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「そもそも私は、殿下のことをこれっぽっちもお慕いしておりませんわ」

 カエラは親指と人差し指の間を広げ、隙間を作って表現しながらそう言った。

「だってそうでしょう? 生徒会長でありながら仕事をサボり捲り女と遊び歩く。王子としての公務はすっぽかす。王太子教育も真面目に受けようとしない。こんな人を好きになるはずがありませんでしょう? 私がどれだけこの人が放り出した公務をフォローしたと思っているんですか? それも私自身の王妃教育を行いながら、王子の公務を代行してたんですよ? それこそ寝る間も惜しんで働いてましたよ。遊び呆けている誰かさんのせいでね」

「あぅ...」

 手厳しいカエラの指摘に、エルムはますます縮こまってしまった。

「......」

 ケイトもさすがに思う所があったのか、すっかり大人しくなって黙り込んでしまった。

「それよりあなた、私も聞きたいことがあったのよ。教えて下さる?」

 カエラはケイトに向かって問い掛けた。

「な、なんでしょうか...」

 ケイトが警戒しながら答える。

「途中からターゲットを変更したのは何故?」

「へっ!? な、なんのことですか!?」

 ケイトは本当に意味が分からないようだ。

「だってあなた、それまで相手にしていた低中位貴族の子息狙いから、急に高位貴族の子息狙いに路線変更したでしょ? それも婚約者の有無関係なく手当たり次第に。婚約者を奪うことに快感を覚えるだけじゃ物足りなくなって、地位も欲するようになったってこと? それとも誰かにそう指示されたのかしら? 例えばあなたの家の両親とか?」

「そ、それは...」

 ケイトは口ごもった。

「まぁいいわ。調べれば分かることだから。それで首尾はどうだった?」

「ど、どうと言われても...」

「当ててみましょうか? 高位貴族の子息の中でも上手く釣れたのは家を継げない次男や三男とかばっかりで、嫡男には全く相手にされなかった。そうでしょ?」

「......」

 どうやら図星だったようで、ケイトは黙って俯いてしまった。

「そりゃ当然よね。嫡男として家督を継ぐための教育をしっかり受けている彼らと」

 そこでいったんカエラは言葉を切って、生徒会のメンバー達、つまり嫡男達と目を合わせた。

「家を継げないのに高位貴族という肩書きだけは主張する彼らとは出来が違うもの。ハニートラップになんかに引っ掛かるはずがないのよ」

 そう言って今度は、崩れ落ちているエルムの取り巻き共に目を向けた。

「おかしな話よね? 偉いのは彼ら自身じゃなくて彼らの家の歴史の方だって言うのに。自分達はまだなにも成し遂げていないっていうのに。権利ばかり偉そうに主張するのよね。なんの努力もしないで。本当にお笑い草だわ」

 カエラの鋭い指摘に取り巻き共はトドメを刺された。
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