なんでも欲しがる妹に婚約者を譲った結果

真理亜

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 私の名はアリア。伯爵夫人だ。

 元はしがない子爵家の令嬢だったが、伯爵家を継いだ夫であるスミスの元に嫁いで伯爵夫人に出世したという訳だ。

「お姉様! 騙したわね!」

 ある日のこと、そんな私の元に妹のリリアが怒鳴り込んで来た。

「騙した!? 人聞き悪いわね。なんのことよ!?」

「惚けないでよ! あの男にあんな性癖があるってことを知ってて私に押し付けたんでしょ!」

「私がいつあなたに押し付けたっていうのよ? いつも通りあなたが欲しいって言うから譲ってあげたんじゃないの?」

「うぐ...そ、それは...」

 そう、妹はいつだって私の物を欲しがった。物心ついた時からドレスも宝石もアクセサリーも全て。そんな妹に甘い両親は「お姉さんなんだから譲ってあげなさい」の一言。

 泣く泣く譲ってやったら味を占めた妹は「自分の我が儘はなんでも通る」と勘違いしたまま歳を重ねてしまった。

 そして結婚適齢期を迎える頃になっても相変わらず私の物を欲しがる幼稚な妹は、あろうことか私に婚約者を寄越せと言って来た。

 その婚約者というのが、今は妹の婚約者になっているカインである。ちなみにその当時、妹には既に婚約者が居た。妹は私の婚約者が欲しいという理由だけであっさり婚約者を捨てた。

 それが今の私の夫であるスミスだ。妹の愚行を謝りに行った際、逆に同情されてしまってそこから傷心者同士付き合うようになった。そして結婚に至った訳である。

 ちなみに私の元婚約者カインもあっさり私から妹に乗り換えた。理由は妹の方が可愛いから。確かに妹は私よりも愛想が良いし猫を被るのも得意だ。それに絆されたのだろう。

 だが正直言って私は、この時ばかりは妹に感謝した。なぜならカインの異常な性癖にホトホト困り果てていたから。

「ところでリリア、そのネックレス素敵ね?」

「これはネックレスじゃなくて首輪って言うのよ!」

 うん、見れば分かる。わざと言ったんだから。どう見ても犬がするような首輪だ。しかもご丁寧にダイヤル錠まで付いていて外せそうにない。

 そう、カインの性癖とは独占欲だ。それも尋常じゃない程の。婚約者であった当時の私は、なんと貞操帯を付けることを義務付けられていた。

 もちろん他の男との接触はご法度だ。会話することさえ禁止された。それを破ると今のリリアのように首輪で繋がれる。

 どれだけ異常か分かって貰えたと思う。こんな男とはさっさと別れたかったのだが、相手が侯爵家ということもあり、しがない子爵家のウチの方から言い出すことも出来ず泣き寝入りしていたのだ。

 だから妹が欲しがってくれて心底ホッとしたのだ。熨斗付けてどうぞどうぞと言いたいくらいだった。
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