なんでも欲しがる妹に婚約者を譲った結果

真理亜

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「ヽ(ヽ゜ロ゜)ヒイィィィ!」

 その名を聞いた途端、リリアが絶叫して震え出した。だからすぐバレるって言ったのに...言わんこっちゃない...

「リリアを連れ戻しに来たんでしょう。客間にお通し」

「待って待って待ってよ~! お願いだから私をあの男に引き渡さないでよ~!」

「そう言われても...こんな短時間でウチまで来たってことは、あなたがここに居るって確証があるんでしょう? だったら匿ったとしても、あの人ならウチを家捜しするとかきっと言い出すわよ? そうなったら庇い切れないわ。諦めて拘束...じゃなかった連行...でもなくて...一緒に帰りなさいな?」

「お姉様、絶対わざと言ってるわよね! えぇ、そうよ! 連れ帰られたら今度こそ私は一生閉じ込められるわ! 冗談じゃない! 匿えないならせめて私を逃がしてよ!」

「しょうがないわねぇ...時間を稼いであげるから裏から逃げなさいな?」

「お姉様、ありがとう! 恩に着るわ!」

 そう言うなり、妹は脱兎の如く駆け出して行った。それを冷ややかに見やりやがら私はペンを取った。

 妹が次に頼る所なんて簡単に想像が付く。私の夫スミスの所で間違いないだろう。自分から捨てておきながら勝手なもんだと思うが、妹はあんな性格なので友人と呼べるような女友達は一人も居ない。

 昔の男に頼るしか他に手が無い訳だ。

「これをスミスに届けて頂戴」

「畏まりました」

 妹に注意するよう認めた手紙を執事に渡す。夫は王宮の騎士団勤務なので、急に行っても家族以外はそう簡単に会えるもんじゃない。間違いなく妹は入口で止められることだろう。

 だから後から追い掛けても余裕で間に合うはずだ。

「さて、面倒な男の相手でもしますかね」

 本当は顔も見たくないけど仕方ない。


◇◇◇


「カイン様、お待たせしました」

 久し振りに見る元婚約者は、貧乏揺すりしながらイライラした様子で待っていた。

「遅いぞ! 僕を待たせるなんてどういうつもりだ!」

 開口一番がそれかい。挨拶も出来ないくらい余裕が無いのか。

「よっこらしょっと! すいませんねぇ、身重な体なもんでぇ~」

 お腹を擦りながら座ると、さすがにバツが悪くなったのか、

「あ、あぁ、そうだったな...大声を上げて済まない...」

 そんな殊勝なことを言って来た。なんだ、やれば出来るじゃないか。

「それでどうしましたか? ウチに何のご用です?」

「あぁ、リリアがここに来てないか?」

「リリア? あの娘は私の所に来たことなんかありませんよ? 大体どの面下げて私の前に顔出せるって言うんですか?」

 そう挑戦的に言ったら、さすがのカインも黙り込んだ。
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