったのだろう。
見せたくなかった。
誰にも。
その自分を思い出して、苦く笑う。
――今夜、私が笑っていられるのは、ここまでだ。
視線の波がティアへ吸い寄せられていく。
ざわめきが膨らみ、誰かが名を問う。家紋を探す。噂が走る。
その中心に、必ず届く。
リヒトの耳に。
リヒトの目に。
あいつが最初に何を言うか。
何を“言ってしまう”か。
私はそれを待った。
ティアが傷つく未来ではなく、庇いきれない理由が出来る瞬間を。
社交界がセレスティアの味方になった時、リヒトの落ち度は今までの何倍にも膨らむ。
同じ言葉でも、同じ態度でも。
“見られ方”が変われば、罪の重さが変わる。
そして今夜、社交界は味方につく。
そして今夜、セレスティアは――小さな女王になる。――私の目の前で。
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